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新章 青色の智姫
第294話 浮き島を去る
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正直なところ、もっと滞在してゆっくり見たかったのだが、立場上そういうわけにもいかなかった。
チェリシアにしつこく言われて先にペシエラが王都に戻ったのをきっかけにして、シアンたちもそれぞれの国に戻ることになってしまったのだ。
「ここの空間のことは、あまり言いふらさないようにしないといけないかしらね」
「そうではあるな。だが、言うたところでどれだけの人間がここにたどり着いて中に入れるか分からんのだがな」
ロゼリアの心配に、ティールはおかしく笑っていた。
確かに言われた通りである。
ロゼリアやティールがいる場所は、アイヴォリー王国の少し奥まった場所。しかし、近くの村から少し離れた湖の浮き島の奥地なのだ。そもそもこの湖を渡って来れるかという問題点がある。
「この浮き島の存在している場所からすれば、普通にはたどり着けまい。それに、この石碑などの設備は人を選ぶ。アトランティス帝国の血筋を受け継いでいても、ロゼリアやシアンほどまで薄まれば反応しないということが証明しておる」
ティールの指摘通り、ここにいる面々でこの設備への入場を認められたのは、帝国の者の血を色濃く受け継ぐティールだけだった。
ここまで徹底した隠ぺいなのだから、そう簡単に人が訪れて荒らされるということも考えにくいのだ。
だが、それでも念には念を入れておくというものである。
「当面は妾だけだな。どの際には、そなたらの誰かについて来てもらうとしよう」
「そのくらいならいいでしょうけれど、絶対チェリシアはやめておいた方がいいわ。性格上目の色を変えて見て回るでしょうから」
「ふむ、心に留めておこう」
ここまで言われるチェリシアである。
ただ一人、そのチェリシアのことをよく分からないヒスイですらも、昨夜のやり取りのせいで気を付けた方がいい人物だと認識してしまっているくらいだ。
「それでは、一度アイヴォリーの王都に寄ってから戻ります。シアン、その後はヒスイと一緒に戻りなさい」
「お母様は?」
「私は女王陛下をトパゼリアまで送り届けるわ」
「承知致しました、お母様」
そんなこんなで、最後にレイニに挨拶をすると、シアンたちはまずはハウライトを目指してエアリアルボードで飛び去っていった。
四人を見送った後のレイニは、改めて島の石碑を見つめる。
「やれやれ、ボクのテリトリーにこんなものが眠っているとはね。精霊であるボクですら開くことができなかったんだから、アトランティス帝国の技術というのは相当のものだったようだね」
元の位置に戻って中に入れなくなった石碑に、レイニはそっと手を触れている。
ところが、石碑はうんともすんとも反応しない。
下からは確かに魔力を感じるものの、レイニですらこじ開けることは不可能だった。
「ふふっ、またこれを訪ねにやって来る日が楽しみというものだね」
石碑の上にちょこんと座りながら、レイニは楽しそうな顔で前を見つめているのだった。
ハウライトにやって来たシアンたちは、チェリシアに話が行くことを避けるため、ロゼリアの実家であるマゼンダ侯爵家ではなく、まったく関係のないクロッツ子爵家を訪れていた。
クロッツ子爵家は、娘であるブランチェスカがシアンと交流があったため選ばれたのだ。コーラル伯爵家はチェリシアの実家なので、こちらも避けられた形である。
「前触れもなく申し訳ありません。一晩だけお世話になります」
「シアン様、お久しぶりでございます。変わらずお元気そうでなによりでございます」
びっくりしながらも、ブランチェスカは堂々とシアンを迎えている。むしろ、周りが驚いている。
他国とはいえど、王家ばかりがしがない子爵家に泊まりにくれば、それはもうてんやわんやである。
シアンがいるということで、メインの対応はブランチェスカに任せ、部屋の用意などに使用人たちがどたばたと追われている。
「急な訪問ゆえ、それほどきれいでなくともよいが……。貴族ゆえにそういうわけにもいかぬのだろうな」
「そうですね……」
使用人たちの慌て具合を見ながら、ティールたちは申し訳なく思ったのである。
「まあ、とりあえず立ったままもいかがと思いますので、応接室に移動しましょう」
これ以上はさすがに見苦しいと思ったブランチェスカは、落ち着いてシアンたちを応接室へと案内していた。さすがは学園で王族と一緒に過ごしているだけのことはあるというものだ。
その夜は、シアンとブランチェスカは久しぶりに出会ったとあってか、いろいろと最近の学園についていろいろと話を交わしていた。
楽しそうに話をしているシアンの姿を見て、ロゼリアは改めてアイヴォリーへの留学制度について理解を示したのだった。
「ずいぶんと熱心に見ておるな」
「ええ。二年後にはモーフがアイヴォリーに留学しますからね。そのもたらす効果というものを実感させてもらっているところですよ」
「そうか……。そういえば、妾のところも息子たちが留学することになるな。息子たちもこんな風にうまくできるか、少々ばかり不安というものぞ」
「王族であればお城で暮らすでしょうから、そこはペシエラたちに頼るしかありませんね」
「ふむ……」
シアンたちの姿を見れば見るほど、ティールは息子たちのことが心配になってくるというものだった。
こうして、ハウライトで一泊をしたのち、シアンたちはクロッツ子爵にお礼を言ってそれぞれの国へと戻っていった。
チェリシアにしつこく言われて先にペシエラが王都に戻ったのをきっかけにして、シアンたちもそれぞれの国に戻ることになってしまったのだ。
「ここの空間のことは、あまり言いふらさないようにしないといけないかしらね」
「そうではあるな。だが、言うたところでどれだけの人間がここにたどり着いて中に入れるか分からんのだがな」
ロゼリアの心配に、ティールはおかしく笑っていた。
確かに言われた通りである。
ロゼリアやティールがいる場所は、アイヴォリー王国の少し奥まった場所。しかし、近くの村から少し離れた湖の浮き島の奥地なのだ。そもそもこの湖を渡って来れるかという問題点がある。
「この浮き島の存在している場所からすれば、普通にはたどり着けまい。それに、この石碑などの設備は人を選ぶ。アトランティス帝国の血筋を受け継いでいても、ロゼリアやシアンほどまで薄まれば反応しないということが証明しておる」
ティールの指摘通り、ここにいる面々でこの設備への入場を認められたのは、帝国の者の血を色濃く受け継ぐティールだけだった。
ここまで徹底した隠ぺいなのだから、そう簡単に人が訪れて荒らされるということも考えにくいのだ。
だが、それでも念には念を入れておくというものである。
「当面は妾だけだな。どの際には、そなたらの誰かについて来てもらうとしよう」
「そのくらいならいいでしょうけれど、絶対チェリシアはやめておいた方がいいわ。性格上目の色を変えて見て回るでしょうから」
「ふむ、心に留めておこう」
ここまで言われるチェリシアである。
ただ一人、そのチェリシアのことをよく分からないヒスイですらも、昨夜のやり取りのせいで気を付けた方がいい人物だと認識してしまっているくらいだ。
「それでは、一度アイヴォリーの王都に寄ってから戻ります。シアン、その後はヒスイと一緒に戻りなさい」
「お母様は?」
「私は女王陛下をトパゼリアまで送り届けるわ」
「承知致しました、お母様」
そんなこんなで、最後にレイニに挨拶をすると、シアンたちはまずはハウライトを目指してエアリアルボードで飛び去っていった。
四人を見送った後のレイニは、改めて島の石碑を見つめる。
「やれやれ、ボクのテリトリーにこんなものが眠っているとはね。精霊であるボクですら開くことができなかったんだから、アトランティス帝国の技術というのは相当のものだったようだね」
元の位置に戻って中に入れなくなった石碑に、レイニはそっと手を触れている。
ところが、石碑はうんともすんとも反応しない。
下からは確かに魔力を感じるものの、レイニですらこじ開けることは不可能だった。
「ふふっ、またこれを訪ねにやって来る日が楽しみというものだね」
石碑の上にちょこんと座りながら、レイニは楽しそうな顔で前を見つめているのだった。
ハウライトにやって来たシアンたちは、チェリシアに話が行くことを避けるため、ロゼリアの実家であるマゼンダ侯爵家ではなく、まったく関係のないクロッツ子爵家を訪れていた。
クロッツ子爵家は、娘であるブランチェスカがシアンと交流があったため選ばれたのだ。コーラル伯爵家はチェリシアの実家なので、こちらも避けられた形である。
「前触れもなく申し訳ありません。一晩だけお世話になります」
「シアン様、お久しぶりでございます。変わらずお元気そうでなによりでございます」
びっくりしながらも、ブランチェスカは堂々とシアンを迎えている。むしろ、周りが驚いている。
他国とはいえど、王家ばかりがしがない子爵家に泊まりにくれば、それはもうてんやわんやである。
シアンがいるということで、メインの対応はブランチェスカに任せ、部屋の用意などに使用人たちがどたばたと追われている。
「急な訪問ゆえ、それほどきれいでなくともよいが……。貴族ゆえにそういうわけにもいかぬのだろうな」
「そうですね……」
使用人たちの慌て具合を見ながら、ティールたちは申し訳なく思ったのである。
「まあ、とりあえず立ったままもいかがと思いますので、応接室に移動しましょう」
これ以上はさすがに見苦しいと思ったブランチェスカは、落ち着いてシアンたちを応接室へと案内していた。さすがは学園で王族と一緒に過ごしているだけのことはあるというものだ。
その夜は、シアンとブランチェスカは久しぶりに出会ったとあってか、いろいろと最近の学園についていろいろと話を交わしていた。
楽しそうに話をしているシアンの姿を見て、ロゼリアは改めてアイヴォリーへの留学制度について理解を示したのだった。
「ずいぶんと熱心に見ておるな」
「ええ。二年後にはモーフがアイヴォリーに留学しますからね。そのもたらす効果というものを実感させてもらっているところですよ」
「そうか……。そういえば、妾のところも息子たちが留学することになるな。息子たちもこんな風にうまくできるか、少々ばかり不安というものぞ」
「王族であればお城で暮らすでしょうから、そこはペシエラたちに頼るしかありませんね」
「ふむ……」
シアンたちの姿を見れば見るほど、ティールは息子たちのことが心配になってくるというものだった。
こうして、ハウライトで一泊をしたのち、シアンたちはクロッツ子爵にお礼を言ってそれぞれの国へと戻っていった。
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