逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第216話 ひも解かれる逆行前

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 いよいよ学園祭当日を迎える。
 三年次を迎えた今、シアンにとってはアイヴォリー王国における最後の学園祭である。
「それでは行ってまいります」
 シアンはライトやダイアとともに学園へと出発する。
 三人揃って武術大会に出場するらしく、普段のドレス風の制服ではなく、パンツスタイルの運動着で学園へと向かっていた。
「やれやれ、さすがは私たちのこと言うべきかしらね」
 三人を見送ったペシエラがぽつりと呟いている。
 ひと息ついたペシエラがくるりと振り返ると、柱の陰から一人の人物が姿を見せる。
「まったく、結局三年連続で武術大会参戦ですか。一体誰に似たのでしょうかね」
 柱の陰から出てきたのはロゼリアだった。
 先日、ペシエラから連絡を受けて急きょやって来たのだ。日数的な関係で、チェリシアが瞬間移動魔法テレポートで移動させていた。
 そのチェリシアは文句を言っていたのだが、可愛い妹の頼みであれば断れずに実行していたのである。
「今年は何もないといいのだけれど」
「問題はないと思いたいですわね。トパゼリアは何もしていないと女王が証言している以上は、信じてあげたいですけれど」
 ロゼリアの心配に、ペシエラはそう答えておく。
 トパゼリアの女王は、年末に会った時に比べればかなり落ち着いた雰囲気が出ていたのだ。今のティールであるならば、まだ信じられると判断したのだ。
「まぁ、ペシエラがそこまで言うのなら信じるのだけど」
 ロゼリアはここまで言うと、ひとつ深呼吸をする。
 落ち着いたところで、ペシエラに体ごと向いて改めて問いかける。
「昨夜の話、本当なのかしら」
「ええ、推測ではあるけれども、可能性はありますわよ」
「何を根拠に?」
 ペシエラの回答に、さらに質問をぶつけるロゼリア。
「あなたの髪色ですわよ。そもそもマゼンダ侯爵家は赤みの強い色をしているものですわ」
「確かにね」
 ロゼリアは、自分の両親と兄のことを思い出して納得している。
 その赤色の強いマゼンダ侯爵家において、ロゼリアの髪は青みが少し強かったのだ。
「それで、私の一族の中に、アトランティス帝国の血が流れているんじゃないかと、考えたわけね。娘のシアンのこともあるわけだし」
 ペシエラはこくりと頷いている。
「逆行前に、なぜあれだけ執拗にロゼリアを貶めようとしていたのか、今になっても時々考えてしまいますのよ。そこで聞いたティール、トパゼリアの女王の話。わたくしの中で衝撃が走りましたわ」
「なるほど、アトランティス帝国の裏切者と目をつけて、その血筋の特徴の出た私を狙ったというわけか。でも、それならストロアは?」
 ここで疑問に思ったのが、ペシエラの専属侍女だったストロアのことだった。彼女の髪色は少し褐色じみた黄色だ。アトランティス帝国の特徴はまったくないはずである。
「ひとつ、考えられることがありますわ」
 だが、ロゼリアの疑問にもまったく動じないペシエラである。
「デーモンハートよ。カイスの村の近くには、ニーズヘッグがいたでしょう?」
「そういえばそうだったわね」
 ロゼリアは理解して頷いている。
「初めて会った時の彼は、かなり暴走していましたわよね? ニーズヘッグも幻獣ですのに、おかしな話ですわ」
 確かにそうだ。
 ニーズヘッグは闇の力を持つとはいえど、幻獣の一体である。少々けんかっ早いのは今もだが、そこまで厄災を振りまくような存在ではなかった。
 そんなニーズヘッグは魔物氾濫を引き起こし、不完全な目覚めとはいえあれだけの苦戦を強いられた。
 彼が狂う原因となったデーモンハートが、あの場所に眠っていた可能性は十分に考えられる。そして、ストロアはカイスの出身だ。
 ペシエラの知らないところでデーモンハートに触れ、精神汚染をされていてもおかしくはなかったのだ。
「逆行後はお姉様が出現していたし、ロゼリアが早い内にわたくしたちに接触してきましたので影響がなかったのでしょうね。逆行前のわたくしは貧乏極まりない子爵家でしたから、その妬む気持ちを利用されたのでしょうね」
「なるほどね」
「それに、わたくしへの洗脳みたいなものが始まったのは、王都に戻ってきてから。おそらく、そこでパープリアの介入があったと考えるのが妥当ではないかしら」
 なるほど、そう考えるのなら逆行前のあれこれのすべてに説明がつく。ロゼリアもさすがに納得せざるを得ない感じだった。
「でもまぁ、すべては憶測にすぎませんけれどね。もう逆行前に戻って確認する方法なんてのはありませんもの」
 ここまで話しておきながら、ペシエラはもうどうでもいいような雰囲気を醸し出していた。
 ならばなぜ話したと思うロゼリアだが、謎が解けてほっとした気持ちも抱えていた。
「今さらながらに全部に合点がいってすっきりしたわね」
「ええ、わたくしもですわ。そそのかされたとはいえ、いいように扱われていたのは屈辱ですわね」
 ペシエラは大きなため息をついた。
「そなたたち、いつになったら学園に向かうのだ。妾の支度はできておるぞ」
 話をしていた二人のところへ、異様に心弾ませるティールが現れた。
 いつぞやの攻撃的な姿を見せていた人物のわくわくした姿に、ペシエラたちはおかしくて笑ってしまう。
「ええ、そうですわね。早速向かいますわよ」
 ティールの息子二人も連れて、ペシエラたちは学園へと向かうことにしたのだった。
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