逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第256話 ヒスイ・ネフライトのこと

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 初日は特に講義がなかったので、シアンはすぐに城に戻れた。
 そこでスミレに指示したのは、ヒスイ・ネフライトについて調べてもらうことだった。
 学園で世話になるとはいっても、よく分からない相手ゆえに、シアンもどう対応していいのか困っているのだ。
「承知致しました。できる限りで調べてみましょう。シアン様は食事の時に陛下たちに確認してみて下さいませ。有名であるのなら、そこだけでも十分情報は得られると思われます」
「分かりました」
 部屋で服を着替えたシアンは、スミレと話を終えてのんびりとしている。
 本当ならば今日もらってきたネフライト学園の教材に目を通したいところだが、今のシアンはそのような気分にはなれなかった。
「ふぅ、自分の国の学園だというのに、想像以上に緊張してしまいましたね」
 留学に出向いていた王女が戻ってきた。そういう事情のせいか、周りからはかなりの注目を集めていたのだ。シアンは好奇の目にさらされてちょっと参っているのである。
「さて、もうお昼ですね。そろそろスミレが迎えに来るはずですので、支度をしましょう」
 いつまでもソファーで寝ていられないと、シアンはゆっくりと立ち上がって待ち構えることにしたのだった。

 食堂に移動すると、ペイルとロゼリア、それとモーフと顔を合わせる。
 モーフはシアンの三つ年下であり、同じように明日から学園に通うことになる。
 とりあえずは黙ったまま席に着き、昼食を食べ始める。
 しばらくして、ペイルから話題が振られる。
「さて、学園初日はどうだったかな、シアン」
 食事中ということもあって、ペイルは少し穏やかな表情で語りかけている。
「ええと、少々緊張しましたかね。アイヴォリー王国の学園に通っていたとあって、気分はまるで新入生でした」
「ははっ、そうかそうか」
 シアンが答えると、ペイルは少し笑いながら反応している。
「俺も少し疎外感のようなものは感じたからな。やはり、先に三年向こうで通うとそういう気持ちになるか」
 ペイルは大きな声で笑っているものだから、隣のロゼリアからジト目を向けられている。
「まったく、笑うようなことですかね。そういう時は寄り添って相談に乗ってあげるものですよ、陛下」
「そうなのか。だが、俺はあまり苦労した覚えがないからな」
 ロゼリアの苦言に、ペイルはあごを触りながら首を捻っていた。
「あなたの場合は、強引に話し掛けて雰囲気を変えていったのでしょうね。シアンは繊細なんですから、陛下と同じ手法が取れるとは限りませんよ」
「ふむ。……ああ、そうだ。学園からパートナーを紹介されたと思うが、誰だったのだ?」
 思わぬことに、ペイルからパートナーの話題が振られたのだ。
 これはちょうどいいと思ったので、シアンはストレートに自分のパートナーとなったヒスイについて尋ねることにした。
「私の付き人として紹介されたのは、ヒスイ・ネフライトという方でございます。少々私のことを睨むような姿が見られました」
「ああ、学園長の兄弟の孫娘か。そうか、ちょうど四年次生にいたのか」
 ペイルはすぐに思い当たっていたようだ。
「あれこれ人と会うことが多いからな。俺は小さい頃のヒスイとは会っている。こんな釣り目の女性だっただろう?」
 ペイルが目尻を指で押さえて吊り上げている。そもそもつり目なペイルがそんなことをしても、大して変わらないというものだ。
「だが、あれでも母方の魔法一家の血、父方の騎士一家の血を受け継いでいる。きっとシアンの力になってくれるさ」
 多少は予想していたものの、ペイルから思ったよりも大きな情報を手に入れることができた。学園長の言葉の裏付けができたのである。
 今の話から、どうやらタイプはシアンと似たようなタイプだと推測される。
 シアンも父親のペイルから剣の腕、母親のロゼリアと前世から魔法の素養を受け継いでいる。
 ただ、学園で少しだけ一緒になった時の、ヒスイの視線というものは気になったものだ。
(やはり、今までにお茶会などを開いて顔を合せなかったせいですかね。何か不信感にも近い感情を感じました)
 シアンが悩んでいると、ロゼリアから声をかけられる。
「シアン、どうしたのですか、難しい顔をして」
「あ、いえ。なんでもありませんよ」
 声に驚いたものの、シアンはにへらと笑ってごまかしていた。
 モスグリネに戻ってきて早々、両親に心配をかけるわけにはいかない。シアンなりの気遣いが発動したのである。
 シアンが笑うものだから、ペイルもロゼリアもそれ以上話をすることはなかった。

 食事を終えて自室に戻ったシアンは、お行儀悪くベッドに身を投げ出していた。これでも十五歳の少女である。
「雰囲気が悪くなりそうでしたから、あまり深くは聞きませんでしたけれど……」
 ごろんと仰向けになる。
「やはり、あの様子では私に対してあまりいい感情をお持ちではなさそうですね。はあ、仲良くしていけるかしら」
 シアンは枕を抱きかかえながら、天蓋をじっと眺めていた。
 モスグリネ王国に戻ってきてすぐだというのに、どうやら問題が舞い込んできてしまったようである。
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