逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
534 / 731
新章 青色の智姫

第165話 モスグリネ王国にて

しおりを挟む
 アイヴォリー王城にケットシーとフェンリルがやってきた頃、モスグリネの王城には思ってもみなかった来客があった。
「これはこれは、ムー王国の王妃。よくぞモスグリネの王城へ」
「ええ、お久しぶりですね。ペイル・モスグリネ国王陛下」
 ペイルがムーの王妃を迎えて挨拶をしている。ロゼリアは「誰?」という顔をしている。
「そういえば、ロゼリアは初めて見るか。まあ、俺もアイヴォリーでの留学を終えてからしか会っていないのだがな」
 困り顔のロゼリアを見て、ペイルが説明を始める。
「こちらの女性は隣国ムー王国の王妃でパール・ムー王妃殿下だ。俺たちとほぼ年は変わらない」
「これは、パール・ムー王妃殿下。お初にお目にかかります、ペイル陛下の伴侶でありますロゼリア・マゼンダ・モスグリネでございます」
 ペイルの紹介を受けて、ロゼリアが挨拶をしている。
「これはご丁寧に。ご紹介に預かりました、パール・ムーでございます」
 パールも挨拶を返し、お互いに頭を下げている。
「それにしてもパール王妃。今回はなぜモスグリネに?」
 挨拶を終えたところで、ペイルが質問を投げかけている。
 パールは嫌な素振りも見せず、笑顔でその質問に答え始める。
「今回はアイヴォリーの年末祭に顔を出す予定です。隣国の友好国ですから、一度くらいご挨拶をしておきたいと思いましてね」
「なるほど、そういうことですか」
 パールの説明を聞いて、ペイルは納得していた。
「どうだろうか、ロゼリア。君もご一緒して里帰りをしてみては」
「よろしいのですか、陛下」
 ペイルの唐突な申し出に、ロゼリアは驚いている。
「なに、娘のシアンも来年が留学最後の年になる。それを前に激励をしてあげてもいいんじゃないかな」
「……そうでございますね。分かりました、私もご一緒致しましょう」
 あれよあれよという間に、ロゼリアはパールに付き添って祖国に帰省することになったのだった。
「ふふっ、これで道中は楽しくなりそうですね」
 決定を目の前で見ていたパールが、意味ありげに笑っている。だが、ロゼリアはペイルといろいろと話しており、この様子に気が付くことはなかった。

 話を終えて客間へと移動してきたパールは、部屋のソファーに座り込む。
 さすが王妃の泊まる部屋とあって、設備はとても豪華である。
「さて、予定通りにロゼリア王妃を同行させられましたね」
「はい、その通りでございますね。王妃様」
 パールの侍女は無表情で返事をしている。
「ミル、トパゼリアの動きはどうなっているかしら」
「はい、私の精霊によりますと、女王自らが出立なさったようでございます」
「……そうですか。まったく、国の基盤もまだ不十分でしょうに、ずいぶんと思い切った行動に出ていますね」
「ええ、まったくでございます」
 ミルと呼ばれた侍女の報告に、パールはかなり困った様子を見せていた。
「このモスグリネ王国のシアン王女様が留学をされている今だからこそ、アイヴォリーを混乱に陥れるのに絶好の機会と見ているのでしょう。ただ、あちら側にとって神獣使いの存在は予想外でしたでしょうけれどね」
「ええ、そうですね。神獣使いベルの子孫。彼女の存在で、アイヴォリー王国は今や神獣や幻獣などが多く集う場所になっています。それを知らないとなると、なんとも愚かしい話ですね」
「まったくでございます」
 王妃の言葉に頷くミルの周りには、なにやら光の球がちらちらとうろついている。これがミルの言う精霊だろう。
「トパゼリアは、アイヴォリーの地にあるかつての土地に執着しています。ここまで何度も失敗を繰り返してきたのですから、もはや手段を選ばないということなのでしょうね」
「だと存じます。女王自らが出るなど、普通なら考えられない話ですからね」
 ミルとの話に一区切りをつけた王妃は、大きくため息をつく。
「夫に心配をさせまいと、詳細は伏せてきました。ですが、今となっては少々ばかり後悔しております」
「仕方ございませんよ。この地に降り立ったムーの正式な血を引き継いでいらっしゃるのは、王妃様なのですから。あの時から現地の者として仕えてきた一族として、この身に代えても王妃様をお守り致します」
 ため息をつくパールに対して、ミルは跪いて宣誓する。
 どうやら二人の間には、相当強い絆があるようだった。
「ええ、ありがとう、ミル」
 話を終えた二人は、翌日に備えてしっかりと休んだのだった。

 モスグリネ王城に一泊して、いよいよアイヴォリー王国へと向けて出発する。
 ムー王国からやって来たパールたちの一向の後方に、ロゼリアの乗るモスグリネの馬車と騎士団が隊列が加わる。
「それでは行ってまいります」
「ああ、シルヴァノやペシエラたちによろしくな。あと、娘の様子も連絡してくれ」
「承知致しましたわ」
 ペイルとロゼリアは、いろいろとやり取りをしていた。当然ながら、娘であるシアンのことをかなり案じているようだった。
 ペイルが見守る中、パールやロゼリアたちはヴィフレアを出発する。
 他国の王族が参加することとなったアイヴォリーの年末祭。はたしてなにごともなく終われるのであろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...