590 / 731
新章 青色の智姫
第221話 シアンの初戦
しおりを挟む
「おお、モスグリネの王女が出てきたな」
一回戦、いよいよシアンの出番である。
対戦相手は六年次生の男子学生で、武台の上でお互いを見ている。
「ちっ、お姫様が相手か、やりにくいな」
「私をただのお姫様だなんて思わないで下さい。これは大会ですよ。手を抜かずにお願いします」
そう話しながら、シアンは剣を構えている。
「泣いても知らないからな」
「ええ、できる限り本気で来て下さい」
やる気不十分な男子学生に対して、シアンは挑発するようなことを言っている。
それに対して、相手の男子学生はなめたような態度を取っている。
「始め!」
審判の合図があり、試合が始まる。
男子学生が挑発に乗ったためか先制攻撃を仕掛ける。
「悪く思うなよ。こんな危険な場所に、お姫様が出てくるもんじゃねえからな」
振り上げた木剣を、シアンに向けて振り下ろしてくる。
「ご忠告わざわざありがとうございます。ですが、私を甘く見てもらっては困りますね」
にっこりと微笑みながら、シアンは受け流すような格好で木剣を差し出す。
シアンの構えた剣を風魔法が覆う。
それを軽く、男子学生の剣の動きに合わせて振ると、なんということだろうか、男子学生の攻撃が軽く受け流されてしまった。
「なっ!?」
男子学生はシアンの動きに加えて驚きで体勢が崩れてしまう。それでもすぐに立て直せるあたり、さすがは六年次生といったところだ。
「武術大会は魔法の使用も認められていますからね。足りない分は魔法で補えばいいのですよ。お父様もお母様も効果的に使っていらしたそうですからね」
「くっ」
シアンの余裕のありそうな姿に、男子学生は唇を噛んでいる。
相手は三つも年下の女子学生だ。不意を突かれたとはいえ、軽くあしらわれたのはかなりショックだったようだ。
「ほざけ!」
男子学生は頭に来たようで、木剣に魔法をまとわせる。バチバチという音を立てているので、どうやら雷の魔法のようだ。
「ほう、雷の使い手か。珍しい属性を持ち合わせておるようだな」
「そうですわね。お姉様くらいしか、わたくしもまともに見たことはありませんわ」
観戦中のペシエラとティールが話をしている。
「すげえ、あんな魔法もあるのか」
「兄上、僕たちには使えない属性ですよ。覚えようとしないで下さいね」
「ああ、そうだった。くそっ!」
セラドンに言われて、セージは悔しがっている。
「あら、トパゼリアの家系は属性が偏っていらっしゃるのかしら」
「そうだな。我が家のメインは闇と火だな。それ以外の属性も少しくらいは扱えるが、制御しきれておらぬな」
「そうなのですわね」
一言二言交わすと、再び武台に視線を落としていた。
「ふははははっ、驚いたか。ケガをしないうちに降参した方がいいぜ」
男子学生はかなり興奮しているようだ。
だが、シアンはまったく退くことはなかった。むしろ仕掛けてこいと煽っている。
「はっ、お姫様であろうが、大会に出た時点で関係ない。自分の不運を嘆くといいぞ!」
雷をまとった木剣を振りかぶる男子学生。
あまりにも六年次生とは思えないお粗末な剣術に、シアンはため息が止まらない。
「自信たっぷりの割に、攻撃は隙だらけですね。水よ」
シアンは木剣に水魔法をまとわせる。元アクアマリン子爵家の者であるために、最も得意とする属性だ。
「その程度の水で、防げるものかぁっ!」
男子学生の木剣とシアンの木剣がぶつかり合う。
にやりと笑っていた男子学生の表情が、一瞬にして驚愕へと変わる。
「バカな……。なんでこの剣を受けて平気なんだ。どうして……」
男子学生の驚きも当然だろう。
通常の水であれば、雷はよく通るというのは、この世界でも知られている。
そう、「通常の水ならば」である。
だが、シアンの扱う水はそうではない。
「知らなかったのでしたら、教えてあげますよ」
シアンが剣を振り抜いて、男子学生の剣を弾き飛ばす。それと同時に、剣を覆っていた雷がすべて吹き飛んでしまう。
「純粋な水は、雷を一切通しませんのよ!」
無防備になった男子学生を、シアンの剣が襲う。
木剣が男子学生の額の前でぴたりと止まると、へなへなとその場に男子学生はへたり込んでしまった。
「ま、参った……」
完全に心が折れてしまった男子学生は、降参を口にしてしまう。
「勝者、シアン・モスグリネ!」
シアンの勝ち名乗りが行われると、会場中から大きな歓声が上がった。
シアンはその声にひとまず手を振って応えると、へたり込んだ男子学生に手を差し伸べて起こしていた。
「まったく、少し残念でしたね」
「な、なにがでしょうか」
「私をなめてかかっていなければ、もう少し良い試合ができたと思ったのですよ。今日の反省をして、これからも精進して下さいね」
「はっ、精進致します」
起き上がった男子学生は、今度はシアンに対して跪いていた。
最初の態度とはまるっきり逆方向になってしまった男子学生の姿に、シアンはちょっと戸惑いの表情を浮かべていた。
ひとまず、今年のシアンも年上を相手にしながら無事に一回戦を突破したのである。
一回戦、いよいよシアンの出番である。
対戦相手は六年次生の男子学生で、武台の上でお互いを見ている。
「ちっ、お姫様が相手か、やりにくいな」
「私をただのお姫様だなんて思わないで下さい。これは大会ですよ。手を抜かずにお願いします」
そう話しながら、シアンは剣を構えている。
「泣いても知らないからな」
「ええ、できる限り本気で来て下さい」
やる気不十分な男子学生に対して、シアンは挑発するようなことを言っている。
それに対して、相手の男子学生はなめたような態度を取っている。
「始め!」
審判の合図があり、試合が始まる。
男子学生が挑発に乗ったためか先制攻撃を仕掛ける。
「悪く思うなよ。こんな危険な場所に、お姫様が出てくるもんじゃねえからな」
振り上げた木剣を、シアンに向けて振り下ろしてくる。
「ご忠告わざわざありがとうございます。ですが、私を甘く見てもらっては困りますね」
にっこりと微笑みながら、シアンは受け流すような格好で木剣を差し出す。
シアンの構えた剣を風魔法が覆う。
それを軽く、男子学生の剣の動きに合わせて振ると、なんということだろうか、男子学生の攻撃が軽く受け流されてしまった。
「なっ!?」
男子学生はシアンの動きに加えて驚きで体勢が崩れてしまう。それでもすぐに立て直せるあたり、さすがは六年次生といったところだ。
「武術大会は魔法の使用も認められていますからね。足りない分は魔法で補えばいいのですよ。お父様もお母様も効果的に使っていらしたそうですからね」
「くっ」
シアンの余裕のありそうな姿に、男子学生は唇を噛んでいる。
相手は三つも年下の女子学生だ。不意を突かれたとはいえ、軽くあしらわれたのはかなりショックだったようだ。
「ほざけ!」
男子学生は頭に来たようで、木剣に魔法をまとわせる。バチバチという音を立てているので、どうやら雷の魔法のようだ。
「ほう、雷の使い手か。珍しい属性を持ち合わせておるようだな」
「そうですわね。お姉様くらいしか、わたくしもまともに見たことはありませんわ」
観戦中のペシエラとティールが話をしている。
「すげえ、あんな魔法もあるのか」
「兄上、僕たちには使えない属性ですよ。覚えようとしないで下さいね」
「ああ、そうだった。くそっ!」
セラドンに言われて、セージは悔しがっている。
「あら、トパゼリアの家系は属性が偏っていらっしゃるのかしら」
「そうだな。我が家のメインは闇と火だな。それ以外の属性も少しくらいは扱えるが、制御しきれておらぬな」
「そうなのですわね」
一言二言交わすと、再び武台に視線を落としていた。
「ふははははっ、驚いたか。ケガをしないうちに降参した方がいいぜ」
男子学生はかなり興奮しているようだ。
だが、シアンはまったく退くことはなかった。むしろ仕掛けてこいと煽っている。
「はっ、お姫様であろうが、大会に出た時点で関係ない。自分の不運を嘆くといいぞ!」
雷をまとった木剣を振りかぶる男子学生。
あまりにも六年次生とは思えないお粗末な剣術に、シアンはため息が止まらない。
「自信たっぷりの割に、攻撃は隙だらけですね。水よ」
シアンは木剣に水魔法をまとわせる。元アクアマリン子爵家の者であるために、最も得意とする属性だ。
「その程度の水で、防げるものかぁっ!」
男子学生の木剣とシアンの木剣がぶつかり合う。
にやりと笑っていた男子学生の表情が、一瞬にして驚愕へと変わる。
「バカな……。なんでこの剣を受けて平気なんだ。どうして……」
男子学生の驚きも当然だろう。
通常の水であれば、雷はよく通るというのは、この世界でも知られている。
そう、「通常の水ならば」である。
だが、シアンの扱う水はそうではない。
「知らなかったのでしたら、教えてあげますよ」
シアンが剣を振り抜いて、男子学生の剣を弾き飛ばす。それと同時に、剣を覆っていた雷がすべて吹き飛んでしまう。
「純粋な水は、雷を一切通しませんのよ!」
無防備になった男子学生を、シアンの剣が襲う。
木剣が男子学生の額の前でぴたりと止まると、へなへなとその場に男子学生はへたり込んでしまった。
「ま、参った……」
完全に心が折れてしまった男子学生は、降参を口にしてしまう。
「勝者、シアン・モスグリネ!」
シアンの勝ち名乗りが行われると、会場中から大きな歓声が上がった。
シアンはその声にひとまず手を振って応えると、へたり込んだ男子学生に手を差し伸べて起こしていた。
「まったく、少し残念でしたね」
「な、なにがでしょうか」
「私をなめてかかっていなければ、もう少し良い試合ができたと思ったのですよ。今日の反省をして、これからも精進して下さいね」
「はっ、精進致します」
起き上がった男子学生は、今度はシアンに対して跪いていた。
最初の態度とはまるっきり逆方向になってしまった男子学生の姿に、シアンはちょっと戸惑いの表情を浮かべていた。
ひとまず、今年のシアンも年上を相手にしながら無事に一回戦を突破したのである。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる