582 / 731
新章 青色の智姫
第213話 ティールからのお誘い
しおりを挟む
学園祭も差し迫っているというのに、学園から帰ってきたところでシアンはティールの泊まる客室へ行くように言われた。
一体なにごとかと思ったものの、相手は一国の女王だ。断るにも断れずにシアンはティールの部屋へとスミレを伴って向かった。
「シアンでございます。お呼びでございますでしょうか、トパゼリア女王陛下」
扉を二度叩いたシアン。一応、堅苦しい呼び方をしておく。
「おお、来たか。開いているから入っておいで」
「失礼致します」
扉を開けて中に入ると、優雅に紅茶を飲むティールの姿があった。その隣には、見慣れない女性が立っていた。
「ここに座るとよいぞ。リウム、シアン王女の分の紅茶も用意しておくれ」
「承知致しました」
リウムと呼ばれた女性が入れ替わりで部屋を出ていく。あの女性が、ティールの侍女のようだ。
「応じてくれるとは思わなんだな。去年のことがあって避けられると思ったのだがな」
思ったよりも柔らかい表情を見せている。
デーモンハートで醜悪な化け物に変化していた人物とは、とても同一人物とは思えないほどである。
しかし、その時のことはかなりシアンの中には深く刻まれており、すっかり穏やかとなったティールを目の前にしても、その警戒感が解かれることはなかった。
「ふふっ、一度ついてしまったイメージというのは、簡単には覆らぬものよな」
ティールはおかしくて笑っているようだ。
「知っての通り、トパゼリアはデーモンハートの実験に失敗して、その力に囚われ続けた集団よ。妾の所属する王族というのは、その中でも特に強く影響を受けた者の子孫なのだ」
ティールから告げられた内容に、言葉を失うシアンである。
「今回そなただけを呼んだのは理由があるのだ」
「理由?」
「うむ。理由というのはそなたの髪色よな」
「か、髪色?!」
思わず自分の髪の毛を触ってしまうシアンである。
「アトランティスの一族というのはな、デーモンハートの実験の失敗によって、とある特徴を持つようになったのだ。何か分かるかな?」
ティールの質問の答えが分からない。
「攻撃的な性格、でしょうかね」
シアンの導き出した答えに、ティールは首を横に振った。
「それも確かにそうだが、答えはそうではない。もっと外見的に分かりやすいものだ」
この言葉を聞いて、じっとティールの顔を見るシアン。
そこで、ティール以外のデーモンハート絡みの人物の特徴を思い出していく。
パープリア男爵、オニオール男爵家、そして、目の前のティール女王。
しばらく頭を悩ませたシアンは、どうにかひとつの共通項を見出した。
「髪の毛が青っぽい色ということ?」
シアンがたどり着いて呟いた言葉に、ティールはにやりと笑みを浮かべていた。
「その通りだ。妾たちが求めてやまない、もうひとつの故郷の色だ」
ティールが話した内容を聞いて、シアンにはとある言葉が思い出される。
それは、転生前に聞いたとある単語だった。
「地球?」
シアンからこの単語が出てきたことで、ティールの表情が一変する。
「そなた、その単語をどこで聞いた。詳しく聞かせるのだ」
体を乗り出して、シアンに迫ってくる。あまりの気迫に思わず怯んでしまい、シアンは答えることなく首を横に振るばかりである。
シアンが年相応の反応して怖がっていると察したティールは、一気に気持ちが落ち着く。
「いや、すまなかった。先祖代々伝えられてきた単語を知っていたがために、つい過剰に反応してしまったな」
「いえ、私も安易に呟いたのが悪かったですね。失礼致しました」
たがいに謝罪をすると、髪色の話に戻る。
「地球のことに関しては、またペシエラにでも聞くことにしよう。それよりも髪色の話だったな」
「はい」
こちらの話題からとりあえず片付けることにする。
「先程言ったように、妾たちアトランティスの民は、デーモンハートを使った魔法実験で暴走事故を起こしてしまった。その後のアトランティス帝国の民は、不思議と青や紫といった青系統の髪色を持つようになったのだ。理由は分からぬが、おそらくはデーモンハートの瘴気の色ではないかといわれている」
シアンとスミレは、ティールの話を頷きながら聞いている。
「そこで気になったのが、そなたの髪色だ。きれいな青色をしておるよな」
「はい。両親とは似ても似つかぬ色ではございますが、私はこの色を気に入っております」
「ふむ。時にその青色の髪の毛というのは、アイヴォリーでもモスグリネでも珍しい色で相違ないか?」
「私の知る範囲では、青色の髪を持つ家門というのはごくわずかでございます」
ティールの問い掛けに淡々と答えるシアン。その答えに、ティールはあごに手を触れながら考え込んでしまった。
「やはりそうか。ということは、モスグリネの王家には、父方か母方に妾たちと同じアトランティス一族の血が流れているということではないだろうか」
「なんですって?!」
ティールからの告げられた衝撃の事実。
青系統の髪は、実はアトランティス帝国の生き残りだというのだ。
つまりそれは、シアンの前世の実家であるアクアマリン子爵家も、アトランティス帝国の末裔になるのではという疑惑を生み出すこととなったのである。
一体なにごとかと思ったものの、相手は一国の女王だ。断るにも断れずにシアンはティールの部屋へとスミレを伴って向かった。
「シアンでございます。お呼びでございますでしょうか、トパゼリア女王陛下」
扉を二度叩いたシアン。一応、堅苦しい呼び方をしておく。
「おお、来たか。開いているから入っておいで」
「失礼致します」
扉を開けて中に入ると、優雅に紅茶を飲むティールの姿があった。その隣には、見慣れない女性が立っていた。
「ここに座るとよいぞ。リウム、シアン王女の分の紅茶も用意しておくれ」
「承知致しました」
リウムと呼ばれた女性が入れ替わりで部屋を出ていく。あの女性が、ティールの侍女のようだ。
「応じてくれるとは思わなんだな。去年のことがあって避けられると思ったのだがな」
思ったよりも柔らかい表情を見せている。
デーモンハートで醜悪な化け物に変化していた人物とは、とても同一人物とは思えないほどである。
しかし、その時のことはかなりシアンの中には深く刻まれており、すっかり穏やかとなったティールを目の前にしても、その警戒感が解かれることはなかった。
「ふふっ、一度ついてしまったイメージというのは、簡単には覆らぬものよな」
ティールはおかしくて笑っているようだ。
「知っての通り、トパゼリアはデーモンハートの実験に失敗して、その力に囚われ続けた集団よ。妾の所属する王族というのは、その中でも特に強く影響を受けた者の子孫なのだ」
ティールから告げられた内容に、言葉を失うシアンである。
「今回そなただけを呼んだのは理由があるのだ」
「理由?」
「うむ。理由というのはそなたの髪色よな」
「か、髪色?!」
思わず自分の髪の毛を触ってしまうシアンである。
「アトランティスの一族というのはな、デーモンハートの実験の失敗によって、とある特徴を持つようになったのだ。何か分かるかな?」
ティールの質問の答えが分からない。
「攻撃的な性格、でしょうかね」
シアンの導き出した答えに、ティールは首を横に振った。
「それも確かにそうだが、答えはそうではない。もっと外見的に分かりやすいものだ」
この言葉を聞いて、じっとティールの顔を見るシアン。
そこで、ティール以外のデーモンハート絡みの人物の特徴を思い出していく。
パープリア男爵、オニオール男爵家、そして、目の前のティール女王。
しばらく頭を悩ませたシアンは、どうにかひとつの共通項を見出した。
「髪の毛が青っぽい色ということ?」
シアンがたどり着いて呟いた言葉に、ティールはにやりと笑みを浮かべていた。
「その通りだ。妾たちが求めてやまない、もうひとつの故郷の色だ」
ティールが話した内容を聞いて、シアンにはとある言葉が思い出される。
それは、転生前に聞いたとある単語だった。
「地球?」
シアンからこの単語が出てきたことで、ティールの表情が一変する。
「そなた、その単語をどこで聞いた。詳しく聞かせるのだ」
体を乗り出して、シアンに迫ってくる。あまりの気迫に思わず怯んでしまい、シアンは答えることなく首を横に振るばかりである。
シアンが年相応の反応して怖がっていると察したティールは、一気に気持ちが落ち着く。
「いや、すまなかった。先祖代々伝えられてきた単語を知っていたがために、つい過剰に反応してしまったな」
「いえ、私も安易に呟いたのが悪かったですね。失礼致しました」
たがいに謝罪をすると、髪色の話に戻る。
「地球のことに関しては、またペシエラにでも聞くことにしよう。それよりも髪色の話だったな」
「はい」
こちらの話題からとりあえず片付けることにする。
「先程言ったように、妾たちアトランティスの民は、デーモンハートを使った魔法実験で暴走事故を起こしてしまった。その後のアトランティス帝国の民は、不思議と青や紫といった青系統の髪色を持つようになったのだ。理由は分からぬが、おそらくはデーモンハートの瘴気の色ではないかといわれている」
シアンとスミレは、ティールの話を頷きながら聞いている。
「そこで気になったのが、そなたの髪色だ。きれいな青色をしておるよな」
「はい。両親とは似ても似つかぬ色ではございますが、私はこの色を気に入っております」
「ふむ。時にその青色の髪の毛というのは、アイヴォリーでもモスグリネでも珍しい色で相違ないか?」
「私の知る範囲では、青色の髪を持つ家門というのはごくわずかでございます」
ティールの問い掛けに淡々と答えるシアン。その答えに、ティールはあごに手を触れながら考え込んでしまった。
「やはりそうか。ということは、モスグリネの王家には、父方か母方に妾たちと同じアトランティス一族の血が流れているということではないだろうか」
「なんですって?!」
ティールからの告げられた衝撃の事実。
青系統の髪は、実はアトランティス帝国の生き残りだというのだ。
つまりそれは、シアンの前世の実家であるアクアマリン子爵家も、アトランティス帝国の末裔になるのではという疑惑を生み出すこととなったのである。
0
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる