逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第161話 自分ができること

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 トパゼリアやオニオール家のことはペシエラたち大人が動いている。謹慎処分中のシアンはスミレに手伝ってもらい、自分の魔法を改めて確認することにした。
 謹慎処分とはいえ、城の中なら自由に動ける。というわけで、シアンは庭園にやって来て魔法を使っている。
「水と土と風……。まさか三属性を合わせてあのようなことになるとは思いませんでした」
「それは私も同感ですね。幻獣として生まれて長いですが、あのような現象は見た覚えがありません」
 どうやらスミレも知らない現象だったようだ。
「そもそも、複数の魔法を合わせようなんていう発想、なかなか思いつきませんからね」
「そうですね……」
 シアンは庭園の椅子に座って考え込んでしまう。
「まあ、考えても原理はさっぱり分かりませんわね」
 考えるのを諦めて、シアンは椅子から立ち上がる。
「それよりも、やるとなれば私は土属性が弱いということが分かっています。そこをまずはどうにかしましょう」
「そうですね。お手伝いいたします」
 シアンはスミレの協力を得て、土属性の強化に乗り出した。
 ところが、一日行っても土属性は他の二属性に比べると弱めだった。
 シアンの母親であるロゼリアは、シアンと同じ水・土・風の三属性の使い手だ。それでありながら、ほぼ三属性が同じくらいの強さで使えていた。
 シアンもそれを引き継いでいるので、ベースとしては三属性は同じほどの強さのはずである。
 しかし、シアン自体は水属性、父親のペイルが風属性が扱える。そのためにぶっちゃけていえば、土属性が弱いのではなく上乗せがなされなかったのである。よって、相対的に土が弱いという結果になってしまったというわけだ。
「うーん……。土属性を鍛えるしかないですね。水属性はそもそも得意ですし、風属性だってエアリアルボードを長く維持できるほどには強いですのに……」
 シアンは庭園の土をいじくり返しながら、ぼそぼそと呟いている。
「シアン様、焦っても仕方ありませんよ。急がなければならないのは分かりますが、焦るとかえって成長を妨げます。どうか慎重になって下さいませ」
「ええ、そうね」
 自分の手を見ながら難しそうな顔をしているシアンだが、スミレは淡々とした声をかけている。
 人間としての生活が長くなってきたものの、スミレはそもそも時の幻獣。その性質は冷静沈着で冷淡な女性だ。だからこそ、こうやって一歩引いた感じで話ができるのである。
 シアンもスミレの言葉に納得はしているものの、先日の一件を機に、本当に自分はなぜこうやって転生をしてきたのかということを考えるようになった。
 そもそもシアンは、『時渡りの秘法』という禁法に手を出して消滅しているはずだったのだ。
 実際には消滅はしているため、一部の面々を除いてその記憶などからシアン・アクアマリンの存在は消え去っていた。学園にも在籍記録は残っていない。覚えているのは精霊王オリジンであるガレンくらいなものだった。
 すべてが消え去ったはずの自分が、なぜ自分が救おうとした女性の娘として転生してきたのか、時折シアンは思い悩む時があった。
「今の状況を考えるに、アイヴォリーとモスグリネ、双方にとっての危機が迫っていることを察したのでしょうね。その時に間に合うように、シアン様を転生させたのでしょう」
「……そうかも知れませんね。実際、私がアイヴォリーの学園に通う時期になって、あの時のパープリアみたいな連中が動き出しましたからね」
「ええ、トパゼリア。一体あいつらは何を考えているのでしょうかね」
 今日の鍛錬を終えて部屋に戻ったシアンとスミレは、ミルク入りの紅茶を飲みながら話をしている。
「スミレに分からないのでは、私には到底想像がつきませんよ。トパゼリアなんて国、つい最近まで知らなかったのですからね」
「……それもそうですね」
 しばらく黙り込むと、紅茶をもう一口含んでひと息つく。
「ペシエラ様たちは何も仰ってきませんが、オニオール家と捕まえたトパゼリアの連中から情報を集めている最中なのでしょうね」
「ええ、そうですね。城の使用人や兵士の噂では、アイヴォリーのオニオール家以外は黙秘を続けているようです。オニオール家は、完全にトパゼリアとは袂を分かつつもりのようですね」
「そうなのですね。……領民が無事でいるといいのですが」
「ええ、以前に一度狙われておりますからね」
 そう、アイヴォリー王国内のオニオール子爵領(現・男爵領)は夏合宿の頃に一度トパゼリアからの襲撃を受けている。早めに情報を得ていたケットシーの活躍によって、実質の被害はまったくなかったのだが、なかなかに由々しき事態であったのだ。
「となると、隣接するモスグリネのオニオール領の動きも気になりますね……」
「確かにそうですが、そちらはチェリシアさんが陛下たちのところに伝えに行ったそうです」
「あの人も、侯爵夫人ながらに身軽に動きますね……」
 スミレからの情報に、シアンは昔を思い出して苦笑いをしてしまっていた。
「私も、何かお手伝いをしなければ……」
「お気持ちは分かりますが、焦りは禁物です。今自分ができることをしましょう」
「……そうね」
 度重なる事件にいよいよ本格的に動き出したペシエラたちを前に、シアンは何もできないことが歯がゆくて仕方なかった。
 学園に通う一国の王女という状況が、彼女を縛り付けているのである。
 だが、スミレの言う通り焦っていても仕方がない。
 自分ができることを精一杯する。そのために、シアンは謹慎が解けるまで魔法の鍛錬を続けたのだった。
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