逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
591 / 731
新章 青色の智姫

第222話 初日のお昼にて

しおりを挟む
 シアンの次の試合はフューシャだった。相手はなんとシキ・ノワール。
 男女であっても当たってしまうのが、この武術大会である。
 フューシャは四年次生とはいっても女性で、どちらかといえば魔法使いタイプ。
 シキは二年次生とはいっても男性で、父親は王国騎士団のオフライトだ。
 まともな剣術のやり合いとなれば、圧倒的にフューシャが不利である。
「将来の騎士団長候補と戦えるなんて光栄ですね」
「それは嬉しい限りだね。王妃様のご実家の女性の方を相手にするのは少々心苦しいですが、これも試合ですから手加減はなしです」
 フューシャとシキが武器を構え合う。
 結果は、やっぱりシキが勝ってしまった。
 フューシャもプルネ同様に闇と水の魔法をかなり使いこなしたものの、シキにはまったく小細工が通じなかった。
「完敗ですね」
「なかなか変則的な戦い方をされたので驚きましたが、相手が悪かったですね」
「ふふっ、まったくですよ」
 二人はがっちりと握手をしていた。
「次はシアン様との対戦ですね。健闘をお祈りします」
 フューシャとシキはそれぞれ武台を降りていった。

「ふーむ。あの者たちも素晴らしいな」
 ティールはかなり興味を示しているようだった。
「あの子が、先日話しましたアトランティスの一族の末裔ですわよ。フューシャ・コーラルといって、少し前に出てきましたプルネ・コーラルの姉ですわ」
「ほほう。それで顔立ちがよく似ているのだな。高度な闇魔法の使い方をしておって、妾も十分参考にしたいところであるな。やはり、アイヴォリーを訪ねて正解だったというわけだ」
 ペシエラの説明を受けながら、ティールは目を輝かせている。
「お前たちもあのくらいできるようになるのだぞ。デーモンハートの力を過信するでない。人でなくなってしまえば、意味はないのだからな」
「承知致しました、母上」
 ティールは自分がデーモンハートに飲まれかかったことがあるだけに、その言葉はかなり重いものだった。
 ただ、息子たちにそれが伝わっているかはよく分からない。
 話を聞いていたペシエラは、懐疑的にセージとセラドンを見ていた。
「そろそろお昼ですわね。一度ここを退いて、お姉様のところに参りましょう」
「ほう、ここで食事を取るのではないのだな」
「はい。トパゼリアにはわたくしたちアイヴォリーの発展の理由をしっかり見ていただかないといけませんからね」
 ペシエラは珍しく悪い顔で笑っていた。
「そうか。ならば馳走になろう」
 ティールも快く誘いに乗っていた。

 武術大会も昼休みに入り、ペシエラたちはマゼンダ協会の出展ブースにやって来た。
 そこではチェリシアが相変わらず声を張り上げて商売をしていた。
「あら、ペシエラじゃないの」
 ペシエラたちの姿に気が付いたチェリシアがぎょっと驚いた顔をしている。
「繁盛してるようですわね、お姉様」
「そりゃねえ。写真も料理も人気だからね。あっそうだ。トパゼリアの女王様も撮っていかれませんかね、すぐに写真をお渡しできますよ」
「ほう、写真とな」
 チェリシアの誘いにこれまた興味津々な様子のティールである。
「はい、トパゼリアにはまだ伝わっていないのですかね。かれこれ二十年は経つ技術なんですけれど」
「ないな。アイヴォリーのことは敵視しておったから、受け入れるものかと頑なであったからな」
「はははは、本当にアイヴォリー王国の事がお嫌いだったんですね」
「うむ、少し前までずっとな」
 笑いながら話すチェリシアに対して、ティールは真顔できっぱりと言い切っていた。こういうところはさすが女王である。
「お姉様、そういう話はいいですから、食事を頂けないかしら」
「ペシエラ、王城からの料理人を連れてくればいいじゃないのよ。今ならオーブンやレンジだって、王城でも使ってるじゃないの」
「わたくしは、お姉様の手料理が食べたいのですわよ。文句ありまして?」
 腕を組んでちらりとチェリシアに視線を向けるペシエラ。その姿に少し黙り込んでいたチェリシアだったが、くすっと笑いながら了承していた。
「分かったわよ。ちょっと待っててね。アメジスタさん、ペシエラたちの写真をお願いしますね」
「は、はい。畏まりました」
 チェリシアが奥に引っ込むと同時に、入れ替わるようにして一人の女性が出てくる。プルネやフューシャの祖母であるアメジスタだった。
「これは王妃様。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は抜きでいいですわよ。こちらのお三方の写真を頼めますかしら」
「はい、すぐにお撮りいたします。こちらにお掛け下さいませ」
 ペシエラの命令にアメジスタはぱたぱたと忙しなく動いている。
 ティールたちにポーズを決めてもらうと、アメジスタはパシャリと写真を撮っていた。
「すぐに現像できますから、少々お待ち下さいませ」
 アメジスタはカメラのスイッチを現像に合わせて、紙に向かってボタンを押す。
 すると、紙にはさっき撮影した光景が焼き付けられていた。
「おお。一瞬でこのような絵が仕上がるなど、実に素晴らしいではないか」
「はい、これもチェリシア様のおかげです。このカメラを作って下さったおかげで、このように手軽に姿や風景を残すことができるようになったのですよ」
「ほうほう、それは興味深い。カメラなるものを購入することはできるのか?」
「はい、もちろんですよ。マゼンダ商会の工房で作っておりますし、一般にも売りに出されております」
 トパゼリアにはない珍しい技術を見たせいか、ティールは興奮気味にアメジスタと話をしていた。
 セージとセラドンは見たことのない母親の姿に、すっかり困惑しているようだった。
「はーい、お話はそれくらいにして、焼き上がったからこっち来てよ」
 奥からチェリシアの呼ぶ声がする。
 この昼は、チェリシアの焼いたピザを頬張りながら、話を弾ませるペシエラたちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...