逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
629 / 731
新章 青色の智姫

第260話 反省と目標

しおりを挟む
 シアンがネフライト学園に通い始めてひと月ほどが経過する。
 春の一の月はそれほど問題が起きることなく過ぎ去っていく。
 問題は二の月が終わった頃に予定されている前期の中間試験といったところだろうか。
 アイヴォリー王国のサンフレア学園とは違い、モスグリネのネフライト学園には中間試験というものが存在している。
 ペイルもその中間試験の存在を知った時には驚いたらしいが、そもそも当たって砕けろという性分だったので、気合いでどうにか乗り越えていた。
 シアンはそんなペイルの血も受け継いではいるものの、前世の記憶の方が強い。無難にこなす性格だったので、学園から戻っては今日の復習をするという習慣は今も維持されていた。
「ふぅ、歴史以外はほとんどアイヴォリー王国と変わらないのは助かりましたね。さすがは留学を行うくらいの交流があるだけはありますね」
 シアンは今日の分の復習を終えて、ちょうどひと息ついていた。
「シアン様、紅茶をお持ちしました」
「ありがとう、スミレ。そこに置いておいて」
「いえ、淹れさせて頂きます」
 シアンが自分で淹れるようなことを言うものだから、スミレはきっぱりと断りを入れていた。
 意地っ張りなところを見て、シアンはおかしくて笑っている。
「楽しそうですね、シアン様。こちらに戻られてからひと月ですけれど、学園には慣れられましたか?」
 ちょっとムッとしたのか、スミレはシアンにそんなことを聞いてみている。
 思わぬ質問だったのか、シアンは一瞬ハッとしたような顔をしていたものの、素直にその質問に答え始める。
「ええ、まあ。そこそこ順調といったところでしょうかね。やっぱり三年間離れていたというのは、思った以上に影響が大きいようですね」
 少し目を逸らしながらシアンはそのように答えていた。
 さすがに学園に入ると、それまでの生活とは違ったつながりができている。
 留学という形で三年間、その輪に入るタイミングが遅れたシアンには、少なからず壁のようなものが感じられていたようだ。
「なるほど。シアン様も王族とはいえ、難しく感じるというものはございますのですね」
「ええ、まあ。前世は貴族令嬢とはいえ、長い時間を侍女として過ごしましたしね。貴族同士の付き合い方というのは、ちょっと不慣れなのです」
 シアンは勉強はまったく問題なさそうだが、人付き合いに少々不安を感じているようだった。
「別に無理にお付き合いをする必要もないのではないでしょうかね」
「そうはいきませんよ。モーフという弟がいる以上、王国内の貴族との関係はしっかりとしておきたいのです」
 スミレは気にするなという姿勢のようだが、シアンは弟であるモーフの将来を考えれば、国内貴族とは友好な関係を築いておきたいようだった。
 シアンの気持ちを、スミレはいまいち理解できなかった。やっぱりこういうところは幻獣なのだろうなと思わされる。
「人間とは面倒なものですよね」
「ええ、まったくです」
 淡々とした表情のスミレに対して、シアンは苦笑いを浮かべていた。
「……ふぅ、スミレも紅茶を淹れる腕が上達しましたね」
「恐縮でございます」
 紅茶を飲んだシアンは、スミレの腕前を褒めている。
「……そうですね。私の腕前を見せつけて、王族への注目を集めますか。そのためにはモーフにも頑張ってもらわないと」
 スミレの紅茶を淹れる腕前を褒めたことで、シアンは自分の指針を見定めたようだった。
「でも、その前に中間試験ですね。二の月が終わるとすぐに始まります。そこで王族としての矜持を示しませんとね」
「そうでございますね。では、頑張って下さいませ、シアン様」
「ええ、頑張りますよ」
 話を終えたシアンは椅子から立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「シアン様、どちらへ?」
「モーフのところ。あの子の勉強を見てあげようと思いましてね。自分の復習にもなりますし」
「……承知致しました。同行いたします」
 部屋を出て、シアンはスミレと一緒にモーフのところへと向かったのだった。

 シアンが自分で体験してみて分かったことは、留学は思った以上に自分と自国の貴族に対する関係性に変化をもたらしたことだった。
 少しでも自国から意識が外れてしまうと、ここまで冷ややかな環境になるとは、まったく思ってもみなかった。
 ここまでの生活を振り返ってみて、シアンは自分の父親であるペイルがしてきただろう苦労を改めて気にかけていた。
 付き人であるヒスイがいなければ、きっともっと大変な学生生活ではなかっただろうか。そうとも思えてくる現状なのである。
 モーフの将来のためにも思い立ったシアンは、改めて自分が何をどうすべきなのか、これからの行動指針を見つめ直している。
 そのためにも来月に迫った前期の中間試験、ここを優秀な成績で突破することを目標に定める。
 それからというもの、毎日学園から戻って来るとスミレと一緒に魔法の練習をしたり、遅くまで勉強の復習をしたりと、シアンは日々努力を積み重ねていく。

 やがて春の三の月を迎え、いよいよ留学から戻って最初の試験の日がやって来たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

処理中です...