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新章 青色の智姫
第177話 始まる年末祭
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いよいよ年末祭が始まる。
年末祭のスタートは、チェリシアが持ち込んだクリスマスの風習がこのまま定着したものだ。
料理としてはケーキや鳥肉が振る舞われ、知り合い同士の間でプレゼントを贈り合うというものである。
シアンもライトやダイアはもちろん、プルネとフューシャ、ブランチェスカともパーティー会場でプレゼントを渡し合っていた。
「何を下さったのか、とても楽しみです」
箱を受け取ったブランチェスカがにこやかな表情で、今にも踊り出しそうな感じで喜んでいた。
その姿に微笑ましさを感じたシアンやダイアは、にこやかに笑っていた。
「それにしても、シアン様はとても嬉しそうですね」
「そ、そうかしら」
プルネに指摘されて、思わずドキッとしてしまうシアンだった。
とはいえ、シアンが嬉しくなるのも理由はあった。
年末祭を行う上で懸念材料であったトパゼリアの動向を、直前に潰すことができたからだ。
その時に実行役であった女王やその部下たちは、今現在、地下牢に放り込まれて厳重に監視されている。
女王のデーモンハートはシアンの手によって浄化されたものの、その部下たちにも同じようなものが認められたからだ。
とはいえ、女王のあの変化を見た後であるので、そこまでの覚悟があるかといったら疑問符がつく。なにせ、女王の姿に恐れおののいていたくらいだから。
そんなわけで、シアンは楽しくパーティーを過ごしていられるというわけなのだ。
「初日から楽しむのもいいが、このパーティーは七日間続くんだぞ。どこかで休まないと最後は退屈で仕方なくなるぜ」
「クライ様」
誰かと思えば、クライたち騎士団志望メンバーたちがやって来ていた。そこには去年卒業したアッシュと今年卒業したガーネットの姿もあった。
「ガーネット様、ご卒業おめでとうございます」
「ええ、ありがとうございます」
シアンが頭を下げて挨拶をすると、ガーネットは戸惑いながら返事をしてきた。王族に頭を下げられたことに驚いたのだ。
「シアン様ってば、学園の先輩だからって勢いあまって頭下げてらっしゃいますね」
「あ……」
ダイアに言われて、自分の行動を思い出したシアンは顔を真っ赤にしていた。
シアンは王族で、ガーネットは貴族令嬢。本来は頭を下げる必要はない相手なのである。それを指摘されて恥ずかしくなっているというわけだった。
「まぁ、いいんじゃないのかな。僕だって先輩相手なら平気で頭を下げてしまいますから」
「そ、そうですよね。あはははは」
ライトからフォローが入って、シアンはわざとらしく笑っていた。これにはみんな爆笑である。
騎士団メンバーたちと別れた後も、シアンたちは適当な話題で盛り上がっていると、どこからともなく声をかけられる。
「やあやあ、みんな楽しそうだね」
「ケットシー、なぜあなたがいますの」
急に現れた大きな猫に、シアンが露骨なまでに嫌な顔をしている。
「仕方ないだろう。あれの後始末があったのだからね。いやあ、おかげでボクもこのパーティーに参加ができたよ。肉も魚もボクは好物だからね。……っとよだれが」
ケットシーはじゅるりといいながら口を拭っている。
「お母様とムー王妃とお話をされていたのではなくて?」
ダイアからも指摘されているケットシー。だが、その手には程よい感じの焼き加減の鳥肉が握られている。
「うん、今は二人で話をされているよ。ボクはあくまでも商業組合の組合長として来ているから、商業絡みでなければ参加する意義はないんだよ」
「そういうものなのですか」
ケットシーは適当な理由を挙げて、パーティー会場にいることを正当化しようとしていた。これにはシアンたちが呆れてしまっている。
「さて、ボクはもう行くとしようか。ボクたちが運んできた品もこの料理の中に並んでいるからね。こういう時でもチェックが欠かせないのは、商売人としての癖というものだよ。はっはっはっはっ」
笑いながら去っていくケットシーを、シアンたちは呆れた表情で見送っていた。
「本当に、何しに来たんでしょうね」
「何を考えているのか、まったく読めませんよ」
「とはいえ、このパーティーの中でも仕事をしているというのは、ちょっと驚いてしまいますね」
「ええ。でも、そうやって仕事をしている人がいるからこそ、こうやってパーティーを開いていられるのです。感謝しませんと」
「そうですね」
シアンたちはパーティー会場を見回す。
会場のそこかしこに、忙しく動く給仕たちの姿が見える。
それだけじゃない、パーティーを彩る料理や装飾を準備してくれている使用人たちだっているのだ。
自分たちは楽しむだけのパーティーも、それを行う背後にはたくさんの人たちの支えがあって成り立っているのだということを、改めて思い知らされるシアンたちなのだ。
「胡散くさい猫ですけれど、あのケットシーもそういった人員の一人ですものね。そういう点では感謝しなきゃいけませんね」
「ですね」
話をする中、プルネが給仕から飲み物をもらってくる。
「あまりしんみりした雰囲気は、パーティーにはよろしくないですね。せっかくですから楽しみましょう」
一人一人に飲み物を渡しながら、プルネは呼び掛けていた。
シアンたちはそれに賛同して、このパーティーを精一杯楽しむことにしたのだ。
シアンがアイヴォリーの学園に通うのはあと一年。その間はできる限り楽しもう、そう誓うのだった。
年末祭のスタートは、チェリシアが持ち込んだクリスマスの風習がこのまま定着したものだ。
料理としてはケーキや鳥肉が振る舞われ、知り合い同士の間でプレゼントを贈り合うというものである。
シアンもライトやダイアはもちろん、プルネとフューシャ、ブランチェスカともパーティー会場でプレゼントを渡し合っていた。
「何を下さったのか、とても楽しみです」
箱を受け取ったブランチェスカがにこやかな表情で、今にも踊り出しそうな感じで喜んでいた。
その姿に微笑ましさを感じたシアンやダイアは、にこやかに笑っていた。
「それにしても、シアン様はとても嬉しそうですね」
「そ、そうかしら」
プルネに指摘されて、思わずドキッとしてしまうシアンだった。
とはいえ、シアンが嬉しくなるのも理由はあった。
年末祭を行う上で懸念材料であったトパゼリアの動向を、直前に潰すことができたからだ。
その時に実行役であった女王やその部下たちは、今現在、地下牢に放り込まれて厳重に監視されている。
女王のデーモンハートはシアンの手によって浄化されたものの、その部下たちにも同じようなものが認められたからだ。
とはいえ、女王のあの変化を見た後であるので、そこまでの覚悟があるかといったら疑問符がつく。なにせ、女王の姿に恐れおののいていたくらいだから。
そんなわけで、シアンは楽しくパーティーを過ごしていられるというわけなのだ。
「初日から楽しむのもいいが、このパーティーは七日間続くんだぞ。どこかで休まないと最後は退屈で仕方なくなるぜ」
「クライ様」
誰かと思えば、クライたち騎士団志望メンバーたちがやって来ていた。そこには去年卒業したアッシュと今年卒業したガーネットの姿もあった。
「ガーネット様、ご卒業おめでとうございます」
「ええ、ありがとうございます」
シアンが頭を下げて挨拶をすると、ガーネットは戸惑いながら返事をしてきた。王族に頭を下げられたことに驚いたのだ。
「シアン様ってば、学園の先輩だからって勢いあまって頭下げてらっしゃいますね」
「あ……」
ダイアに言われて、自分の行動を思い出したシアンは顔を真っ赤にしていた。
シアンは王族で、ガーネットは貴族令嬢。本来は頭を下げる必要はない相手なのである。それを指摘されて恥ずかしくなっているというわけだった。
「まぁ、いいんじゃないのかな。僕だって先輩相手なら平気で頭を下げてしまいますから」
「そ、そうですよね。あはははは」
ライトからフォローが入って、シアンはわざとらしく笑っていた。これにはみんな爆笑である。
騎士団メンバーたちと別れた後も、シアンたちは適当な話題で盛り上がっていると、どこからともなく声をかけられる。
「やあやあ、みんな楽しそうだね」
「ケットシー、なぜあなたがいますの」
急に現れた大きな猫に、シアンが露骨なまでに嫌な顔をしている。
「仕方ないだろう。あれの後始末があったのだからね。いやあ、おかげでボクもこのパーティーに参加ができたよ。肉も魚もボクは好物だからね。……っとよだれが」
ケットシーはじゅるりといいながら口を拭っている。
「お母様とムー王妃とお話をされていたのではなくて?」
ダイアからも指摘されているケットシー。だが、その手には程よい感じの焼き加減の鳥肉が握られている。
「うん、今は二人で話をされているよ。ボクはあくまでも商業組合の組合長として来ているから、商業絡みでなければ参加する意義はないんだよ」
「そういうものなのですか」
ケットシーは適当な理由を挙げて、パーティー会場にいることを正当化しようとしていた。これにはシアンたちが呆れてしまっている。
「さて、ボクはもう行くとしようか。ボクたちが運んできた品もこの料理の中に並んでいるからね。こういう時でもチェックが欠かせないのは、商売人としての癖というものだよ。はっはっはっはっ」
笑いながら去っていくケットシーを、シアンたちは呆れた表情で見送っていた。
「本当に、何しに来たんでしょうね」
「何を考えているのか、まったく読めませんよ」
「とはいえ、このパーティーの中でも仕事をしているというのは、ちょっと驚いてしまいますね」
「ええ。でも、そうやって仕事をしている人がいるからこそ、こうやってパーティーを開いていられるのです。感謝しませんと」
「そうですね」
シアンたちはパーティー会場を見回す。
会場のそこかしこに、忙しく動く給仕たちの姿が見える。
それだけじゃない、パーティーを彩る料理や装飾を準備してくれている使用人たちだっているのだ。
自分たちは楽しむだけのパーティーも、それを行う背後にはたくさんの人たちの支えがあって成り立っているのだということを、改めて思い知らされるシアンたちなのだ。
「胡散くさい猫ですけれど、あのケットシーもそういった人員の一人ですものね。そういう点では感謝しなきゃいけませんね」
「ですね」
話をする中、プルネが給仕から飲み物をもらってくる。
「あまりしんみりした雰囲気は、パーティーにはよろしくないですね。せっかくですから楽しみましょう」
一人一人に飲み物を渡しながら、プルネは呼び掛けていた。
シアンたちはそれに賛同して、このパーティーを精一杯楽しむことにしたのだ。
シアンがアイヴォリーの学園に通うのはあと一年。その間はできる限り楽しもう、そう誓うのだった。
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