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新章 青色の智姫
第274話 試練の内容
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試練の扉の中へと入ったモーフを待っていたのは、真っ暗な空間だった。
「何も……見えませんね」
モーフが呟くと同時に、背後の扉が静かに動き、大きな音を立てて閉まる。
「はっ!」
扉のあった位置へと急いで手を出してみるものの、そこにはなんの感触もない。どうやら扉は消え、完全に閉じ込められてしまったようだ。
「試練が終わるまで、外には出られないということですか」
扉のノブをつかむような姿勢で立ち尽くすモーフは、ぐっと固く口を閉ざす。
試練を受けるといったのは自分なのだ。ここで引き返してどうするという話である。
決意を新たに固め、モーフはくるりと振り返って前を見る。
相変わらず真っ暗な空間が広がり、何が見えるというわけではない。だが、モーフはうっすらと何かを感じ取っていた。
ぽおっと、急に光が浮かび上がる。
しばらくじっと見つめていると、その光はだんだんと何かの形に変化していく。
黙って見ていたモーフだったが、その姿が何かはっきりしてくると、驚きを隠せなかった。
「ようこそ、モーフ。精霊の試練へ」
目の前の人物がにっこりと微笑むと、一気に周りの風景が変化する。
「ここは、お城の兵士の訓練場……」
「そうですよ、モーフ。あなたの試練の相手は、私。シアン・モスグリネが務めさせてもらいます」
モーフの目の前に現れたのは、戦闘用の服装に身を包んだシアンだった。
だが、目の前のシアンからは違和感を感じてしまう。
「姉上ではないですね。雰囲気が違います」
モーフが叫ぶと、シアンは悲しそうな顔をしている。
「実の姉に向かってそんなことを言うなんて、悲しいですね。私はシアン・アクアマリンではなく、シアン・モスグリネです。つまり、本来のあなたの姉です」
「な、なんですって!?」
目の前のシアンが言い放った言葉に、モーフはショックを受けていた。
まったくもってどういうことなのか、モーフには理解できなかった。
「正確に言いますと、私の性格自体は今のシアンと同一です。私は誕生することのできなかったシアンの魔力。ですが、モーフが生まれてこの方、ずっとあなたの中で見守り続けていました」
シアンの語る内容に、モーフは何も言葉が発することができずにいた。
目の前にいるのは、シアンが生まれた際にロゼリアの体内に取り残されたシアンの魔力だというのだ。
だからといって、モーフがそれを素直に受け入れられるかといったら簡単なことではなかった。
モーフはつい身構えてしまう。
反応を見たシアンは、怒るどころか微笑んだままである。
「試練ですからそうでありませんとね」
シアンは何かを取り出す。何か杖のようなものだったが、モーフも見覚えのあるものだった。
「これは、もう一人のシアンが贈られた杖です。今は使っていないようなので、私がこっそり拝借しておきました」
シアンはそう話すと、杖をしっかりと構えている。
「さあ、モーフ。ここからが試練です」
シアンの宣告に、モーフはごくりと息を飲む。
「簡単な話ですよ。私と戦って勝てばいいのです」
「姉上と……戦う?」
シアンの言い放った合格条件に、モーフは思わず驚いてしまう。
「そう。私はあちらのシアンとはもう一緒にはなれません。そこで、十三年間連れ添ってきた、弟であるモーフ、あなたが私の力を扱うのにふさわしいかどうかを見極めるのです」
モーフに杖を突きつけながら、シアンは少しずつ笑顔を崩している。
いくら試練の中とはいえ、実の弟と戦うのはつらいのだろう。
「あなただって分かっているはずです。王として国を統べるようになれば、ちょっとした私情すらも挟めなくなるということが。ですから、ここで私と戦い、見事打ち負かしてみせるのです。それが、あなたに課せられた精霊の試練なのです!」
突きつけられた現実に、モーフはまだ迷いがあるのか構えが崩れている。
それもそうだ。いくら魔力の塊とはいえど、自分の姉と戦わなければならないのだから、性格の優しいモーフにはとても厳しい選択なのだ。
「分かっています、あなたが心優しい子だといのは。私はあなたの姉上なのですからね。それに、試練を放棄しても、誰も責めはしません。それも立派な選択なのです」
シアンは迷いを見せるモーフにあれこれと言葉をかける。
別にモーフを惑わせるつもりなどない。姉としての精一杯の気遣いなのだ。
しかし、今は精霊の試練としてここにいる。それゆえに、シアンもつらいのだ。
「……分かりました」
モーフはゆらりと真っすぐに立つ。
「乗り越えなければならないのなら……。姉上、あなたを倒させて頂きます!」
モーフは携えた剣を手に取り、シアンに向かって剣を突きつけた。
驚くかと思われたシアンだったが、その顔は満足そうに笑っている。
「そうこなくてはいけません。私は魔力の塊で、シアンとは別個体。私を傷つけてもシアンが傷つくことはありません。……遠慮なく来て下さい!」
シアンが魔力を解き放つと、凄まじい突風が駆け抜けていく。
その威力の強さに、モーフは必死に耐えていた。
「さあ、始めましょう。あなたの王としての器をここに示すのです!」
モーフにとっても、試練を担当するシアンにとっても、つらい時間の始まりだった。
「何も……見えませんね」
モーフが呟くと同時に、背後の扉が静かに動き、大きな音を立てて閉まる。
「はっ!」
扉のあった位置へと急いで手を出してみるものの、そこにはなんの感触もない。どうやら扉は消え、完全に閉じ込められてしまったようだ。
「試練が終わるまで、外には出られないということですか」
扉のノブをつかむような姿勢で立ち尽くすモーフは、ぐっと固く口を閉ざす。
試練を受けるといったのは自分なのだ。ここで引き返してどうするという話である。
決意を新たに固め、モーフはくるりと振り返って前を見る。
相変わらず真っ暗な空間が広がり、何が見えるというわけではない。だが、モーフはうっすらと何かを感じ取っていた。
ぽおっと、急に光が浮かび上がる。
しばらくじっと見つめていると、その光はだんだんと何かの形に変化していく。
黙って見ていたモーフだったが、その姿が何かはっきりしてくると、驚きを隠せなかった。
「ようこそ、モーフ。精霊の試練へ」
目の前の人物がにっこりと微笑むと、一気に周りの風景が変化する。
「ここは、お城の兵士の訓練場……」
「そうですよ、モーフ。あなたの試練の相手は、私。シアン・モスグリネが務めさせてもらいます」
モーフの目の前に現れたのは、戦闘用の服装に身を包んだシアンだった。
だが、目の前のシアンからは違和感を感じてしまう。
「姉上ではないですね。雰囲気が違います」
モーフが叫ぶと、シアンは悲しそうな顔をしている。
「実の姉に向かってそんなことを言うなんて、悲しいですね。私はシアン・アクアマリンではなく、シアン・モスグリネです。つまり、本来のあなたの姉です」
「な、なんですって!?」
目の前のシアンが言い放った言葉に、モーフはショックを受けていた。
まったくもってどういうことなのか、モーフには理解できなかった。
「正確に言いますと、私の性格自体は今のシアンと同一です。私は誕生することのできなかったシアンの魔力。ですが、モーフが生まれてこの方、ずっとあなたの中で見守り続けていました」
シアンの語る内容に、モーフは何も言葉が発することができずにいた。
目の前にいるのは、シアンが生まれた際にロゼリアの体内に取り残されたシアンの魔力だというのだ。
だからといって、モーフがそれを素直に受け入れられるかといったら簡単なことではなかった。
モーフはつい身構えてしまう。
反応を見たシアンは、怒るどころか微笑んだままである。
「試練ですからそうでありませんとね」
シアンは何かを取り出す。何か杖のようなものだったが、モーフも見覚えのあるものだった。
「これは、もう一人のシアンが贈られた杖です。今は使っていないようなので、私がこっそり拝借しておきました」
シアンはそう話すと、杖をしっかりと構えている。
「さあ、モーフ。ここからが試練です」
シアンの宣告に、モーフはごくりと息を飲む。
「簡単な話ですよ。私と戦って勝てばいいのです」
「姉上と……戦う?」
シアンの言い放った合格条件に、モーフは思わず驚いてしまう。
「そう。私はあちらのシアンとはもう一緒にはなれません。そこで、十三年間連れ添ってきた、弟であるモーフ、あなたが私の力を扱うのにふさわしいかどうかを見極めるのです」
モーフに杖を突きつけながら、シアンは少しずつ笑顔を崩している。
いくら試練の中とはいえ、実の弟と戦うのはつらいのだろう。
「あなただって分かっているはずです。王として国を統べるようになれば、ちょっとした私情すらも挟めなくなるということが。ですから、ここで私と戦い、見事打ち負かしてみせるのです。それが、あなたに課せられた精霊の試練なのです!」
突きつけられた現実に、モーフはまだ迷いがあるのか構えが崩れている。
それもそうだ。いくら魔力の塊とはいえど、自分の姉と戦わなければならないのだから、性格の優しいモーフにはとても厳しい選択なのだ。
「分かっています、あなたが心優しい子だといのは。私はあなたの姉上なのですからね。それに、試練を放棄しても、誰も責めはしません。それも立派な選択なのです」
シアンは迷いを見せるモーフにあれこれと言葉をかける。
別にモーフを惑わせるつもりなどない。姉としての精一杯の気遣いなのだ。
しかし、今は精霊の試練としてここにいる。それゆえに、シアンもつらいのだ。
「……分かりました」
モーフはゆらりと真っすぐに立つ。
「乗り越えなければならないのなら……。姉上、あなたを倒させて頂きます!」
モーフは携えた剣を手に取り、シアンに向かって剣を突きつけた。
驚くかと思われたシアンだったが、その顔は満足そうに笑っている。
「そうこなくてはいけません。私は魔力の塊で、シアンとは別個体。私を傷つけてもシアンが傷つくことはありません。……遠慮なく来て下さい!」
シアンが魔力を解き放つと、凄まじい突風が駆け抜けていく。
その威力の強さに、モーフは必死に耐えていた。
「さあ、始めましょう。あなたの王としての器をここに示すのです!」
モーフにとっても、試練を担当するシアンにとっても、つらい時間の始まりだった。
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