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新章 青色の智姫
第249話 モスグリネへの帰還
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馬車でゆっくりとモスグリネ王国の王都ヴィフレアに戻ってきたシアンたち。
城へと入り、部屋へと戻ったシアンたちを、またあの人物が待ち構えていた。
「やあ、おかえり。待ちくたびれたよ」
そう、なぜかケットシーが待ち構えていた。
「なんでいるのですかね、ケットシー」
「お金のにおいがしたからね。こう見えてもボクは商業組合の組合長なのだ。ああ、トパゼリアの女王かい、久しぶりだね」
ロゼリアが呆れてケットシーを見ている。
ケットシーはにやにやとしながら答えていたが、ティールに気が付くとすぐさま声をかけていた。
「やれやれ、相変わらず食えぬ猫よな。妾に気が付くとは」
「はっはっはっ。ボクたち商人の目の付け所が、普通の人たちと同じと思ってもらっちゃ困るというものだよ」
ケットシーはちらりと使用人へと目をやる。すると、何かを察した使用人たちが一斉に動き出した。
「ボクの手土産でもつまみなら、ゆっくり話でもしようではないかね」
ケットシーが近くのテーブルへと手招きするので、ロゼリアたちは諦めたようにそれに従っていた。
テーブルを囲んで座るロゼリアたち。しばらくすると、紅茶とお菓子を持って使用人がやって来る。
「ボクが用意したお菓子だよ。ロゼリアくんの故郷のマゼンダ領のフルーツをたっぷり使ったタルトさ。うん、傷みもないので安心して食べておくれ」
目の前には実においしそうなフルーツタルトが置かれる。
「スミレくん、君も座って一緒に食べなさい。今はボクが許す。使用人の真似事は一度お休みだよ」
「ケットシー。それはあなたが判断することではなくて、シアン様たちの判断することです。私は王家の使用人なのですからね」
ケットシーが手招きをするが、スミレは突っぱねている。
「やれやれ、そういう固いところは相変わらずだね。ペイル君、構わないかね」
「ああ、構わない。座るといい、スミレ」
「承知致しました」
国王であるペイルに言われれば、スミレはおとなしくソファーに腰掛ける。もちろん、シアンの隣だった。
「うん、それじゃ、ボクの話を始めさせてもらうよ」
スミレが座ったところで、ケットシーが話題を切り出す。
「ひとまず最初に、シアンくん、留学お疲れ様だね。ボクからささやかな帰還のお祝いをあげよう」
「あら、このタルトがそうではないのですね」
「食べ物で釣るような矮小な人物に見えるかい?」
「見えませんね。だって、猫ですもの」
「はっはっはっ、これは一本取られたね」
シアンの切り返しに、ケットシーは大笑いをしている。
笑いながらもしっかり何かを取り出してくるケットシーである。
「パールくんと一緒に選んだ贈り物だ。ボク単独だと、スミレの目もあって突っぱねられかねないからね。さあ、受け取っておくれ」
「分かりました」
ケットシーが差し出した少し大きな箱を、みんなの前で開ける。
そこに入っていたのは、なんとも不思議な光を放つリボンだった。
「魔石を加工する技術を持っているからね、ムー王国は。こっちだとチェリシアくんくらいだけど、ムー王国にはその職人が多い。魔石を糸に加工して編み込んだ特注のリボンだ。受け取っておくれ」
「まあ、ありがたく受け取らせて頂きます」
あまりにもきれいなリボンに、シアンは嬉しそうに抱き締めていた。
「ふむ、ムーのやつもずいぶんと技術を鍛えたものだな。これは妾たちも負けてはおれぬな」
そう言いながら、ティールはシアンへの贈り物を取り出していた。
「ペシエラに渡したものと同じもので悪いが、浄化して純粋な魔力の宝珠となったデーモンハートだ。今までの詫びとお礼として受け取ってくれ」
ティールが取り出したのは、禍々しく赤黒く光っているはずのデーモンハートを浄化したものらしい。それが証拠に、目の前の宝珠は淡いピンク色の光を放っている。
目の前の宝珠をすぐ受け取るのではなく、シアンは周りに視線を送りながら様子を窺っている。
「はっはっはっ、ボクのことなら気にしないでおくれ。実に素晴らしい宝石じゃないか。あのデーモンハートとは思えない美しさだね」
「俺たちのことも気にしなくていい」
「そうよ、シアン。あなたへの贈り物なのだから、あなたが決めなさい」
ペイルもロゼリアもシアンに判断をゆだねた。
「分かりました。ありがとうございます、女王陛下」
シアンはおとなしく宝珠を受け取った。
ケットシーから渡されたリボンと、ティールから渡された宝石を胸に、シアンはしばらく俯いて黙り込んでしまった。体が震えているところを見ると、それだけ嬉しかったのだろう。
「さて、贈り物も済んだことだし、いろいろと話をしようじゃないか。せっかくトパゼリアの女王もいることだしね。これはいろいろとお金のにおいがしてたまらないね」
「まったく、お前ときたら」
「こんな時にも商売の話ですか。相変わらずぶれませんね」
「はっはっはっ、それが商人というものだよ」
ケットシーはドヤ顔を決めながら、人差し指を立てていた。まったく、どんな時でも平常運転である。
三年ぶりにモスグリネ王国へと戻ってきたシアン。
相変わらずの人たちに囲まれて、うまく気持ちを切り替えらそうだと、嬉しそうに笑ったのだった。
城へと入り、部屋へと戻ったシアンたちを、またあの人物が待ち構えていた。
「やあ、おかえり。待ちくたびれたよ」
そう、なぜかケットシーが待ち構えていた。
「なんでいるのですかね、ケットシー」
「お金のにおいがしたからね。こう見えてもボクは商業組合の組合長なのだ。ああ、トパゼリアの女王かい、久しぶりだね」
ロゼリアが呆れてケットシーを見ている。
ケットシーはにやにやとしながら答えていたが、ティールに気が付くとすぐさま声をかけていた。
「やれやれ、相変わらず食えぬ猫よな。妾に気が付くとは」
「はっはっはっ。ボクたち商人の目の付け所が、普通の人たちと同じと思ってもらっちゃ困るというものだよ」
ケットシーはちらりと使用人へと目をやる。すると、何かを察した使用人たちが一斉に動き出した。
「ボクの手土産でもつまみなら、ゆっくり話でもしようではないかね」
ケットシーが近くのテーブルへと手招きするので、ロゼリアたちは諦めたようにそれに従っていた。
テーブルを囲んで座るロゼリアたち。しばらくすると、紅茶とお菓子を持って使用人がやって来る。
「ボクが用意したお菓子だよ。ロゼリアくんの故郷のマゼンダ領のフルーツをたっぷり使ったタルトさ。うん、傷みもないので安心して食べておくれ」
目の前には実においしそうなフルーツタルトが置かれる。
「スミレくん、君も座って一緒に食べなさい。今はボクが許す。使用人の真似事は一度お休みだよ」
「ケットシー。それはあなたが判断することではなくて、シアン様たちの判断することです。私は王家の使用人なのですからね」
ケットシーが手招きをするが、スミレは突っぱねている。
「やれやれ、そういう固いところは相変わらずだね。ペイル君、構わないかね」
「ああ、構わない。座るといい、スミレ」
「承知致しました」
国王であるペイルに言われれば、スミレはおとなしくソファーに腰掛ける。もちろん、シアンの隣だった。
「うん、それじゃ、ボクの話を始めさせてもらうよ」
スミレが座ったところで、ケットシーが話題を切り出す。
「ひとまず最初に、シアンくん、留学お疲れ様だね。ボクからささやかな帰還のお祝いをあげよう」
「あら、このタルトがそうではないのですね」
「食べ物で釣るような矮小な人物に見えるかい?」
「見えませんね。だって、猫ですもの」
「はっはっはっ、これは一本取られたね」
シアンの切り返しに、ケットシーは大笑いをしている。
笑いながらもしっかり何かを取り出してくるケットシーである。
「パールくんと一緒に選んだ贈り物だ。ボク単独だと、スミレの目もあって突っぱねられかねないからね。さあ、受け取っておくれ」
「分かりました」
ケットシーが差し出した少し大きな箱を、みんなの前で開ける。
そこに入っていたのは、なんとも不思議な光を放つリボンだった。
「魔石を加工する技術を持っているからね、ムー王国は。こっちだとチェリシアくんくらいだけど、ムー王国にはその職人が多い。魔石を糸に加工して編み込んだ特注のリボンだ。受け取っておくれ」
「まあ、ありがたく受け取らせて頂きます」
あまりにもきれいなリボンに、シアンは嬉しそうに抱き締めていた。
「ふむ、ムーのやつもずいぶんと技術を鍛えたものだな。これは妾たちも負けてはおれぬな」
そう言いながら、ティールはシアンへの贈り物を取り出していた。
「ペシエラに渡したものと同じもので悪いが、浄化して純粋な魔力の宝珠となったデーモンハートだ。今までの詫びとお礼として受け取ってくれ」
ティールが取り出したのは、禍々しく赤黒く光っているはずのデーモンハートを浄化したものらしい。それが証拠に、目の前の宝珠は淡いピンク色の光を放っている。
目の前の宝珠をすぐ受け取るのではなく、シアンは周りに視線を送りながら様子を窺っている。
「はっはっはっ、ボクのことなら気にしないでおくれ。実に素晴らしい宝石じゃないか。あのデーモンハートとは思えない美しさだね」
「俺たちのことも気にしなくていい」
「そうよ、シアン。あなたへの贈り物なのだから、あなたが決めなさい」
ペイルもロゼリアもシアンに判断をゆだねた。
「分かりました。ありがとうございます、女王陛下」
シアンはおとなしく宝珠を受け取った。
ケットシーから渡されたリボンと、ティールから渡された宝石を胸に、シアンはしばらく俯いて黙り込んでしまった。体が震えているところを見ると、それだけ嬉しかったのだろう。
「さて、贈り物も済んだことだし、いろいろと話をしようじゃないか。せっかくトパゼリアの女王もいることだしね。これはいろいろとお金のにおいがしてたまらないね」
「まったく、お前ときたら」
「こんな時にも商売の話ですか。相変わらずぶれませんね」
「はっはっはっ、それが商人というものだよ」
ケットシーはドヤ顔を決めながら、人差し指を立てていた。まったく、どんな時でも平常運転である。
三年ぶりにモスグリネ王国へと戻ってきたシアン。
相変わらずの人たちに囲まれて、うまく気持ちを切り替えらそうだと、嬉しそうに笑ったのだった。
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