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新章 青色の智姫
第172話 打って出るペシエラ
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ペシエラたちが話をしている頃、怪しげな一団がアイヴォリーの王都ハウライトを目指しながら北上を続けている。
「なんだ、この深い雪は」
「わ、分かりません。例年の冬ですとこんなことはないのですが……」
一団のリーダーを務める女性が大声を上げている。同行する男が首を傾げながら返答をしている。
「くそっ、いっそのこと全部融かしてやりたいがな……」
「いけません。それをしては、つくまでに魔力を大きく消耗してしまいます。最低限だけを使うようになさいませんと、作戦を実行に移せません」
「ぐぬぬぬ……、仕方あるまい。魔道具のひとつやふたつ、持ってくるべきだったか」
女性は今さらながらに、悔しそうに爪を噛んでいる。
「だが、この雪であるなら、まさか襲撃をかけられるとは考えておるまい。なんとしてもハウライトに向かうぞ」
「はっ!」
一団は諦めることなく、さらに北上を続けた。
アイヴォリー王国に入ってから数日が経過する。
王都までもそろそろといったところだった。一団の目の前にドレス姿の女性が一人立ちふさがった。
「なにやつだ!」
リーダーである女性が声を上げる。
「お前たちのようなものに名乗るななどありませんわ。このアイヴォリーの地に混乱をもたらそうとするやからは、このわたくしめが成敗して差し上げますわよ」
目の前の女性が羽織っているマントを翻して剣を取り出している。
「ちっ、こいつはアイヴォリーの王妃ペシエラか!」
「だとしたら、どう致しますの?」
慌てる様子を見せる女性に対して、ペシエラは落ち着き払っている。
「こいつは好都合だ。ここでお前を殺して、アイヴォリー王国に混乱をもたらしてやろう!」
「わたくしを、殺す?」
ペシエラはにやりと笑みを浮かべた後、大声で笑い始める。これにはさすがに怪しい一団は戸惑いを隠せない。
「何がおかしい!」
「わたくしを殺すだなんて、無理なことを仰るからですよ。これですから野蛮な方々というのは困ったものですわね」
ペシエラの態度はまるで悪役のようである。
「ふん、雪深くて動きが制限されるとはいえ、こちらは二十人ほどいるのだ。お前一人で何ができるという」
「分かっておりませんのね。お前たちは、すでにわたくしの術中だということに」
「なんだと?!」
ペシエラの自信満々な態度に、女性は大声で叫ぶ。
ペシエラが指を弾くと、周りの雪が一斉に融け始める。まりにも急激になくなっていくものだから、女性たちは驚き戸惑っている。
「凍てつけ!」
もう一度ペシエラが指を弾くと、解けて水となっていった雪が一瞬で氷へと変化する。
「な、なんだこれは……!」
「何が起きたかなんか分からなくてよろしくてですわよ。分かっているのは、これからお前たちが、わたくしに捕まることだけですからね!」
三度ペシエラが指を弾くと、今度は眩いばかりの光があふれ出す。
「目が、目がっ!」
凍って鏡面となった足元がまばゆく光っている。急激な光にさらされて、怪しい一団は目を開けていられなくなっていた。
「ふふっ、お姉様の知恵をお借りして正解でしたわね。実質戦うことなく、連中を一網打尽にできましたもの」
ペシエラは安心したような表情を浮かべる。
ところが、その瞬間だった。
「な、なんですの、このおぞましいまでの魔力は……」
急激に膨れ上がっていく闇の魔力に、ペシエラは寒気を感じた。
「甘く見てくれるなよ。妾たちは、自分たちの土地を取り戻すためならば手段は選ばぬ。邪魔をする者どもは、みなごろしにしてくれる!」
声が響き渡ると同時に、辺りの光があっという間に吸い込まれていく。何が起きたのか、ペシエラはまったく理解できなかった。ただ、冬の寒さとは違った、別の種類の寒気が辺りを覆い始めていることだけがはっきりしていた。
「この魔力は、感じたことがありますわね。デーモンハート、まさか持ってきているとは」
「ガアッ!」
ペシエラが少し縮こまったところで、急に腕が飛んでくる。
「くっ!」
持っていたサーベルで攻撃を防ぐ。
ところが、あまりの強さにペシエラは弾き飛ばされてしまう。
「なんて攻撃ですの。まるで、金属同士がぶつかったような、そんな感触でしたわ」
エアリアルボードを足場に、しっかりと着地を決めるペシエラ。だが、思ってもみなかった展開に、額からは汗が流れ始めていた。
「この気配、カイスで戦ったニーズヘッグのことを思い出しますわね。瘴気をまとって力の限りに暴れるあの暗龍を」
ペシエラはギリッと唇をかみしめながら、敵のいる方向をしっかりと見つめる。王妃たる者、いかなる時も冷静でなければならないのだ。
「ガアアッ!!」
再び声を上げながら、何かが襲い掛かってくる。
「速い! シールド!」
さすがに剣で受けるには厳しいと見たペシエラは、魔法で防御壁を展開する。
「ぐっ!」
ペシエラの魔法は強力ではあるが、その防御魔法でもってしても大きく吹き飛ばされる。どれだけの力で攻撃されているのか、考えただけで恐ろしくなってくる。
元居た場所へと視線を向けると、そこには醜悪な魔力を放つ怪物が一体立っているのだった。
「なんだ、この深い雪は」
「わ、分かりません。例年の冬ですとこんなことはないのですが……」
一団のリーダーを務める女性が大声を上げている。同行する男が首を傾げながら返答をしている。
「くそっ、いっそのこと全部融かしてやりたいがな……」
「いけません。それをしては、つくまでに魔力を大きく消耗してしまいます。最低限だけを使うようになさいませんと、作戦を実行に移せません」
「ぐぬぬぬ……、仕方あるまい。魔道具のひとつやふたつ、持ってくるべきだったか」
女性は今さらながらに、悔しそうに爪を噛んでいる。
「だが、この雪であるなら、まさか襲撃をかけられるとは考えておるまい。なんとしてもハウライトに向かうぞ」
「はっ!」
一団は諦めることなく、さらに北上を続けた。
アイヴォリー王国に入ってから数日が経過する。
王都までもそろそろといったところだった。一団の目の前にドレス姿の女性が一人立ちふさがった。
「なにやつだ!」
リーダーである女性が声を上げる。
「お前たちのようなものに名乗るななどありませんわ。このアイヴォリーの地に混乱をもたらそうとするやからは、このわたくしめが成敗して差し上げますわよ」
目の前の女性が羽織っているマントを翻して剣を取り出している。
「ちっ、こいつはアイヴォリーの王妃ペシエラか!」
「だとしたら、どう致しますの?」
慌てる様子を見せる女性に対して、ペシエラは落ち着き払っている。
「こいつは好都合だ。ここでお前を殺して、アイヴォリー王国に混乱をもたらしてやろう!」
「わたくしを、殺す?」
ペシエラはにやりと笑みを浮かべた後、大声で笑い始める。これにはさすがに怪しい一団は戸惑いを隠せない。
「何がおかしい!」
「わたくしを殺すだなんて、無理なことを仰るからですよ。これですから野蛮な方々というのは困ったものですわね」
ペシエラの態度はまるで悪役のようである。
「ふん、雪深くて動きが制限されるとはいえ、こちらは二十人ほどいるのだ。お前一人で何ができるという」
「分かっておりませんのね。お前たちは、すでにわたくしの術中だということに」
「なんだと?!」
ペシエラの自信満々な態度に、女性は大声で叫ぶ。
ペシエラが指を弾くと、周りの雪が一斉に融け始める。まりにも急激になくなっていくものだから、女性たちは驚き戸惑っている。
「凍てつけ!」
もう一度ペシエラが指を弾くと、解けて水となっていった雪が一瞬で氷へと変化する。
「な、なんだこれは……!」
「何が起きたかなんか分からなくてよろしくてですわよ。分かっているのは、これからお前たちが、わたくしに捕まることだけですからね!」
三度ペシエラが指を弾くと、今度は眩いばかりの光があふれ出す。
「目が、目がっ!」
凍って鏡面となった足元がまばゆく光っている。急激な光にさらされて、怪しい一団は目を開けていられなくなっていた。
「ふふっ、お姉様の知恵をお借りして正解でしたわね。実質戦うことなく、連中を一網打尽にできましたもの」
ペシエラは安心したような表情を浮かべる。
ところが、その瞬間だった。
「な、なんですの、このおぞましいまでの魔力は……」
急激に膨れ上がっていく闇の魔力に、ペシエラは寒気を感じた。
「甘く見てくれるなよ。妾たちは、自分たちの土地を取り戻すためならば手段は選ばぬ。邪魔をする者どもは、みなごろしにしてくれる!」
声が響き渡ると同時に、辺りの光があっという間に吸い込まれていく。何が起きたのか、ペシエラはまったく理解できなかった。ただ、冬の寒さとは違った、別の種類の寒気が辺りを覆い始めていることだけがはっきりしていた。
「この魔力は、感じたことがありますわね。デーモンハート、まさか持ってきているとは」
「ガアッ!」
ペシエラが少し縮こまったところで、急に腕が飛んでくる。
「くっ!」
持っていたサーベルで攻撃を防ぐ。
ところが、あまりの強さにペシエラは弾き飛ばされてしまう。
「なんて攻撃ですの。まるで、金属同士がぶつかったような、そんな感触でしたわ」
エアリアルボードを足場に、しっかりと着地を決めるペシエラ。だが、思ってもみなかった展開に、額からは汗が流れ始めていた。
「この気配、カイスで戦ったニーズヘッグのことを思い出しますわね。瘴気をまとって力の限りに暴れるあの暗龍を」
ペシエラはギリッと唇をかみしめながら、敵のいる方向をしっかりと見つめる。王妃たる者、いかなる時も冷静でなければならないのだ。
「ガアアッ!!」
再び声を上げながら、何かが襲い掛かってくる。
「速い! シールド!」
さすがに剣で受けるには厳しいと見たペシエラは、魔法で防御壁を展開する。
「ぐっ!」
ペシエラの魔法は強力ではあるが、その防御魔法でもってしても大きく吹き飛ばされる。どれだけの力で攻撃されているのか、考えただけで恐ろしくなってくる。
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