逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
546 / 731
新章 青色の智姫

第177話 始まる年末祭

しおりを挟む
 いよいよ年末祭が始まる。
 年末祭のスタートは、チェリシアが持ち込んだクリスマスの風習がこのまま定着したものだ。
 料理としてはケーキや鳥肉が振る舞われ、知り合い同士の間でプレゼントを贈り合うというものである。
 シアンもライトやダイアはもちろん、プルネとフューシャ、ブランチェスカともパーティー会場でプレゼントを渡し合っていた。
「何を下さったのか、とても楽しみです」
 箱を受け取ったブランチェスカがにこやかな表情で、今にも踊り出しそうな感じで喜んでいた。
 その姿に微笑ましさを感じたシアンやダイアは、にこやかに笑っていた。
「それにしても、シアン様はとても嬉しそうですね」
「そ、そうかしら」
 プルネに指摘されて、思わずドキッとしてしまうシアンだった。
 とはいえ、シアンが嬉しくなるのも理由はあった。
 年末祭を行う上で懸念材料であったトパゼリアの動向を、直前に潰すことができたからだ。
 その時に実行役であった女王やその部下たちは、今現在、地下牢に放り込まれて厳重に監視されている。
 女王のデーモンハートはシアンの手によって浄化されたものの、その部下たちにも同じようなものが認められたからだ。
 とはいえ、女王のあの変化を見た後であるので、そこまでの覚悟があるかといったら疑問符がつく。なにせ、女王の姿に恐れおののいていたくらいだから。
 そんなわけで、シアンは楽しくパーティーを過ごしていられるというわけなのだ。
「初日から楽しむのもいいが、このパーティーは七日間続くんだぞ。どこかで休まないと最後は退屈で仕方なくなるぜ」
「クライ様」
 誰かと思えば、クライたち騎士団志望メンバーたちがやって来ていた。そこには去年卒業したアッシュと今年卒業したガーネットの姿もあった。
「ガーネット様、ご卒業おめでとうございます」
「ええ、ありがとうございます」
 シアンが頭を下げて挨拶をすると、ガーネットは戸惑いながら返事をしてきた。王族に頭を下げられたことに驚いたのだ。
「シアン様ってば、学園の先輩だからって勢いあまって頭下げてらっしゃいますね」
「あ……」
 ダイアに言われて、自分の行動を思い出したシアンは顔を真っ赤にしていた。
 シアンは王族で、ガーネットは貴族令嬢。本来は頭を下げる必要はない相手なのである。それを指摘されて恥ずかしくなっているというわけだった。
「まぁ、いいんじゃないのかな。僕だって先輩相手なら平気で頭を下げてしまいますから」
「そ、そうですよね。あはははは」
 ライトからフォローが入って、シアンはわざとらしく笑っていた。これにはみんな爆笑である。
 騎士団メンバーたちと別れた後も、シアンたちは適当な話題で盛り上がっていると、どこからともなく声をかけられる。
「やあやあ、みんな楽しそうだね」
「ケットシー、なぜあなたがいますの」
 急に現れた大きな猫に、シアンが露骨なまでに嫌な顔をしている。
「仕方ないだろう。あれの後始末があったのだからね。いやあ、おかげでボクもこのパーティーに参加ができたよ。肉も魚もボクは好物だからね。……っとよだれが」
 ケットシーはじゅるりといいながら口を拭っている。
「お母様とムー王妃とお話をされていたのではなくて?」
 ダイアからも指摘されているケットシー。だが、その手には程よい感じの焼き加減の鳥肉が握られている。
「うん、今は二人で話をされているよ。ボクはあくまでも商業組合の組合長として来ているから、商業絡みでなければ参加する意義はないんだよ」
「そういうものなのですか」
 ケットシーは適当な理由を挙げて、パーティー会場にいることを正当化しようとしていた。これにはシアンたちが呆れてしまっている。
「さて、ボクはもう行くとしようか。ボクたちが運んできた品もこの料理の中に並んでいるからね。こういう時でもチェックが欠かせないのは、商売人としての癖というものだよ。はっはっはっはっ」
 笑いながら去っていくケットシーを、シアンたちは呆れた表情で見送っていた。
「本当に、何しに来たんでしょうね」
「何を考えているのか、まったく読めませんよ」
「とはいえ、このパーティーの中でも仕事をしているというのは、ちょっと驚いてしまいますね」
「ええ。でも、そうやって仕事をしている人がいるからこそ、こうやってパーティーを開いていられるのです。感謝しませんと」
「そうですね」
 シアンたちはパーティー会場を見回す。
 会場のそこかしこに、忙しく動く給仕たちの姿が見える。
 それだけじゃない、パーティーを彩る料理や装飾を準備してくれている使用人たちだっているのだ。
 自分たちは楽しむだけのパーティーも、それを行う背後にはたくさんの人たちの支えがあって成り立っているのだということを、改めて思い知らされるシアンたちなのだ。
「胡散くさい猫ですけれど、あのケットシーもそういった人員の一人ですものね。そういう点では感謝しなきゃいけませんね」
「ですね」
 話をする中、プルネが給仕から飲み物をもらってくる。
「あまりしんみりした雰囲気は、パーティーにはよろしくないですね。せっかくですから楽しみましょう」
 一人一人に飲み物を渡しながら、プルネは呼び掛けていた。
 シアンたちはそれに賛同して、このパーティーを精一杯楽しむことにしたのだ。
 シアンがアイヴォリーの学園に通うのはあと一年。その間はできる限り楽しもう、そう誓うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...