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新章 青色の智姫
第259話 王族たちの歓談
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モスグリネ王国の学園、ネフライト学園に通い始めてから二週間が経過した。
弟のモーフも学園に入学したので、この日は家族そろって学園についての話をしてみることになった。
この日の天気は先週と同じように快晴。庭園でお茶会をするにはちょうどいい天気だ。
庭園の四阿には、ペイル、ロゼリア、シアン、モーフの王族四人がそろい踏みかと思えば、先代国王ダルグと王妃ライムも参加している。なんと王族三代揃い踏みである。
「今日はわしたちにも招集を掛けるとはな。どういう風の吹き回しだ、ペイルよ」
ダルグもさすが五十代半ばとあって、ずいぶんと落ち着いた雰囲気になっている。
とはいっても、さすがに急な呼び出しには驚いたようで、ペイルを問い質しているようである。
「父上と母上にもお越し頂いたのは、俺たちの子どもであるシアンとモーフの二人のことで話をするためです」
「ほう……」
相変わらず立派な口ひげを触りながら、ダルグはペイルをじっと見つめている。
「ペイル様はモーフのことで悩んでいるみたいです。なにせ、最初の三年間を留学に使わなかったわけですから、経験がなくて分からないみたいなんです」
ペイルに代わってロゼリアがフォローを入れる。
ロゼリアからの言葉に、ダルグは少し納得した表情を見せている。
「それなら、わしらも参考にはなるまい」
「そうですね。私たちも揃って前半三年間を留学しましたからね」
なんということだろうか。ペイルの両親も前半三年間、つまり一年次から三年次までの間、アイヴォリー王国に留学した経験の持ち主だったのだ。
実は、ペイルの両親は学園に通う前からの婚約者。なので、常に行動を一緒にするようになっていたために、留学も同時期に行ったようなのである。
これでは参考にならないと、ペイルはがっかりしたようだった。
「何をもう諦めておる。わしらにはお前たちよりもさらに二十年ほど多い人生経験があるのだ。幼いシアンやモーフの悩みの相談にくらい乗ってやることはできるぞ」
あまりにも早い諦めの態度を見せるペイルを、ダルグが注意している。
体験はなくても、これまで培ってきた経験や人脈というものがあるのだ。
「というわけだ、シアン、モーフ」
ペイルにお説教を入れたところで、ダルグはシアンとモーフを見る。
「はい、なんでしょうか、お爺様」
声をかけられたので、二人揃って返事をする。
「今のところ、何か困ったことはないかな?」
ペイルに向けていた険しい表情はどこへやら。孫にはあくまでも優しい祖父を演出している。
改めて状況を聞かれた二人は、思わず腕を組んで考え込んでしまった。
そんなに難しいことなのか。
ペイルとロゼリアが不思議そうに二人を見ている。
「そう、ですね」
このまま黙っていても仕方がないと、シアンがまずは口を開く。
「私は三年間アイヴォリー王国に留学していましたので、こちらでの交流が不足していて少々苦労しました」
「ほほう……」
ダルグは髭を触りながら、ちらりとペイルを見ている。
視線に気が付いたペイルは、ふと顔を逸らしていた。
「学園長先生が気を利かせて下さったおかげで、今は付き人であるヒスイ様と一緒にゆっくり馴染んでいっているところです」
「ほう、堅物と言われたあのジェダイトがな。年を取ると、そういう気遣いができるようになるというわけか。くくく……」
シアンの話を聞いて、ダルグは笑っていた。どうやら学園長とは知り合いといった感じのようだ。
「モーフはどうなのかしら。お友だちくらいはできたかしら」
そう尋ねるのはライムである。
ライムは、シアンの交友関係の狭さについては気が付いていた。そのため、モーフには少し積極的に知り合いを作るように仕向けていた。
しかし、それでも限られた関係でしかなかったので、学園でどうなったのか気になっているのである。
「そうですね。僕の方は、少しは話をする人たちができたと思います。名前まで覚えられるかといったら、ちょっと分からないですけれど。一部の人は名乗ってないですし」
モーフの方からは、苦笑いを交えながら答えがそのように返ってきた。
一応、同じクラスの中では友人が少しはできたようである。
「そう……。その名乗っていない人には、さっさと名乗らせるようにしなさい。名前を言い合うのは信用の第一歩。名乗らない相手は信用できないですから、拒否するようなら縁を切りなさい」
「はい、承知しました、おばあ様」
ライムからびしっと言われてしまうモーフである。
これはライムが体験したというより、ライムの知り合いが体験したことである。
なんでも、名乗らなかった友人から手痛い目に遭わされたらしく、ライムに泣きついてきたことがあったらしい。
その友人の名前は知っているし、普段から真面目で通っているような人物だった。ちなみにその人物は今もライムと付き合いがある。
ライムの後ろに立つ侍女こそが、その友人なのだから。
とまあ、あれこれ体験を交えながら、シアンとモーフはいろいろなことを家族から教えてもらっていた。
すぐさまそれを活かそうと、シアンは必死に覚えに覚えた。
はたして、親たちの経験は二人にとってプラスとなったのか。
それはこれからの二人次第である。
弟のモーフも学園に入学したので、この日は家族そろって学園についての話をしてみることになった。
この日の天気は先週と同じように快晴。庭園でお茶会をするにはちょうどいい天気だ。
庭園の四阿には、ペイル、ロゼリア、シアン、モーフの王族四人がそろい踏みかと思えば、先代国王ダルグと王妃ライムも参加している。なんと王族三代揃い踏みである。
「今日はわしたちにも招集を掛けるとはな。どういう風の吹き回しだ、ペイルよ」
ダルグもさすが五十代半ばとあって、ずいぶんと落ち着いた雰囲気になっている。
とはいっても、さすがに急な呼び出しには驚いたようで、ペイルを問い質しているようである。
「父上と母上にもお越し頂いたのは、俺たちの子どもであるシアンとモーフの二人のことで話をするためです」
「ほう……」
相変わらず立派な口ひげを触りながら、ダルグはペイルをじっと見つめている。
「ペイル様はモーフのことで悩んでいるみたいです。なにせ、最初の三年間を留学に使わなかったわけですから、経験がなくて分からないみたいなんです」
ペイルに代わってロゼリアがフォローを入れる。
ロゼリアからの言葉に、ダルグは少し納得した表情を見せている。
「それなら、わしらも参考にはなるまい」
「そうですね。私たちも揃って前半三年間を留学しましたからね」
なんということだろうか。ペイルの両親も前半三年間、つまり一年次から三年次までの間、アイヴォリー王国に留学した経験の持ち主だったのだ。
実は、ペイルの両親は学園に通う前からの婚約者。なので、常に行動を一緒にするようになっていたために、留学も同時期に行ったようなのである。
これでは参考にならないと、ペイルはがっかりしたようだった。
「何をもう諦めておる。わしらにはお前たちよりもさらに二十年ほど多い人生経験があるのだ。幼いシアンやモーフの悩みの相談にくらい乗ってやることはできるぞ」
あまりにも早い諦めの態度を見せるペイルを、ダルグが注意している。
体験はなくても、これまで培ってきた経験や人脈というものがあるのだ。
「というわけだ、シアン、モーフ」
ペイルにお説教を入れたところで、ダルグはシアンとモーフを見る。
「はい、なんでしょうか、お爺様」
声をかけられたので、二人揃って返事をする。
「今のところ、何か困ったことはないかな?」
ペイルに向けていた険しい表情はどこへやら。孫にはあくまでも優しい祖父を演出している。
改めて状況を聞かれた二人は、思わず腕を組んで考え込んでしまった。
そんなに難しいことなのか。
ペイルとロゼリアが不思議そうに二人を見ている。
「そう、ですね」
このまま黙っていても仕方がないと、シアンがまずは口を開く。
「私は三年間アイヴォリー王国に留学していましたので、こちらでの交流が不足していて少々苦労しました」
「ほほう……」
ダルグは髭を触りながら、ちらりとペイルを見ている。
視線に気が付いたペイルは、ふと顔を逸らしていた。
「学園長先生が気を利かせて下さったおかげで、今は付き人であるヒスイ様と一緒にゆっくり馴染んでいっているところです」
「ほう、堅物と言われたあのジェダイトがな。年を取ると、そういう気遣いができるようになるというわけか。くくく……」
シアンの話を聞いて、ダルグは笑っていた。どうやら学園長とは知り合いといった感じのようだ。
「モーフはどうなのかしら。お友だちくらいはできたかしら」
そう尋ねるのはライムである。
ライムは、シアンの交友関係の狭さについては気が付いていた。そのため、モーフには少し積極的に知り合いを作るように仕向けていた。
しかし、それでも限られた関係でしかなかったので、学園でどうなったのか気になっているのである。
「そうですね。僕の方は、少しは話をする人たちができたと思います。名前まで覚えられるかといったら、ちょっと分からないですけれど。一部の人は名乗ってないですし」
モーフの方からは、苦笑いを交えながら答えがそのように返ってきた。
一応、同じクラスの中では友人が少しはできたようである。
「そう……。その名乗っていない人には、さっさと名乗らせるようにしなさい。名前を言い合うのは信用の第一歩。名乗らない相手は信用できないですから、拒否するようなら縁を切りなさい」
「はい、承知しました、おばあ様」
ライムからびしっと言われてしまうモーフである。
これはライムが体験したというより、ライムの知り合いが体験したことである。
なんでも、名乗らなかった友人から手痛い目に遭わされたらしく、ライムに泣きついてきたことがあったらしい。
その友人の名前は知っているし、普段から真面目で通っているような人物だった。ちなみにその人物は今もライムと付き合いがある。
ライムの後ろに立つ侍女こそが、その友人なのだから。
とまあ、あれこれ体験を交えながら、シアンとモーフはいろいろなことを家族から教えてもらっていた。
すぐさまそれを活かそうと、シアンは必死に覚えに覚えた。
はたして、親たちの経験は二人にとってプラスとなったのか。
それはこれからの二人次第である。
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