逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第133話 合宿二年目最終日

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 肝心のシアン二年目の夏合宿は、気が付けばもう最終日を迎えようとしていた。
 アッサギーはなんとかしてトラブルを起こそうとしても、不思議なことに常に邪魔が入る。さすがにこれだけ事がうまく運ばなければ、誰だって苛ついてくるというものだ。
(くそっ、どこの誰だというのだ。まだ王子王女が未熟な今年でやり遂げれなきゃ、これから段々と難しくなっていっちまうじゃねえか)
 仕掛けておいた罠を作動しようとしても、一人になろうとするとなぜか意識を失う。気が付けば夕方となっていて作動させられずに終わってしまうのだ。
(こうなったら、最終日の実地訓練をうまく利用するしかないな。辺りの散策ならば、偶然を装ってはぐれることもできるだろう……)
 ここまでうまくいかなかったアッサギーだが、ここが最後で最大のチャンスだとほくそ笑んでいる。
(アッサギー、本当にやるつもりなのか……。だったら俺は……)
 ワッケギーは同室のアッサギーを見ながら、何かを決意したようだった。

 二年次の合宿はついに最後。サファイア湖の周辺を歩いてチェックポイントをクリアしながら元の場所に戻ってくるオリエンテーリングが行われる。
「うう、なんだか緊張してきました」
 今年で二回目だというのにプルネもブランチェスカもなんだか緊張しているようだった。
 シアンは前世も入れれば八回目のオリエンテーリングだし、王女という立場もあってかものすごく落ち着いている。
「大丈夫ですよ。第一この辺りはアクアマリン子爵の私兵たちでちゃんと管理されている場所ですから、よっぽどがない限り変な魔物は出てきませんよ」
 シアンはついクスッと笑いながら声をかけてしまう。二人の緊張具合がおかしくてたまらないのだ。
「さて、そろそろ私たちの出番ですよ。さっさと準備をしましょう」
「は、はい、シアン様」
 シアンたちはいよいよ出発する。
 ちなみにシアンたちの直前にはライトとダイアの双子が出発している。何かあった時にすぐに補助できるようにこの順番になっているのだろう。おそらくはガレンの差し金だと思われる。
 精霊王のオリジンとはいっても、今はただの教官の一人でお節介焼きだ。わざわざ二人にオフライトの子どもをつけているくらいだ。何かあっては困るということなのだろう。
 ここまで何も起きずに来ているので、最後まで何もなく終わってほしいものだ。しかし、シアンは胸騒ぎが止まらない。
(何なのかしらね。妙な不安感がさっきからちらついていますね)
「シアン様?」
 胸に手を当てて考えごとをしていると、プルネが顔を覗き込んでくる。
「えっ。な、なんでもありませんよ。さあ、参りましょう」
 シアンはびっくりしながらもなんとか落ち着いて対応する。しかし、どんなに繕ったところで、シアンは意外と感情が表に出てしまうので、プルネはおろかブランチェスカにもちらちらと顔色を確認されるくらいだった。
 そんなこんなでオリエンテーリングが始まる。
 最初の方に出発した面々はおおよそ半分くらいが終わっただろうか。
 森の木陰の中では、見守り隊がこっそりと様子を窺っている。
 ライとルゼは蒼鱗魚の能力を使って、念話で連絡を取り合っている。サファイア湖の近くだからこそ使えるテレパシーである。
『どうかしら、ルゼ』
『問題なしですね。私の方はオニオールを見ていますが、今のところは怪しい動きなしですよ』
 どうやら、ルゼがオニオールの二人を見張っているようだ。
『そっか。こっちも特に問題はないわ。動きがあったらまた連絡するわね』
『了解。気をつけてね、あなた結構めちゃくちゃをするから』
『お互い様よ』
 連絡を終えて、再び森の中の監視に戻るライとルゼ。なにごともなければいいと思うのは、この二人もなのである。

「アッサギー?」
 オニオールたちに動きがある。
「悪い、急に腹が痛くなってきた。すまないがちょっと離脱するよ」
「しょうがない、アッサギー。できるだけ早く戻って来てくれよ。この合宿も一応成績に影響するんだからな」
「ああ、すまないな」
 ワッケギーが眉間にしわを寄せて苦言を呈している。しかし、アッサギーの顔は分かりにくいものの笑っていたようだった。
 うまく自分の班から離脱したアッサギーは、十分離れたと思うと突然走り始めた。
「悪いな、ワッケギー。お前がどう思うとも、俺はやらざるを得ないんだよ。お前もオニオールの人間だ、ただで済むと思うなよ? ふははははっ!」
 アッサギーは湖に向けて走っていく。
「あいつ!」
 近くで見ていたルゼだが、目を離した隙にアッサギーに動かれて慌てている。
『ライ、アッサギーが湖に向かってる。先回りして!』
『了解。ルゼ、あなたも追いなさいよ』
『もちろんよ!』
 急な動きに慌てる見守り隊。
 走るアッサギー、追うルゼ、先回りするライ。
 急な動きを見せたアッサギーは、サファイア湖に向かって一体何をしでかすというのだろうか。
 今年は去年のような妙な魔力は感じられなかっただけに、ライもルゼも予想がつけられない。
 シアンたちがまったりとオリエンテーリングを行う中、急激な緊張が襲い掛かろうとしていた。
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