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新章 青色の智姫
第258話 そうだ、お茶会だ
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学園がお休みになる日のこと、シアンは城にヒスイを誘ってお茶会を開くことにした。
恥ずかしながら、今のシアンはあまりモスグリネ王国の貴族に詳しくないのだ。自国のことを知らないというのは実に恥。シアンはお茶会までに今いる貴族の顔と名前を覚えようと必死だった。
(将来的に嫁ぐとしても、やはり自国のことを何も知らないというのはいけませんからね。ああ、アイヴォリーに戻れることにはしゃぎすぎてしまいましたね)
シアンは貴族のことを頭に叩き込みながら、この三年間のことを後悔していた。
必死に資料と向き合うシアンの姿を、スミレは後ろで黙って見守っていた。
そうして迎えた、四年次生最初の休みのこと。
城にヒスイがやって来た。
学園の制服とは違って、ドレスをまとったヒスイは実に大人の魅力の漂うきれいな女性だった。シアンは思わず負けそうだなと思ってしまった。
なぜなら、シアンは身長こそ平均的ではあるものの、全体的には控えめな体型だからだ。
「お招きいただき光栄でございます、シアン王女殿下」
出迎えたシアンと顔を合わせると、ヒスイはきちんと挨拶をしてくる。
美しいばかりの所作に、さすが侯爵家の血筋を感じるというものだ。
「いえ、こちらこそお越しいただいてありがとうございます。それでは、庭園へと移動致しましょう」
「はい」
シアンはスミレに紅茶とお菓子の手配をすると、ヒスイと一緒に庭園へと向かって歩き始める。
それにしても、庭園に向かっている最中もこれといって会話がない。シアンから話しかける内容も、今ここでするようなものでもないため、ただただ無言である。
ヒスイについて来た侍女も黙ってついてくるだけで、なんとも重苦しい雰囲気が漂い続けていた。
結局沈黙が続いたまま、シアンたちはお城の庭園へとやって来る。
アイヴォリーの城の中とは違って、モスグリネの城の庭園は城の中を疑いたくなるくらいに木々が生い茂っている。さすがは自然豊かな国である。
その中にぽつりとある四阿にやって来たシアンは、先に腰を下ろしてヒスイへと声をかける。
「どうぞ、お座り下さい」
「失礼致します」
シアンの向かいの席に、ヒスイは腰を下ろしている。
四阿には既にシアンが到着していた。テーブルにはお菓子が並べられており、シアンとヒスイが座ると、紅茶を淹れ始めていた。
「今日は何かご予定はございましたでしょうか。招いておきながら今さら問うのは失礼とは思いますが」
「いえ、早めに仰って下さったおかげで、特に予定はございませんでした。何も問題ございません。前触れもなくおばあさまの兄君でいらっしゃる学園長先生が押し掛けてくるくらいですから」
ヒスイは実に淡々とした様子でシアンの質問に答えていた。
それにしても、学園長は身内の孫にとても甘いらしい。
ネフライト侯爵家というのもなかなか複雑なようで、元々爵位を持っていたのは学園長だったらしい。
しかし、国から学園長への就任を要請されると、それを引き受けると同時に妹婿でヒスイの祖父が爵位を引き継いだのだという。
現在のネフライト侯爵はヒスイの父で引き継いでいて、その父親もまた婿入りしていた人物なのだという。なんともまあ複雑な家なのである。
「それで、シアン王女殿下」
「はい、なんでしょうか」
「本日、私をお誘いになった理由はなんでございますでしょうか」
結構きつい性格なのか、シアンにもずけずけと聞いてくる。
「ええ、私の付き人になった方ですから、親交を築いておこうと思いまして。……ご迷惑でしたでしょうか」
シアンは正直に考えを打ち明けている。
「いえ、迷惑ではありませんよ。正直、私も王女殿下の人となりはあまり知りませんでしたからね」
ヒスイは王女であるシアンが相手でも、まったくもって歯に衣着せぬ物言いをしている。
ここまでのヒスイとのやり取りだけでも、彼女の人となりがなんとなく分かってくるというものだ。
「分かりました。時間の許す限り、お話をさせて頂きたく思います」
「はい、本日はよろしくお願い致します、シアン王女殿下」
互いに頭を下げると、くすっと笑い合っていた。
シアンとヒスイは、いろいろと互いのことを話していた。
さすがにアイヴォリー王国であった事件については詳しく言うことはできなかったものの、シアンがアイヴォリー王国で体験してきたあれこれについて、ヒスイはただただ驚くばかりだった。
シアンの方も、ヒスイから出てくる話にはとても興味深く耳を傾けていた。
結局、明るい時間をほぼ使い切ってしまい、気が付いた時には空が赤く染まり始めていた。
「あら、もうこんな時間ですね」
「本当ですね。これほど話が盛り上がるとは思ってもみませんでした。それでは、名残惜しいですが、そろそろ帰らせて頂きますね」
「はい、入口まで送っていきますよ」
二人とも椅子から立ち上がると、城の入口へと向かって歩き出す。
シアンの申し出は断るつもりだったヒスイだったが、ふと見せたシアンの笑顔に思わず断ることができなかった。
(ちょっとは、仲良くなれましたかね)
城を去っていくネフライト侯爵家の馬車を見送りながら、シアンはふと思ったのだった。
恥ずかしながら、今のシアンはあまりモスグリネ王国の貴族に詳しくないのだ。自国のことを知らないというのは実に恥。シアンはお茶会までに今いる貴族の顔と名前を覚えようと必死だった。
(将来的に嫁ぐとしても、やはり自国のことを何も知らないというのはいけませんからね。ああ、アイヴォリーに戻れることにはしゃぎすぎてしまいましたね)
シアンは貴族のことを頭に叩き込みながら、この三年間のことを後悔していた。
必死に資料と向き合うシアンの姿を、スミレは後ろで黙って見守っていた。
そうして迎えた、四年次生最初の休みのこと。
城にヒスイがやって来た。
学園の制服とは違って、ドレスをまとったヒスイは実に大人の魅力の漂うきれいな女性だった。シアンは思わず負けそうだなと思ってしまった。
なぜなら、シアンは身長こそ平均的ではあるものの、全体的には控えめな体型だからだ。
「お招きいただき光栄でございます、シアン王女殿下」
出迎えたシアンと顔を合わせると、ヒスイはきちんと挨拶をしてくる。
美しいばかりの所作に、さすが侯爵家の血筋を感じるというものだ。
「いえ、こちらこそお越しいただいてありがとうございます。それでは、庭園へと移動致しましょう」
「はい」
シアンはスミレに紅茶とお菓子の手配をすると、ヒスイと一緒に庭園へと向かって歩き始める。
それにしても、庭園に向かっている最中もこれといって会話がない。シアンから話しかける内容も、今ここでするようなものでもないため、ただただ無言である。
ヒスイについて来た侍女も黙ってついてくるだけで、なんとも重苦しい雰囲気が漂い続けていた。
結局沈黙が続いたまま、シアンたちはお城の庭園へとやって来る。
アイヴォリーの城の中とは違って、モスグリネの城の庭園は城の中を疑いたくなるくらいに木々が生い茂っている。さすがは自然豊かな国である。
その中にぽつりとある四阿にやって来たシアンは、先に腰を下ろしてヒスイへと声をかける。
「どうぞ、お座り下さい」
「失礼致します」
シアンの向かいの席に、ヒスイは腰を下ろしている。
四阿には既にシアンが到着していた。テーブルにはお菓子が並べられており、シアンとヒスイが座ると、紅茶を淹れ始めていた。
「今日は何かご予定はございましたでしょうか。招いておきながら今さら問うのは失礼とは思いますが」
「いえ、早めに仰って下さったおかげで、特に予定はございませんでした。何も問題ございません。前触れもなくおばあさまの兄君でいらっしゃる学園長先生が押し掛けてくるくらいですから」
ヒスイは実に淡々とした様子でシアンの質問に答えていた。
それにしても、学園長は身内の孫にとても甘いらしい。
ネフライト侯爵家というのもなかなか複雑なようで、元々爵位を持っていたのは学園長だったらしい。
しかし、国から学園長への就任を要請されると、それを引き受けると同時に妹婿でヒスイの祖父が爵位を引き継いだのだという。
現在のネフライト侯爵はヒスイの父で引き継いでいて、その父親もまた婿入りしていた人物なのだという。なんともまあ複雑な家なのである。
「それで、シアン王女殿下」
「はい、なんでしょうか」
「本日、私をお誘いになった理由はなんでございますでしょうか」
結構きつい性格なのか、シアンにもずけずけと聞いてくる。
「ええ、私の付き人になった方ですから、親交を築いておこうと思いまして。……ご迷惑でしたでしょうか」
シアンは正直に考えを打ち明けている。
「いえ、迷惑ではありませんよ。正直、私も王女殿下の人となりはあまり知りませんでしたからね」
ヒスイは王女であるシアンが相手でも、まったくもって歯に衣着せぬ物言いをしている。
ここまでのヒスイとのやり取りだけでも、彼女の人となりがなんとなく分かってくるというものだ。
「分かりました。時間の許す限り、お話をさせて頂きたく思います」
「はい、本日はよろしくお願い致します、シアン王女殿下」
互いに頭を下げると、くすっと笑い合っていた。
シアンとヒスイは、いろいろと互いのことを話していた。
さすがにアイヴォリー王国であった事件については詳しく言うことはできなかったものの、シアンがアイヴォリー王国で体験してきたあれこれについて、ヒスイはただただ驚くばかりだった。
シアンの方も、ヒスイから出てくる話にはとても興味深く耳を傾けていた。
結局、明るい時間をほぼ使い切ってしまい、気が付いた時には空が赤く染まり始めていた。
「あら、もうこんな時間ですね」
「本当ですね。これほど話が盛り上がるとは思ってもみませんでした。それでは、名残惜しいですが、そろそろ帰らせて頂きますね」
「はい、入口まで送っていきますよ」
二人とも椅子から立ち上がると、城の入口へと向かって歩き出す。
シアンの申し出は断るつもりだったヒスイだったが、ふと見せたシアンの笑顔に思わず断ることができなかった。
(ちょっとは、仲良くなれましたかね)
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