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新章 青色の智姫
第267話 子爵領別邸へ
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翌日の夕方にはもうアクアマリン子爵領に到着していた。
子爵領の入口は複雑な地形をしているので、馬車で来ようとするとその地形のせいで時間がかかってしまう。
だが、エアリアルボードならその複雑な地形の一切を無視してやって来ることができるのだ。
「に、二週間近くはかかる道のりを、たったの二日で……。恐ろしく速いですね」
「少し飛ばしましたのでね。さあ、マーリン様にご挨拶をしましょう」
シアンはすごくにこやかな表情をしている。
それはもう、自分の兄に久しぶりに会えるのだから嬉しくてたまらないのだ。
別にシアンはマーリンに対して特別な感情を抱いているわけじゃない。ただ、領主を押し付けてしまって申し訳なかったかなという程度である。
だが、兄に会えることよりもさらにシアンが楽しみにしているのは、この別邸にも置かれている魔導書の数々だ。
もちろん本邸には劣るものの、このサファイア湖のほとりの別邸にも本邸と同じ本が置いてある。これは、先日先触れに来た時に教えてもらったことなのだ。
「マーリン様に許可を頂ければ、この別邸の書物をヒスイ様もお読みいただくことができると思いますよ」
「それはいいですね! 他家のものとはいえ、魔導書は魔法一門としてはとても興味があります。ぜひとも、ええぜひとも」
ヒスイが魔導書と聞いてテンションが上がっている。さすがはモスグリネ有数の魔法一門である。
シアンたちはアクアマリン子爵別邸に到着する。
警備兵に挨拶をすると、シアンたちは問題なく中へと入っていけた。大量に持ってきた荷物は、使用人たちが部屋へと運んでくれている。
「お久しぶりです、マーリン・アクアマリン様」
マーリンの部屋に通されたシアンは、丁寧に挨拶をする。
マーリンは既に隠居をしているために、子爵という言葉は省かれている。
「これはシアン王女殿下。まさか今年もお越しになられるとは思っても見ませんでしたよ。とはいえ、先んじて挨拶に来られましたので、準備は整っております。ぜひともゆっくりお過ごし下さい」
「はい、一週間ほどお世話になります」
シアンとの挨拶を終えると、今度はヒスイの方へと目を向ける。
「そちらのお嬢さんは初めて見る顔ですな。私はマーリン・アクアマリンと申す者。お名前を伺ってもよろしいですかな」
「ヒスイ・ネフライトと申します。こちらは私の侍女でコハク・ネフライトと申します」
ヒスイの自己紹介を聞いて、マーリンはすぐにピンと来たようだ。
「ほう、モスグリネの魔法一門が来られたのですか。幼い頃は学びが必要。私どもアクアマリンでよければ、お役に立ちましょう。両国の間柄ですし、遠慮なくお聞き下さい」
「はい、ありがとうございます」
マーリンの申し出に、どことなく嬉しそうな表情を見せるヒスイだった。
シアンは喜んで入るようだが、使用人であるコハクもまさかネフライト一門だとは思わなかった。
「ソウハク、みなさんをお部屋に案内なさい」
「畏まりました、大旦那様」
ソウハクと呼ばれた執事が、シアンたちを部屋へと案内していく。
「しばらくするとサンフレア学園の方々がいらっしゃいますので、たった一部屋しかご用意できないことをおわび申し上げます」
「いえ、こちらはそれを承知でやって来たのですから、文句は言いません。一部屋でもあるのなら、それでいいのです」
ソウハクの釈明に、シアンはこちらの無茶が原因だからとまったく咎めることはなかった。
用意された部屋の前では、使用人たちが荷物を運び入れるために慌ただしく動いていた。
よくよく思えば、何をこんなに持ってきたのか不思議でならなかった。なにせ、シアンの持ってきたものはあまり多くなかったのだから。
「も、申し訳ございません。旅行など経験がなかったので、あれもこれもといっている間に荷物が増えてしまったのです」
今さらながらに謝罪してくるヒスイである。最初に言わなかったので、これもまたシアンはあまり責めはしなかった。
「いえいえ、次から気を付ければいいだけです。エアリアルボードに全部載ったのですから問題はありませんよ」
くすくすと笑っていられるくらいにシアンは余裕だった。
「さて、今日はもう日が暮れますし、周囲の散策はまた明日にでもしましょう。ゆっくり休みましょう」
「はい、シアン様」
二人は部屋に運び込まれた荷物のチェックを行うと、お風呂と夕食をしっかりと堪能してその日はもう休むことにした。
サンフレア学園の学生たちがここにやって来るのは四日後だ。
それまでの間に、できる限りヒスイにアクアマリンの案内をしておこうとシアンは考えている。
夜中、ヒスイは疲れてしまったのか、コハクともども既に夢の中だった。
「ふふっ、気に入ってもらえると嬉しいのですけれどね」
「根っからのモスグリネの方ですが、きっと気に入ると思いますよ」
すでに眠りについたヒスイたちを見ながら、シアンとスミレは話をしている。
「さて、シアン様もそろそろお休みになって下さい。エアリアルボードを丸二日間も使用されていたのですから」
「そうですね。それではおやすみなさい、スミレ」
「お休み下さいませ、シアン様」
あれだけ魔法を使ったのに、まだまだ元気そうなシアン。だけど、スミレがさすがにうるさいので、仕方なく目を閉じて眠りについた。
子爵領の入口は複雑な地形をしているので、馬車で来ようとするとその地形のせいで時間がかかってしまう。
だが、エアリアルボードならその複雑な地形の一切を無視してやって来ることができるのだ。
「に、二週間近くはかかる道のりを、たったの二日で……。恐ろしく速いですね」
「少し飛ばしましたのでね。さあ、マーリン様にご挨拶をしましょう」
シアンはすごくにこやかな表情をしている。
それはもう、自分の兄に久しぶりに会えるのだから嬉しくてたまらないのだ。
別にシアンはマーリンに対して特別な感情を抱いているわけじゃない。ただ、領主を押し付けてしまって申し訳なかったかなという程度である。
だが、兄に会えることよりもさらにシアンが楽しみにしているのは、この別邸にも置かれている魔導書の数々だ。
もちろん本邸には劣るものの、このサファイア湖のほとりの別邸にも本邸と同じ本が置いてある。これは、先日先触れに来た時に教えてもらったことなのだ。
「マーリン様に許可を頂ければ、この別邸の書物をヒスイ様もお読みいただくことができると思いますよ」
「それはいいですね! 他家のものとはいえ、魔導書は魔法一門としてはとても興味があります。ぜひとも、ええぜひとも」
ヒスイが魔導書と聞いてテンションが上がっている。さすがはモスグリネ有数の魔法一門である。
シアンたちはアクアマリン子爵別邸に到着する。
警備兵に挨拶をすると、シアンたちは問題なく中へと入っていけた。大量に持ってきた荷物は、使用人たちが部屋へと運んでくれている。
「お久しぶりです、マーリン・アクアマリン様」
マーリンの部屋に通されたシアンは、丁寧に挨拶をする。
マーリンは既に隠居をしているために、子爵という言葉は省かれている。
「これはシアン王女殿下。まさか今年もお越しになられるとは思っても見ませんでしたよ。とはいえ、先んじて挨拶に来られましたので、準備は整っております。ぜひともゆっくりお過ごし下さい」
「はい、一週間ほどお世話になります」
シアンとの挨拶を終えると、今度はヒスイの方へと目を向ける。
「そちらのお嬢さんは初めて見る顔ですな。私はマーリン・アクアマリンと申す者。お名前を伺ってもよろしいですかな」
「ヒスイ・ネフライトと申します。こちらは私の侍女でコハク・ネフライトと申します」
ヒスイの自己紹介を聞いて、マーリンはすぐにピンと来たようだ。
「ほう、モスグリネの魔法一門が来られたのですか。幼い頃は学びが必要。私どもアクアマリンでよければ、お役に立ちましょう。両国の間柄ですし、遠慮なくお聞き下さい」
「はい、ありがとうございます」
マーリンの申し出に、どことなく嬉しそうな表情を見せるヒスイだった。
シアンは喜んで入るようだが、使用人であるコハクもまさかネフライト一門だとは思わなかった。
「ソウハク、みなさんをお部屋に案内なさい」
「畏まりました、大旦那様」
ソウハクと呼ばれた執事が、シアンたちを部屋へと案内していく。
「しばらくするとサンフレア学園の方々がいらっしゃいますので、たった一部屋しかご用意できないことをおわび申し上げます」
「いえ、こちらはそれを承知でやって来たのですから、文句は言いません。一部屋でもあるのなら、それでいいのです」
ソウハクの釈明に、シアンはこちらの無茶が原因だからとまったく咎めることはなかった。
用意された部屋の前では、使用人たちが荷物を運び入れるために慌ただしく動いていた。
よくよく思えば、何をこんなに持ってきたのか不思議でならなかった。なにせ、シアンの持ってきたものはあまり多くなかったのだから。
「も、申し訳ございません。旅行など経験がなかったので、あれもこれもといっている間に荷物が増えてしまったのです」
今さらながらに謝罪してくるヒスイである。最初に言わなかったので、これもまたシアンはあまり責めはしなかった。
「いえいえ、次から気を付ければいいだけです。エアリアルボードに全部載ったのですから問題はありませんよ」
くすくすと笑っていられるくらいにシアンは余裕だった。
「さて、今日はもう日が暮れますし、周囲の散策はまた明日にでもしましょう。ゆっくり休みましょう」
「はい、シアン様」
二人は部屋に運び込まれた荷物のチェックを行うと、お風呂と夕食をしっかりと堪能してその日はもう休むことにした。
サンフレア学園の学生たちがここにやって来るのは四日後だ。
それまでの間に、できる限りヒスイにアクアマリンの案内をしておこうとシアンは考えている。
夜中、ヒスイは疲れてしまったのか、コハクともども既に夢の中だった。
「ふふっ、気に入ってもらえると嬉しいのですけれどね」
「根っからのモスグリネの方ですが、きっと気に入ると思いますよ」
すでに眠りについたヒスイたちを見ながら、シアンとスミレは話をしている。
「さて、シアン様もそろそろお休みになって下さい。エアリアルボードを丸二日間も使用されていたのですから」
「そうですね。それではおやすみなさい、スミレ」
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あれだけ魔法を使ったのに、まだまだ元気そうなシアン。だけど、スミレがさすがにうるさいので、仕方なく目を閉じて眠りについた。
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