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新章 青色の智姫
第234話 仲良い兄妹
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「ば、バカな。『時渡りの秘法』を使っただって?」
マーリンは驚愕の表情を浮かべている。
「時渡りの秘法は、使えばそのすべての魔力を失う。そして、結果を問わずに術者はその存在がすべて消え去る。……そうですよね、お兄様」
「お兄様……? いや、君はシアン・モスグリネだろう。なぜ王女が私の妹……うっ!」
シアンが語りかけた言葉を必死に否定するマーリンだったが、突然の頭痛に襲われる。
その様子を、シアンもスミレも、ただ黙って眺めている。冷たいようではあるものの、これは重要なことなのだ。
二人が黙って見つめている間も、マーリンは割れるような頭の痛みに襲われ続けている。一体何が起きているというのか。
しばらくすると、紅茶を取りに行っていた使用人が戻ってくる。
「ただいま戻りま……大旦那様?!」
近くのテーブルに紅茶を置くと、使用人がマーリンへと駆け寄ってくる。
普通はそのまま投げ捨てそうなところを、ちゃんとテーブルに置いてから駆け寄るあたり、意外とこの使用人は落ち着いているようだった。
「何を……大旦那様に何をなさったのですか、シアン王女殿下」
駆け寄った使用人が、マーリンを気遣いながらシアンに向かって問い質している。
心配する使用人の手に突然触れるものがあった。
他でもないマーリンの手である。
「すまない、ちょっと急に思い出しただけだ。君はしばらく席を外してくれ。それと、ここで見たことは他言無用で決して喋らないように」
表現を重ねて話すマーリンに、使用人はただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
おとなしく了承すると、そのまま部屋を出ていった。
入り口近くに置かれた紅茶は、スミレが持ってきて注いでいる。
その紅茶を飲みながら、二人は黙ってしばらく何も話さずにいた。
ようやくマーリンが口を開く。
「おかえり、シアン」
「ただいまです、お兄様。その言い方ですと、すべて思い出したようですね」
「ああ、すべてな。魔力が最も多いと言われたお前が、突然まったく魔法を使わなくなったことは疑問に思っていたが、そういう理由があったのか……」
マーリンは頭を抱えている。乱れた気持ちを落ち着けるように紅茶を口に含む。
「実は、今お兄様が思い出したのは、逆行後の魔力を失ったシアン・アクアマリンのことです。私には、それよりも前、アイヴォリー王国が滅びた時の記憶もございます」
「アイヴォリー王国が、滅びただと?!」
シアンから次々飛び出てくる衝撃的な発言に、マーリンはまったくついて来れない。
ただでさえ、時渡りの秘法から一段階解放されただけで頭が混乱しているのだ。さすがのアクアマリンの人間でも限界を超えていたのである。
「私が見てきたすべてを、教えて差し上げますよ、お兄様」
シアンは、逆行前の家を飛び出したところから、すべてをマーリンに話した。
アトランティス帝国の末裔の策略にはまって、アイヴォリー王国が滅びたこと。
主であるロゼリアを救ってすべてを正すために時渡りの秘法を使ったこと。
それが成就して、一度は消滅したことなど、そのすべてをマーリンに打ち明ける。
シアンが一番信頼する兄だからこそ、こうやって打ち明ける気になったのだ。
「そうか……、今までものすごく苦労してきたのだな」
「はい。ロゼリア様……、今のお母様は、そのくらいに素晴らしい方です。今の私があるのは、すべてはお母様のおかげなのですよ」
「あのマゼンダ侯爵令嬢がねぇ……」
シアンの話を聞き終えたマーリンは、腕を組んで少し唸っているようだった。
「しかし、逆行後はチェリシア嬢が一番引っ掻き回していたと思うのだがな」
「あははは……。それはとても否定できませんね。でも、彼女は逆行前のチェリシア様ではなくて、時渡りの秘法に巻き込まれた渡り人だったのですよ」
「となると、ペシエラ様がそうなるのか」
さすがは頭のいいアクアマリンの一族。マーリンはすぐさまペシエラが逆行前のチェリシアだと勘付いた。
「はい、その通りです。彼女もまた時渡りの秘法に巻き込まれて戻ってきた人物。だからこそ、このように丸く収まったのだと思います」
「なるほど。いろいろな要因が重なって、今があると。ふむ、お前の言うことだし、信じよう」
「ありがとうございます、お兄様」
時渡りの秘法の話が終わると、マーリンは深く椅子にもたれ掛かって天井を見上げた。
「……お前の話、これで終わりではないのだろう?」
「ええ、お兄様。さすがお察しがよろしいですね」
「そうでもないと領主なぞやってられんよ。お前にさっさと家を出ていかれたせいで、私がその苦労をする羽目になったのだからな」
「何を仰いますか。私なんて魔力が多いだけの小娘。領主なんて器ではありませんよ」
ここで一度黙り込んだ二人だったが、思わず吹き出してしばらく大笑いをしていた。
「さて、そろそろお昼にしようか。一度休憩を入れないとお前のとんでもない話についていける気がしない」
「さすがはお兄様、賢明ですわね」
そういった瞬間、シアンのお腹が小さく鳴る。
あまりにも突然だったために、驚いて黙り込んでしまった。
「十五の乙女として、人前でお腹を鳴らすのはどうかと思うな。ちょっと待っていなさい、すぐにお昼を準備させよう」
マーリンはそう言って立ち上がって部屋を出ていった。
部屋の中には無表情のスミレと、顔を真っ赤にしたシアンが無言でたたずむのだった。
マーリンは驚愕の表情を浮かべている。
「時渡りの秘法は、使えばそのすべての魔力を失う。そして、結果を問わずに術者はその存在がすべて消え去る。……そうですよね、お兄様」
「お兄様……? いや、君はシアン・モスグリネだろう。なぜ王女が私の妹……うっ!」
シアンが語りかけた言葉を必死に否定するマーリンだったが、突然の頭痛に襲われる。
その様子を、シアンもスミレも、ただ黙って眺めている。冷たいようではあるものの、これは重要なことなのだ。
二人が黙って見つめている間も、マーリンは割れるような頭の痛みに襲われ続けている。一体何が起きているというのか。
しばらくすると、紅茶を取りに行っていた使用人が戻ってくる。
「ただいま戻りま……大旦那様?!」
近くのテーブルに紅茶を置くと、使用人がマーリンへと駆け寄ってくる。
普通はそのまま投げ捨てそうなところを、ちゃんとテーブルに置いてから駆け寄るあたり、意外とこの使用人は落ち着いているようだった。
「何を……大旦那様に何をなさったのですか、シアン王女殿下」
駆け寄った使用人が、マーリンを気遣いながらシアンに向かって問い質している。
心配する使用人の手に突然触れるものがあった。
他でもないマーリンの手である。
「すまない、ちょっと急に思い出しただけだ。君はしばらく席を外してくれ。それと、ここで見たことは他言無用で決して喋らないように」
表現を重ねて話すマーリンに、使用人はただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
おとなしく了承すると、そのまま部屋を出ていった。
入り口近くに置かれた紅茶は、スミレが持ってきて注いでいる。
その紅茶を飲みながら、二人は黙ってしばらく何も話さずにいた。
ようやくマーリンが口を開く。
「おかえり、シアン」
「ただいまです、お兄様。その言い方ですと、すべて思い出したようですね」
「ああ、すべてな。魔力が最も多いと言われたお前が、突然まったく魔法を使わなくなったことは疑問に思っていたが、そういう理由があったのか……」
マーリンは頭を抱えている。乱れた気持ちを落ち着けるように紅茶を口に含む。
「実は、今お兄様が思い出したのは、逆行後の魔力を失ったシアン・アクアマリンのことです。私には、それよりも前、アイヴォリー王国が滅びた時の記憶もございます」
「アイヴォリー王国が、滅びただと?!」
シアンから次々飛び出てくる衝撃的な発言に、マーリンはまったくついて来れない。
ただでさえ、時渡りの秘法から一段階解放されただけで頭が混乱しているのだ。さすがのアクアマリンの人間でも限界を超えていたのである。
「私が見てきたすべてを、教えて差し上げますよ、お兄様」
シアンは、逆行前の家を飛び出したところから、すべてをマーリンに話した。
アトランティス帝国の末裔の策略にはまって、アイヴォリー王国が滅びたこと。
主であるロゼリアを救ってすべてを正すために時渡りの秘法を使ったこと。
それが成就して、一度は消滅したことなど、そのすべてをマーリンに打ち明ける。
シアンが一番信頼する兄だからこそ、こうやって打ち明ける気になったのだ。
「そうか……、今までものすごく苦労してきたのだな」
「はい。ロゼリア様……、今のお母様は、そのくらいに素晴らしい方です。今の私があるのは、すべてはお母様のおかげなのですよ」
「あのマゼンダ侯爵令嬢がねぇ……」
シアンの話を聞き終えたマーリンは、腕を組んで少し唸っているようだった。
「しかし、逆行後はチェリシア嬢が一番引っ掻き回していたと思うのだがな」
「あははは……。それはとても否定できませんね。でも、彼女は逆行前のチェリシア様ではなくて、時渡りの秘法に巻き込まれた渡り人だったのですよ」
「となると、ペシエラ様がそうなるのか」
さすがは頭のいいアクアマリンの一族。マーリンはすぐさまペシエラが逆行前のチェリシアだと勘付いた。
「はい、その通りです。彼女もまた時渡りの秘法に巻き込まれて戻ってきた人物。だからこそ、このように丸く収まったのだと思います」
「なるほど。いろいろな要因が重なって、今があると。ふむ、お前の言うことだし、信じよう」
「ありがとうございます、お兄様」
時渡りの秘法の話が終わると、マーリンは深く椅子にもたれ掛かって天井を見上げた。
「……お前の話、これで終わりではないのだろう?」
「ええ、お兄様。さすがお察しがよろしいですね」
「そうでもないと領主なぞやってられんよ。お前にさっさと家を出ていかれたせいで、私がその苦労をする羽目になったのだからな」
「何を仰いますか。私なんて魔力が多いだけの小娘。領主なんて器ではありませんよ」
ここで一度黙り込んだ二人だったが、思わず吹き出してしばらく大笑いをしていた。
「さて、そろそろお昼にしようか。一度休憩を入れないとお前のとんでもない話についていける気がしない」
「さすがはお兄様、賢明ですわね」
そういった瞬間、シアンのお腹が小さく鳴る。
あまりにも突然だったために、驚いて黙り込んでしまった。
「十五の乙女として、人前でお腹を鳴らすのはどうかと思うな。ちょっと待っていなさい、すぐにお昼を準備させよう」
マーリンはそう言って立ち上がって部屋を出ていった。
部屋の中には無表情のスミレと、顔を真っ赤にしたシアンが無言でたたずむのだった。
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