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新章 青色の智姫
第187話 元凶の地へ
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数日後、ペシエラは城を出発していた。
十台ほどの馬車が連なり、一団は東を目指す。
「どうかしら、乗り心地は」
「……ほとんど揺れないな」
「まぁね。前世で少し学んだサスペンションをつけさせてもらってるからね」
ぼそりと呟くトパゼリアの女王の目の前で、チェリシアが明るくキャッキャと騒いでいる。これでも三十歳を過ぎているのだが、いつまでも子ども気分のようだ。
「しかし、なんなのだ、この女は」
知らない人物を目の前にしているので、女王は困惑しているようである。
「わたくしのお姉様ですわ。あなたとも関係ないとは言えない方ですわよ」
「この世界の人間に関係などあるわけがない。でたらめを言うな!」
ペシエラの話に、女王は激怒している。
「アトランティック・オーシャン」
「な?!」
チェリシアが小さく呟いた言葉に、女王が反応している。
「私の前世では大西洋と呼ばれる海の英語名ね」
「いや、バカな。そんな……」
にこやかに話すチェリシアに対して、女王は驚愕の表情を浮かべている。
「私も故郷である地球からこっちの世界に飛ばされた人間よ。あなたのご先祖とは同類ね」
「あ、あ、そんなことがあって……」
女王は言葉に詰まっている。その様子を見たチェリシアは、女王にすべてを話した。
すべてを聞いた女王は、なにやら深く考え込んでいる。
「……チェリシアとか申したな。お前は戻りたいと思ったことはないのか?」
悩んだ末の質問である。
「もちろん、ないとは言えないわね。だって、農業の勉強を終えてこれから念願の田舎暮らしだってところでこれよ?!」
チェリシアは少し声を荒げている。
「でもまぁ、戻ったところで新築の家は雷で全部燃えちゃってるだろうしね。戻ったら戻ったで絶望で呆然としてるでしょうね」
「そうか……」
チェリシアが淡々と話す内容に、女王は黙り込んだ。
そのまま中継地点であるシェリアを過ぎ、カイスへと向けて進んでいく。
「ここから先が目的地であるカイスですわね。途中は急な坂道を進みますから、時間がかかりますわ」
「それにしてもカイスかぁ、久しぶりよね」
「ええ、忙しくてなかなか行くことはありませんものね。お姉様なら一瞬でしょうけれど」
「まあね」
ペシエラに言われて、はにかむチェリシアである。
「一瞬?」
「ええ、せっかく魔法っていう力があるんだもの。前世でいろいろとやってみたかったことをやってみたいじゃないの」
明るく笑うチェリシアを見て、ペシエラは頭が痛そうにしている。これまでのチェリシアのやらかしを思い出したためだ。
チェリシアは前世知識をちょこちょこと披露しては、この世界をかなり引っ掻き回してくれたからだ。
「魔法少女もののアニメとか見てたし、空飛んだり一瞬で移動したりって、やっぱり憧れるのよね。全部やっちゃったけど」
「ええ、やってしまいましたわね。アニメとやらはわかりませんがね」
「静止画を繋げて動いているように見せるのがアニメ……アニメーションっていうやつよ。ああ、一つくらい作ってみたいわね」
「はあ、お姉様はいつもこうなんですから……」
目を輝かせながら話すチェリシアを横目に、ペシエラは呆れたようにため息をついている。
「ふふっ、実に楽しそうなものね。……妾もそのような人物に早く会ってみたかったものだ」
意外なことに、女王が楽しそうに笑っている。これにはペシエラもびっくりだった。
胸についていたデーモンハートを浄化してからも、ずっと気難しそうな顔をしていただけに、こんな顔を初めて見せたのは衝撃だった。
「……ペシエラ?」
「いえ、女王を笑わせるなんて、お姉様ってばすごいと思っただけですわよ」
「ふふっ、もっと褒めてくれていいのよ、ペシエラ」
「暑苦しいですわよ、お姉様」
ぎゅっと抱きついてくるチェリシアと、それを迷惑がるペシエラの姿。それは女王をまた笑わせるには十分だった。
カイスの村まであと一日というところで、最後の野宿を行う。
これまでは離して過ごさせていたトパゼリアの女王と部下をいよいよひとところに集めていた。
国に攻め入ったとはいえ、実被害がなかった。なので、極刑にしていなかったのだ。いくらトパゼリアという敵国の人間とはいえ、自分たちに起きたことが起きないとも限らない。
時を操る幻獣は人間化しているが、神獣クロノスがまだいるわけだし、秘法を使われないとは限らない。なにせデーモンハートを平気で扱う人間なのだから。
そういうわけで、地下牢で過ごしていた彼らが久しぶりに顔を合わせている。集まった女王の部下たちは、そこにいた女王の姿に驚いているようだった。
「おお、あの女王陛下が笑っておられる」
「このようなことがあるのだろうか」
「奇跡だ……」
酷い言われようである。
「あなたたち、処罰されたい?」
物騒なことをいう女王ではあるが、その顔は笑っている。
「いえ、滅相もございません。女王様はやはりお美しい方だと、再認識しているところでございます」
「お前たち、やっぱり罰が必要のようね」
笑いながらそう告げる女王の姿に、部下たちはどう反応していいのか戸惑うばかりだった。
いよいよ、目的地であるカイスに到着する。
かつて存在したアトランティス帝国の跡地に、彼らは一体何を思うのだろうか。
十台ほどの馬車が連なり、一団は東を目指す。
「どうかしら、乗り心地は」
「……ほとんど揺れないな」
「まぁね。前世で少し学んだサスペンションをつけさせてもらってるからね」
ぼそりと呟くトパゼリアの女王の目の前で、チェリシアが明るくキャッキャと騒いでいる。これでも三十歳を過ぎているのだが、いつまでも子ども気分のようだ。
「しかし、なんなのだ、この女は」
知らない人物を目の前にしているので、女王は困惑しているようである。
「わたくしのお姉様ですわ。あなたとも関係ないとは言えない方ですわよ」
「この世界の人間に関係などあるわけがない。でたらめを言うな!」
ペシエラの話に、女王は激怒している。
「アトランティック・オーシャン」
「な?!」
チェリシアが小さく呟いた言葉に、女王が反応している。
「私の前世では大西洋と呼ばれる海の英語名ね」
「いや、バカな。そんな……」
にこやかに話すチェリシアに対して、女王は驚愕の表情を浮かべている。
「私も故郷である地球からこっちの世界に飛ばされた人間よ。あなたのご先祖とは同類ね」
「あ、あ、そんなことがあって……」
女王は言葉に詰まっている。その様子を見たチェリシアは、女王にすべてを話した。
すべてを聞いた女王は、なにやら深く考え込んでいる。
「……チェリシアとか申したな。お前は戻りたいと思ったことはないのか?」
悩んだ末の質問である。
「もちろん、ないとは言えないわね。だって、農業の勉強を終えてこれから念願の田舎暮らしだってところでこれよ?!」
チェリシアは少し声を荒げている。
「でもまぁ、戻ったところで新築の家は雷で全部燃えちゃってるだろうしね。戻ったら戻ったで絶望で呆然としてるでしょうね」
「そうか……」
チェリシアが淡々と話す内容に、女王は黙り込んだ。
そのまま中継地点であるシェリアを過ぎ、カイスへと向けて進んでいく。
「ここから先が目的地であるカイスですわね。途中は急な坂道を進みますから、時間がかかりますわ」
「それにしてもカイスかぁ、久しぶりよね」
「ええ、忙しくてなかなか行くことはありませんものね。お姉様なら一瞬でしょうけれど」
「まあね」
ペシエラに言われて、はにかむチェリシアである。
「一瞬?」
「ええ、せっかく魔法っていう力があるんだもの。前世でいろいろとやってみたかったことをやってみたいじゃないの」
明るく笑うチェリシアを見て、ペシエラは頭が痛そうにしている。これまでのチェリシアのやらかしを思い出したためだ。
チェリシアは前世知識をちょこちょこと披露しては、この世界をかなり引っ掻き回してくれたからだ。
「魔法少女もののアニメとか見てたし、空飛んだり一瞬で移動したりって、やっぱり憧れるのよね。全部やっちゃったけど」
「ええ、やってしまいましたわね。アニメとやらはわかりませんがね」
「静止画を繋げて動いているように見せるのがアニメ……アニメーションっていうやつよ。ああ、一つくらい作ってみたいわね」
「はあ、お姉様はいつもこうなんですから……」
目を輝かせながら話すチェリシアを横目に、ペシエラは呆れたようにため息をついている。
「ふふっ、実に楽しそうなものね。……妾もそのような人物に早く会ってみたかったものだ」
意外なことに、女王が楽しそうに笑っている。これにはペシエラもびっくりだった。
胸についていたデーモンハートを浄化してからも、ずっと気難しそうな顔をしていただけに、こんな顔を初めて見せたのは衝撃だった。
「……ペシエラ?」
「いえ、女王を笑わせるなんて、お姉様ってばすごいと思っただけですわよ」
「ふふっ、もっと褒めてくれていいのよ、ペシエラ」
「暑苦しいですわよ、お姉様」
ぎゅっと抱きついてくるチェリシアと、それを迷惑がるペシエラの姿。それは女王をまた笑わせるには十分だった。
カイスの村まであと一日というところで、最後の野宿を行う。
これまでは離して過ごさせていたトパゼリアの女王と部下をいよいよひとところに集めていた。
国に攻め入ったとはいえ、実被害がなかった。なので、極刑にしていなかったのだ。いくらトパゼリアという敵国の人間とはいえ、自分たちに起きたことが起きないとも限らない。
時を操る幻獣は人間化しているが、神獣クロノスがまだいるわけだし、秘法を使われないとは限らない。なにせデーモンハートを平気で扱う人間なのだから。
そういうわけで、地下牢で過ごしていた彼らが久しぶりに顔を合わせている。集まった女王の部下たちは、そこにいた女王の姿に驚いているようだった。
「おお、あの女王陛下が笑っておられる」
「このようなことがあるのだろうか」
「奇跡だ……」
酷い言われようである。
「あなたたち、処罰されたい?」
物騒なことをいう女王ではあるが、その顔は笑っている。
「いえ、滅相もございません。女王様はやはりお美しい方だと、再認識しているところでございます」
「お前たち、やっぱり罰が必要のようね」
笑いながらそう告げる女王の姿に、部下たちはどう反応していいのか戸惑うばかりだった。
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