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新章 青色の智姫
第222話 初日のお昼にて
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シアンの次の試合はフューシャだった。相手はなんとシキ・ノワール。
男女であっても当たってしまうのが、この武術大会である。
フューシャは四年次生とはいっても女性で、どちらかといえば魔法使いタイプ。
シキは二年次生とはいっても男性で、父親は王国騎士団のオフライトだ。
まともな剣術のやり合いとなれば、圧倒的にフューシャが不利である。
「将来の騎士団長候補と戦えるなんて光栄ですね」
「それは嬉しい限りだね。王妃様のご実家の女性の方を相手にするのは少々心苦しいですが、これも試合ですから手加減はなしです」
フューシャとシキが武器を構え合う。
結果は、やっぱりシキが勝ってしまった。
フューシャもプルネ同様に闇と水の魔法をかなり使いこなしたものの、シキにはまったく小細工が通じなかった。
「完敗ですね」
「なかなか変則的な戦い方をされたので驚きましたが、相手が悪かったですね」
「ふふっ、まったくですよ」
二人はがっちりと握手をしていた。
「次はシアン様との対戦ですね。健闘をお祈りします」
フューシャとシキはそれぞれ武台を降りていった。
「ふーむ。あの者たちも素晴らしいな」
ティールはかなり興味を示しているようだった。
「あの子が、先日話しましたアトランティスの一族の末裔ですわよ。フューシャ・コーラルといって、少し前に出てきましたプルネ・コーラルの姉ですわ」
「ほほう。それで顔立ちがよく似ているのだな。高度な闇魔法の使い方をしておって、妾も十分参考にしたいところであるな。やはり、アイヴォリーを訪ねて正解だったというわけだ」
ペシエラの説明を受けながら、ティールは目を輝かせている。
「お前たちもあのくらいできるようになるのだぞ。デーモンハートの力を過信するでない。人でなくなってしまえば、意味はないのだからな」
「承知致しました、母上」
ティールは自分がデーモンハートに飲まれかかったことがあるだけに、その言葉はかなり重いものだった。
ただ、息子たちにそれが伝わっているかはよく分からない。
話を聞いていたペシエラは、懐疑的にセージとセラドンを見ていた。
「そろそろお昼ですわね。一度ここを退いて、お姉様のところに参りましょう」
「ほう、ここで食事を取るのではないのだな」
「はい。トパゼリアにはわたくしたちアイヴォリーの発展の理由をしっかり見ていただかないといけませんからね」
ペシエラは珍しく悪い顔で笑っていた。
「そうか。ならば馳走になろう」
ティールも快く誘いに乗っていた。
武術大会も昼休みに入り、ペシエラたちはマゼンダ協会の出展ブースにやって来た。
そこではチェリシアが相変わらず声を張り上げて商売をしていた。
「あら、ペシエラじゃないの」
ペシエラたちの姿に気が付いたチェリシアがぎょっと驚いた顔をしている。
「繁盛してるようですわね、お姉様」
「そりゃねえ。写真も料理も人気だからね。あっそうだ。トパゼリアの女王様も撮っていかれませんかね、すぐに写真をお渡しできますよ」
「ほう、写真とな」
チェリシアの誘いにこれまた興味津々な様子のティールである。
「はい、トパゼリアにはまだ伝わっていないのですかね。かれこれ二十年は経つ技術なんですけれど」
「ないな。アイヴォリーのことは敵視しておったから、受け入れるものかと頑なであったからな」
「はははは、本当にアイヴォリー王国の事がお嫌いだったんですね」
「うむ、少し前までずっとな」
笑いながら話すチェリシアに対して、ティールは真顔できっぱりと言い切っていた。こういうところはさすが女王である。
「お姉様、そういう話はいいですから、食事を頂けないかしら」
「ペシエラ、王城からの料理人を連れてくればいいじゃないのよ。今ならオーブンやレンジだって、王城でも使ってるじゃないの」
「わたくしは、お姉様の手料理が食べたいのですわよ。文句ありまして?」
腕を組んでちらりとチェリシアに視線を向けるペシエラ。その姿に少し黙り込んでいたチェリシアだったが、くすっと笑いながら了承していた。
「分かったわよ。ちょっと待っててね。アメジスタさん、ペシエラたちの写真をお願いしますね」
「は、はい。畏まりました」
チェリシアが奥に引っ込むと同時に、入れ替わるようにして一人の女性が出てくる。プルネやフューシャの祖母であるアメジスタだった。
「これは王妃様。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は抜きでいいですわよ。こちらのお三方の写真を頼めますかしら」
「はい、すぐにお撮りいたします。こちらにお掛け下さいませ」
ペシエラの命令にアメジスタはぱたぱたと忙しなく動いている。
ティールたちにポーズを決めてもらうと、アメジスタはパシャリと写真を撮っていた。
「すぐに現像できますから、少々お待ち下さいませ」
アメジスタはカメラのスイッチを現像に合わせて、紙に向かってボタンを押す。
すると、紙にはさっき撮影した光景が焼き付けられていた。
「おお。一瞬でこのような絵が仕上がるなど、実に素晴らしいではないか」
「はい、これもチェリシア様のおかげです。このカメラを作って下さったおかげで、このように手軽に姿や風景を残すことができるようになったのですよ」
「ほうほう、それは興味深い。カメラなるものを購入することはできるのか?」
「はい、もちろんですよ。マゼンダ商会の工房で作っておりますし、一般にも売りに出されております」
トパゼリアにはない珍しい技術を見たせいか、ティールは興奮気味にアメジスタと話をしていた。
セージとセラドンは見たことのない母親の姿に、すっかり困惑しているようだった。
「はーい、お話はそれくらいにして、焼き上がったからこっち来てよ」
奥からチェリシアの呼ぶ声がする。
この昼は、チェリシアの焼いたピザを頬張りながら、話を弾ませるペシエラたちだった。
男女であっても当たってしまうのが、この武術大会である。
フューシャは四年次生とはいっても女性で、どちらかといえば魔法使いタイプ。
シキは二年次生とはいっても男性で、父親は王国騎士団のオフライトだ。
まともな剣術のやり合いとなれば、圧倒的にフューシャが不利である。
「将来の騎士団長候補と戦えるなんて光栄ですね」
「それは嬉しい限りだね。王妃様のご実家の女性の方を相手にするのは少々心苦しいですが、これも試合ですから手加減はなしです」
フューシャとシキが武器を構え合う。
結果は、やっぱりシキが勝ってしまった。
フューシャもプルネ同様に闇と水の魔法をかなり使いこなしたものの、シキにはまったく小細工が通じなかった。
「完敗ですね」
「なかなか変則的な戦い方をされたので驚きましたが、相手が悪かったですね」
「ふふっ、まったくですよ」
二人はがっちりと握手をしていた。
「次はシアン様との対戦ですね。健闘をお祈りします」
フューシャとシキはそれぞれ武台を降りていった。
「ふーむ。あの者たちも素晴らしいな」
ティールはかなり興味を示しているようだった。
「あの子が、先日話しましたアトランティスの一族の末裔ですわよ。フューシャ・コーラルといって、少し前に出てきましたプルネ・コーラルの姉ですわ」
「ほほう。それで顔立ちがよく似ているのだな。高度な闇魔法の使い方をしておって、妾も十分参考にしたいところであるな。やはり、アイヴォリーを訪ねて正解だったというわけだ」
ペシエラの説明を受けながら、ティールは目を輝かせている。
「お前たちもあのくらいできるようになるのだぞ。デーモンハートの力を過信するでない。人でなくなってしまえば、意味はないのだからな」
「承知致しました、母上」
ティールは自分がデーモンハートに飲まれかかったことがあるだけに、その言葉はかなり重いものだった。
ただ、息子たちにそれが伝わっているかはよく分からない。
話を聞いていたペシエラは、懐疑的にセージとセラドンを見ていた。
「そろそろお昼ですわね。一度ここを退いて、お姉様のところに参りましょう」
「ほう、ここで食事を取るのではないのだな」
「はい。トパゼリアにはわたくしたちアイヴォリーの発展の理由をしっかり見ていただかないといけませんからね」
ペシエラは珍しく悪い顔で笑っていた。
「そうか。ならば馳走になろう」
ティールも快く誘いに乗っていた。
武術大会も昼休みに入り、ペシエラたちはマゼンダ協会の出展ブースにやって来た。
そこではチェリシアが相変わらず声を張り上げて商売をしていた。
「あら、ペシエラじゃないの」
ペシエラたちの姿に気が付いたチェリシアがぎょっと驚いた顔をしている。
「繁盛してるようですわね、お姉様」
「そりゃねえ。写真も料理も人気だからね。あっそうだ。トパゼリアの女王様も撮っていかれませんかね、すぐに写真をお渡しできますよ」
「ほう、写真とな」
チェリシアの誘いにこれまた興味津々な様子のティールである。
「はい、トパゼリアにはまだ伝わっていないのですかね。かれこれ二十年は経つ技術なんですけれど」
「ないな。アイヴォリーのことは敵視しておったから、受け入れるものかと頑なであったからな」
「はははは、本当にアイヴォリー王国の事がお嫌いだったんですね」
「うむ、少し前までずっとな」
笑いながら話すチェリシアに対して、ティールは真顔できっぱりと言い切っていた。こういうところはさすが女王である。
「お姉様、そういう話はいいですから、食事を頂けないかしら」
「ペシエラ、王城からの料理人を連れてくればいいじゃないのよ。今ならオーブンやレンジだって、王城でも使ってるじゃないの」
「わたくしは、お姉様の手料理が食べたいのですわよ。文句ありまして?」
腕を組んでちらりとチェリシアに視線を向けるペシエラ。その姿に少し黙り込んでいたチェリシアだったが、くすっと笑いながら了承していた。
「分かったわよ。ちょっと待っててね。アメジスタさん、ペシエラたちの写真をお願いしますね」
「は、はい。畏まりました」
チェリシアが奥に引っ込むと同時に、入れ替わるようにして一人の女性が出てくる。プルネやフューシャの祖母であるアメジスタだった。
「これは王妃様。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は抜きでいいですわよ。こちらのお三方の写真を頼めますかしら」
「はい、すぐにお撮りいたします。こちらにお掛け下さいませ」
ペシエラの命令にアメジスタはぱたぱたと忙しなく動いている。
ティールたちにポーズを決めてもらうと、アメジスタはパシャリと写真を撮っていた。
「すぐに現像できますから、少々お待ち下さいませ」
アメジスタはカメラのスイッチを現像に合わせて、紙に向かってボタンを押す。
すると、紙にはさっき撮影した光景が焼き付けられていた。
「おお。一瞬でこのような絵が仕上がるなど、実に素晴らしいではないか」
「はい、これもチェリシア様のおかげです。このカメラを作って下さったおかげで、このように手軽に姿や風景を残すことができるようになったのですよ」
「ほうほう、それは興味深い。カメラなるものを購入することはできるのか?」
「はい、もちろんですよ。マゼンダ商会の工房で作っておりますし、一般にも売りに出されております」
トパゼリアにはない珍しい技術を見たせいか、ティールは興奮気味にアメジスタと話をしていた。
セージとセラドンは見たことのない母親の姿に、すっかり困惑しているようだった。
「はーい、お話はそれくらいにして、焼き上がったからこっち来てよ」
奥からチェリシアの呼ぶ声がする。
この昼は、チェリシアの焼いたピザを頬張りながら、話を弾ませるペシエラたちだった。
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