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新章 青色の智姫
第239話 知ることのなかった真実
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自分とスミレはまだしも、ガレンやケットシーが時渡りの秘法に関わった印象がないシアンは、一体どういう事なのか考え込んでしまった。
「私は時の秘法の発動者、スミレ……いえ、クロノアはその補助をしたのは分かりますが、お二人がどこでどうかかわったのか、まったく分からないのですが?」
まったくもって理解ができないシアンは、顔を上げてガレンを見ている。発言をしたのはスミレだというのに、この場ではこの男に聞くのが一番だろうと、シアンはそう考えたのだ。
「シアンくん。さっきのスミレくんの発言を思い返してみてくれ。誰も君の魔法の発動にかかわったとは言っていないだろう?」
「はっ! た、確かに……」
シアンはガレンの言葉にハッとする。
「まあ、間接的にはかかわったかも知れないけれどね。第一、時渡りの秘法は禁法に属している魔法だ。それが君が簡単に見つけられた理由がなんだと思っているのかな?」
「……まさか!?」
ガレンの言い草に、シアンは更なる驚きを隠せなかった。
「そうだ。君が魔法を発動できるように書庫の目立つところに禁法である『時渡りの秘法』に関する書物を移動させたのは、他でもないこの私だ。ちょうどいい、あの真相を話してやろうじゃないか。なあ、ケットシー」
「ふふっ、そうだね。君にしては、ずいぶんと素直じゃないか、オリジン」
「悪かったな。私は精霊王としての立場があるから、あまり個人に肩入れができないのだよ。ここまで介入する気になったのは、あの時のペイルの様子のせいだな」
「ペイル陛下……、お父様の?」
きょとんとした顔をするシアンに、ガレンは黙ったまま首を縦に振る。
「あの時のペイルは、愛する者を失って荒んでいたからな。だが、アイヴォリー王国を滅ぼした後もその傷は癒えることはなかった」
「確かに酷かったものだね。あの時のボクもモスグリネで商業組合の長をしていたけれど、まあ圧政というにふさわしい非道っぷりだったよ。彼にとってはロゼリアくんはかなり大切な人だったようだね、当時から」
「お父様……」
ガレンとケットシーの話す逆行前のペイルの様子に、シアンはなんとも胸が苦しくなった。自分と同じように苦しんでいる人がいたんだと、改めて確認できたからだ。
「本来私たち精霊や幻獣というのは、人の世界に手を貸すことはしない。それこそ神獣使いのような人物でもいないとね」
「あの時の神獣使いは、合宿の魔物氾濫で死んでしまっていたからね。なおのこと、ボクらは直接手を出せなくなっていたんだよ」
過去の話をする二人の表情は、それはとても心苦しそうなものだった。
「たった一人の人間の存在で、ここまでも世界の様相を変えてしまうのだからね。人間の世の中というのは恐ろしいと思ったね」
「確かに、そうですね……」
シアンも実際に体験している以上、これには頷くことしかできなかった。
「私は自分の守る国がゆっくりと滅びていく様を見ていることができなくなった。そこで、精霊としての力を使ってどうにかする方法を探すことにしたのだよ」
「ボクみたいな幻獣と違って、精霊は自然が命だからね。荒廃すればそれだけ力を失うことになる。そのくらいに、ロゼリアくんが死んだ後の世界というのは酷いものだったんだよ」
「それほどまでにですか?!」
シアンは驚きながら、スミレにも確認する。スミレは黙ったままこくりと頷いて肯定していた。
「その最中にアクアマリン子爵家に伝わる禁法を探す君のことを知ってね。私たちも同時に探してみることにしたのだよ」
「ボクたちなら、人間たちの制約なんて関係ないからね。アクアマリン子爵邸の魔法で封じられた部屋で、それを見つけたというわけなんだよ」
「……それで、あんな目立つところにあったのですね」
逆行前のシアンが『時渡りの秘法』に関する書物を見つけたのは、アクアマリン子爵邸の書庫だった。
必死になって探している中で、突如として導かれるようにして見つけた書物。それは、ガレンこと精霊王オリジンと幻獣ケットシーの二人の仕業だったというわけだ。
逆行前の真実を知って、シアンはへなへなと足の力が抜けていく。
「シアン様!」
体勢が崩れそうになっているシアンを、スミレが慌てて支える。
「あ、ありがとうございます、スミレ」
支えられた衝撃で我に返ったシアンは、スミレにお礼を言いながらどうにか自分の力で立ち上がる。
「いやぁ、やっぱり人間と積極的に関わるようになって正解だねぇ。毎日が飽きないよ。はっはっはっはっ」
ようやく立ち直ったシアンを目の前に、ケットシーが面白そうに笑っている。
「お前な……。そういう風に振る舞うから性格が悪いと言われるんだ。少しは自重したらどうだ」
「堅苦しい君よりはましだと思うよ。なにせボクは商人だからね。明るさと確かな目があれば、大抵のことは乗り越えられるのさ」
なんとも対照的な姿を見せている。
「ふふふっ、仲がよろしいですね、二人とも」
「どこがだ!」
「そうだろう?」
シアンが笑いながら話し掛けると、まったく正反対の反応を返している。そのおかしさに、さらにシアンが笑っている。
「おやおや、クロノアくんも受けたのかい? こらえてないではっきりと笑った方がいいよ」
「う、うるさいですね。からかうのは、よして下さい」
笑いを堪えながら、スミレはケットシーに反論していた。
モスグリネの王女として転生してから十五年。
ようやくシアンは、すべての事実を知ることとなったのだった。
「私は時の秘法の発動者、スミレ……いえ、クロノアはその補助をしたのは分かりますが、お二人がどこでどうかかわったのか、まったく分からないのですが?」
まったくもって理解ができないシアンは、顔を上げてガレンを見ている。発言をしたのはスミレだというのに、この場ではこの男に聞くのが一番だろうと、シアンはそう考えたのだ。
「シアンくん。さっきのスミレくんの発言を思い返してみてくれ。誰も君の魔法の発動にかかわったとは言っていないだろう?」
「はっ! た、確かに……」
シアンはガレンの言葉にハッとする。
「まあ、間接的にはかかわったかも知れないけれどね。第一、時渡りの秘法は禁法に属している魔法だ。それが君が簡単に見つけられた理由がなんだと思っているのかな?」
「……まさか!?」
ガレンの言い草に、シアンは更なる驚きを隠せなかった。
「そうだ。君が魔法を発動できるように書庫の目立つところに禁法である『時渡りの秘法』に関する書物を移動させたのは、他でもないこの私だ。ちょうどいい、あの真相を話してやろうじゃないか。なあ、ケットシー」
「ふふっ、そうだね。君にしては、ずいぶんと素直じゃないか、オリジン」
「悪かったな。私は精霊王としての立場があるから、あまり個人に肩入れができないのだよ。ここまで介入する気になったのは、あの時のペイルの様子のせいだな」
「ペイル陛下……、お父様の?」
きょとんとした顔をするシアンに、ガレンは黙ったまま首を縦に振る。
「あの時のペイルは、愛する者を失って荒んでいたからな。だが、アイヴォリー王国を滅ぼした後もその傷は癒えることはなかった」
「確かに酷かったものだね。あの時のボクもモスグリネで商業組合の長をしていたけれど、まあ圧政というにふさわしい非道っぷりだったよ。彼にとってはロゼリアくんはかなり大切な人だったようだね、当時から」
「お父様……」
ガレンとケットシーの話す逆行前のペイルの様子に、シアンはなんとも胸が苦しくなった。自分と同じように苦しんでいる人がいたんだと、改めて確認できたからだ。
「本来私たち精霊や幻獣というのは、人の世界に手を貸すことはしない。それこそ神獣使いのような人物でもいないとね」
「あの時の神獣使いは、合宿の魔物氾濫で死んでしまっていたからね。なおのこと、ボクらは直接手を出せなくなっていたんだよ」
過去の話をする二人の表情は、それはとても心苦しそうなものだった。
「たった一人の人間の存在で、ここまでも世界の様相を変えてしまうのだからね。人間の世の中というのは恐ろしいと思ったね」
「確かに、そうですね……」
シアンも実際に体験している以上、これには頷くことしかできなかった。
「私は自分の守る国がゆっくりと滅びていく様を見ていることができなくなった。そこで、精霊としての力を使ってどうにかする方法を探すことにしたのだよ」
「ボクみたいな幻獣と違って、精霊は自然が命だからね。荒廃すればそれだけ力を失うことになる。そのくらいに、ロゼリアくんが死んだ後の世界というのは酷いものだったんだよ」
「それほどまでにですか?!」
シアンは驚きながら、スミレにも確認する。スミレは黙ったままこくりと頷いて肯定していた。
「その最中にアクアマリン子爵家に伝わる禁法を探す君のことを知ってね。私たちも同時に探してみることにしたのだよ」
「ボクたちなら、人間たちの制約なんて関係ないからね。アクアマリン子爵邸の魔法で封じられた部屋で、それを見つけたというわけなんだよ」
「……それで、あんな目立つところにあったのですね」
逆行前のシアンが『時渡りの秘法』に関する書物を見つけたのは、アクアマリン子爵邸の書庫だった。
必死になって探している中で、突如として導かれるようにして見つけた書物。それは、ガレンこと精霊王オリジンと幻獣ケットシーの二人の仕業だったというわけだ。
逆行前の真実を知って、シアンはへなへなと足の力が抜けていく。
「シアン様!」
体勢が崩れそうになっているシアンを、スミレが慌てて支える。
「あ、ありがとうございます、スミレ」
支えられた衝撃で我に返ったシアンは、スミレにお礼を言いながらどうにか自分の力で立ち上がる。
「いやぁ、やっぱり人間と積極的に関わるようになって正解だねぇ。毎日が飽きないよ。はっはっはっはっ」
ようやく立ち直ったシアンを目の前に、ケットシーが面白そうに笑っている。
「お前な……。そういう風に振る舞うから性格が悪いと言われるんだ。少しは自重したらどうだ」
「堅苦しい君よりはましだと思うよ。なにせボクは商人だからね。明るさと確かな目があれば、大抵のことは乗り越えられるのさ」
なんとも対照的な姿を見せている。
「ふふふっ、仲がよろしいですね、二人とも」
「どこがだ!」
「そうだろう?」
シアンが笑いながら話し掛けると、まったく正反対の反応を返している。そのおかしさに、さらにシアンが笑っている。
「おやおや、クロノアくんも受けたのかい? こらえてないではっきりと笑った方がいいよ」
「う、うるさいですね。からかうのは、よして下さい」
笑いを堪えながら、スミレはケットシーに反論していた。
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