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新章 青色の智姫
第260話 反省と目標
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シアンがネフライト学園に通い始めてひと月ほどが経過する。
春の一の月はそれほど問題が起きることなく過ぎ去っていく。
問題は二の月が終わった頃に予定されている前期の中間試験といったところだろうか。
アイヴォリー王国のサンフレア学園とは違い、モスグリネのネフライト学園には中間試験というものが存在している。
ペイルもその中間試験の存在を知った時には驚いたらしいが、そもそも当たって砕けろという性分だったので、気合いでどうにか乗り越えていた。
シアンはそんなペイルの血も受け継いではいるものの、前世の記憶の方が強い。無難にこなす性格だったので、学園から戻っては今日の復習をするという習慣は今も維持されていた。
「ふぅ、歴史以外はほとんどアイヴォリー王国と変わらないのは助かりましたね。さすがは留学を行うくらいの交流があるだけはありますね」
シアンは今日の分の復習を終えて、ちょうどひと息ついていた。
「シアン様、紅茶をお持ちしました」
「ありがとう、スミレ。そこに置いておいて」
「いえ、淹れさせて頂きます」
シアンが自分で淹れるようなことを言うものだから、スミレはきっぱりと断りを入れていた。
意地っ張りなところを見て、シアンはおかしくて笑っている。
「楽しそうですね、シアン様。こちらに戻られてからひと月ですけれど、学園には慣れられましたか?」
ちょっとムッとしたのか、スミレはシアンにそんなことを聞いてみている。
思わぬ質問だったのか、シアンは一瞬ハッとしたような顔をしていたものの、素直にその質問に答え始める。
「ええ、まあ。そこそこ順調といったところでしょうかね。やっぱり三年間離れていたというのは、思った以上に影響が大きいようですね」
少し目を逸らしながらシアンはそのように答えていた。
さすがに学園に入ると、それまでの生活とは違ったつながりができている。
留学という形で三年間、その輪に入るタイミングが遅れたシアンには、少なからず壁のようなものが感じられていたようだ。
「なるほど。シアン様も王族とはいえ、難しく感じるというものはございますのですね」
「ええ、まあ。前世は貴族令嬢とはいえ、長い時間を侍女として過ごしましたしね。貴族同士の付き合い方というのは、ちょっと不慣れなのです」
シアンは勉強はまったく問題なさそうだが、人付き合いに少々不安を感じているようだった。
「別に無理にお付き合いをする必要もないのではないでしょうかね」
「そうはいきませんよ。モーフという弟がいる以上、王国内の貴族との関係はしっかりとしておきたいのです」
スミレは気にするなという姿勢のようだが、シアンは弟であるモーフの将来を考えれば、国内貴族とは友好な関係を築いておきたいようだった。
シアンの気持ちを、スミレはいまいち理解できなかった。やっぱりこういうところは幻獣なのだろうなと思わされる。
「人間とは面倒なものですよね」
「ええ、まったくです」
淡々とした表情のスミレに対して、シアンは苦笑いを浮かべていた。
「……ふぅ、スミレも紅茶を淹れる腕が上達しましたね」
「恐縮でございます」
紅茶を飲んだシアンは、スミレの腕前を褒めている。
「……そうですね。私の腕前を見せつけて、王族への注目を集めますか。そのためにはモーフにも頑張ってもらわないと」
スミレの紅茶を淹れる腕前を褒めたことで、シアンは自分の指針を見定めたようだった。
「でも、その前に中間試験ですね。二の月が終わるとすぐに始まります。そこで王族としての矜持を示しませんとね」
「そうでございますね。では、頑張って下さいませ、シアン様」
「ええ、頑張りますよ」
話を終えたシアンは椅子から立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「シアン様、どちらへ?」
「モーフのところ。あの子の勉強を見てあげようと思いましてね。自分の復習にもなりますし」
「……承知致しました。同行いたします」
部屋を出て、シアンはスミレと一緒にモーフのところへと向かったのだった。
シアンが自分で体験してみて分かったことは、留学は思った以上に自分と自国の貴族に対する関係性に変化をもたらしたことだった。
少しでも自国から意識が外れてしまうと、ここまで冷ややかな環境になるとは、まったく思ってもみなかった。
ここまでの生活を振り返ってみて、シアンは自分の父親であるペイルがしてきただろう苦労を改めて気にかけていた。
付き人であるヒスイがいなければ、きっともっと大変な学生生活ではなかっただろうか。そうとも思えてくる現状なのである。
モーフの将来のためにも思い立ったシアンは、改めて自分が何をどうすべきなのか、これからの行動指針を見つめ直している。
そのためにも来月に迫った前期の中間試験、ここを優秀な成績で突破することを目標に定める。
それからというもの、毎日学園から戻って来るとスミレと一緒に魔法の練習をしたり、遅くまで勉強の復習をしたりと、シアンは日々努力を積み重ねていく。
やがて春の三の月を迎え、いよいよ留学から戻って最初の試験の日がやって来たのだった。
春の一の月はそれほど問題が起きることなく過ぎ去っていく。
問題は二の月が終わった頃に予定されている前期の中間試験といったところだろうか。
アイヴォリー王国のサンフレア学園とは違い、モスグリネのネフライト学園には中間試験というものが存在している。
ペイルもその中間試験の存在を知った時には驚いたらしいが、そもそも当たって砕けろという性分だったので、気合いでどうにか乗り越えていた。
シアンはそんなペイルの血も受け継いではいるものの、前世の記憶の方が強い。無難にこなす性格だったので、学園から戻っては今日の復習をするという習慣は今も維持されていた。
「ふぅ、歴史以外はほとんどアイヴォリー王国と変わらないのは助かりましたね。さすがは留学を行うくらいの交流があるだけはありますね」
シアンは今日の分の復習を終えて、ちょうどひと息ついていた。
「シアン様、紅茶をお持ちしました」
「ありがとう、スミレ。そこに置いておいて」
「いえ、淹れさせて頂きます」
シアンが自分で淹れるようなことを言うものだから、スミレはきっぱりと断りを入れていた。
意地っ張りなところを見て、シアンはおかしくて笑っている。
「楽しそうですね、シアン様。こちらに戻られてからひと月ですけれど、学園には慣れられましたか?」
ちょっとムッとしたのか、スミレはシアンにそんなことを聞いてみている。
思わぬ質問だったのか、シアンは一瞬ハッとしたような顔をしていたものの、素直にその質問に答え始める。
「ええ、まあ。そこそこ順調といったところでしょうかね。やっぱり三年間離れていたというのは、思った以上に影響が大きいようですね」
少し目を逸らしながらシアンはそのように答えていた。
さすがに学園に入ると、それまでの生活とは違ったつながりができている。
留学という形で三年間、その輪に入るタイミングが遅れたシアンには、少なからず壁のようなものが感じられていたようだ。
「なるほど。シアン様も王族とはいえ、難しく感じるというものはございますのですね」
「ええ、まあ。前世は貴族令嬢とはいえ、長い時間を侍女として過ごしましたしね。貴族同士の付き合い方というのは、ちょっと不慣れなのです」
シアンは勉強はまったく問題なさそうだが、人付き合いに少々不安を感じているようだった。
「別に無理にお付き合いをする必要もないのではないでしょうかね」
「そうはいきませんよ。モーフという弟がいる以上、王国内の貴族との関係はしっかりとしておきたいのです」
スミレは気にするなという姿勢のようだが、シアンは弟であるモーフの将来を考えれば、国内貴族とは友好な関係を築いておきたいようだった。
シアンの気持ちを、スミレはいまいち理解できなかった。やっぱりこういうところは幻獣なのだろうなと思わされる。
「人間とは面倒なものですよね」
「ええ、まったくです」
淡々とした表情のスミレに対して、シアンは苦笑いを浮かべていた。
「……ふぅ、スミレも紅茶を淹れる腕が上達しましたね」
「恐縮でございます」
紅茶を飲んだシアンは、スミレの腕前を褒めている。
「……そうですね。私の腕前を見せつけて、王族への注目を集めますか。そのためにはモーフにも頑張ってもらわないと」
スミレの紅茶を淹れる腕前を褒めたことで、シアンは自分の指針を見定めたようだった。
「でも、その前に中間試験ですね。二の月が終わるとすぐに始まります。そこで王族としての矜持を示しませんとね」
「そうでございますね。では、頑張って下さいませ、シアン様」
「ええ、頑張りますよ」
話を終えたシアンは椅子から立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「シアン様、どちらへ?」
「モーフのところ。あの子の勉強を見てあげようと思いましてね。自分の復習にもなりますし」
「……承知致しました。同行いたします」
部屋を出て、シアンはスミレと一緒にモーフのところへと向かったのだった。
シアンが自分で体験してみて分かったことは、留学は思った以上に自分と自国の貴族に対する関係性に変化をもたらしたことだった。
少しでも自国から意識が外れてしまうと、ここまで冷ややかな環境になるとは、まったく思ってもみなかった。
ここまでの生活を振り返ってみて、シアンは自分の父親であるペイルがしてきただろう苦労を改めて気にかけていた。
付き人であるヒスイがいなければ、きっともっと大変な学生生活ではなかっただろうか。そうとも思えてくる現状なのである。
モーフの将来のためにも思い立ったシアンは、改めて自分が何をどうすべきなのか、これからの行動指針を見つめ直している。
そのためにも来月に迫った前期の中間試験、ここを優秀な成績で突破することを目標に定める。
それからというもの、毎日学園から戻って来るとスミレと一緒に魔法の練習をしたり、遅くまで勉強の復習をしたりと、シアンは日々努力を積み重ねていく。
やがて春の三の月を迎え、いよいよ留学から戻って最初の試験の日がやって来たのだった。
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