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新章 青色の智姫
第182話 シアンの隠された秘密
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パールに呼ばれて姿を見せたのは、なんとケットシーだった。
「やあ、そんなに警戒されるなんて心外だなぁ。さすがのボクも傷ついてしまうよ」
右手を上げながらのっしのっしと登場するケットシー。普段から胡散くさい猫の幻獣は、過去最大級の胡散くささを放っている。
横に立つムー王国の王妃パールも苦笑いをしているので、胡散くささは彼女も認めるところなのだろう。
「ケットシー、彼女の魔力の状態のことを説明してあげなさい」
「王妃様が命ぜられるのなら仕方ないね。でも、こういうのは本当は精霊王の役目なんだがね」
困ったように眉をひそめて首を傾けながら、ケットシーは一度顔をパールに向けている。
「まあしょうがないね。彼は今学園で仕事に追われているからね。まったく、妖精や精霊は気ままなものだねぇ」
ケットシーがこんなことを言っているが、シアンは「あなたが言う?」みたいな顔でケットシーを見ている。
シアンの反応を見て、ケットシーは再びにやにやと笑い出す。まったく、シアンからすれば心の内が読めないやりにくい相手というものだ。
「では、王妃様に代わってボクが説明しよう。シアンくんの魔力の状態がどういうものかということをね」
ずいっと顔を近付けるケットシーに対し、シアンはより一層警戒を強めた。
ケットシーが言うには、今のシアンの体には魔力が存在しないらしい。
では、なぜシアンが魔法を行使できるのかということになってくる。そこで挙がるのが魂の存在というものだ。
「シアンくんは特殊でね、禁法を使ったことで本来は消え去るはずだったのは、知っているよね?」
「え、ええ。ロゼリア様のためでしたらと覚悟を決めてましたから」
ケットシーが確認をすると、シアンはこくりと頷きながら答える。この時ばかりは、シアン・モスグリネからシアン・アクアマリンに戻ったような口ぶりである。
「だけど、君は消え去ることはなかった。なぜなら、君の補佐をしていたクロノア、今はスミレだったね、彼女が君の魂を守っていたからね」
「なんですって?!」
初耳なことに、シアンは驚きを隠しきれなかった。
「禁法に協力したことが彼女の罪じゃないんだよ。消え去るはずだった魂を保護して、転生させたことが罪だったんだ」
ケットシーから告げられた、自分の転生の秘密。それは、チェリシアやペシエラのような偶発的なものではなく、意図的なものだったのだ。
「まったく、普段は淡々としているはずの彼女がこんなことをするとはね。たかが十年の間で、彼女をあんな風に変えたのは、間違いなく君の力だよ、シアンくん」
「そんな……。でも、確かにあの時、誰かに引っ張られる感じがしたのは、そういうことだったのですね」
ケットシーの話を聞いて、シアンはなんとなくだけど納得がいったようだ。
ところが、驚くことはこれで終わりではなかった。
「その際に、禁法の代償として奪われていた魔力も、彼女は一緒に連れていったんだ。君が水魔法を最も得意としているのはそのせいだね。つまり、君本来の魔力が宿ったことで、そのシアン・モスグリネの本人の魔力は追い出されたんだ」
「うん? ということは、私が本来持つはずだった魔力はどこに……?」
ケットシーの話を聞いていたシアンが、こてんと首を傾げる。
「それなら、ここにいるよ。モーフくん」
「はい、ケットシー」
「モーフ、参列していないと思ったら、どこに行ってましたね」
「すまないね。ボクが無理を言って来てもらってたんだ。彼にも真実を知る権利はあるからね」
ケットシーが謝っている。あまりの珍しさに、明日は雪でも降るのか、そう思うシアンである。
「失敬だね、シアンくん。雪がご所望ならアリーにでも頼めばいいだろう?」
「何を仰っているんですか」
心の中を読まれて、慌てて文句を言うシアンだった。
「実は、モーフくんなんだけど、魔法があまり得意でないだろう? その理由は君の魔力が混ざっているからなんだ。自分の魔力でないからうまく扱えないというわけだ」
「そういえば、そんなことを言ってましたね。まあ、基本的に男子であるなら剣を優先させられますから、あまり問題になっていませんでしたけれど」
シアンはじっとモーフを見ている。
「あっ、もしかして私に対して好意的になっているのって……」
「まぁそうだね。シアンくんの魔力が入っているんだ。そうなってしまうのもしょうがないだろうね」
「……面倒ですわね、この状況」
シアンは頭に手を当てて、すっかり困り果てていた。
モーフのシスコンは、実は本来のシアンの魔力のせいだったのである。
「でも、それなら、よくお母様は無事でしたわね」
「まあ、そこはすぐにすぐボクが対処したからね。それに、そもそもロゼリアくんは魔力のキャパシティが大きい。シアンくんの魔力はすごいものだったけれど、それ以上だからね」
「さすがお母様ですね」
シアンは腕を組んで何度も首を縦に振っている。
「でも、なぜこの話を今になって?」
シアンはそこに疑問を持った。
「そうだね。そこに気付いてしまったかな」
なにやら含みを持たせた発言をするケットシーである。
「そこは、私から説明をさせてもらいます」
ずっと黙っていたパールが一歩踏み出してくる。
一体彼女は何を語るというのだろうか。シアンはごくりと息を飲んだ。
「やあ、そんなに警戒されるなんて心外だなぁ。さすがのボクも傷ついてしまうよ」
右手を上げながらのっしのっしと登場するケットシー。普段から胡散くさい猫の幻獣は、過去最大級の胡散くささを放っている。
横に立つムー王国の王妃パールも苦笑いをしているので、胡散くささは彼女も認めるところなのだろう。
「ケットシー、彼女の魔力の状態のことを説明してあげなさい」
「王妃様が命ぜられるのなら仕方ないね。でも、こういうのは本当は精霊王の役目なんだがね」
困ったように眉をひそめて首を傾けながら、ケットシーは一度顔をパールに向けている。
「まあしょうがないね。彼は今学園で仕事に追われているからね。まったく、妖精や精霊は気ままなものだねぇ」
ケットシーがこんなことを言っているが、シアンは「あなたが言う?」みたいな顔でケットシーを見ている。
シアンの反応を見て、ケットシーは再びにやにやと笑い出す。まったく、シアンからすれば心の内が読めないやりにくい相手というものだ。
「では、王妃様に代わってボクが説明しよう。シアンくんの魔力の状態がどういうものかということをね」
ずいっと顔を近付けるケットシーに対し、シアンはより一層警戒を強めた。
ケットシーが言うには、今のシアンの体には魔力が存在しないらしい。
では、なぜシアンが魔法を行使できるのかということになってくる。そこで挙がるのが魂の存在というものだ。
「シアンくんは特殊でね、禁法を使ったことで本来は消え去るはずだったのは、知っているよね?」
「え、ええ。ロゼリア様のためでしたらと覚悟を決めてましたから」
ケットシーが確認をすると、シアンはこくりと頷きながら答える。この時ばかりは、シアン・モスグリネからシアン・アクアマリンに戻ったような口ぶりである。
「だけど、君は消え去ることはなかった。なぜなら、君の補佐をしていたクロノア、今はスミレだったね、彼女が君の魂を守っていたからね」
「なんですって?!」
初耳なことに、シアンは驚きを隠しきれなかった。
「禁法に協力したことが彼女の罪じゃないんだよ。消え去るはずだった魂を保護して、転生させたことが罪だったんだ」
ケットシーから告げられた、自分の転生の秘密。それは、チェリシアやペシエラのような偶発的なものではなく、意図的なものだったのだ。
「まったく、普段は淡々としているはずの彼女がこんなことをするとはね。たかが十年の間で、彼女をあんな風に変えたのは、間違いなく君の力だよ、シアンくん」
「そんな……。でも、確かにあの時、誰かに引っ張られる感じがしたのは、そういうことだったのですね」
ケットシーの話を聞いて、シアンはなんとなくだけど納得がいったようだ。
ところが、驚くことはこれで終わりではなかった。
「その際に、禁法の代償として奪われていた魔力も、彼女は一緒に連れていったんだ。君が水魔法を最も得意としているのはそのせいだね。つまり、君本来の魔力が宿ったことで、そのシアン・モスグリネの本人の魔力は追い出されたんだ」
「うん? ということは、私が本来持つはずだった魔力はどこに……?」
ケットシーの話を聞いていたシアンが、こてんと首を傾げる。
「それなら、ここにいるよ。モーフくん」
「はい、ケットシー」
「モーフ、参列していないと思ったら、どこに行ってましたね」
「すまないね。ボクが無理を言って来てもらってたんだ。彼にも真実を知る権利はあるからね」
ケットシーが謝っている。あまりの珍しさに、明日は雪でも降るのか、そう思うシアンである。
「失敬だね、シアンくん。雪がご所望ならアリーにでも頼めばいいだろう?」
「何を仰っているんですか」
心の中を読まれて、慌てて文句を言うシアンだった。
「実は、モーフくんなんだけど、魔法があまり得意でないだろう? その理由は君の魔力が混ざっているからなんだ。自分の魔力でないからうまく扱えないというわけだ」
「そういえば、そんなことを言ってましたね。まあ、基本的に男子であるなら剣を優先させられますから、あまり問題になっていませんでしたけれど」
シアンはじっとモーフを見ている。
「あっ、もしかして私に対して好意的になっているのって……」
「まぁそうだね。シアンくんの魔力が入っているんだ。そうなってしまうのもしょうがないだろうね」
「……面倒ですわね、この状況」
シアンは頭に手を当てて、すっかり困り果てていた。
モーフのシスコンは、実は本来のシアンの魔力のせいだったのである。
「でも、それなら、よくお母様は無事でしたわね」
「まあ、そこはすぐにすぐボクが対処したからね。それに、そもそもロゼリアくんは魔力のキャパシティが大きい。シアンくんの魔力はすごいものだったけれど、それ以上だからね」
「さすがお母様ですね」
シアンは腕を組んで何度も首を縦に振っている。
「でも、なぜこの話を今になって?」
シアンはそこに疑問を持った。
「そうだね。そこに気付いてしまったかな」
なにやら含みを持たせた発言をするケットシーである。
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