逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
535 / 731
新章 青色の智姫

第166話 雪が降る原因

しおりを挟む
 今年のアイヴォリー王国はやたらと雪が降る。例年でも冬の時期にはそこそこ降るものだが、今年はやたらと多い。
「これって、フェンリルだけっていうわけじゃなさそうですね」
「そうですね。フェンリルは神獣ですし、その気になればまったく降らせないことも可能です。もしかしたら、魔物が潜んでいるかも知れませんね」
「ちょっとマゼンダ商会に顔を出してみましょうか。あそこなら何か分かるかもしれません」
「承知致しました。では、支度致しましょう」
 シアンはスミレの手伝いで服を着替え、用意された馬車でマゼンダ商会へと向かう。
 マゼンダ商会へと向かう道中、王都の中は人がたくさん出ており、雪かきをしながら年末祭の準備を進めていた。
 年末祭は毎年アイヴォリーで行われているお祭りだ。その年一年間を労い、新しい年を迎えるお祭りで、城では三日三晩のパーティーも行われる。
 国を挙げてのお祭りともあって、王都の民たちも準備には余念がないというわけだった。
 だが、今年は今までに経験したことのないくらいの雪が降っているために、少々ばかり準備に手間取っているようである。
「そういえば、シアン・アクアマリン時代にも、これだけ雪が降った年がありましたね」
「そうなのですね」
「ええ、時渡りの秘法を発動させる、前の年でしたかね。あれが原因で、元アイヴォリー王国の地はどこもかしこも多くの者が飢えたものです。かくいう私は無事でしたけれど」
「なるほど、そのようなことがあったのですか」
 シアンが話す内容に、スミレはあまり関心がないようだった。というのも、そもそもが時の幻獣であるスミレなのだ。元々人間たちの話には無関心が過ぎるのである。
 今でこそ、シアンをきちんと見守るように言われているために少々関心を持っているという状況だ。幻獣もその本質は簡単には変えられないものなのである。
 それに加えて、シアンが話している内容も、時渡りの秘法が発動したことで失われた時間軸の話である。つまりは、現状においてはどうでもいい話ということだった。
「シアン様、そろそろマゼンダ商会に到着します」
「分かりました。降りる準備をしましょう」
 マゼンダ商会に到着して、馬車を降りて中へと移動していくシアン。スミレも同行して入口に向かうと、先触れを出していたこともあってアメジスタが待っていた。
「お待ちしておりました、シアン様。ここよりこのアメジスタがご案内致します」
「よろしくお願いします」
 アメジスタに連れられて中へと移動するシアンたちは、商会長室に案内される。そこにいたのはチェリシア・コーラル・マゼンダとライとケットシーだった。
「なぜケットシーまでいるのですか」
「酷いなぁ、商談をしているところに君たちが来ただけじゃないか」
「チェリシア様、それは事実で?」
「ええ、そうですね。これだけ雪が多いと交通が大変ですから、そこを含めて話をしていたところですよ」
 シアンが尋ねると、チェリシアは淡々と答えていた。商人モードなのか普段のどこかぶっ飛んだ様子は鳴りを潜めているようだ。
「それにしても、シアンくんはなぜここに来たんだい?」
 ケットシーが分かってますよというような顔をしながら質問をしてくる。相変わらず、意地の悪い猫である。
「ええ、雪がこれだけ降っている原因を何か知らないかと思いましてね」
「さすがの私でも、これだけの雪は降らせられないわよ。私たちの方だって困っているんだから」
 シアンが尋ねると、チェリシアが頭を抱えて答えている。珍しい光景である。
「言っておくけど、フェンリルは原因じゃないよ。発端はそうだけど、今継続させているのは別の存在だ」
 一方、ケットシーの方は何かを知っているというような発言をしている。その顔が向く先をシアンが確認すると、ライをじっと見ているようだった。
「ケットシー? 私は原因じゃないわよ。ただ、知っている魔力なのは認めるけど」
 ケットシーの視線に気が付いたライが慌てたように発言している。
「あら、ライってばこれの原因分かっているのかしら」
 チェリシアがにこにこと笑っている。
「私だって元妖精ですよ。妖精仲間にこういういたずら好きなのがいますからね。たぶん彼女だと思いますよ」
「ほうほう、その妖精が暴走している理由はなにかな」
 ライが答えると、ケットシーが迫っていく。
「フェンリル様に刺激されたんだと思いますよ。でも、この規模は明らかにおかしいとは思いますけれどね」
「ふむ……。ならば探りに行く必要があるかな。ただ、年末祭の時期で忙しいから、全員が時間を割けるわけじゃないけどね」
 ケットシーがシアンの方をじっと見ている。
「えっ、私がですか?」
「悪いけど、こいつを連れて探りに行っておくれ。このままじゃ商売あがったりだからね」
「私もぉ?!」
 ケットシーの言い分に、ライもひどい顔で驚いている。
「それはそうだ。君の知り合いなのだろう?」
「うぐ……」
 ケットシーの指摘に、ライは反論を封じられてしまう。
「わ、分かりましたよ。私が案内をしますから、シアン様もついてきて下さい」
 渋々了承するライである。
「じゃあ、三人に任せて、ボクたちは商談の続きといこうじゃないか。じゃあ、頼んだよ」
 ケットシーは相変わらず胡散くさい表情で笑っている。
 こうした事態になってしまい、安易に首を突っ込んだことを後悔するシアンなのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...