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新章 青色の智姫
第253話 瞬間移動魔法
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アイヴォリー王国で年末祭が行われる頃のことだった。
モスグリネ王国の精霊の森に、突如としてシアンが姿を現す。
「ここは……?」
シアンは自分が立っている場所をきょろきょろと見回す。
辺り一面には木々が立ち並んでいて、どうやら森だということだけは分かった。
「シアン様、ここは精霊の森ですよ。なんでここに跳んでこれたのですかね」
スミレが場所の説明をしながら、跳んでこれた理由に首を傾げていた。
モスグリネ王国では、王位継承に際して精霊の森で試練を受けるしきたりがある。モスグリネ王家の者としては縁が深いからだろう。だからこそ、シアンはこの場所に跳んでこれたのかもしれない。
「ここが精霊の森。ガレン先生が治める森ですか」
「ええ。そして、ライとあの生意気なくそ猫の出身地でもあります」
スミレの発言に、シアンは思わず吹き出してしまう。
スミレの言うくそ猫というのは、もちろんケットシーのことである。
まったく、ケットシーとスミレは、どうしてここまで仲が悪いのだろうか。
「あいつのひょうひょうとした性格は、生真面目が売りの私とはまったくもってそりが合わないんですよ。だから、私はあいつのことが嫌いなんです。我慢して話はしますけど」
「はは、あはははは」
露骨に険しい表情をしたスミレの話に、シアンはただただ苦笑いするばかりだった。
「それはそうと、スミレって瞬間移動魔法が使えたのですね」
「私が封じられたのは、時に関する能力の大半です。一時的に動きを止めたり、瞬間移動したりするくらいはできますよ。ちなみに先日申しましたヴィフレアからカイスまでの移動は余裕でできますよ」
「そ、そうなのですね……」
スミレの話を聞いていると、やっぱり幻獣ってとんでもない存在なのではないかと思えてくるシアンなのである。
そんな幻獣であるスミレを、罰だからといっても侍女として抱えている。
改めて、なんとも罰当たりなことをしていないかと考えてしまう。
「シアン様、ご安心下さい。私をいかようにこき使おうとも、シアン様が罰せられることはありませんから。時渡りの秘法に手を貸した時から、私はそうなることを望んでいたのかもしれませんね」
スミレは穏やかに笑っていた。
「さて、私の話はそのくらいにしておきましょう。今度はヴィフレアに瞬間移動魔法で戻りましょうね。ここまで跳べたのです、今度もできますよね、シアン様?」
さっきと表情が変わらないはずなのに、どこか恐怖を感じるスミレの顔である。
シアンはその笑顔を見て、徐々に表情を引きつらせていく。
「ま・さ・か、できないなんて言いませんよね? シアン様はあの魔法使い一族のアクアマリン子爵の素質を持っているんですもの。できないなんて言わせませんよ、さっさとやりましょう、さあ!」
スミレが笑顔のままシアンに圧をかけていく。これにはシアンはもう首を縦に振ることしかできなかった。
(落ち着くのですよ、私。こっちに来れたのですから、きっと戻れるはず。おそらくあそこなら……)
覚悟を決めたシアンは、王都ヴィフレアにあるとある場所を頭に思い浮かべる。
その状態で強く念じていると、徐々にシアンの体が魔力の光に包まれ始めた。
スミレは光り出したシアンをじっと真剣に見つめ続けている。
(いい感じですね。これならきちんと瞬間移動魔法が発動しそうです)
絶対的とまではいかないものの、かなりの自信を持ってそう断言できた。
次の瞬間、シアンは光に包まれてその場から姿を消した。
光が舞い散るその場所を見て、スミレは思わず驚いてしまった。
「まったく、なぜあそこを選んだのですかね。確かにインパクトは強いですけれど、よりによって……」
スミレは両手を腰に当てながら、シアンが瞬間移動魔法の転移先として選んだ場所に呆れていた。
しかし、このままここに滞在し続けるわけにもいかないので、スミレはすぐさま後を追って、瞬間移動魔法を発動したのだった。
「いやぁ、シアンくん。転移先にここを選んでくれて嬉しいねぇ」
シアンが姿を見せると同時に、ケットシーが両手を広げて喜びを表現していた。
「ケットシー……。やっぱりここなんですよね、一番インパクトがあるのは……」
目の前のケットシーに、シアンは表情を引きつらせていた。
そう、シアンが瞬間移動魔法で選んだ転移先は、商業組合の組合長の部屋、つまりケットシーのところだった。
ケットシーのうざ絡みが印象に残りすぎていて、最もイメージしやすくなっていたのである。
「ケットシー、シアン様に触れないでくれますか?」
すぐさまスミレもやって来る。現れるや否や、シアンの前に立ちはだかって、ケットシーを牽制していた。
「酷いね、クロノアくん。ボクは単純にシアンくんが瞬間移動魔法を使いこなせるようになったことを祝福したかっただけなのに」
「それは確かにですが、抱擁する必要がありますか。シアン様はお年頃で婚約者もいらっしゃるのです。少しは弁えて下さい」
「硬いねぇ、クロノアくん。でも、君のそういうところは気に入っているよ。はっはっはっはっ」
相変わらず険悪な状態の二人である。
シアンは仕方なく、適当に商品でも見ていこうといって、スミレの腕を引っ張ってケットシーの部屋から出ていった。
瞬間移動魔法をどうにか会得したシアンではあるものの、もう少し使いこなせるようにならなきゃと、強く心に誓ったのだった。
モスグリネ王国の精霊の森に、突如としてシアンが姿を現す。
「ここは……?」
シアンは自分が立っている場所をきょろきょろと見回す。
辺り一面には木々が立ち並んでいて、どうやら森だということだけは分かった。
「シアン様、ここは精霊の森ですよ。なんでここに跳んでこれたのですかね」
スミレが場所の説明をしながら、跳んでこれた理由に首を傾げていた。
モスグリネ王国では、王位継承に際して精霊の森で試練を受けるしきたりがある。モスグリネ王家の者としては縁が深いからだろう。だからこそ、シアンはこの場所に跳んでこれたのかもしれない。
「ここが精霊の森。ガレン先生が治める森ですか」
「ええ。そして、ライとあの生意気なくそ猫の出身地でもあります」
スミレの発言に、シアンは思わず吹き出してしまう。
スミレの言うくそ猫というのは、もちろんケットシーのことである。
まったく、ケットシーとスミレは、どうしてここまで仲が悪いのだろうか。
「あいつのひょうひょうとした性格は、生真面目が売りの私とはまったくもってそりが合わないんですよ。だから、私はあいつのことが嫌いなんです。我慢して話はしますけど」
「はは、あはははは」
露骨に険しい表情をしたスミレの話に、シアンはただただ苦笑いするばかりだった。
「それはそうと、スミレって瞬間移動魔法が使えたのですね」
「私が封じられたのは、時に関する能力の大半です。一時的に動きを止めたり、瞬間移動したりするくらいはできますよ。ちなみに先日申しましたヴィフレアからカイスまでの移動は余裕でできますよ」
「そ、そうなのですね……」
スミレの話を聞いていると、やっぱり幻獣ってとんでもない存在なのではないかと思えてくるシアンなのである。
そんな幻獣であるスミレを、罰だからといっても侍女として抱えている。
改めて、なんとも罰当たりなことをしていないかと考えてしまう。
「シアン様、ご安心下さい。私をいかようにこき使おうとも、シアン様が罰せられることはありませんから。時渡りの秘法に手を貸した時から、私はそうなることを望んでいたのかもしれませんね」
スミレは穏やかに笑っていた。
「さて、私の話はそのくらいにしておきましょう。今度はヴィフレアに瞬間移動魔法で戻りましょうね。ここまで跳べたのです、今度もできますよね、シアン様?」
さっきと表情が変わらないはずなのに、どこか恐怖を感じるスミレの顔である。
シアンはその笑顔を見て、徐々に表情を引きつらせていく。
「ま・さ・か、できないなんて言いませんよね? シアン様はあの魔法使い一族のアクアマリン子爵の素質を持っているんですもの。できないなんて言わせませんよ、さっさとやりましょう、さあ!」
スミレが笑顔のままシアンに圧をかけていく。これにはシアンはもう首を縦に振ることしかできなかった。
(落ち着くのですよ、私。こっちに来れたのですから、きっと戻れるはず。おそらくあそこなら……)
覚悟を決めたシアンは、王都ヴィフレアにあるとある場所を頭に思い浮かべる。
その状態で強く念じていると、徐々にシアンの体が魔力の光に包まれ始めた。
スミレは光り出したシアンをじっと真剣に見つめ続けている。
(いい感じですね。これならきちんと瞬間移動魔法が発動しそうです)
絶対的とまではいかないものの、かなりの自信を持ってそう断言できた。
次の瞬間、シアンは光に包まれてその場から姿を消した。
光が舞い散るその場所を見て、スミレは思わず驚いてしまった。
「まったく、なぜあそこを選んだのですかね。確かにインパクトは強いですけれど、よりによって……」
スミレは両手を腰に当てながら、シアンが瞬間移動魔法の転移先として選んだ場所に呆れていた。
しかし、このままここに滞在し続けるわけにもいかないので、スミレはすぐさま後を追って、瞬間移動魔法を発動したのだった。
「いやぁ、シアンくん。転移先にここを選んでくれて嬉しいねぇ」
シアンが姿を見せると同時に、ケットシーが両手を広げて喜びを表現していた。
「ケットシー……。やっぱりここなんですよね、一番インパクトがあるのは……」
目の前のケットシーに、シアンは表情を引きつらせていた。
そう、シアンが瞬間移動魔法で選んだ転移先は、商業組合の組合長の部屋、つまりケットシーのところだった。
ケットシーのうざ絡みが印象に残りすぎていて、最もイメージしやすくなっていたのである。
「ケットシー、シアン様に触れないでくれますか?」
すぐさまスミレもやって来る。現れるや否や、シアンの前に立ちはだかって、ケットシーを牽制していた。
「酷いね、クロノアくん。ボクは単純にシアンくんが瞬間移動魔法を使いこなせるようになったことを祝福したかっただけなのに」
「それは確かにですが、抱擁する必要がありますか。シアン様はお年頃で婚約者もいらっしゃるのです。少しは弁えて下さい」
「硬いねぇ、クロノアくん。でも、君のそういうところは気に入っているよ。はっはっはっはっ」
相変わらず険悪な状態の二人である。
シアンは仕方なく、適当に商品でも見ていこうといって、スミレの腕を引っ張ってケットシーの部屋から出ていった。
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