637 / 731
新章 青色の智姫
第268話 合宿の学生を出迎える
しおりを挟む
四日後、サンフレア学園の学生たちが到着して、外が賑やかになってくる。
「どうやら、到着されたみたいですね」
書庫からふと外へと視線を向けたシアンが呟いている。
「アイヴォリー王国の学園の合宿でしたっけ。もうそんなに経ったのですね」
同じように書庫で本を読んでいたヒスイが顔を上げる。
「はい、もうここに来て五日目になりますよ。どうします、挨拶しに行かれますかね」
シアンが提案すると、ヒスイは真剣に悩み始めた。
「アイヴォリー王国のライト殿下とダイア王女殿下もいらしているはずです。ダイア王女殿下はモーフの婚約者ですので、ひと目見ておくだけでもしておくといいと思いますよ」
「未来の王妃様がいらっしゃるのでしたら、まあそうですね」
モスグリネの王子であるモーフの婚約者がいると聞いて、ヒスイは顔出しすることに決めた。
本を閉じて棚に戻すと、シアンとヒスイは別邸の外へと向かっていく。
外に出ると、サンフレア学園の学生たちがぞろぞろとたくさん集まっていた。
アクアマリン子爵領の入口の複雑な地形のせいで、王都からかなり近いのにここまで馬車で一週間である。一部の学生たちは疲れた表情を隠せないでいるようだ。
「すごい人数ですね。大体どのくらいですか」
「一年次から六年次まで全員揃っていますからね。全員参加ではないですので、今年は百四十人くらいかと伺っています」
「結構な人数がいらっしゃいますね。貴族の子女って毎年そんなに誕生しているのですか?」
人数の多さに驚いたヒスイがシアンに疑問をぶつけている。
「何も貴族だけではないですよ。商家の子女も入学することがありますから、そのせいで多くなってしまうんです。毎年参加するのは六~七割ですので、全体では二百人を超えているんですね」
「へぇ~……」
シアンの説明に、ヒスイは感嘆の声を漏らしている。
「ずいぶんとお詳しいですね」
「ええ、実はサンフレア学園に親しい方がいらっしゃいましてね、その方から教えていただいたんです」
「ふ~ん……」
今度はなにやら疑いの目をシアンに向ける。
それもそうだろう。隣国のサンフレア学園に親しい人がいるなど、看過できるわけがない。
「友人関係みたいなものです。そうでもなければヒスイ様にこのように話すことはありませんよ」
「それもそうですね」
シアンが言い訳をすると、ヒスイは確かにそうだと納得していた。
話にちょうど区切りがついた頃だった。
「シアン様ー!」
シアンに向けて呼び掛ける声が聞こえてくる。誰かと思って顔を向けると、そこにいたのはプルネとブランチェスカだった。
「プルネ様、ブランチェスカ様、お久しぶりでございます」
駆け寄ってくる二人に丁寧に挨拶をするシアン。それを受けて、二人も淑女の挨拶を返す。
「お元気そうでなによりです、シアン様」
ブランチェスカが感動したらしく、瞳を潤ませながらシアンに言葉をかけてくる。表情を見る限り、寂しがっていたことがよく伝わってくる。
「ブランチェスカ様もお元気そうで。サンフレア学園は変わりありませんか?」
「はい。ですが、さすがに四年次生となると勉強の難易度が上がってしまいまして、ついていくのでやっとといったところです」
どうやらプルネもブランチェスカも、元気にやってはいるようだが、勉強は少々きつくなってきていたようだ。
合宿に参加しているのも、自分たちの足りなさを補うためだと話している。
「それはそれとして、シアン様。そちらの方を紹介して頂けませんでしょうか」
プルネがヒスイのことを気にしているようだ。
そこで、シアンはお互いを紹介することにした。王女に紹介してもらえるとは、互いに贅沢なことである。
「ヒスイ様、こちらの二人は留学中のご学友であるプルネ・コーラル様とブランチェスカ・クロッツ様です」
まずはヒスイに二人を紹介する。
「プルネ様、ブランチェスカ様、私の隣にいらっしゃるのは、ネフライト学園での私の付き人であるヒスイ・ネフライト様です。お挨拶を」
「プルネ・コーラルでございます」
「ブランチェスカ・クロッツでございます」
「ヒスイ・ネフライトと申します。ご留学中のシアン様がお世話になったようで、お礼を申し上げます」
お互いに頭を下げてしっかりと挨拶をしている。
ぱっと見た印象としては、あまり悪い印象を受けていないように見える。
「あっ、シアンお姉様ですわ」
「シアン、久しぶりじゃないか」
そこへ、ライトとダイアの二人もやって来る。さすがに目立ってしまうようだ。
「ライト殿下、ダイア王女殿下、お久しぶりでございます」
「もう、王女殿下なんて改まらないでほしいですね。ダイアと呼び捨てでいいですのに」
「まったくですよ。私のことも殿下なんてつけなくていいですからね」
丁寧に挨拶をしたら二人に怒られてしまっていた。
自己紹介したところに遅れてきたものだから、二人にもヒスイを改めて紹介するシアンである。
ひとまずは友人関係の挨拶を無事に終えられたので、シアンはほっとひと安心のようである。
しかし、今日の初日は荷物を置いた後は自由行動だ。
シアンはダイアたちに付きまとわれていろいろと話をすることとなり、読書どころではなくなってしまった。
(よ、予想はしていましたけど、ここまでとは……。ちょっと誤算でしたね)
結局夕食の時間が来るまでこんな状況で、シアンは少し困った様子で部屋に戻っていったのだった。
「どうやら、到着されたみたいですね」
書庫からふと外へと視線を向けたシアンが呟いている。
「アイヴォリー王国の学園の合宿でしたっけ。もうそんなに経ったのですね」
同じように書庫で本を読んでいたヒスイが顔を上げる。
「はい、もうここに来て五日目になりますよ。どうします、挨拶しに行かれますかね」
シアンが提案すると、ヒスイは真剣に悩み始めた。
「アイヴォリー王国のライト殿下とダイア王女殿下もいらしているはずです。ダイア王女殿下はモーフの婚約者ですので、ひと目見ておくだけでもしておくといいと思いますよ」
「未来の王妃様がいらっしゃるのでしたら、まあそうですね」
モスグリネの王子であるモーフの婚約者がいると聞いて、ヒスイは顔出しすることに決めた。
本を閉じて棚に戻すと、シアンとヒスイは別邸の外へと向かっていく。
外に出ると、サンフレア学園の学生たちがぞろぞろとたくさん集まっていた。
アクアマリン子爵領の入口の複雑な地形のせいで、王都からかなり近いのにここまで馬車で一週間である。一部の学生たちは疲れた表情を隠せないでいるようだ。
「すごい人数ですね。大体どのくらいですか」
「一年次から六年次まで全員揃っていますからね。全員参加ではないですので、今年は百四十人くらいかと伺っています」
「結構な人数がいらっしゃいますね。貴族の子女って毎年そんなに誕生しているのですか?」
人数の多さに驚いたヒスイがシアンに疑問をぶつけている。
「何も貴族だけではないですよ。商家の子女も入学することがありますから、そのせいで多くなってしまうんです。毎年参加するのは六~七割ですので、全体では二百人を超えているんですね」
「へぇ~……」
シアンの説明に、ヒスイは感嘆の声を漏らしている。
「ずいぶんとお詳しいですね」
「ええ、実はサンフレア学園に親しい方がいらっしゃいましてね、その方から教えていただいたんです」
「ふ~ん……」
今度はなにやら疑いの目をシアンに向ける。
それもそうだろう。隣国のサンフレア学園に親しい人がいるなど、看過できるわけがない。
「友人関係みたいなものです。そうでもなければヒスイ様にこのように話すことはありませんよ」
「それもそうですね」
シアンが言い訳をすると、ヒスイは確かにそうだと納得していた。
話にちょうど区切りがついた頃だった。
「シアン様ー!」
シアンに向けて呼び掛ける声が聞こえてくる。誰かと思って顔を向けると、そこにいたのはプルネとブランチェスカだった。
「プルネ様、ブランチェスカ様、お久しぶりでございます」
駆け寄ってくる二人に丁寧に挨拶をするシアン。それを受けて、二人も淑女の挨拶を返す。
「お元気そうでなによりです、シアン様」
ブランチェスカが感動したらしく、瞳を潤ませながらシアンに言葉をかけてくる。表情を見る限り、寂しがっていたことがよく伝わってくる。
「ブランチェスカ様もお元気そうで。サンフレア学園は変わりありませんか?」
「はい。ですが、さすがに四年次生となると勉強の難易度が上がってしまいまして、ついていくのでやっとといったところです」
どうやらプルネもブランチェスカも、元気にやってはいるようだが、勉強は少々きつくなってきていたようだ。
合宿に参加しているのも、自分たちの足りなさを補うためだと話している。
「それはそれとして、シアン様。そちらの方を紹介して頂けませんでしょうか」
プルネがヒスイのことを気にしているようだ。
そこで、シアンはお互いを紹介することにした。王女に紹介してもらえるとは、互いに贅沢なことである。
「ヒスイ様、こちらの二人は留学中のご学友であるプルネ・コーラル様とブランチェスカ・クロッツ様です」
まずはヒスイに二人を紹介する。
「プルネ様、ブランチェスカ様、私の隣にいらっしゃるのは、ネフライト学園での私の付き人であるヒスイ・ネフライト様です。お挨拶を」
「プルネ・コーラルでございます」
「ブランチェスカ・クロッツでございます」
「ヒスイ・ネフライトと申します。ご留学中のシアン様がお世話になったようで、お礼を申し上げます」
お互いに頭を下げてしっかりと挨拶をしている。
ぱっと見た印象としては、あまり悪い印象を受けていないように見える。
「あっ、シアンお姉様ですわ」
「シアン、久しぶりじゃないか」
そこへ、ライトとダイアの二人もやって来る。さすがに目立ってしまうようだ。
「ライト殿下、ダイア王女殿下、お久しぶりでございます」
「もう、王女殿下なんて改まらないでほしいですね。ダイアと呼び捨てでいいですのに」
「まったくですよ。私のことも殿下なんてつけなくていいですからね」
丁寧に挨拶をしたら二人に怒られてしまっていた。
自己紹介したところに遅れてきたものだから、二人にもヒスイを改めて紹介するシアンである。
ひとまずは友人関係の挨拶を無事に終えられたので、シアンはほっとひと安心のようである。
しかし、今日の初日は荷物を置いた後は自由行動だ。
シアンはダイアたちに付きまとわれていろいろと話をすることとなり、読書どころではなくなってしまった。
(よ、予想はしていましたけど、ここまでとは……。ちょっと誤算でしたね)
結局夕食の時間が来るまでこんな状況で、シアンは少し困った様子で部屋に戻っていったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる