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新章 青色の智姫
第137話 コーラル家の娘たち
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ペシエラとケットシーの間で緊迫した話し合いがされていたとも知らず、シアンたちは学園祭に向けての準備をしていた。
今年もシアンとプルネの二人は武術大会に参加の予定だ。
そんなわけで、暇を見つけては学園でも剣術の鍛錬に励んでいた。
「たあっ!」
「シアン様、脇が甘いですよ!」
「うっ!」
木剣を叩きつけられて、思わず脇腹を押さえてうずくまるシアン。プルネも少し本気で叩いてしまったようだった。
「強いですね、プルネ」
「そりゃもう。騎士団には入らないですけれど、王族の侍女でもさせて頂こうかなって考えてます。ですので、護衛術の一つくらい身につけておこうと頑張っているんですよ」
木剣を手に打ちつけながら、にこにこと笑っている。
まったく頼もしいようでどこか怖い表情だ。
これもパープリアの血筋ならではなのだろうか。母親であるアイリスはそうでもないのだが、姉のフューシャもどことなく恐ろしさを感じているシアンなのである。
(ニーズヘッグ、あなたのせいですね)
不意にそう思ってしまう。
ちなみに、その頃のニーズヘッグは盛大にくしゃみをしていた。仕事を手伝っていたアイリスに心配されていたが、噂だろうといってごまかしていた。
それにしても、この一年間、シアンも鍛錬をさぼった覚えはない。それでもプルネとの間には確実に実力差ができている。そもそもの素質の差なのだろうか。
もっとも、シアンは魔法が得意な一族の生まれだったので、いくら剣術も使える両親の間に生まれ直したところで、本質は変わらないようなのだった。
それでも諦めるシアンではない。再び立ち上がると、剣を構える。
「プルネ、もう一度ですよ」
「分かりました。ですが、あまり無茶をしないで下さいね、シアン様」
「分かっています」
シアンのやる気を見て、プルネも付き合うことにした。
しばらく打ち合いをしていたのだが、シアンは完全にプルネに水をあけられたような感じになってしまっていた。
「くぅ、一度も勝てないとは……。本当に腕を上げましたね、プルネ」
「そうでもありませんよ。これでもお母様にもお姉様にも勝てませんからね。むしろ私よりシアン様の方が勝てそうに思えます」
プルネは照れ笑いをしている。
なんとも謙遜ばかりのプルネである。その相手が王族であるシアンだからかも知れないが、ここまで謙虚な令嬢というのもなかなかに珍しいかもしれない。
「私がこちらの国に嫁ぐようなことがあれば、プルネを専属侍女にしてあげたいですね」
「わわっ、本当でございますか?! う、嬉しいです……」
シアンがつい漏らした言葉に、恥じらいながら嬉しそうにしている。この姿を見るに、プルネがシアンをかなり慕っているのがよく分かる。
プルネの正直な態度は、シアンにとっても嬉しいものだった。
「今年はもっと上を目指しましょうね、プルネ」
「はい、シアン様」
二人はもうしばらく、剣の打ち合いを続けたのだった。
その頃のコーラル伯爵邸。
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
「おかえりなさい、フューシャ」
「戻ったか」
両親に挨拶をするフューシャは、にこりと微笑んでいる。
「それでは私は他の子を見てこないといけないから、あなた、フューシャを頼みますよ」
「ああ、分かった」
アイリスは二人から離れて、下の二人を見に行った。
アイリスが十分に離れると、ニーズヘッグがフューシャに声をかける。
「さて、フューシャ。今から俺の部屋に来い」
「分かりました、お父様」
鋭い目つきをされて、びびりながらもなんとかフューシャはニーズヘッグについていく。
ニーズヘッグの私室の中で、フューシャは緊張した面持ちで立っている。ニーズヘッグが一対一で子どもと向かい合うのは、実に初めてだったのだ。
「フューシャ、妙なことを考えるなよ?」
「妙なことって、何なのでしょうか、お父様」
変な質問だなと、首を傾げてしまうフューシャである。
「俺の厄災の力と、あいつのパープリアの血が強く出ている長女だからな。最近ただならぬ雰囲気をお前から感じているのだよ」
「うーん……」
ニーズヘッグに言われて、唸り始めるフューシャである。
しかし、思い当たる節はなくはない。
時々、普段の自分とは思えない感情が表に出てくることがあったのだ。
「なるほど……。時々自分が分からなくなるのは、そのせいなのですね……」
フューシャの表情が少し暗くなった。
「最初は俺もそこまでは考えてなかったんだがな。お前たちを育てていく間に、気がかりになっていったのは事実だな」
ニーズヘッグは腕組みをしながら、何度となく首を縦に振っていた。
「長女であるお前も、もう十五歳だ」
そういったかと思うと、ニーズヘッグはフューシャに近付いていく。
「その力を正しく使いこなせるよに、ちょっと特訓をつけてやろうではないか」
「お父様の、特訓……」
フューシャの手が震えながら強く握られていた。
「ああ、ドラゴンの力だ。大丈夫だ、お前ならきっと使いこなせるか。そのためには、もう少し感情をコントロールできなきゃ困るがな」
ニーズヘッグの笑顔に、フューシャは逆に無表情に黙り込んでしまった。
厄災の暗龍と神獣使いの子孫の娘。はたして、ニーズヘッグの特訓に耐えられるのだろうか。
今年もシアンとプルネの二人は武術大会に参加の予定だ。
そんなわけで、暇を見つけては学園でも剣術の鍛錬に励んでいた。
「たあっ!」
「シアン様、脇が甘いですよ!」
「うっ!」
木剣を叩きつけられて、思わず脇腹を押さえてうずくまるシアン。プルネも少し本気で叩いてしまったようだった。
「強いですね、プルネ」
「そりゃもう。騎士団には入らないですけれど、王族の侍女でもさせて頂こうかなって考えてます。ですので、護衛術の一つくらい身につけておこうと頑張っているんですよ」
木剣を手に打ちつけながら、にこにこと笑っている。
まったく頼もしいようでどこか怖い表情だ。
これもパープリアの血筋ならではなのだろうか。母親であるアイリスはそうでもないのだが、姉のフューシャもどことなく恐ろしさを感じているシアンなのである。
(ニーズヘッグ、あなたのせいですね)
不意にそう思ってしまう。
ちなみに、その頃のニーズヘッグは盛大にくしゃみをしていた。仕事を手伝っていたアイリスに心配されていたが、噂だろうといってごまかしていた。
それにしても、この一年間、シアンも鍛錬をさぼった覚えはない。それでもプルネとの間には確実に実力差ができている。そもそもの素質の差なのだろうか。
もっとも、シアンは魔法が得意な一族の生まれだったので、いくら剣術も使える両親の間に生まれ直したところで、本質は変わらないようなのだった。
それでも諦めるシアンではない。再び立ち上がると、剣を構える。
「プルネ、もう一度ですよ」
「分かりました。ですが、あまり無茶をしないで下さいね、シアン様」
「分かっています」
シアンのやる気を見て、プルネも付き合うことにした。
しばらく打ち合いをしていたのだが、シアンは完全にプルネに水をあけられたような感じになってしまっていた。
「くぅ、一度も勝てないとは……。本当に腕を上げましたね、プルネ」
「そうでもありませんよ。これでもお母様にもお姉様にも勝てませんからね。むしろ私よりシアン様の方が勝てそうに思えます」
プルネは照れ笑いをしている。
なんとも謙遜ばかりのプルネである。その相手が王族であるシアンだからかも知れないが、ここまで謙虚な令嬢というのもなかなかに珍しいかもしれない。
「私がこちらの国に嫁ぐようなことがあれば、プルネを専属侍女にしてあげたいですね」
「わわっ、本当でございますか?! う、嬉しいです……」
シアンがつい漏らした言葉に、恥じらいながら嬉しそうにしている。この姿を見るに、プルネがシアンをかなり慕っているのがよく分かる。
プルネの正直な態度は、シアンにとっても嬉しいものだった。
「今年はもっと上を目指しましょうね、プルネ」
「はい、シアン様」
二人はもうしばらく、剣の打ち合いを続けたのだった。
その頃のコーラル伯爵邸。
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
「おかえりなさい、フューシャ」
「戻ったか」
両親に挨拶をするフューシャは、にこりと微笑んでいる。
「それでは私は他の子を見てこないといけないから、あなた、フューシャを頼みますよ」
「ああ、分かった」
アイリスは二人から離れて、下の二人を見に行った。
アイリスが十分に離れると、ニーズヘッグがフューシャに声をかける。
「さて、フューシャ。今から俺の部屋に来い」
「分かりました、お父様」
鋭い目つきをされて、びびりながらもなんとかフューシャはニーズヘッグについていく。
ニーズヘッグの私室の中で、フューシャは緊張した面持ちで立っている。ニーズヘッグが一対一で子どもと向かい合うのは、実に初めてだったのだ。
「フューシャ、妙なことを考えるなよ?」
「妙なことって、何なのでしょうか、お父様」
変な質問だなと、首を傾げてしまうフューシャである。
「俺の厄災の力と、あいつのパープリアの血が強く出ている長女だからな。最近ただならぬ雰囲気をお前から感じているのだよ」
「うーん……」
ニーズヘッグに言われて、唸り始めるフューシャである。
しかし、思い当たる節はなくはない。
時々、普段の自分とは思えない感情が表に出てくることがあったのだ。
「なるほど……。時々自分が分からなくなるのは、そのせいなのですね……」
フューシャの表情が少し暗くなった。
「最初は俺もそこまでは考えてなかったんだがな。お前たちを育てていく間に、気がかりになっていったのは事実だな」
ニーズヘッグは腕組みをしながら、何度となく首を縦に振っていた。
「長女であるお前も、もう十五歳だ」
そういったかと思うと、ニーズヘッグはフューシャに近付いていく。
「その力を正しく使いこなせるよに、ちょっと特訓をつけてやろうではないか」
「お父様の、特訓……」
フューシャの手が震えながら強く握られていた。
「ああ、ドラゴンの力だ。大丈夫だ、お前ならきっと使いこなせるか。そのためには、もう少し感情をコントロールできなきゃ困るがな」
ニーズヘッグの笑顔に、フューシャは逆に無表情に黙り込んでしまった。
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