625 / 731
新章 青色の智姫
第256話 ヒスイ・ネフライトのこと
しおりを挟む
初日は特に講義がなかったので、シアンはすぐに城に戻れた。
そこでスミレに指示したのは、ヒスイ・ネフライトについて調べてもらうことだった。
学園で世話になるとはいっても、よく分からない相手ゆえに、シアンもどう対応していいのか困っているのだ。
「承知致しました。できる限りで調べてみましょう。シアン様は食事の時に陛下たちに確認してみて下さいませ。有名であるのなら、そこだけでも十分情報は得られると思われます」
「分かりました」
部屋で服を着替えたシアンは、スミレと話を終えてのんびりとしている。
本当ならば今日もらってきたネフライト学園の教材に目を通したいところだが、今のシアンはそのような気分にはなれなかった。
「ふぅ、自分の国の学園だというのに、想像以上に緊張してしまいましたね」
留学に出向いていた王女が戻ってきた。そういう事情のせいか、周りからはかなりの注目を集めていたのだ。シアンは好奇の目にさらされてちょっと参っているのである。
「さて、もうお昼ですね。そろそろスミレが迎えに来るはずですので、支度をしましょう」
いつまでもソファーで寝ていられないと、シアンはゆっくりと立ち上がって待ち構えることにしたのだった。
食堂に移動すると、ペイルとロゼリア、それとモーフと顔を合わせる。
モーフはシアンの三つ年下であり、同じように明日から学園に通うことになる。
とりあえずは黙ったまま席に着き、昼食を食べ始める。
しばらくして、ペイルから話題が振られる。
「さて、学園初日はどうだったかな、シアン」
食事中ということもあって、ペイルは少し穏やかな表情で語りかけている。
「ええと、少々緊張しましたかね。アイヴォリー王国の学園に通っていたとあって、気分はまるで新入生でした」
「ははっ、そうかそうか」
シアンが答えると、ペイルは少し笑いながら反応している。
「俺も少し疎外感のようなものは感じたからな。やはり、先に三年向こうで通うとそういう気持ちになるか」
ペイルは大きな声で笑っているものだから、隣のロゼリアからジト目を向けられている。
「まったく、笑うようなことですかね。そういう時は寄り添って相談に乗ってあげるものですよ、陛下」
「そうなのか。だが、俺はあまり苦労した覚えがないからな」
ロゼリアの苦言に、ペイルはあごを触りながら首を捻っていた。
「あなたの場合は、強引に話し掛けて雰囲気を変えていったのでしょうね。シアンは繊細なんですから、陛下と同じ手法が取れるとは限りませんよ」
「ふむ。……ああ、そうだ。学園からパートナーを紹介されたと思うが、誰だったのだ?」
思わぬことに、ペイルからパートナーの話題が振られたのだ。
これはちょうどいいと思ったので、シアンはストレートに自分のパートナーとなったヒスイについて尋ねることにした。
「私の付き人として紹介されたのは、ヒスイ・ネフライトという方でございます。少々私のことを睨むような姿が見られました」
「ああ、学園長の兄弟の孫娘か。そうか、ちょうど四年次生にいたのか」
ペイルはすぐに思い当たっていたようだ。
「あれこれ人と会うことが多いからな。俺は小さい頃のヒスイとは会っている。こんな釣り目の女性だっただろう?」
ペイルが目尻を指で押さえて吊り上げている。そもそもつり目なペイルがそんなことをしても、大して変わらないというものだ。
「だが、あれでも母方の魔法一家の血、父方の騎士一家の血を受け継いでいる。きっとシアンの力になってくれるさ」
多少は予想していたものの、ペイルから思ったよりも大きな情報を手に入れることができた。学園長の言葉の裏付けができたのである。
今の話から、どうやらタイプはシアンと似たようなタイプだと推測される。
シアンも父親のペイルから剣の腕、母親のロゼリアと前世から魔法の素養を受け継いでいる。
ただ、学園で少しだけ一緒になった時の、ヒスイの視線というものは気になったものだ。
(やはり、今までにお茶会などを開いて顔を合せなかったせいですかね。何か不信感にも近い感情を感じました)
シアンが悩んでいると、ロゼリアから声をかけられる。
「シアン、どうしたのですか、難しい顔をして」
「あ、いえ。なんでもありませんよ」
声に驚いたものの、シアンはにへらと笑ってごまかしていた。
モスグリネに戻ってきて早々、両親に心配をかけるわけにはいかない。シアンなりの気遣いが発動したのである。
シアンが笑うものだから、ペイルもロゼリアもそれ以上話をすることはなかった。
食事を終えて自室に戻ったシアンは、お行儀悪くベッドに身を投げ出していた。これでも十五歳の少女である。
「雰囲気が悪くなりそうでしたから、あまり深くは聞きませんでしたけれど……」
ごろんと仰向けになる。
「やはり、あの様子では私に対してあまりいい感情をお持ちではなさそうですね。はあ、仲良くしていけるかしら」
シアンは枕を抱きかかえながら、天蓋をじっと眺めていた。
モスグリネ王国に戻ってきてすぐだというのに、どうやら問題が舞い込んできてしまったようである。
そこでスミレに指示したのは、ヒスイ・ネフライトについて調べてもらうことだった。
学園で世話になるとはいっても、よく分からない相手ゆえに、シアンもどう対応していいのか困っているのだ。
「承知致しました。できる限りで調べてみましょう。シアン様は食事の時に陛下たちに確認してみて下さいませ。有名であるのなら、そこだけでも十分情報は得られると思われます」
「分かりました」
部屋で服を着替えたシアンは、スミレと話を終えてのんびりとしている。
本当ならば今日もらってきたネフライト学園の教材に目を通したいところだが、今のシアンはそのような気分にはなれなかった。
「ふぅ、自分の国の学園だというのに、想像以上に緊張してしまいましたね」
留学に出向いていた王女が戻ってきた。そういう事情のせいか、周りからはかなりの注目を集めていたのだ。シアンは好奇の目にさらされてちょっと参っているのである。
「さて、もうお昼ですね。そろそろスミレが迎えに来るはずですので、支度をしましょう」
いつまでもソファーで寝ていられないと、シアンはゆっくりと立ち上がって待ち構えることにしたのだった。
食堂に移動すると、ペイルとロゼリア、それとモーフと顔を合わせる。
モーフはシアンの三つ年下であり、同じように明日から学園に通うことになる。
とりあえずは黙ったまま席に着き、昼食を食べ始める。
しばらくして、ペイルから話題が振られる。
「さて、学園初日はどうだったかな、シアン」
食事中ということもあって、ペイルは少し穏やかな表情で語りかけている。
「ええと、少々緊張しましたかね。アイヴォリー王国の学園に通っていたとあって、気分はまるで新入生でした」
「ははっ、そうかそうか」
シアンが答えると、ペイルは少し笑いながら反応している。
「俺も少し疎外感のようなものは感じたからな。やはり、先に三年向こうで通うとそういう気持ちになるか」
ペイルは大きな声で笑っているものだから、隣のロゼリアからジト目を向けられている。
「まったく、笑うようなことですかね。そういう時は寄り添って相談に乗ってあげるものですよ、陛下」
「そうなのか。だが、俺はあまり苦労した覚えがないからな」
ロゼリアの苦言に、ペイルはあごを触りながら首を捻っていた。
「あなたの場合は、強引に話し掛けて雰囲気を変えていったのでしょうね。シアンは繊細なんですから、陛下と同じ手法が取れるとは限りませんよ」
「ふむ。……ああ、そうだ。学園からパートナーを紹介されたと思うが、誰だったのだ?」
思わぬことに、ペイルからパートナーの話題が振られたのだ。
これはちょうどいいと思ったので、シアンはストレートに自分のパートナーとなったヒスイについて尋ねることにした。
「私の付き人として紹介されたのは、ヒスイ・ネフライトという方でございます。少々私のことを睨むような姿が見られました」
「ああ、学園長の兄弟の孫娘か。そうか、ちょうど四年次生にいたのか」
ペイルはすぐに思い当たっていたようだ。
「あれこれ人と会うことが多いからな。俺は小さい頃のヒスイとは会っている。こんな釣り目の女性だっただろう?」
ペイルが目尻を指で押さえて吊り上げている。そもそもつり目なペイルがそんなことをしても、大して変わらないというものだ。
「だが、あれでも母方の魔法一家の血、父方の騎士一家の血を受け継いでいる。きっとシアンの力になってくれるさ」
多少は予想していたものの、ペイルから思ったよりも大きな情報を手に入れることができた。学園長の言葉の裏付けができたのである。
今の話から、どうやらタイプはシアンと似たようなタイプだと推測される。
シアンも父親のペイルから剣の腕、母親のロゼリアと前世から魔法の素養を受け継いでいる。
ただ、学園で少しだけ一緒になった時の、ヒスイの視線というものは気になったものだ。
(やはり、今までにお茶会などを開いて顔を合せなかったせいですかね。何か不信感にも近い感情を感じました)
シアンが悩んでいると、ロゼリアから声をかけられる。
「シアン、どうしたのですか、難しい顔をして」
「あ、いえ。なんでもありませんよ」
声に驚いたものの、シアンはにへらと笑ってごまかしていた。
モスグリネに戻ってきて早々、両親に心配をかけるわけにはいかない。シアンなりの気遣いが発動したのである。
シアンが笑うものだから、ペイルもロゼリアもそれ以上話をすることはなかった。
食事を終えて自室に戻ったシアンは、お行儀悪くベッドに身を投げ出していた。これでも十五歳の少女である。
「雰囲気が悪くなりそうでしたから、あまり深くは聞きませんでしたけれど……」
ごろんと仰向けになる。
「やはり、あの様子では私に対してあまりいい感情をお持ちではなさそうですね。はあ、仲良くしていけるかしら」
シアンは枕を抱きかかえながら、天蓋をじっと眺めていた。
モスグリネ王国に戻ってきてすぐだというのに、どうやら問題が舞い込んできてしまったようである。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる