逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第189話 気合いの入る一年

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「んぐ……。そういえば、ダイア様」
「なんでしょうか、シアン様」
 シアンとダイアたちが食事をしている。今は朝の講義が終わり、昼休みの最中だ。
「最近、ペシエラ様をお見掛けしませんね」
 そう、学園が始まってからというもの、夕食の席にペシエラが姿を見せていなかった。シアンはその理由を知らなかったのだ。
「お母様でしたら、今はカイスに行かれております。ただ、行き先以上のことは私も知りません。それだけしか仰って下さいませんでしたから」
 ダイアはどこか物悲しそうにしている。
 だが、シアンはそれだけでなんとなく察した。
 それというのも、年末に捕らえたトパゼリアの女王たちの扱いについて、何も話が出ていなかったからだ。
 シアンには、シアン・アクアマリンとしてロゼリア・マゼンダの侍女をしていた時期の記憶がある。そのこともあってか、シアンにはペシエラが何をしているのかピンと来たようなのだ。
「ありがとうございます。大体事情は察しましたわ」
「えっ、今ので分かるのですか?!」
 シアンがクスッと笑っていると、ダイアはものすごく驚いている。
「さすがシアン様ですね」
「私たちでもさっぱり分かりませんのに、それだけで分かられるとは素晴らしいです。きっと、ペシエラ様を継いで立派な王妃になられるのでしょうね」
「ちょ、ちょっとフューシャ。買いかぶりすぎです。わ、私がペシエラ様に並ぶだなんて、そんなも無理ですよ」
 フューシャが話した内容を、必死に否定しようとするシアンである。
 フューシャからこのような話が出たのにはわけがある。なにせ、年末にライトとシアンとの間の婚約が発表されたからだ。
 そのことで、シアンに対する目がかなり変わったというわけだ。
 これまではただの隣国の王女だったのが、ペシエラの後を継ぐ次期女王もしくは王妃という立場になったのだから。
 シアンは王女ではあるものの、まだまだアクアマリン子爵家四女の意識が抜けきらないところがあるので、ここまで強く否定したがるのである。
「シアン様でしたら、私もすごく推させて頂きます。二年間の付き合いしかございませんが、これほど親しみやすさがあり、なおかつ有能な方はそうそういらっしゃいませんわ」
「え、ええ……」
 ブランチェスカにも褒めたたえられるシアンである。
 シアン自身は有能ムーブをした記憶はまったくないのだが、プルネやブランチェスカからの評価はかなり高い。
「三属性を扱える方って、そんなに多くはないのですよ。ペシエラ様やその姉君でいらっしゃるチェリシア様、それとシアン様のお母様であられるロゼリア王妃様。お三方以外には聞いたことがありませんからね」
「ああ、そうですのね……」
 プルネは少し興奮気味に話している。
 そういえばそうだった。基礎魔法であれば様々な属性を扱えるものの、発展魔法となると適性のある属性の魔法しか使えなくなるという不思議な法則があった。
 ペシエラとチェリシアは闇以外の全属性、ロゼリアとシアンは水・風・土の三属性を扱える。確かに、希少といえば希少なのである。
 つまり、多属性持ちというだけでかなり上澄みなのである。
「シアン様はその三属性を複数同時に扱うこともできるようですからね。魔法の技術というだけでも私たちよりはるかに上なのですよ」
「な、なるほど」
 みんなが自分を持ち上げる理由がなんとなく分かったシアンなのである。
(三属性をひとつに合わせて光魔法が使えることは、黙っておいた方がよさそうですね)
 シアンは顔を引きつらせながら、心の中で固く誓った。
 ライトの婚約者ということが発表されてからというもの、本当にみんなの見る目が一変しているのだ。下手な有能ムーブは控えた方が賢明と判断したのである。
「シアン様、多分考えていらっしゃるようなことは無理だと思われますよ」
「ダイア様?」
「みなさんの目が、次期女王、または王妃という見方に変わっております。今まで以上にシアン様に注目が集まっておりますからね」
「う……ぐ……」
 シアンの目がどこか死んでいる。
「はあ……。正直言いまして、目立つのはあまり好きではないのですよね。陰ながら支えるという方が、私には合っていますのに……」
 前世でアクアマリン子爵の相続を蹴ったのも、実はその辺りに理由がある。
 アクアマリン子爵家は魔力の最も多い人間が跡を継ぐ。シアンの魔力量はかなり多かったので、あのままとどまっていれば間違いなく子爵家当主にされていただろう。
 それが嫌で、マゼンダ侯爵家の使用人募集に飛び込んだくらいなのだから。
「王族ゆえに目立たざるを得ないとはいえ、やはり人の目が集中するのは嫌ですね……。留学が終わるまでは静かに暮らしたいものです」
「事件が起きなければ、大丈夫だと思いますよ。三年次も基本的には二年次と変わりませんし」
 シアンがため息をつくと、ダイアがフラグくさいことを話していた。これにはシアンも苦笑いをしてしまう。
「シアン様が将来的にアイヴォリーに嫁がれるのですから、私はシアン様付きの侍女か秘書を目指して頑張ります」
「プルネってば、気合いが入っているわね」
「それでしたら、私だって負けませんよ、プルネ様」
 プルネの宣言に、フューシャとブランチェスカもそれぞれ反応していた。

 留学最後の一年。はてさて、どのような事態が待ち受けているのだろうか。
 何もなく平穏に過ぎてほしい、そう願うシアンなのである。
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