逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第293話 面倒なチェリシア

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 翌日、ティールが宣言した通りにもう一度中を見て回るシアンたち。
 さながら中は博物館といった感じである。
 技術や知識をまとめた書籍の数々、作り出された魔道具の実物。それはまるで、当時のアトランティス帝国の力を誇示するかのように堂々と飾られていた。
 実際、子孫であるティールもかなり驚いてしまっているのだから、当時のアトランティス帝国の思惑は達成できていると言えよう。
「改めて見てみると、ご先祖たちの技術の高さというものに驚かされる。妾たちもこの水準になんとか追いつきたいものだ」
 ティールは見惚れているようである。
「ですが、そのような技術をもってしても、一夜にして滅んでしまったことは事実ですのよ。これはわたくしたちにも言えることですが、何がきっかけでその身を滅ぼすことになるか分かりませんわ。お姉様にもしっかり注意して頂きませんと」
 ペシエラはかなり辛辣である。
 それというのも、逆行後の姉であるチェリシアのことがあるからだ。
 彼女もまた、前世知識を使ってあれこれと魔道具を作り出している。
 現在は子育てもあるので少しおとなしくなったものの、それでもあれこれ意欲的に活動している。どことなく危うさを常々感じているのだ。
「本当、チェリシアにはきちんと言っておかなければならないわ。前世の生活云々といっている場合ではないもの。アトランティス帝国の二の舞だけは、絶対させないんだから」
「まったくですわ」
 ペシエラとロゼリアは互いの顔を見て力強く頷き合っている。
「確かに、チェリシア様は好奇心が先立っていますものね。私もどことなく怖いですよ」
「まったくです。今まで事故が起きなかったのが不思議なくらいですよ」
 シアンとスミレにまでこんなことを言われている。チェリシアの存在がどれだけ危険なものかというのを、思い知らされるばかりである。
「お姉様、ここまで言われているのにどうしてああも不用心に魔道具を作っていくのかしら」
「私たちの責任もありますけどね。物珍しさに気を取られ過ぎていたわ……」
 ペシエラは頭を抱えているが、すべてはこのロゼリアの言葉に集約されていた。
 事情の分からないヒスイはどう反応していいのか分からずに、シアンたちの姿を見守り続けていた。
「ふむ……。このカメラと申したか、この魔道具もずいぶんと大したものだ。チェリシアの持つ知識と、妾たちの持つ技術。合わせればきっともっと素晴らしいものができるのではなかろうか」
「それはお勧めしませんわよ。きっとアトランティス帝国の二の舞になりますわ」
「自制が効かないのが、チェリシアの面倒なところなのよ……」
 ティールはかなりチェリシアに興味を抱いているようだが、ペシエラとロゼリアはやめておいた方がいいというばかりである。
「正直申しまして、このチャットフォンだってよくできたものだと思いますわよ」
 話をしながら、ペシエラは収納空間から板状のものを取り出してきた。
「ほう、なんだそれは」
 当然ながらティールが興味を示してしまう。
「これは……」
 説明を始めようとしたところで、薄いピンク色の光が唐突に放たれ始める。
「げっ、お姉様ですわ」
 なんというタイミングなのだろうか。チェリシアがペシエラに連絡を入れてきたようである。
 困ったペシエラは、ロゼリアたちに視線を向ける。
「出た方がいいわね。出ても出なくてもあとで面倒になるのは見えているもの」
 ロゼリアは悟っていた。
 ペシエラも同意したようで、仕方なく通話に応じることにした。
「なんですの、お姉様」
『あー、ペシエラ、どこにいるのよ』
 どうも虫の居所が悪そうな声である。
「どこといいましょうかね。ひとまず奇跡の湖に来ていますわ」
『噓仰い。周りが自然の中じゃないじゃないのよ』
 そうだった。チャットフォンは周囲の景色すらも映し出してしまう。今どこにいるのかがおおよそばれるのである。
「嘘は言っておりませんわよ。ただ、ちょっと特殊な場所にいますのよ」
「なんだ、これは。人の声が聞こえてくるぞ」
 ペシエラたちの通話に、ティールが割り込んでくる。
『この声、トパゼリアの女王ね。なんで一緒にいるの、答えてちょうだい』
 チェリシアはかなりしつこかった。
「あとで説明しますわよ。それよりなんですの、お姉様」
 話がどうあがいても長くなりそうなので、ひとまず用件だけを済ませようとする。
『もう、年末パーティーのことで相談しようと思っただけよ。もう二十日を切っているんですからね』
「そんな時期でしたわね。ということは、準備での相談ですかしら」
『そういうところ。マゼンダ商会としての腕の見せどころというわけよ。いろいろと詰めたいから相談に乗ってちょうだい』
「あのですね。わたくしは王妃ですのよ? 特定の商会との密な関係は避けたいのですわ」
『設立に関与しておいて今さら中立を気取らないで。ドール商会も呼ぶから』
 頑としてペシエラの参加を要請してくるチェリシアに、ペシエラはもう抵抗するのを諦めた。
「仕方ありませんわね。すぐに戻りますから、さっさと支度をしておいて下さいませ」
 ペシエラはそうとだけ言うと、さっさと通話を終了させていた。
「ロゼリア、わたくしの代わりにエアリアルボードで王都まで戻ってきて下さいませ。わたくしはテレポートで一足先に戻りますわ」
「チェリシアのあの状態じゃ仕方ないわね。分かったわ」
 チェリシアからの唐突な連絡のせいで、ペシエラはやむなく王都に一足先に戻らなくてはならなくなった。
 ペシエラを見送ったロゼリアたちは、一日遅れて奇跡の湖を発つことにしたのだった。
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