逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第176話 年末祭を前に

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 浄化魔法を使ってぐったりしていたシアンだったが、エアリアルボードでハウライトに戻る頃にはすっかり元気になっていた。
 さすがに何度か使ったことがあるからだろうが、それでも気絶するまで魔力を消費するとは思ってもみなかった。おそらく、女王の持っていたデーモンハートが強すぎたのだろう。
 とはいえ、いよいよ年末祭が始まるこの状況で、王妃と他国の王女が城に不在というのは少々考えものだった。緊急事態だったとはいえ、シルヴァノから叱られるペシエラだった。
「まったく、君は昔から無茶をする。少しは私頼ってくれてもいいだろう」
「もちろんですわよ。あなたを信じているからこそ、わたくしが打って出たのではないですか」
「ぐう……」
 怒っているシルヴァノだったが、ペシエラの思わぬ返しに黙らされてしまった。
「ま、まあ。無事だったからよかった。ちゃんと年末祭の準備は完了したから、明日からはちゃんと顔を出しておくれ」
「ええ、分かっております。では、わたくしは休ませて頂きますわ」
 ぺこりと頭を下げて、ペシエラは報告を終えてシアンと一緒に部屋を出ていく。
 一人になったシルヴァノは、髪の毛をかき上げながら呟く。
「まったく、昔から変わらないな、君は……」
 顔を真っ赤にして、しばらく仕事に手がつかないシルヴァノなのであった。

 王都の中ではすでに年末祭は始まっていた。
 アイヴォリー王国だけではなく、隣のモスグリネ王国からも商人が集まり、王都内で露店を開いている。
 本来は年末三日間だったお祭りは、今では全部で七日間に拡大している。
 それというのも、チェリシアが前世の記憶からクリスマスを引っ張り込んだせいだった。
 年末祭の初日に思い人や親しい友人と贈り物をしあうという習慣は、今では定着してしまっている。そのために、それより前に商人たちがやって来て商売を始めるようになった。
 つまり、年末祭の前夜祭まで行われるようになっているのである。
 今年はアリーの暴走もあってどうなるかと思われたが、商人たちは持ち前の根性で馬車を送り込んで商売を始めているのである。
 ペシエラとシアンが不在という中ではあるものの、ライトとダイアは年末祭を前にお忍びで街に出ている。
「もう、雪が積もっているんですから、あまり走るものではないですよ」
「ごめんなさい、アイリスおば様」
 今日はペシエラの義理の姉であるアイリスに連れられている。シアンを通じて面識のあるフューシャとプルネも一緒である。
「元気がいいですね、ライト様とダイア様」
「シアン様がいらっしゃらないのは残念ですけれど、ケットシーが関わっているのなら仕方ありませんね」
 シアンがいないことをプルネは残念がっているが、ケットシーが出たという話を聞いて諦めている。
 ケットシーに関しては両親からも散々聞かされているので、プルネも知っているのである。
「あっ、ダイア様、前!」
「えっ!?」
 アイリスたちが歩いていると、よそ見をしていたダイアが何かとぶつかってしまう。
「わぷっ!」
 何かにぶつかったダイアが尻餅をつきそうになるが、気が付いたライトがとっさにダイアの腕を取っていた。
「大丈夫か、ダイア」
「ええ、大丈夫です。ありがとうございます、お兄様」
 どうにかこけずに済んだダイアは、ライトにお礼を言っている。
「いや、すまなかったね。アイリスくんが見えたから挨拶をと思ったんだが、ダイアくんの元気が良すぎたから気が付かなかったよ、はっはっはっ」
「ケットシー、どうしてこんなところにいるんですか」
 アイリスは呆れたようにケットシーに声をかけている。
「なに、用事が片付いたから戻ってきたんだ。ペシエラくんもシアンくんも戻ってきているはずだよ」
「本当ですか?」
 アイリスの質問に答えていると、ちらっと聞こえた言葉に反応したプルネがケットシーに突っかかっていく。
「ああ、本当だよ。でも、今日は疲れているだろうからそっとしておいてあげて欲しいかな」
「そうですか。無事なんですよね」
「もちろんだよ、はっはっはっはっ」
 確認されると、ケットシーは自信たっぷりに答えている。
「心配なら、明日から始まる年末祭のパーティーに参加するといいよ。元気な姿を見せてくれるはずだからね」
「分かりました。その言葉信じますからね」
 プルネはキリッと表情を引き締めていた。
「それはそれとして、その後ろの袋はなんですか、ケットシー」
 プルネとの話が落ち着いたところで、アイリスが気になっていたことを問い掛ける。
 すると、ケットシーは内緒とだけ答えて、意地悪そうに笑っていた。相変わらず食えない幻獣である。
「そんな顔をしないでおくれ。君たちのお忍びを邪魔しに来たわけじゃないんだ。部外者であるボクがこれ以上邪魔するわけにもいかないだろ?」
「まあ、そうですね」
「というわけだ。ボクは城に向かうから、君たちはゆっくり楽しんでおくれ。はっはっはっはっ」
 のっしのっしとケットシーはゆっくりと城へと向かっていく。
 背負った袋が気にはなるのだが、どうせいケットシーの荷物なのできっとろくでもないものだろう。そう割り切ったアイリスたちは、年末祭を前に賑わう王都を楽しんだのだった。
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