逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第171話 三国王妃の対談

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 ペシエラとロゼリア、それとパールが揃う部屋。
 王妃三人が揃うと、かなり優雅な空間が広がる。
「それにしても、ムー王国がなぜ動かれたのですかしら」
 ペシエラは気になってしまう。
「ええ、トパゼリアの動きのことが耳に入りましたからね。聞き及んでいますでしょう?」
「トパゼリアは、ここ最近我が国にちょっかいをかけていますからね。知らない方がおかしな話ですわ」
 紅茶を飲みながら、ペシエラはすました顔で答えている。
「聞けば、この年末祭でも何かやるんじゃないかというじゃありませんの。わたくしがいる限り、そんなことはさせませんわよ」
 少々苛ついている様子のペシエラである。
 その様子を見たロゼリアはなんとなく気持ちを察せてしまう。
 それというのも、ペシエラは逆行前の時間軸でアイヴォリーの王妃、いや女王だった時に隣国の襲撃を受けている。その時の襲撃はモスグリネ王国だったわけだが、今回は南隣のトパゼリアだ。
 今の時間軸では存在しない出来事ではあるものの、ペシエラの心の中には傷としてしっかりと残っている。
「ご心配なく。とある伝手で連中の行動は筒抜けですからね。今回は女王自らが動いているようですし」
「どこからそんな情報を?」
 パールの言葉に、ロゼリアは驚くことしかできなかった。なにせ、ロゼリアにはまったくといいほど情報がないのだから。
 さらにいえば、モスグリネ王国はトパゼリアとムー王国の間に挟まっている。つまり、情報が自分の国を飛び越えて伝わっている。驚くなという方が無理だろうか。
「ふふっ、あなたたちもよく知るあの人物からの情報ですよ」
「……ケットシーですわね」
「鋭いなぁ、ペシエラくんは」
 ペシエラが呟いた瞬間に、聞き慣れた嫌な声が聞こえてくる。
「ケットシー、何の用ですのよ」
「まったく、相変わらずつれないね。せっかくボクが情報を持ってきてあげたのに」
「何か分かりましたか、ケットシー」
 ペシエラに対して眉間にしわを寄せながらケットシーは反応している。
 その一方で、パールはケットシーに問いかけている。
 ロゼリアはあまりに唐突なことでついて来れていないようだ。
「はっはっはっ、ボクの商人としての腕前と情報網をなめないでおくれ。それに、精霊の森の妖精も自由に使役ができるんだ。一部ではあるけどね」
 ケットシーの左目が開いてウィンクになる。開いた目が見えたケットシーはそれだけで胡散くささが増す。
「国境を越えてアイヴォリーに入ってきてはいるようだね。ただ、アリーくんが大暴れして大雪が降ったので、それに阻まれて侵攻が遅れているようだよ」
「ああ、この雪、原因は妖精ですか」
「そうだよ。本人を呼ぼうか。アリー、おいで」
「はい、ケットシー……様」
 ケットシーが呼ぶと、すっと青い髪と少し青みがかった肌が特徴の少女が現れる。この少女こそが、先日猛吹雪を起こしていた原因の妖精である。
 妖精である彼女もまた、ケットシーたちのように瞬間移動を使うことのできるのだ。
「事情を説明しておあげなさい」
「分かりました」
 アリーは先日自分が引き起こした吹雪の原因を語る。
 その話を聞いたペシエラたちは、黙り込んでしまった。
「また、デーモンハートですか。私たちムーでは危険性は早くから認識していましたが、アトランティスの連中ときたら……」
「まったくだね。今回アリーが暴走した原因は、先日のアッサギー・オニオールの一件だ。彼をトパゼリアに引き込もうとした連中が、デーモンハートをばらまいたらしくてね。アリーはそれを好奇心から口に含んでしまったのさ」
「お恥ずかしい、限りです……」
 アイリスに名前をもらって上位の存在となったアリーは、まごまごと恥ずかしがっている。
「でもまぁ、それが結果的にトパゼリアの動きを阻害しているんだ。何が功を奏するかは、まったく分からないものだよ、はっはっはっ」
 ケットシーは大声で笑っている。
「とはいえ、アリーの起こしていた吹雪も治まった。あいつらは諦めるつもりはないだろうから、警戒を強めておいた方がいいよ」
「そうですか。ご忠告は受け取っておきますわ」
 ペシエラはケットシーの話を聞いて、すぐに作戦を練り始める。
 ぶつぶつと独り言を言い始めるペシエラに、ロゼリアは困った表情をしている。
「困ったわね。こうなったらペシエラは止まらないわよ」
「そうなのですね。でも、頼もしいと思いますよ」
 頭が痛くなるロゼリアに対して、パールは笑っていた。
「当たり前ですわよ。一度他国からの侵略で痛い目を見ていますからね。二度とあんな経験は御免ですわ」
 二人の反応に気が付いたペシエラは、ものすごく不機嫌そうだった。
 そして、チャットフォンを取り出してどこかに連絡を入れ始めた。
『なによ、ペシエラ。今準備で忙しいだけど?』
「お姉様、手短に済ませますから、ちょっとだけ聞いて下さらない?」
 どうやらチェリシアへの連絡のようだった。
 面倒くさそうな反応のチェリシアに、ペシエラは一方的に要求を伝えるとチャットフォンを切る。
「こういう時お姉様の作って下さったこれが役に立ちますわね」
「そ、そうね」
「なんなのですか、それは」
 ちょっと引いているロゼリアに対して、パールは興味を示していた。
「説明をして差し上げたいですけれど、私、用事ができてしまいましたわ。ロゼリア、ケットシー、代わりにお願いできますからしら」
「ああ、構わないよ」
「ええ、いってらっしゃい、ペシエラ」
 二人から了承を得たペシエラは、そのまま部屋を出ていく。
 残されたロゼリアとケットシーは、パールに先程のチャットフォンの説明をしたのであった。
 はてさて、ペシエラは一体どんな作戦に出たのであろうか。
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