529 / 731
新章 青色の智姫
第160話 城に戻りて反省会
しおりを挟む
アッサギー・オニオールはアイヴォリーの王城へと連れ戻され、再度謹慎処分が下る。彼を連れ出した男たちは牢屋に放り込まれた。
アイヴォリー王国のオニオール家は今回の失態が重く見られ、男爵位に降爵処分となった。また、モスグリネ王国のオニオール家に関しては、ペイルとロゼリアがすでに動いており、調査が始まっている。最も軽い処分でも取り潰しは免れないだろう。
「あの、シアン王女殿下。ちょっとよろしいでしょうか」
アイヴォリーの城に戻って謹慎処分中のシアンの元に、ワッケギー・オニオールが訪ねてきた。
「許可は頂いております。少しお話をさせて頂きたいのです」
「そうですか。スミレ、開けて差し上げなさい」
「畏まりました」
ワッケギーが兵士に付き添われて姿を見せる。
部屋に入って扉が閉じられると、ワッケギーはその場でシアンに対して土下座を始める。あまりにも突然のことで、シアンはびっくりしていた。
「本当に今回は申し訳ございませんでした。いとこのせいで危険な目に遭わせてしまいまして。温情のおかげでこのように生きていられることを、誠に感謝致します」
本気で申し訳なく思っていることが伝わってくる。
「おそらくご存じと思いますが、オニオール家は昔からアイヴォリー王国を快く思っておりませんでした。最近はトパゼリアからの執拗な催促もあり、このような事態を引き起こしてしまったのです」
「まあ……。ということは、やはり本気でアイヴォリー王国に牙をむくつもりでしたのね」
「……はい。去年も今年も、夏合宿でことを起こそうとしておりました。俺としては乗り気ではなかったのですが、アッサギーにはどうしても逆らえずに……」
話をするワッケギーの体が小刻みに震えている。
「俺は本当に反省しております。ですが、心のどこかで、アイヴォリー王国に対する憎悪が時折ささやくんです。だから、アッサギーの話に乗りかけたのだと……」
床に顔がつくくらいに頭を深く下げるワッケギー。その反省具合がよく伝わってくる。
シアンは、彼の態度を見てアイリスとその兄であるヴィオレスのことが脳裏に浮かぶ。
あの二人も、デーモンハートの精神汚染を受けていた一族の末裔だ。ヴィオレスはそうでもなかったが、アイリスは小さい頃から裏家業に手を染めていた。シアンの目には、ワッケギーとアイリスの姿とどうしても重なってくる。
シアンはスミレと顔を見合わせる。スミレも対応には困っているようだった。
「ワッケギー、お話は分かりました。私の命を狙ったことへの反省で私に話をしたのでしょうが、ここはアイヴォリーで、あなたはアイヴォリー王国の貴族。国王陛下と王妃殿下にお話をした方がよろしいと思いますよ」
「は、はい……」
シアンは悩んだ挙句、ワッケギーを優しく諭している。
「大丈夫ですよ。これから先、トパゼリアに耳を貸さなければいいのです。ペシエラ様ならおそらく分かって下さると思いますわ。アイリス様という前例もございますしね」
「アイリス・コーラル……。その名は俺も聞いたことがあります。同じ学年のプルネ・コーラルの母親ですよね」
「ええ、そうですよ。アイリス様も、その昔王族に剣を向けたとかいう話を聞いたことがあります。ですので、あなたもしっかり反省をするのなら助かる可能性がございます」
シアンから話を聞かされたワッケギーは、顔を上げて黙り込んでいる。
「……分かりました。俺たちオニオール家は心を入れ替えて、アイヴォリー王家の臣下として再出発します」
シアンに対してこう告げると、ワッケギーは立ち上がる。
「この決意、陛下たちにも伝えて参ります。俺たちの持つトパゼリアの情報もお渡しします。ありがとうございました!」
ワッケギーは深々と頭を下げて、兵士に付き添われながらシアンの部屋を出ていく。
その時の表情は、本当に何か吹っ切れたかのように晴れやかな顔をしていた。
出ていく姿を見送ったシアンは、部屋の中のソファーに気が抜けたかのように勢いよく座り込む。
「ふぅ、これで国内の反乱分子の心配はないかしらね」
「どうでしょうかね。モスグリネのオニオール家の問題が残っておりますし、間違いなくこれからもトパゼリアからの攻撃にさらされるでしょうからね」
「ですよねぇ……。はあ、学園に通う私では、対処は難しいですね」
「それこそ、国王陛下や王妃殿下にお任せした方がよろしいと存じます。シアン様は前世の記憶があるとはいえ、まだ十四歳の少女なのですから」
「ええ、そうですね……」
ソファーに深くもたれ掛かりながら、天井を見上げるシアン。手でその顔を押さえながら、どうしたものかと悩んでいる。
「今回ケットシーに言われて気が付いた私の魔法の特異性も気になりますし、ひとつ片付いても、それ以上に気になることが増えて困ったものですね……」
「まったくですね。ケットシーももう少し気配りができればよかったですのに……」
実に嫌そうな顔をしながら話をするスミレである。ケットシーとクロノアは昔っからこうなのである。
「とはいえ、二週間の謹慎処分です。今はゆっくりししましょうか」
「承知致しました」
まだまだ問題は山積しているものの、シアンはその日は気疲れのせいか早めに休んだのだった。
アイヴォリー王国のオニオール家は今回の失態が重く見られ、男爵位に降爵処分となった。また、モスグリネ王国のオニオール家に関しては、ペイルとロゼリアがすでに動いており、調査が始まっている。最も軽い処分でも取り潰しは免れないだろう。
「あの、シアン王女殿下。ちょっとよろしいでしょうか」
アイヴォリーの城に戻って謹慎処分中のシアンの元に、ワッケギー・オニオールが訪ねてきた。
「許可は頂いております。少しお話をさせて頂きたいのです」
「そうですか。スミレ、開けて差し上げなさい」
「畏まりました」
ワッケギーが兵士に付き添われて姿を見せる。
部屋に入って扉が閉じられると、ワッケギーはその場でシアンに対して土下座を始める。あまりにも突然のことで、シアンはびっくりしていた。
「本当に今回は申し訳ございませんでした。いとこのせいで危険な目に遭わせてしまいまして。温情のおかげでこのように生きていられることを、誠に感謝致します」
本気で申し訳なく思っていることが伝わってくる。
「おそらくご存じと思いますが、オニオール家は昔からアイヴォリー王国を快く思っておりませんでした。最近はトパゼリアからの執拗な催促もあり、このような事態を引き起こしてしまったのです」
「まあ……。ということは、やはり本気でアイヴォリー王国に牙をむくつもりでしたのね」
「……はい。去年も今年も、夏合宿でことを起こそうとしておりました。俺としては乗り気ではなかったのですが、アッサギーにはどうしても逆らえずに……」
話をするワッケギーの体が小刻みに震えている。
「俺は本当に反省しております。ですが、心のどこかで、アイヴォリー王国に対する憎悪が時折ささやくんです。だから、アッサギーの話に乗りかけたのだと……」
床に顔がつくくらいに頭を深く下げるワッケギー。その反省具合がよく伝わってくる。
シアンは、彼の態度を見てアイリスとその兄であるヴィオレスのことが脳裏に浮かぶ。
あの二人も、デーモンハートの精神汚染を受けていた一族の末裔だ。ヴィオレスはそうでもなかったが、アイリスは小さい頃から裏家業に手を染めていた。シアンの目には、ワッケギーとアイリスの姿とどうしても重なってくる。
シアンはスミレと顔を見合わせる。スミレも対応には困っているようだった。
「ワッケギー、お話は分かりました。私の命を狙ったことへの反省で私に話をしたのでしょうが、ここはアイヴォリーで、あなたはアイヴォリー王国の貴族。国王陛下と王妃殿下にお話をした方がよろしいと思いますよ」
「は、はい……」
シアンは悩んだ挙句、ワッケギーを優しく諭している。
「大丈夫ですよ。これから先、トパゼリアに耳を貸さなければいいのです。ペシエラ様ならおそらく分かって下さると思いますわ。アイリス様という前例もございますしね」
「アイリス・コーラル……。その名は俺も聞いたことがあります。同じ学年のプルネ・コーラルの母親ですよね」
「ええ、そうですよ。アイリス様も、その昔王族に剣を向けたとかいう話を聞いたことがあります。ですので、あなたもしっかり反省をするのなら助かる可能性がございます」
シアンから話を聞かされたワッケギーは、顔を上げて黙り込んでいる。
「……分かりました。俺たちオニオール家は心を入れ替えて、アイヴォリー王家の臣下として再出発します」
シアンに対してこう告げると、ワッケギーは立ち上がる。
「この決意、陛下たちにも伝えて参ります。俺たちの持つトパゼリアの情報もお渡しします。ありがとうございました!」
ワッケギーは深々と頭を下げて、兵士に付き添われながらシアンの部屋を出ていく。
その時の表情は、本当に何か吹っ切れたかのように晴れやかな顔をしていた。
出ていく姿を見送ったシアンは、部屋の中のソファーに気が抜けたかのように勢いよく座り込む。
「ふぅ、これで国内の反乱分子の心配はないかしらね」
「どうでしょうかね。モスグリネのオニオール家の問題が残っておりますし、間違いなくこれからもトパゼリアからの攻撃にさらされるでしょうからね」
「ですよねぇ……。はあ、学園に通う私では、対処は難しいですね」
「それこそ、国王陛下や王妃殿下にお任せした方がよろしいと存じます。シアン様は前世の記憶があるとはいえ、まだ十四歳の少女なのですから」
「ええ、そうですね……」
ソファーに深くもたれ掛かりながら、天井を見上げるシアン。手でその顔を押さえながら、どうしたものかと悩んでいる。
「今回ケットシーに言われて気が付いた私の魔法の特異性も気になりますし、ひとつ片付いても、それ以上に気になることが増えて困ったものですね……」
「まったくですね。ケットシーももう少し気配りができればよかったですのに……」
実に嫌そうな顔をしながら話をするスミレである。ケットシーとクロノアは昔っからこうなのである。
「とはいえ、二週間の謹慎処分です。今はゆっくりししましょうか」
「承知致しました」
まだまだ問題は山積しているものの、シアンはその日は気疲れのせいか早めに休んだのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる