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新章 青色の智姫
第299話 地下宝物庫
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シーリルと名乗る精霊をじっくりと見てしまうシアン。
「えっと、私に何か?」
その視線に気が付いたのか、シーリルはシアンに問いかけてしまう。
「あ、いえ。知り合いにどことなく似ている気がしまして」
とっさに正直に答えるシアン。
「そうだね。君たちだとライに似ていると思ったんだろうね」
「ライ?」
ケットシーの言葉に、シーリルは首を傾げている。
「覚えているだろう? ボクと一緒に遊んでいた精霊を」
「ああ、あの子ね」
シーリルはライとも面識があるようである。
「あの子も元気にしてるの?」
「ああ、今はアイヴォリーでマゼンダ商会とドール商会のお手伝いをしているよ。仕えるべき主も手に入れたし、それなりに充実しているみたいだよ」
「へえ、あの子もねぇ」
シーリルは腕組みをしながら頷いている。
目の前のやり取りをじっと見つめているシアンたちに気が付いたシーリルは、ごほんと咳払いをして姿勢を正している。
「失礼しました。あまりにも懐かしい話をしてしまいまして。改めて、ようこそモスグリネの宝物庫へ。ペイル殿下以外は初めてでございますね。それでは、最初に注意事項を申し上げさせて頂きます」
シーリルが宝物庫の番人らしいことを始めると、ケットシーが早速指摘を入れる。
「シーリル、訂正させてもらうけど、ペイル君は王位を継いだんだ。なので、殿下ではなく陛下だよ」
「あら、いつの間に。これは失礼を致しました、ペイル陛下」
「いや、気にしないから続けてくれ」
ペイルは咎めるつもりはないようだ。
「では、続けさせて頂きます」
もう一度咳払いをして、シーリルは説明を続ける。
「ここは先程も申しました通り、モスグリネの宝物庫でございます。精霊の試練を突破なされた過去の王族の遺品や、国内の貴族より納められた品々が保管されております。むやみに近付かれますと事故の元になりかねませんゆえ、私からあまり離れないようにお願いします」
「ああ、今回はボクがいるから、ボクの近くでも構わないよ」
「ケットシーは黙っていて下さい」
説明の最中にケットシーが口を挟むものだから、シーリルは遠慮なく文句を言っている。
ライともこういうやり取りをしているところを見ているシアンやロゼリアは、ケットシーの大体の立ち位置を理解していた。
「それでは、順番に見て参りましょう。何か要望などございましたら、その都度声をお掛け下さい」
説明が終わり、いよいよ宝物庫の中を見て回れることとなった。
宝物庫の中に入ると、とても地下とは思えない空間だった。
明るく照らされた空間には、防護魔法のかけられた品々がたくさん並べられている。見たことのないような品も並べられており、全員の、特にヒスイの興味を引いているようだった。
「このあたりは、建国したての頃の国王陛下たちの品々ですね。私がここの管理を任された頃のものでございます。実に懐かしいですね」
シーリルが話す内容に、誰もがいまいち反応できずにいた。
モスグリネは新しい国とはいえど、それでも数百年の時が経過している。それゆえに、その頃の話となっても、いまいちピンとこないのである。
「その横に並べられた品々は、北の隣国、ムー王国から贈られたお祝いの品ですね。元々モスグリネの国土は、ムー王国の国土でしたから」
「そういえば、パール王妃がその様なことを仰られていた気がします」
思わず反応してしまうシアンである。
「そちらの緑髪のお嬢さんはムー王国の血筋を感じますね。魔法に関して強い造詣をお持ちではないでしょうか」
「そ、そうです。私はネフライト侯爵家のヒスイと申します。国内では魔法一門の家系として通っております」
「なるほど。ネフライトの一族はよく覚えております。その血筋は、ムー王国の重鎮の一族にまでさかのぼります。ちょうど跡取りが増えて後継争いが起きそうになったことがありましてね、その時にモスグリネ建国の報を聞いて、一族の一部が移り住んだのが始まりなのです」
シーリルの話を聞いて、ヒスイはびっくりである。なにせ自分がまったく知らない話だったのだから。
「魔道具に関して強い関心を寄せるのは、ムー王国民としては当然のこと。何もおかしくはないのですよ」
「はえ~……、知りませんでした」
自分のルーツを聞かされて、ヒスイはすっかり語彙力が落ち込んでしまっていた。
そのショックは、シアンやロゼリアの先祖がアトランティス帝国の人間だったことを知った時に匹敵するだろう。
「よかったじゃないか。別に悪い話ではないだろう。自分の一族が魔法や魔道具に対して関心が深い理由が分かってよかったではないか」
「は、はい。その通りでございますね」
ペイルに言われて、ヒスイは慌てて頷いていた。
その横では、シアンは別のことを考えていた。
かつてアトランティス帝国とムー王国は、その魔法技術を競っていた。言ってしまえば犬猿の仲である。
かたやアトランティス帝国の、かたやムー王国の血を引く者たちが、今ではこうやって仲良くしているというのは何の因果なのだろうかと。
(めぐりあわせとは、不思議なものですよね)
つい、シアンはくすっと笑ってしまう。
「シアン様?」
「なんでもありません。見学を続けましょうか」
ヒスイに声をかけられたシアンは、笑ったままごまかしていた。
「そうそう。まだまだ見せるものはたくさんありますからね」
乗り気なシーリルの案内で、シアンたちの宝物庫の見学はまだ続くのである。
「えっと、私に何か?」
その視線に気が付いたのか、シーリルはシアンに問いかけてしまう。
「あ、いえ。知り合いにどことなく似ている気がしまして」
とっさに正直に答えるシアン。
「そうだね。君たちだとライに似ていると思ったんだろうね」
「ライ?」
ケットシーの言葉に、シーリルは首を傾げている。
「覚えているだろう? ボクと一緒に遊んでいた精霊を」
「ああ、あの子ね」
シーリルはライとも面識があるようである。
「あの子も元気にしてるの?」
「ああ、今はアイヴォリーでマゼンダ商会とドール商会のお手伝いをしているよ。仕えるべき主も手に入れたし、それなりに充実しているみたいだよ」
「へえ、あの子もねぇ」
シーリルは腕組みをしながら頷いている。
目の前のやり取りをじっと見つめているシアンたちに気が付いたシーリルは、ごほんと咳払いをして姿勢を正している。
「失礼しました。あまりにも懐かしい話をしてしまいまして。改めて、ようこそモスグリネの宝物庫へ。ペイル殿下以外は初めてでございますね。それでは、最初に注意事項を申し上げさせて頂きます」
シーリルが宝物庫の番人らしいことを始めると、ケットシーが早速指摘を入れる。
「シーリル、訂正させてもらうけど、ペイル君は王位を継いだんだ。なので、殿下ではなく陛下だよ」
「あら、いつの間に。これは失礼を致しました、ペイル陛下」
「いや、気にしないから続けてくれ」
ペイルは咎めるつもりはないようだ。
「では、続けさせて頂きます」
もう一度咳払いをして、シーリルは説明を続ける。
「ここは先程も申しました通り、モスグリネの宝物庫でございます。精霊の試練を突破なされた過去の王族の遺品や、国内の貴族より納められた品々が保管されております。むやみに近付かれますと事故の元になりかねませんゆえ、私からあまり離れないようにお願いします」
「ああ、今回はボクがいるから、ボクの近くでも構わないよ」
「ケットシーは黙っていて下さい」
説明の最中にケットシーが口を挟むものだから、シーリルは遠慮なく文句を言っている。
ライともこういうやり取りをしているところを見ているシアンやロゼリアは、ケットシーの大体の立ち位置を理解していた。
「それでは、順番に見て参りましょう。何か要望などございましたら、その都度声をお掛け下さい」
説明が終わり、いよいよ宝物庫の中を見て回れることとなった。
宝物庫の中に入ると、とても地下とは思えない空間だった。
明るく照らされた空間には、防護魔法のかけられた品々がたくさん並べられている。見たことのないような品も並べられており、全員の、特にヒスイの興味を引いているようだった。
「このあたりは、建国したての頃の国王陛下たちの品々ですね。私がここの管理を任された頃のものでございます。実に懐かしいですね」
シーリルが話す内容に、誰もがいまいち反応できずにいた。
モスグリネは新しい国とはいえど、それでも数百年の時が経過している。それゆえに、その頃の話となっても、いまいちピンとこないのである。
「その横に並べられた品々は、北の隣国、ムー王国から贈られたお祝いの品ですね。元々モスグリネの国土は、ムー王国の国土でしたから」
「そういえば、パール王妃がその様なことを仰られていた気がします」
思わず反応してしまうシアンである。
「そちらの緑髪のお嬢さんはムー王国の血筋を感じますね。魔法に関して強い造詣をお持ちではないでしょうか」
「そ、そうです。私はネフライト侯爵家のヒスイと申します。国内では魔法一門の家系として通っております」
「なるほど。ネフライトの一族はよく覚えております。その血筋は、ムー王国の重鎮の一族にまでさかのぼります。ちょうど跡取りが増えて後継争いが起きそうになったことがありましてね、その時にモスグリネ建国の報を聞いて、一族の一部が移り住んだのが始まりなのです」
シーリルの話を聞いて、ヒスイはびっくりである。なにせ自分がまったく知らない話だったのだから。
「魔道具に関して強い関心を寄せるのは、ムー王国民としては当然のこと。何もおかしくはないのですよ」
「はえ~……、知りませんでした」
自分のルーツを聞かされて、ヒスイはすっかり語彙力が落ち込んでしまっていた。
そのショックは、シアンやロゼリアの先祖がアトランティス帝国の人間だったことを知った時に匹敵するだろう。
「よかったじゃないか。別に悪い話ではないだろう。自分の一族が魔法や魔道具に対して関心が深い理由が分かってよかったではないか」
「は、はい。その通りでございますね」
ペイルに言われて、ヒスイは慌てて頷いていた。
その横では、シアンは別のことを考えていた。
かつてアトランティス帝国とムー王国は、その魔法技術を競っていた。言ってしまえば犬猿の仲である。
かたやアトランティス帝国の、かたやムー王国の血を引く者たちが、今ではこうやって仲良くしているというのは何の因果なのだろうかと。
(めぐりあわせとは、不思議なものですよね)
つい、シアンはくすっと笑ってしまう。
「シアン様?」
「なんでもありません。見学を続けましょうか」
ヒスイに声をかけられたシアンは、笑ったままごまかしていた。
「そうそう。まだまだ見せるものはたくさんありますからね」
乗り気なシーリルの案内で、シアンたちの宝物庫の見学はまだ続くのである。
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