逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第138話 暗龍の血筋

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「それで、私のところに来たと」
 チェリシアは呆れた顔をしている。
「そうだ。俺の本当の姿を見せると大騒ぎだろうが」
「まあ、たしかに」
 ニーズヘッグの言葉に、チェリシアは納得してしまう。
「まぁいいわ。どこまで行くの?」
 腰に手を当てながら、口をへの字に曲げるチェリシアである。
「我が領の西端の未開の森がいいだろう。あそこなら静かだと思うからな」
「了解。フューシャちゃんも一緒でいいのよね」
 チェリシアがちらりと視線を向けると、フューシャは驚いたように目を丸くする。
「もちろんだ。俺が鍛えるんだからな、相手がいなければ意味がなかろう」
「了解っと。その前に……」
 チェリシアはパンパンと手を打ち鳴らす。
「お呼びでしょうか、チェリシア様」
「カーマイル様とマゼンダ商会に連絡願えますかしら。これよりしばらく家を空けますので、しばらく頼みますと」
「承知致しました」
 チェリシアの命令を受けて、使用人が出ていく。
「それじゃ、早速行きましょうか」
「いつでもいいぜ」
「えっ、えっ?!」
 混乱しまくっているフューシャの手を無理やり握ると、チェリシアは部屋から瞬間移動魔法で目的地へと飛ぶ。
 一瞬で侯爵夫人の部屋からうっそうとした森の中へと移動していた。
「ここ、どこなのぉ~!?」
 フューシャが叫んでいる。
「相変わらず、とんでもない魔法だな。この距離を一瞬で飛ぶとは……」
「あら、王都からカイス、王都からヴィフレアみたいな移動もできるから、この程度楽勝よ」
 感心しているニーズヘッグに対して、チェリシアは自信たっぷりに笑っていた。相変わらずの二人である。フューシャは一人で混乱している。
「そういえば、子どもたちには伝えていなかったな。さっきちらっとは話したが、俺の正体についてな」
「え……」
 フューシャの目の前で、ニーズヘッグの姿が変わっていく。
「ひ……」
 そのおぞましい姿に、フューシャの顔が青ざめている。目の前にいるのは恐ろしいまでに真っ黒で巨大なドラゴンなのだから。
「久しぶりね、その姿。カイスの魔物氾濫の時以来かしらね」
「まぁそうだな。あれ以降はほとんど人間の姿だったからな」
「えっ!」
 落ち着いた反応を見せるチェリシアの姿に、フューシャが驚いている。さっきまでの恐怖が一瞬で吹き飛んでいた。
「改めて自己紹介をしよう。俺はニーズヘッグ、厄災の暗龍とも呼ばれた幻獣ニーズヘッグだ」
「厄災の暗龍……。その名前は聞いたことがあります」
 フューシャは体を震わせながら話している。
 フューシャが厄災の暗龍の名前を知っているのは当然だ。家でも話したことがあるし、王国史を学ぶ際に一度は出てくるからだ。
 そんな恐ろしい存在が自分の父親だとは、混乱して当然といえるだろう。
「俺たちはデーモンハートとは切っても切れぬ一族。俺が狂った原因だし、アイリスの父方の一族が断絶した原因でもあるんだ。お前にはそのデーモンハートを克服するための特訓を課す」
「デーモンハート……?」
 聞き慣れない単語に、フューシャは驚き固まっている。
「デーモンハートっていうのは、魔石とよく似た形状の物質よ。赤黒い色が特徴で、魔力を元とする魔石と違って瘴気を元にするっていう違いがあるの」
「そうだ。学園祭でお前は武術大会に出るのだろうが、今の状態なら間違いなく最悪の事態を起こしかねない。それをコントロールする術を身につけてもらう」
 ニーズヘッグの言葉に、険しい表情をするフューシャ。
「なるほど、確かに妙に心の中が騒めくのは、そういう理由なんですね。分かりました。その特訓を受けます」
 フューシャは理解が早かった。去年の時点でその気はあったが、今年は特に顕著だった。オニオールの作戦が成功していれば、その血が悪い方向で覚醒していた可能性があったのだ。
 そう考えれば、ライやルゼたちはグッジョブといったところだろう。
 特訓だけならニーズヘッグとフューシャだけでも十分だったのだが、移動手段やらいろいろなことを考えるとチェリシアは巻き込まれざるをえなかった。
 ドラゴンの特訓が行われるのだから、周囲への影響は計り知れないのだから。
「お前も力が目覚めれば、ドラゴン化することができるだろう。俺の血がかなり濃いからな」
「ドラゴン……ですか」
 ニーズヘッグが人間形態に戻りながら話すと、フューシャは真剣に考え込んでしまった。
 ドラゴンは自分が怖がるような相手だ。そんなのに変身して、妹たちが怖がらないか心配になってしまったのである。性格にちょっと難はあるものの、家族思いなのはアイリスの性格を強く受け継いでいるのである。
 悩んだフューシャだったが、大切な家族を守るためならと、ニーズヘッグの特訓を受けることにした。
「分かりました。お父様、特訓をつけて下さい」
「よし、いいだろう。悪いな、チェリシア。俺たちに付き合わせてしまって」
「いいですよ。ちょっと退屈してましたからね。貴族の付き合いって、私にとって息苦しいですもの」
 こういうことを言うあたりが、さすが転生者といったとところである。二十年くらい経とうとも、本質は変わらないのだった。
 三人の間で話し合いが終わると、いよいよフューシャの特訓が始まったのである。
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