逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第221話 シアンの初戦

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「おお、モスグリネの王女が出てきたな」
 一回戦、いよいよシアンの出番である。
 対戦相手は六年次生の男子学生で、武台の上でお互いを見ている。
「ちっ、お姫様が相手か、やりにくいな」
「私をただのお姫様だなんて思わないで下さい。これは大会ですよ。手を抜かずにお願いします」
 そう話しながら、シアンは剣を構えている。
「泣いても知らないからな」
「ええ、できる限り本気で来て下さい」
 やる気不十分な男子学生に対して、シアンは挑発するようなことを言っている。
 それに対して、相手の男子学生はなめたような態度を取っている。
「始め!」
 審判の合図があり、試合が始まる。
 男子学生が挑発に乗ったためか先制攻撃を仕掛ける。
「悪く思うなよ。こんな危険な場所に、お姫様が出てくるもんじゃねえからな」
 振り上げた木剣を、シアンに向けて振り下ろしてくる。
「ご忠告わざわざありがとうございます。ですが、私を甘く見てもらっては困りますね」
 にっこりと微笑みながら、シアンは受け流すような格好で木剣を差し出す。
 シアンの構えた剣を風魔法が覆う。
 それを軽く、男子学生の剣の動きに合わせて振ると、なんということだろうか、男子学生の攻撃が軽く受け流されてしまった。
「なっ!?」
 男子学生はシアンの動きに加えて驚きで体勢が崩れてしまう。それでもすぐに立て直せるあたり、さすがは六年次生といったところだ。
「武術大会は魔法の使用も認められていますからね。足りない分は魔法で補えばいいのですよ。お父様もお母様も効果的に使っていらしたそうですからね」
「くっ」
 シアンの余裕のありそうな姿に、男子学生は唇を噛んでいる。
 相手は三つも年下の女子学生だ。不意を突かれたとはいえ、軽くあしらわれたのはかなりショックだったようだ。
「ほざけ!」
 男子学生は頭に来たようで、木剣に魔法をまとわせる。バチバチという音を立てているので、どうやら雷の魔法のようだ。

「ほう、雷の使い手か。珍しい属性を持ち合わせておるようだな」
「そうですわね。お姉様くらいしか、わたくしもまともに見たことはありませんわ」
 観戦中のペシエラとティールが話をしている。
「すげえ、あんな魔法もあるのか」
「兄上、僕たちには使えない属性ですよ。覚えようとしないで下さいね」
「ああ、そうだった。くそっ!」
 セラドンに言われて、セージは悔しがっている。
「あら、トパゼリアの家系は属性が偏っていらっしゃるのかしら」
「そうだな。我が家のメインは闇と火だな。それ以外の属性も少しくらいは扱えるが、制御しきれておらぬな」
「そうなのですわね」
 一言二言交わすと、再び武台に視線を落としていた。

「ふははははっ、驚いたか。ケガをしないうちに降参した方がいいぜ」
 男子学生はかなり興奮しているようだ。
 だが、シアンはまったく退くことはなかった。むしろ仕掛けてこいと煽っている。
「はっ、お姫様であろうが、大会に出た時点で関係ない。自分の不運を嘆くといいぞ!」
 雷をまとった木剣を振りかぶる男子学生。
 あまりにも六年次生とは思えないお粗末な剣術に、シアンはため息が止まらない。
「自信たっぷりの割に、攻撃は隙だらけですね。水よ」
 シアンは木剣に水魔法をまとわせる。元アクアマリン子爵家の者であるために、最も得意とする属性だ。
「その程度の水で、防げるものかぁっ!」
 男子学生の木剣とシアンの木剣がぶつかり合う。
 にやりと笑っていた男子学生の表情が、一瞬にして驚愕へと変わる。
「バカな……。なんでこの剣を受けて平気なんだ。どうして……」
 男子学生の驚きも当然だろう。
 通常の水であれば、雷はよく通るというのは、この世界でも知られている。
 そう、「通常の水ならば」である。
 だが、シアンの扱う水はそうではない。
「知らなかったのでしたら、教えてあげますよ」
 シアンが剣を振り抜いて、男子学生の剣を弾き飛ばす。それと同時に、剣を覆っていた雷がすべて吹き飛んでしまう。
「純粋な水は、雷を一切通しませんのよ!」
 無防備になった男子学生を、シアンの剣が襲う。
 木剣が男子学生の額の前でぴたりと止まると、へなへなとその場に男子学生はへたり込んでしまった。
「ま、参った……」
 完全に心が折れてしまった男子学生は、降参を口にしてしまう。
「勝者、シアン・モスグリネ!」
 シアンの勝ち名乗りが行われると、会場中から大きな歓声が上がった。
 シアンはその声にひとまず手を振って応えると、へたり込んだ男子学生に手を差し伸べて起こしていた。
「まったく、少し残念でしたね」
「な、なにがでしょうか」
「私をなめてかかっていなければ、もう少し良い試合ができたと思ったのですよ。今日の反省をして、これからも精進して下さいね」
「はっ、精進致します」
 起き上がった男子学生は、今度はシアンに対して跪いていた。
 最初の態度とはまるっきり逆方向になってしまった男子学生の姿に、シアンはちょっと戸惑いの表情を浮かべていた。
 ひとまず、今年のシアンも年上を相手にしながら無事に一回戦を突破したのである。
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