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新章 青色の智姫
第298話 魔道具を見たいですね
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翌日、改めてヒスイはお城を訪ねる。
門で止められていると、そこへシアンがやって来た。
「よく来て下さいました、ヒスイ様」
「いえ、お誘い頂きありがとうございます、シアン様」
きれいな淑女の挨拶をして、お礼を述べるヒスイである。
昨日、学園長から魔道具は王家に寄進してあるという話を聞いて、今日はお城に魔道具を見に来たのである。
ペイルからの許可が下りたので、無事に見物できるようになった。
ただし、ペイルとロゼリアも同行するという条件を付けられてしまった。
ヒスイを迎え入れると、城の中へと入っていく。
入ったとたんに、そこにはペイルとロゼリアがいて、思わずヒスイは固まってしまう。
「これは国王陛下、王妃殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
慌てて淑女の挨拶をこなすヒスイ。慌てていてもちゃんとしたポーズを取れるのは、さすが侯爵令嬢である。
「そう固くならずともよい。城の中にそういえばそんなものがあったなと、昨夜シアンから言われて思い出したのでな。俺たちも興味本位だ」
「私も知らなかったわよ。なので今日はとても楽しみにしているわ」
この場にいるのが知り合いばかりとあってか、言葉は実に砕けている二人である。
「さて、早速宝物庫に向かうとしようか」
「ああ、やっぱり宝物庫ってあるんですね」
「そりゃそうだ。宝物庫にはいろいろなものが収められている。それこそ俺たち王族が精霊の試練で賜ったものとかも安置されている。まあ、俺にはそんなものはなかったがな」
シアンの質問に淡々とペイルは答えている。
ペイルには精霊からもらったものがないという風に話しているのには理由がある。
なにせ、ペイルの精霊の試練は正式なものではなかったのだから。
ロゼリアの友人であり、現在のアイヴォリー王国の王妃であるペシエラを救うための行動が、精霊の試練としてみなされたという経緯があるのである。
「まぁ、お前たちが見たいというもののメインは、ネフライトの一族の作った魔道具だったな。同じように宝物庫の中に厳重保管してあるから、ゆっくり見ていくといい」
「ほう、それは興味はありますなぁ」
「ケットシー、お前はまた来てたのか」
どこからともなく声がしたかと思えば、またケットシーがひょっこり現れたのだ。
「いやぁ、モスグリネの宝物庫は、ボクも興味津々ですからな。そこのお嬢さんからビンビンと面白そうなにおいをかぎつけてね、ついついて来てしまったのだよ」
「まぁ、お前だったら別にいいか。どうせ断ってもついてくるだろう?」
「もちろんだよ、はっはっはっはっ」
断る気力も起きなかったので、ケットシーを加えた五人で地下にある宝物庫へと向かっていく。
「そういえば、俺以外は宝物庫は初めてだったな」
「そうですね。というか、あること自体初耳だけど」
「ああ、言ってないからな」
ロゼリアすら知らなかったというモスグリネ王城の宝物庫。ならばシアンが知るわけがないのである。
「まったく、そんなことでは困るというものだよ。ああ、手入れだけなら定期的にしてるから、埃をかぶっているなんてことはないよ。番人と言われる精霊がいるからね」
「あら、そんな精霊がいるのね」
「もちろんさ。精霊王オリジンから直々に管理を言い渡された精霊さ。彼女がいるからこそ、モスグリネも平和といっていいくらいだ。あんなもの、放っておいたら何が起きるか分かったものじゃないからね」
「……なんだか怖くなってくる話ね」
ケットシーの言い分に、ロゼリアの表情が引きつっている。
「ああ、心配要らないよ。ちなみに君たちが立ち入っていない間も、ボクは何度か立ち入っている。ここの管理を任されているのは、何もその彼女だけじゃなく、商業組合の長たるボクもだからね」
なんとも初耳なことだらけだった。
「なんだい、その目は。だってそうだろう? そうでなければ、誰がネフライト家の魔道具をここに収めるというのだよ。商業組合は魔道具の管理も担当しているわけだから、当然長であるボクに仕事が回ってくるというわけさ」
「……そういうことにしておくわ」
やっぱりどことなく信じられないロゼリアたちなのである。
これもすべて、日頃からのケットシーの胡散くささが成せるものなのだ。
長い階段を降りると、厳重な封印を施された扉が目の前に現れる。
これが、モスグリネ王城の宝物庫なのだ。
「解くのならボクに任せておいてくれたまえ」
そう言って、ケットシーは一歩前に出て、扉にその手を押し当てる。
「やあ、シーリル。僕が来てあげたよ。扉を開けてくれてもいいかい?」
封印を解くというからどんなことをするのかと思いきや、ケットシーは友人の家を訪ねたかのようにものすごく軽いノリで扉に話し掛けていた。
「あら、ケットシーなの? ちょっと待ってて、今開けるから」
扉の中からは、異様に軽いノリの反応が返ってきた。
「よいしょっと……」
そうかと思うと、重い扉がゆっくりと内側に開いていく。
扉が開くと、中から出てきたのは白衣を着て眼鏡をかけた学者風の小さな女性だった。
「おやおや、モスグリネの王族までいらしているのね。ようこそ、封印されし宝物庫へ。私は管理人の精霊シーリルです」
丁寧に頭を下げて挨拶をしたシーリルと名乗る精霊は、にこにことした表情でシアンたちを見つめているのだった。
門で止められていると、そこへシアンがやって来た。
「よく来て下さいました、ヒスイ様」
「いえ、お誘い頂きありがとうございます、シアン様」
きれいな淑女の挨拶をして、お礼を述べるヒスイである。
昨日、学園長から魔道具は王家に寄進してあるという話を聞いて、今日はお城に魔道具を見に来たのである。
ペイルからの許可が下りたので、無事に見物できるようになった。
ただし、ペイルとロゼリアも同行するという条件を付けられてしまった。
ヒスイを迎え入れると、城の中へと入っていく。
入ったとたんに、そこにはペイルとロゼリアがいて、思わずヒスイは固まってしまう。
「これは国王陛下、王妃殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
慌てて淑女の挨拶をこなすヒスイ。慌てていてもちゃんとしたポーズを取れるのは、さすが侯爵令嬢である。
「そう固くならずともよい。城の中にそういえばそんなものがあったなと、昨夜シアンから言われて思い出したのでな。俺たちも興味本位だ」
「私も知らなかったわよ。なので今日はとても楽しみにしているわ」
この場にいるのが知り合いばかりとあってか、言葉は実に砕けている二人である。
「さて、早速宝物庫に向かうとしようか」
「ああ、やっぱり宝物庫ってあるんですね」
「そりゃそうだ。宝物庫にはいろいろなものが収められている。それこそ俺たち王族が精霊の試練で賜ったものとかも安置されている。まあ、俺にはそんなものはなかったがな」
シアンの質問に淡々とペイルは答えている。
ペイルには精霊からもらったものがないという風に話しているのには理由がある。
なにせ、ペイルの精霊の試練は正式なものではなかったのだから。
ロゼリアの友人であり、現在のアイヴォリー王国の王妃であるペシエラを救うための行動が、精霊の試練としてみなされたという経緯があるのである。
「まぁ、お前たちが見たいというもののメインは、ネフライトの一族の作った魔道具だったな。同じように宝物庫の中に厳重保管してあるから、ゆっくり見ていくといい」
「ほう、それは興味はありますなぁ」
「ケットシー、お前はまた来てたのか」
どこからともなく声がしたかと思えば、またケットシーがひょっこり現れたのだ。
「いやぁ、モスグリネの宝物庫は、ボクも興味津々ですからな。そこのお嬢さんからビンビンと面白そうなにおいをかぎつけてね、ついついて来てしまったのだよ」
「まぁ、お前だったら別にいいか。どうせ断ってもついてくるだろう?」
「もちろんだよ、はっはっはっはっ」
断る気力も起きなかったので、ケットシーを加えた五人で地下にある宝物庫へと向かっていく。
「そういえば、俺以外は宝物庫は初めてだったな」
「そうですね。というか、あること自体初耳だけど」
「ああ、言ってないからな」
ロゼリアすら知らなかったというモスグリネ王城の宝物庫。ならばシアンが知るわけがないのである。
「まったく、そんなことでは困るというものだよ。ああ、手入れだけなら定期的にしてるから、埃をかぶっているなんてことはないよ。番人と言われる精霊がいるからね」
「あら、そんな精霊がいるのね」
「もちろんさ。精霊王オリジンから直々に管理を言い渡された精霊さ。彼女がいるからこそ、モスグリネも平和といっていいくらいだ。あんなもの、放っておいたら何が起きるか分かったものじゃないからね」
「……なんだか怖くなってくる話ね」
ケットシーの言い分に、ロゼリアの表情が引きつっている。
「ああ、心配要らないよ。ちなみに君たちが立ち入っていない間も、ボクは何度か立ち入っている。ここの管理を任されているのは、何もその彼女だけじゃなく、商業組合の長たるボクもだからね」
なんとも初耳なことだらけだった。
「なんだい、その目は。だってそうだろう? そうでなければ、誰がネフライト家の魔道具をここに収めるというのだよ。商業組合は魔道具の管理も担当しているわけだから、当然長であるボクに仕事が回ってくるというわけさ」
「……そういうことにしておくわ」
やっぱりどことなく信じられないロゼリアたちなのである。
これもすべて、日頃からのケットシーの胡散くささが成せるものなのだ。
長い階段を降りると、厳重な封印を施された扉が目の前に現れる。
これが、モスグリネ王城の宝物庫なのだ。
「解くのならボクに任せておいてくれたまえ」
そう言って、ケットシーは一歩前に出て、扉にその手を押し当てる。
「やあ、シーリル。僕が来てあげたよ。扉を開けてくれてもいいかい?」
封印を解くというからどんなことをするのかと思いきや、ケットシーは友人の家を訪ねたかのようにものすごく軽いノリで扉に話し掛けていた。
「あら、ケットシーなの? ちょっと待ってて、今開けるから」
扉の中からは、異様に軽いノリの反応が返ってきた。
「よいしょっと……」
そうかと思うと、重い扉がゆっくりと内側に開いていく。
扉が開くと、中から出てきたのは白衣を着て眼鏡をかけた学者風の小さな女性だった。
「おやおや、モスグリネの王族までいらしているのね。ようこそ、封印されし宝物庫へ。私は管理人の精霊シーリルです」
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