逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第284話 せきねんの感情

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 宝珠を作る現場を見た後は、そこから地上へと移動する。
 そこは確かにトパゼリアの商業組合の中だった。
「城の中とつながっているとは思いませんでしたね」
「なかなか面白いであろう? 何かと機密が多いのでな、このように秘密裏に移動できるように通路を設けておるのだ。むろん、さっき教えた以外にもあるぞ?」
「でしょうね。簡単に教えるってことは、一番分かりやすい通路なのでしょうね」
「さて、どうだかな」
 ロゼリアの指摘に、ティールは笑ってごまかしていた。
「やあ、ロゼリアくん。こんなところで奇遇だね」
 地上に戻ってくると、なぜかケットシーが待ち構えていた。
 ティールから商談をしているという話は聞いていたが、なぜか応接室ではなくて廊下に立っていた。
「ケットシー、なぜここにいるのですか」
「なに、ちょっと部下に任せてきただけだよ。ここにいるのはただの偶然だよ。はっはっはっはっ」
 相変わらず笑ってごまかそうとするケットシーだが、いつも通じるわけがないのである。
「私たちの気配を感じて抜けてきましたね。他国との商談なんですから、あなたが責任をもって監督しなさいよね」
「いやぁ、手厳しいね、ロゼリアくんは」
 ロゼリアは頭が痛くなってくる。
 とはいえ、ロゼリアも人のことは言えないといえば言えないかなと思った。
 それというのも、マゼンダ商会のモスグリネ支店の責任者は、書類上はロゼリアになっているからだ。
 王妃としての務めが優先されるので、すべては部下やチェリシアたちが行っている。責任放棄といえばそうかも知れないのだ。
「ケットシー、ロゼリアのいう通りだぞ。おぬしは幻獣とはいえ、ここには商業組合の責任者として来ているのであろうが。ほれ、妾たちに構わず交渉の場に戻るのだ」
「これはトパゼリアの女王も手厳しいね。そこまで言われちゃ仕方ないというものだね」
 ケットシーは渋々応接室に戻ろうとするが、途中で立ち止まっている。
「どうしたのですか、ケットシー」
 様子がおかしいケットシーを見て、ロゼリアが声をかけている。
「いやぁ、忠告しておくよ。どうも不穏な動きがあるようだ。ティールくん、側近には注意しておくことだよ」
「言われずとも。妾自身も感じてはおる。大体の目星はついておるからな。……そろそろ仕掛けてくるだろう」
「分かっているならいいよ。僕たち幻獣というのは基本的に中立だ。面白いから君たちに肩入れはするけれど、いつも味方とは思わないでおくれよ?」
 ケットシーはそう言いながら、のっしのっしと歩いていく。
 まったく、相変わらずよく分からない猫である。
「女王陛下、今のお話って?」
「うむ、ここでする話でもあるまい。さて、せっかくだから宝珠でもプレゼントさせてもらうとしようか。ついてまいれ」
 ティールが少し表情を曇らせていた。
 どうやら、トパゼリアの中にはどうも不穏な動きがあるようである。
 気にかかるシアンたちではあるものの、今はティールの話に付き合うことにした。

 シアン、ロゼリア、ヒスイはそれぞれ自分用の宝珠を受け取っていた。
 作り上げるのに手間暇がかかっているというのに、気前よく友好の証だと言ってプレゼントしてくれたのである。
 城に戻ってきたシアンたちは、ティールの私室に集まっている。
「女王陛下、先程のお話、詳しくお聞かせ願いませんか?」
 ロゼリアが話を切り出している。
 ティールとしてはあまり触れたくはなかったのだろうが、ケットシーのせいで知られてしまった。
 やむなく話をすることに決める。
「簡単なことよ。最近の妾のことを疑ってかかる連中がいる。ただそれだけのことだ」
「なんですって?!」
 驚いているのはシアンだった。
「私が浄化の魔法をかけたからですか?」
 ティールへと問い質すシアン。その剣幕にまったく動じることなく、ティールは話をし始める。
「それは原因のひとつではあるな。だが、あの時の妾は負の感情を爆発させてデーモンハートに飲まれていた。シアンが浄化してくれねば、あの時に魔物と化していただろう。それを思えば、浄化をしたことは間違ってはおらぬ」
 なんとも重い話である。
「妾の性格がそれ以降丸くなったことを快く思わぬ連中が多くてな。良くも悪くも、デーモンハートに汚染された一族と言えよう」
 なぜか笑っている。
「妾を王位から引きずり降ろそうとする過激派は確かに存在しておる。だが、いかんせん、妾には毒物は効かぬし、暗殺しようにも防護魔法は完璧だ。手も足も出ぬというのが現状なのだよ」
 なるほど、余裕の笑みなんだと、シアンたちはそう思った。
「だが、連中からすればシアンたちが来たのは好都合だろう。おそらくは利用するつもりでいる。どこに何が仕込まれておるか分からぬゆえ、警戒はした方がいい。そのための宝珠だ」
 ティールが今回ロゼリアやシアンたちを宝珠の製造現場に連れて行ったのは、自分に向けられた悪意への対抗だというのだ。
「すまぬな。妾の力でも十分抑え込めると思うたのだが、息子たちへの対処もあって、少々おろそかになってしまったようだ」
 ティールは嘆いていた。
 ロゼリアたちの滞在の予定は、ケットシーたちの交渉と日数を同期させている。まだ数日間トパゼリアに滞在することになるであろう。
 自分たちへと向けられた悪意を払いのけることができるのか。シアンたちに不安が襲い掛かってきた。
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