逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第241話 避けて通れないもの

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 シアンは休みの日、珍しくライトとゆっくり過ごすことにする。婚約者同士だというのに、ここまでほとんど交流を持ってこなかったからだ。
 あと、ダイアのためにもモーフのことを少しでも教えておこうとも考えたようだ。

 これに先立ち、シアンは昨夜にモスグリネ王国と密かに連絡を取っていた。
『あら、シアンじゃないの、久しぶりね。あなたもチャットフォンをもらったのね』
「お久しぶりです、お母様。チェリシア様がせっかくだからって渡して下さったんです。おかげで、お母様ともすぐに連絡が取れるようになりました」
 連絡の相手は母親であるロゼリアだ。
 自分の母親と話しているつもりのシアンだが、かつての自分が守りたかった人物なこともあってか、少し気持ちが不安定になってしまう。そのくらい、ロゼリアという存在はシアンにとって大きいものだった。
 最初こそ、ただの侯爵令嬢の侍女ということしか思っていなかったのに、しばらく仕えている間にロゼリアにかなり惹かれていた。その結果は、知っての通りである。
 シアンにとってロゼリアは、自分のすべてを投げうってもいい人物なのだ。娘として生まれ変わった今でも、根本的な想いは変わらない。
『それで、シアン。今日は何の用なのかしらね。今なら時間はあるけれど、明日も忙しいから手短にお願いできないかしら』
 感慨に浸っているシアンに、ロゼリアは淡々と話しかけている。
 年末も近付いてきているこの時期のせいか、どうやらなにやら接触を図ってくる者が多いそうだ。
 シアンが年末にモスグリネに戻ってくるという話は国中が知っていること。そのため、王女への貢物をしようとする貴族が押し掛けているらしい。
「そうなのですね。でも、私はもう婚約者が決まっていますのに、どうしてそのようなことをなさるのでしょうね」
 前世での経験もあるので、シアンは大体思い当たるところがある。だが、ここは無知な王女を装っておく。
 ペシエラやチェリシアたちの話から察するに、ロゼリアも自分のことに気が付いているはずだ。でも、そのことを聞くのは今じゃないと、シアンは思ったのだ。
『王家に便宜を図ってもらう、ただの賄賂よ。呆れたものだわね』
 ロゼリアは鼻で笑いながら答えていた。
『それはそうと、別のことを聞きたかったんじゃないのかしら、シアン』
 すぐさま話題を切り替えるロゼリア。さすがに勘がいいものである。
「ええ、明日ライト殿下とお話をすることにしましたので、モーフのことをお話しておこうと思いまして。それで近況を聞きたくて連絡を入れました」
『モーフのことね、いいわよ。モスグリネとアイヴォリーの将来のことだから、私たちも頑張っているわ。とりあえず、話すから聞いてちょうだいね』
 ロゼリアからの返答に、シアンはごくりと息を飲んだ。
 それからしばらくの間、ロゼリアからモーフのことを聞いたシアンは、少々ばかり複雑な表情を見せた。
「……私への執着をこじらせてませんか?」
『ええ、ちょっと心配ですね。でも、あなたが戻って来るまでには、少しは直しておくつもりよ。ケットシーに頼るのはちょっと嫌だけど、彼ならその辺りに詳しいと思うから』
「分かりました。あとひと月ほど後になりますので、よろしくお願いします、お母様」
 通話を終えて、シアンは思い切りため息をついていた。
 ちらりとスミレの方を見る。
「……なんでしょうか、シアン様」
 さっきまでの会話は聞いていたが、スミレは一応質問を投げかけておく。
「ええ。聞いていたと思いますけど、モーフがちょっと面倒なことになっているみたいでしてね。……伝えておいた方がいいかしらね」
「やめた方がいいと思います。少なくともモーフ殿下の留学にはまだ三年の猶予がございますでしょうから、その間にどうにかするのがよいかと存じます」
「そうよね……」
 スミレと話をしたシアンは、椅子に深くもたれ掛かっている。

 転生の際に、本来のシアンが持つはずだった魔力がモーフの中に入ってしまっている。
 そのため、モーフはシアンに親しみを感じてしまい、度の過ぎたシスコンと化していたのだ。
 シアンが留学して離れ離れになったことで、そのシスコンを少々こじらせているらしく、ロゼリアたちは手を焼いているらしい。

「モーフは今は十二歳。なるほど、反抗したがる時期ですね」
「そうですね。シアン様が戻られた時に、少しずつ落ち着かせられるといいのですけれどね。他人の魔力を自分のものとするのは、並大抵のことではできませんから、難しい問題ですよ」
「そうなのね……」
 スミレから話を聞いたシアンは、もう一度大きくため息をついていた。

 こんなやり取りをしても迎えた、今日のライトとのお茶会である。
 自分の話だけならなんとかできそうだが、モーフの話までしようとすると思わず躊躇してしまう。
 しかし、王家直々に婚約者宣言をした以上は、いずれはモーフの話もしなくてはいけない。
 シアンは、自分から誘っておいて、少々乗り気ではないようだった。
「はあ……。もうなるようになれですね。では、スミレ。参りましょうか」
「はい、シアン様」
 覚悟を決めたシアンは、お茶会の会場となる王城内の庭園へと歩き始めた。
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