逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第136話 夏の報告

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「やぁ、失礼するよ、ペシエラくん」
 ケットシーが扉をノックしている。
「ケットシー、扉を開けた後にノックするんじゃありませんわよ。後ろでルゼが慌てているじゃありませんの」
「はははっ、君は相変わらず固いなぁ。とりあえず今日は頼まれていた用件でやって来たよ」
 ケットシーは平然と部屋の中へと入っていく。
「し、失礼します」
「失礼しますね」
 ケットシーの後ろから、ルゼとライの二人もついて入ってくる。ルゼはガチガチに硬いが、ライの方はケットシー同様に気楽な状態で入ってきた。それぞれの性格の違いがよく出ているというものである。
「まったく、国王陛下は蚊帳の外でよろしいのかしらね。ああ、蚊帳っていうのは虫よけの幕のことですわよ」
「チェリシアくんの受け売りかな」
 ペシエラの言葉に、くすくすと笑うケットシーである。相変わらずの糸目のせいで胡散くさい笑いに見える。
「何が言いたいのか分かりませんが、わたくしから報告は上げさせて頂きますわ。とにかく、トパゼリアの状況を教えてくださいませ」
「うん、そうだね。まずは合宿の報告からだね。学園長たちからも上がってきているとは思うけど、当事者から聞いた方が早いだろう」
 ケットシーがちらりと視線を向けると、ルゼは驚き、ライは嫌な顔をする。
「まぁそうね。モスグリネ王国の留学生アッサギー・オニオールは暗殺未遂ということで学園は退学。現在は監視をつけた上で王都のオニオール子爵家で監禁中です」
「そう、それは聞いていますわ。まぁ国に戻すわけには参りませんわね。オニオール男爵家に戻せば、間違いなく口を封じられるでしょうから」
「そうだろうね」
 ペシエラは頭を押さえている。
「ペイルとロゼリアにも報告しなければなりませんわね。黙っていては国際問題に発展致しますわ」
「すでに国際問題だがね」
「それはそうですけれどね。これ以上大きくするわけには参りませんの」
 けろっとツッコミを入れてくるケットシーにジト目を向ける。だが、ペシエラの睨みはケットシーには通じなかった。
「しかし、またデーモンハートですのね」
「うん、そうだね。ライは持っていても平気らしいんで、全部彼女に任せっきりだよ」
「さすがに何度も苦しめられてきたからね、あの石には。恨みを込めて克服してやったわよ」
 腕を組みながら、イラッとし様子で話すライである。
「とはいっても、一緒に出てきたあの宝珠が何なのかは結局分からなかったわね。デーモンハートではなさそうだし、何かしらの魔道具と見た方がよさそうだわ」
「ふむふむ……」
 ライの報告にペシエラは聞き入っているようだった。
「それにしても、トパゼリアなんて初めて聞きましたよ。私ってば金属を食べるために世界中を回りましたけれど、トパゼリアなんて国はなかったですね」
 世界中を旅したルゼが聞き覚えがないというトパゼリアという国。今回の合宿での一件には、そのトパゼリアが関わっているらしいのだ。
「トパゼリアっていうのはここ十年くらいでできた新興の国だよ。調べてみたら、パープリアと同じアトランティスの血を引いているらしい。デーモンハートに詳しいのもそのせいだそうだよ」
「またあの一族ですか……」
 パープリアという単語を聞いて、露骨なまでに嫌な顔をするルゼである。
 ペシエラたちに出会えたのは幸運ではあるものの、自分たちを自分たちの道具にしようとしていた連中なので嫌っているのである。
「私たちにとっては因縁の相手だからね。潰すっていうのなら協力は積極的にするわよ」
 ライもずいぶんと気合いが入っているようである。
「まぁそのトパゼリアっていう国だけどね、アイヴォリーのオニオール家を滅ぼそうと密かに侵入していたようだよ」
「なんですって?」
 ケットシーの話を聞いて、ペシエラの顔色が変わった。
「ほほう? 国境侵犯とは、穏やかではございませんわね」
 ペシエラの顔が笑っている。
「まったく、血の気が多いねぇ、君は。とにかく僕の報告を聞いておくれ。というわけで、ファントム、出て来てくれるかい?」
「御意に」
 ペシエラの部屋に、突如として闇が集まり始める。闇が集まったかと思うと、そこにはペシエラも見たことのある人物が立っていた。
「あら、マゼンダ侯爵家の執事のトムではありませんの」
「はい、お久しぶりでございます、ペシエラ様」
「ファントム、オニオール子爵領であったことを全部報告しておくれ」
「承知致しましたとも」
 紳士然として振る舞うファントム。
 その話によれば、野盗を装ったトパゼリアの軍勢が、オニオール子爵領に押し寄せてきたらしい。ただ、事前に事態をつかんでいたので、被害は実質的になかったという。
 領民には近隣の土地に避難してもらい、オニオール子爵邸はファントムの魔法で偽装しておいたので無事らしい。
「まぁご苦労ですわね」
「ありがたき幸せでございます」
 ペシエラが労うと、ファントムはしっかりと頭を下げていた。
「ボクの部下とファントムとインフェルノの活躍で実質的な被害はゼロだ。でも、トパゼリアをそう長くは騙せまい。次を考えておかないと、奴らはまた何か手を打ってくるだろうね」
「そうですわね。まったく、戦争なんてものはこりごりですわ」
 ペシエラは頭を抱えて大きなため息をついていた。
「大事な取引相手だから、ボクもしっかり介入させてもらうよ。まぁ任せておいてほしいね」
 ケットシーが自信たっぷりに言うので、ペシエラは任せることにしたのだった。
 トパゼリア、これで引くとは思えないので、まだまだ緊迫した状況は続きそうである。
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