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新章 青色の智姫
第134話 確保
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ライとルゼ、それとアッサギーがサファイア湖に向かって走っていく。
「させませんよ!」
後ろから追いついたルゼがアッサギーへと襲い掛かる。
「くそっ、臨時の教官風情が、邪魔をするな!」
飛びかかるルゼをアッサギーがひょいと躱す。
現時点でサファイア湖とはほとんど距離がない。
ルゼの飛びつきを躱したアッサギーは、その勢いでサファイア湖に向かって何かを投げようと構える。
「さあ、目を覚ませ。アーティファクト!」
アッサギーは叫ぶ。
その手から離れた何かが、放物線を描いてサファイア湖に向けて飛んでいく。
やがて湖面に触れようかとした時、強烈な風が吹き荒れる。
してやったりと笑っていたアッサギーの顔が、驚愕に歪む。
「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわね。こいつは私が回収させてもらうわよ。まったく、触っただけで危険な代物を持っているとはね」
「なっ! なんでそれを持って平気でいられるんだよ」
「それはあなたも一緒。私の場合は、デーモンハートへの耐性があるからよ。一度デーモンハートで堕ちた存在だからね」
ライの話を聞いて、アッサギーはがくりと膝を落としている。
「くそ……。どうしてなんだよ……」
「あんたたちの情報は筒抜けよ。私たちを甘く見ないでちょうだい」
ライの言葉で顔を上げたアッサギーは、驚きの光景を見る。
目の前ではライが空中に浮いている。背中には何かうっすらとした羽のようなものが見えている。
「お前……、人間じゃなかったのか!」
アッサギーが驚いた顔で叫ぶと、ライはにかっとドヤ顔を見せている。
「私はハイスプライト。元は精霊の森に住む妖精よ。モスグリネのあんたなら、聞いたことくらいあるでしょ」
「なっ、あっ、あ……」
ライの正体を聞いて、アッサギーはがくがくとしながらついに伏してしまった。
「それじゃ、こいつはあたいに任せてもらおうか」
ガサリと音がして、もう一人姿を見せる。こっそりと周りの警備にあたっていたキャノルだった。
「いや、キャノル。こいつはまだ何か持っている可能性があるわ。私が対処しておくから、警戒を続けてちょうだい。もう一人の方が動かないとも限らないわ」
「それもそうか。じゃ、任せたぜ、ライ」
納得した顔を見せたキャノルは、手を振りながら持ち場に戻っていく。
「ルゼももう大丈夫よ。シアン様たちを見てあげて」
「了解です。でも、気を付けて下さいよ、ライ」
「分かっているわよ」
ライにすべてを任せて、ルゼも護衛の仕事に戻っていく。
周りに誰もいなくなったことで、ライはようやくアッサギーをまともに見る。
「まったく、モスグリネの人間にしては、ずいぶんとやってくれてるわね。去年も私が気が付いたから未遂で済んでるんだけどね」
「……お前、だったのかぁっ!」
ライの話で事実を知ったアッサギーは、ライに殴りかかっていく。だが、へなちょこな攻撃がライに当たるわけがなかった。
「殴るついでにこいつも奪い返そうってしてたみたいだけど、無駄よ。あんたの計画は全部バレているの。あんた自身も湖に沈めるわけにはいかないわ」
勢いあまって湖に落ちそうになっているアッサギーが、着水する直前で宙に浮いている。ライが風魔法で浮かべているのである。
「ああ、そこから宝珠を投げ込もうとしているでしょ? 無駄無駄、今のあんたは身じろぎすらできないんだからね」
実際、アッサギーがもがこうとしているものの、まったく動けないでいる。周りの風の力を調整して体の可動域を狭めているのである。もちろん、呼吸だけはできるようにしている。死なれてはいけないからだ。
「さて、妖精くずれっぽく捕まえさせてもらいましょうか」
ライが指をパチンと鳴らすと、辺りから植物のつるが伸びてきてアッサギーをがんじがらめにしている。
「くそっ、くそっ! 放しやがれ、この魔物風情が!」
「デーモンハートを使おうとしている時点で、どっちが魔物だっていうのよ。まあ、楽に死ねると思わないでよね。デーモンハートとかの入手ルートとか吐いてもらわないといけないから」
じっと見下すように冷たい視線を向けるライに、アッサギーは歯を食いしばりながら睨み返している。
「さて、しばらくは黙っててもらうわよ」
「もがっ!?」
ライがパチンと再び指を鳴らすと、アッサギーの口に白い布がまとわりつく。さるぐつわである。
ライに引きずられるようにして、アッサギーはアクアマリン子爵の別荘へと連れていかれたのであった。
「遅いなぁ、アッサギー」
アッサギーと行動していたワッケギーの班は、その場に待機を余儀なくされていた。
「ああ、いたいた。あなたがワッケギーでいいのよね?」
「ええ、俺がワッケギーですが。……アッサギーに何かあったんですか?」
突然現れたルゼに驚くワッケギー。
「ええ、アッサギーだけど、急に現れた魔物に襲われてケガしちゃったの。私たちが駆けつけたので大した問題はなかったけど、念のために引き揚げさせてもらったわ」
ルゼの話を聞いて、ワッケギーは何かを悟る。ずいぶんと思い詰めたような顔をしながらも、ルゼに言葉を返す。
「分かりました。では、俺たちだけで続行しても大丈夫でしょうか」
「ええ、オリエンテーリングは続けてもらって大丈夫よ。ただ、一人欠ける事態になったことは、査定に響くから覚悟してほしいわ」
「了解しました。無理にでも俺が止めるべきでしたね」
「おいおい、どういうことだよ」
一緒に班を組む学生から文句を言われるが、ワッケギーは制止する。
「ごめん、俺はあいつが何のために離れたか分かってるんだ。さあ、さっさと行こう。ただでさえ減点なんだ」
「おい、こら!」
ワッケギーは他の学生を連れてオリエンテーリングを再開させていた。
巻き添えを食らわされた学生たちは納得がいかないだろうが、説明できたことではないのでこの場は納得してもらうしかなかった。
「はあ、いろいろ面倒……」
ワッケギーは大丈夫そうだと確信したルゼは、改めてシアンたちの様子を見に向かったのだった。
「させませんよ!」
後ろから追いついたルゼがアッサギーへと襲い掛かる。
「くそっ、臨時の教官風情が、邪魔をするな!」
飛びかかるルゼをアッサギーがひょいと躱す。
現時点でサファイア湖とはほとんど距離がない。
ルゼの飛びつきを躱したアッサギーは、その勢いでサファイア湖に向かって何かを投げようと構える。
「さあ、目を覚ませ。アーティファクト!」
アッサギーは叫ぶ。
その手から離れた何かが、放物線を描いてサファイア湖に向けて飛んでいく。
やがて湖面に触れようかとした時、強烈な風が吹き荒れる。
してやったりと笑っていたアッサギーの顔が、驚愕に歪む。
「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわね。こいつは私が回収させてもらうわよ。まったく、触っただけで危険な代物を持っているとはね」
「なっ! なんでそれを持って平気でいられるんだよ」
「それはあなたも一緒。私の場合は、デーモンハートへの耐性があるからよ。一度デーモンハートで堕ちた存在だからね」
ライの話を聞いて、アッサギーはがくりと膝を落としている。
「くそ……。どうしてなんだよ……」
「あんたたちの情報は筒抜けよ。私たちを甘く見ないでちょうだい」
ライの言葉で顔を上げたアッサギーは、驚きの光景を見る。
目の前ではライが空中に浮いている。背中には何かうっすらとした羽のようなものが見えている。
「お前……、人間じゃなかったのか!」
アッサギーが驚いた顔で叫ぶと、ライはにかっとドヤ顔を見せている。
「私はハイスプライト。元は精霊の森に住む妖精よ。モスグリネのあんたなら、聞いたことくらいあるでしょ」
「なっ、あっ、あ……」
ライの正体を聞いて、アッサギーはがくがくとしながらついに伏してしまった。
「それじゃ、こいつはあたいに任せてもらおうか」
ガサリと音がして、もう一人姿を見せる。こっそりと周りの警備にあたっていたキャノルだった。
「いや、キャノル。こいつはまだ何か持っている可能性があるわ。私が対処しておくから、警戒を続けてちょうだい。もう一人の方が動かないとも限らないわ」
「それもそうか。じゃ、任せたぜ、ライ」
納得した顔を見せたキャノルは、手を振りながら持ち場に戻っていく。
「ルゼももう大丈夫よ。シアン様たちを見てあげて」
「了解です。でも、気を付けて下さいよ、ライ」
「分かっているわよ」
ライにすべてを任せて、ルゼも護衛の仕事に戻っていく。
周りに誰もいなくなったことで、ライはようやくアッサギーをまともに見る。
「まったく、モスグリネの人間にしては、ずいぶんとやってくれてるわね。去年も私が気が付いたから未遂で済んでるんだけどね」
「……お前、だったのかぁっ!」
ライの話で事実を知ったアッサギーは、ライに殴りかかっていく。だが、へなちょこな攻撃がライに当たるわけがなかった。
「殴るついでにこいつも奪い返そうってしてたみたいだけど、無駄よ。あんたの計画は全部バレているの。あんた自身も湖に沈めるわけにはいかないわ」
勢いあまって湖に落ちそうになっているアッサギーが、着水する直前で宙に浮いている。ライが風魔法で浮かべているのである。
「ああ、そこから宝珠を投げ込もうとしているでしょ? 無駄無駄、今のあんたは身じろぎすらできないんだからね」
実際、アッサギーがもがこうとしているものの、まったく動けないでいる。周りの風の力を調整して体の可動域を狭めているのである。もちろん、呼吸だけはできるようにしている。死なれてはいけないからだ。
「さて、妖精くずれっぽく捕まえさせてもらいましょうか」
ライが指をパチンと鳴らすと、辺りから植物のつるが伸びてきてアッサギーをがんじがらめにしている。
「くそっ、くそっ! 放しやがれ、この魔物風情が!」
「デーモンハートを使おうとしている時点で、どっちが魔物だっていうのよ。まあ、楽に死ねると思わないでよね。デーモンハートとかの入手ルートとか吐いてもらわないといけないから」
じっと見下すように冷たい視線を向けるライに、アッサギーは歯を食いしばりながら睨み返している。
「さて、しばらくは黙っててもらうわよ」
「もがっ!?」
ライがパチンと再び指を鳴らすと、アッサギーの口に白い布がまとわりつく。さるぐつわである。
ライに引きずられるようにして、アッサギーはアクアマリン子爵の別荘へと連れていかれたのであった。
「遅いなぁ、アッサギー」
アッサギーと行動していたワッケギーの班は、その場に待機を余儀なくされていた。
「ああ、いたいた。あなたがワッケギーでいいのよね?」
「ええ、俺がワッケギーですが。……アッサギーに何かあったんですか?」
突然現れたルゼに驚くワッケギー。
「ええ、アッサギーだけど、急に現れた魔物に襲われてケガしちゃったの。私たちが駆けつけたので大した問題はなかったけど、念のために引き揚げさせてもらったわ」
ルゼの話を聞いて、ワッケギーは何かを悟る。ずいぶんと思い詰めたような顔をしながらも、ルゼに言葉を返す。
「分かりました。では、俺たちだけで続行しても大丈夫でしょうか」
「ええ、オリエンテーリングは続けてもらって大丈夫よ。ただ、一人欠ける事態になったことは、査定に響くから覚悟してほしいわ」
「了解しました。無理にでも俺が止めるべきでしたね」
「おいおい、どういうことだよ」
一緒に班を組む学生から文句を言われるが、ワッケギーは制止する。
「ごめん、俺はあいつが何のために離れたか分かってるんだ。さあ、さっさと行こう。ただでさえ減点なんだ」
「おい、こら!」
ワッケギーは他の学生を連れてオリエンテーリングを再開させていた。
巻き添えを食らわされた学生たちは納得がいかないだろうが、説明できたことではないのでこの場は納得してもらうしかなかった。
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