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新章 青色の智姫
第248話 帰国の時
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送別のパーティーが終わり、いよいよシアンはモスグリネ王国に戻ることになる。
そのための準備は既に数日前から行っていた。その準備もすっかり整っており、朝食を終えれば城を発つだけとなっていた。
ところが、城の前に立っていざ出発となった時だった。予想外な客が出発しようとするシアンの前に現れた。
「おお、間に合ったか」
「トパゼリアの女王陛下?!」
そこに現れたのは、なんとティールだった。
今回のことはアイヴォリー王国とモスグリネ王国の間での話なので、そもそも国交は成立したばかりのトパゼリアには話がいっていなかったはずである。
なぜティールが現れたのかは、よく分からなかった。
「なぜ来たかというような顔をしないでおくれ。シアン王女が戻るという話を聞いてな、慌ててやって来たのだ。他国の情勢をこっそり探るなど、よくあることだろうぞ」
「それでしたら、戻った後のモスグリネに向かえばよかったでしょうに。なぜこちらにいらしたのかしら」
ペシエラが苦言を呈している。
「なに、アイヴォリーにも用事があったからな。すべてを一度に済ませられる方がいいに決まっておろう」
ティールの言いっぷりに、ペシエラはシルヴァノと顔を見合わせている。
せっかくやって来たのだから、話くらいは聞いてやろうということになった。
「すまぬな。出発の時ということもあって手短に話そう」
ティールは用件を話し始める。
「実は妾の国ではデーモンハートを利用しているのだが、それは知っておるよな」
「ええ、まあ。あなたのその胸の宝石がそうでしたわよね」
「うむ」
ペシエラが確認すると、ティールはこくりと頷く。
「それでなのだが、実はシアン王女に浄化されたこのデーモンハート、実はまだ魔力を十分に有していることが分かったのだ」
話を聞いたペシエラとシアンが、つい構えてしまう。なにせ、デーモンハートの恐ろしさは目の当たりにしているからだ。
「まあ、落ち着け。話は最後まで聞くべきぞ」
ティールのいう通りなので、二人は構えを解く。
「それで、どうにかできる方法はないかと妾たちは研究を重ね、ついにデーモンハートの無害化に成功したのだ。それがこれだ」
話を終えたティールが、懐から宝石のようなものを取り出していた。
目の前にあるのは、ティールの胸部に光る宝石と同じような宝石だった。
「どうにかして、シアン王女の使った浄化の魔法を再現してみせたのだ。結果として、火・水・風の三属性の魔法をバランスよく当てることでデーモンハートの力を弱めることに成功した。これがその研究の成果なのだ」
目の前の宝石をじっと見つめるシアンたち。言われなければ、これがデーモンハートだということに気が付きそうにないくらいに、普通の宝石のような輝きを放っている。
「デーモンハートは、瘴気さえなくなれば純粋な魔力の塊になるようでな。これなら魔石代わりにも十分使えると思えるのだ。トパゼリアの民はデーモンハートに耐性があるから、量産は可能ぞ」
なんともとんでもない話だった。
「確かに瘴気は感じませんわね。これ、お姉様が見たらものすごく喜びますわよ」
「魔石を魔力で加工してしまうような人物だからね、チェリシアは。きっとあれこれ実験をするだろうね」
ペシエラとシルヴァノが、すぐにチェリシアが狂喜乱舞する姿を思い浮かべてしまったようだ。これにはペイルとロゼリアも苦笑いである。
「まあ、これは友好の証として渡しておくよ。心配なら鑑定魔法で調べたり、あの妖精にでも見てもらうといい」
「ありがたく受け取っておきますわね。お姉様にだけは絶対知られないようにしておきますわ」
ペシエラが宝石を受け取りながら、にこりと笑っている。
「さて、妾もモスグリネへの道中に混ざらせてもらうぞ。あの商人と話をせねばならぬしな」
「なんだ、俺たちに付いてくるのか」
「当然だ。主たる目的はそちらの王女にあるのだからな」
「わ、私?」
シアンは自分を指差しながら驚いている。
断ってもいいのだが、どうせ移動の方向が同じならばと、ペイルとロゼリアは許可を出すしかなかった。
ティールの登場によってあまりしんみりとした雰囲気にならず、シアンはライトやダイアと握手を交わしてアイヴォリーの王城から笑顔で去っていく。
三年間のサンフレア学園での学生生活の間に過ごしたアイヴォリーの城も、これでしばらくお別れなのだ。
(いろいろとありましたけれど、きっと私は三年後にまた戻って参ります)
馬車の窓から振り返りながら、シアンはライトの結婚を前向きに考えているようだ。
そのためには、モスグリネ王国に戻ってからの残りの学園生活三年間を無事に過ごさなければならない。
両国間の間で学術レベルに差はあるだろうが、今の父親であるペイルも通った道だ。シアンにはそこまで不安はなかった。
「スミレ」
「なんでしょうか、シアン様」
「私、魔法の修行も頑張るわよ」
「左様でございますか。では、私も少し厳しめにしてみましょうかね」
簡単に言葉を交わした主従は、決意を秘めた笑みを浮かべ合うのだった。
そのための準備は既に数日前から行っていた。その準備もすっかり整っており、朝食を終えれば城を発つだけとなっていた。
ところが、城の前に立っていざ出発となった時だった。予想外な客が出発しようとするシアンの前に現れた。
「おお、間に合ったか」
「トパゼリアの女王陛下?!」
そこに現れたのは、なんとティールだった。
今回のことはアイヴォリー王国とモスグリネ王国の間での話なので、そもそも国交は成立したばかりのトパゼリアには話がいっていなかったはずである。
なぜティールが現れたのかは、よく分からなかった。
「なぜ来たかというような顔をしないでおくれ。シアン王女が戻るという話を聞いてな、慌ててやって来たのだ。他国の情勢をこっそり探るなど、よくあることだろうぞ」
「それでしたら、戻った後のモスグリネに向かえばよかったでしょうに。なぜこちらにいらしたのかしら」
ペシエラが苦言を呈している。
「なに、アイヴォリーにも用事があったからな。すべてを一度に済ませられる方がいいに決まっておろう」
ティールの言いっぷりに、ペシエラはシルヴァノと顔を見合わせている。
せっかくやって来たのだから、話くらいは聞いてやろうということになった。
「すまぬな。出発の時ということもあって手短に話そう」
ティールは用件を話し始める。
「実は妾の国ではデーモンハートを利用しているのだが、それは知っておるよな」
「ええ、まあ。あなたのその胸の宝石がそうでしたわよね」
「うむ」
ペシエラが確認すると、ティールはこくりと頷く。
「それでなのだが、実はシアン王女に浄化されたこのデーモンハート、実はまだ魔力を十分に有していることが分かったのだ」
話を聞いたペシエラとシアンが、つい構えてしまう。なにせ、デーモンハートの恐ろしさは目の当たりにしているからだ。
「まあ、落ち着け。話は最後まで聞くべきぞ」
ティールのいう通りなので、二人は構えを解く。
「それで、どうにかできる方法はないかと妾たちは研究を重ね、ついにデーモンハートの無害化に成功したのだ。それがこれだ」
話を終えたティールが、懐から宝石のようなものを取り出していた。
目の前にあるのは、ティールの胸部に光る宝石と同じような宝石だった。
「どうにかして、シアン王女の使った浄化の魔法を再現してみせたのだ。結果として、火・水・風の三属性の魔法をバランスよく当てることでデーモンハートの力を弱めることに成功した。これがその研究の成果なのだ」
目の前の宝石をじっと見つめるシアンたち。言われなければ、これがデーモンハートだということに気が付きそうにないくらいに、普通の宝石のような輝きを放っている。
「デーモンハートは、瘴気さえなくなれば純粋な魔力の塊になるようでな。これなら魔石代わりにも十分使えると思えるのだ。トパゼリアの民はデーモンハートに耐性があるから、量産は可能ぞ」
なんともとんでもない話だった。
「確かに瘴気は感じませんわね。これ、お姉様が見たらものすごく喜びますわよ」
「魔石を魔力で加工してしまうような人物だからね、チェリシアは。きっとあれこれ実験をするだろうね」
ペシエラとシルヴァノが、すぐにチェリシアが狂喜乱舞する姿を思い浮かべてしまったようだ。これにはペイルとロゼリアも苦笑いである。
「まあ、これは友好の証として渡しておくよ。心配なら鑑定魔法で調べたり、あの妖精にでも見てもらうといい」
「ありがたく受け取っておきますわね。お姉様にだけは絶対知られないようにしておきますわ」
ペシエラが宝石を受け取りながら、にこりと笑っている。
「さて、妾もモスグリネへの道中に混ざらせてもらうぞ。あの商人と話をせねばならぬしな」
「なんだ、俺たちに付いてくるのか」
「当然だ。主たる目的はそちらの王女にあるのだからな」
「わ、私?」
シアンは自分を指差しながら驚いている。
断ってもいいのだが、どうせ移動の方向が同じならばと、ペイルとロゼリアは許可を出すしかなかった。
ティールの登場によってあまりしんみりとした雰囲気にならず、シアンはライトやダイアと握手を交わしてアイヴォリーの王城から笑顔で去っていく。
三年間のサンフレア学園での学生生活の間に過ごしたアイヴォリーの城も、これでしばらくお別れなのだ。
(いろいろとありましたけれど、きっと私は三年後にまた戻って参ります)
馬車の窓から振り返りながら、シアンはライトの結婚を前向きに考えているようだ。
そのためには、モスグリネ王国に戻ってからの残りの学園生活三年間を無事に過ごさなければならない。
両国間の間で学術レベルに差はあるだろうが、今の父親であるペイルも通った道だ。シアンにはそこまで不安はなかった。
「スミレ」
「なんでしょうか、シアン様」
「私、魔法の修行も頑張るわよ」
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簡単に言葉を交わした主従は、決意を秘めた笑みを浮かべ合うのだった。
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