674 / 731
新章 青色の智姫
第305話 クロノアに課せられたもの
しおりを挟む
シアンが学園にいる間、スミレは一人で仕事をしている。
今日も今日とて、シアンの部屋を掃除したり、他の使用人たちを手伝いをしていたりする。
すっかり使用人としての行動も板についてきていた。
「やあ、クロノア」
仕事もほぼ一段落したタイミングで、一番会いたくない相手が今日も城へとやって来ていた。
「ケットシー……。あなた、商業組合の仕事はどうしたのですか」
「もちろん、終わらせてきているよ。いいじゃないか、ボクの仕事場は何も商業組合の中だけじゃないんだからね」
「嘘仰い。まだ午前中です。一日の仕事がこんなに早く終わるわけがないのです」
ケットシーがにこにことしながら話す内容を、スミレは真っ向から否定する。
ところが、怒られているはずのケットシーはいつものようににこにことしている。相変わらずの神経の図太さである。
「はっはっはっ、ばれてしまっては仕方ないね。ストロアに任せてきてあるよ。彼女は本当に有能で、ボクがいなくても仕事はきちんと回るのだからね」
「頼るのもいいですけれど、人を育てて下さいませ。まったく、あなたは常識のかけらもないのですか」
「はっはっはっ、君に言われたくないねぇ。シアンくんのメイドをするようになってから、ずいぶんと人間っぽくなったね」
「……うるさいですよ。邪魔をしに来たのなら帰って下さい。他の方が困惑してます」
やけに絡みまくってくるケットシーに嫌気がさしているようだ。
本当にこのケットシーはうざ絡みをしてくる。そのたびにスミレは対応に苦慮しているというものだ。
「まあ、悪かったね。でも、ボクの用事は終わっていないよ」
言葉では謝っているケットシーだが、スミレにさらに絡んでくる。
「なんですか。手短にお願いしますよ。やることはまだたくさんあるんですからね」
だが、スミレからすると本当にうっとうしいだけだ。とにかく邪険に扱うのみである。
「つれないねぇ、君は。まぁボクの用事はシアンくんに関することなんだよ」
「シアン様に、ですって?」
シアンの名前を出すと、ぴたりとスミレの動きが止まる。
ケットシーはその様子を見て、にやりと笑っている。
「そう、シアンくんのことだ」
大事なことなので二度繰り返すケットシー。
どこかにやついているケットシーを、スミレはギロリと睨みつけている。
「来年には学園を卒業して、アイヴォリー王国に向かうことになっているそうじゃないか。まあ、相手であるライトくんはまだ一年待たなければならないようだがね」
「それが、どうかなさったのですか?」
いちいち話しかけてきた内容がそれなのかと、スミレは呆れている。
スミレはシアンの侍女であるので、当然ながらついて行くことになっている。それはずっと前からの決定事項である。
「いやぁ、君が自分の役目を忘れていないか、それを確認しているんだけど、どうなんだい?」
「忘れるも何も、私はずっとシアン様にお仕えするだけです。私は幻獣ですから、問題なく最後まで見ることはできますよ」
ケットシーの問い掛けに、スミレは淡々と答えている。
あまりにもお堅い考えなだけに、ケットシーは笑顔のまま眉間にしわを寄せていた。
「そうかい。君がそれでいいのならボクはあまり言いたくはないんだが、シアンくんの侍女になる際に、父君から言われたことは覚えているかい?」
「お父様のですか……」
スミレの……幻獣クロノアの父親は、時の神獣クロノスである。
時間に関することなら圧倒的な力を持つ神獣で、その力に娘のクロノアよりも圧倒的に強い。
時渡りの秘法に関与し、影ながら関与し続けたことにクロノスはかなり怒っていたようだ。
そして、最後には時渡りの秘法の代償で消えるはずだった魂を保護し、転生できるようにまで仕向けた。
これには怒りながらも無関心だったクロノスも、キレてしまったらしい。その結果、クロノアの力をほとんど取り上げて、侍女として仕えて幸せにしてみろと言われたのである。
「しっかりと覚えていますよ。ですが、私はしょせん時の幻獣です。あまり深くかかわりすぎるのもよくありません。積極的に手を差し伸べるつもりは、これまでもこれからもありませんよ」
「そうかい。……悪かったね、引き留めてしまって」
「いえ、気にかけて頂いてありがとうございます」
スミレはぺこりと頭を下げると、他の使用人を手伝いにその場を去っていく。
「やれやれ、根本的なところは変わらないけど、行動を見ているとやっぱり変わったように見えるね。まったく無自覚だから困ったものだ」
ケットシーは腕を組みながら、スミレの姿を見守っている。
「けど、彼女は分かっていないようだね。この二年間が最大の山場だということを」
そう呟くと、ケットシーはくるりと振り返って歩き始める。
「さてさて、時渡りに転生まで経験した女性と、それに手を貸した幻獣の行く末を、最後まで間近で見させてもらうとしようかね。君たちが最後で選択肢を間違えないこと、ボクは陰ながら祈っているよ」
ケットシーはそうこぼしながら、お城の中をゆったりとした速度で歩いていくのだった。
今日も今日とて、シアンの部屋を掃除したり、他の使用人たちを手伝いをしていたりする。
すっかり使用人としての行動も板についてきていた。
「やあ、クロノア」
仕事もほぼ一段落したタイミングで、一番会いたくない相手が今日も城へとやって来ていた。
「ケットシー……。あなた、商業組合の仕事はどうしたのですか」
「もちろん、終わらせてきているよ。いいじゃないか、ボクの仕事場は何も商業組合の中だけじゃないんだからね」
「嘘仰い。まだ午前中です。一日の仕事がこんなに早く終わるわけがないのです」
ケットシーがにこにことしながら話す内容を、スミレは真っ向から否定する。
ところが、怒られているはずのケットシーはいつものようににこにことしている。相変わらずの神経の図太さである。
「はっはっはっ、ばれてしまっては仕方ないね。ストロアに任せてきてあるよ。彼女は本当に有能で、ボクがいなくても仕事はきちんと回るのだからね」
「頼るのもいいですけれど、人を育てて下さいませ。まったく、あなたは常識のかけらもないのですか」
「はっはっはっ、君に言われたくないねぇ。シアンくんのメイドをするようになってから、ずいぶんと人間っぽくなったね」
「……うるさいですよ。邪魔をしに来たのなら帰って下さい。他の方が困惑してます」
やけに絡みまくってくるケットシーに嫌気がさしているようだ。
本当にこのケットシーはうざ絡みをしてくる。そのたびにスミレは対応に苦慮しているというものだ。
「まあ、悪かったね。でも、ボクの用事は終わっていないよ」
言葉では謝っているケットシーだが、スミレにさらに絡んでくる。
「なんですか。手短にお願いしますよ。やることはまだたくさんあるんですからね」
だが、スミレからすると本当にうっとうしいだけだ。とにかく邪険に扱うのみである。
「つれないねぇ、君は。まぁボクの用事はシアンくんに関することなんだよ」
「シアン様に、ですって?」
シアンの名前を出すと、ぴたりとスミレの動きが止まる。
ケットシーはその様子を見て、にやりと笑っている。
「そう、シアンくんのことだ」
大事なことなので二度繰り返すケットシー。
どこかにやついているケットシーを、スミレはギロリと睨みつけている。
「来年には学園を卒業して、アイヴォリー王国に向かうことになっているそうじゃないか。まあ、相手であるライトくんはまだ一年待たなければならないようだがね」
「それが、どうかなさったのですか?」
いちいち話しかけてきた内容がそれなのかと、スミレは呆れている。
スミレはシアンの侍女であるので、当然ながらついて行くことになっている。それはずっと前からの決定事項である。
「いやぁ、君が自分の役目を忘れていないか、それを確認しているんだけど、どうなんだい?」
「忘れるも何も、私はずっとシアン様にお仕えするだけです。私は幻獣ですから、問題なく最後まで見ることはできますよ」
ケットシーの問い掛けに、スミレは淡々と答えている。
あまりにもお堅い考えなだけに、ケットシーは笑顔のまま眉間にしわを寄せていた。
「そうかい。君がそれでいいのならボクはあまり言いたくはないんだが、シアンくんの侍女になる際に、父君から言われたことは覚えているかい?」
「お父様のですか……」
スミレの……幻獣クロノアの父親は、時の神獣クロノスである。
時間に関することなら圧倒的な力を持つ神獣で、その力に娘のクロノアよりも圧倒的に強い。
時渡りの秘法に関与し、影ながら関与し続けたことにクロノスはかなり怒っていたようだ。
そして、最後には時渡りの秘法の代償で消えるはずだった魂を保護し、転生できるようにまで仕向けた。
これには怒りながらも無関心だったクロノスも、キレてしまったらしい。その結果、クロノアの力をほとんど取り上げて、侍女として仕えて幸せにしてみろと言われたのである。
「しっかりと覚えていますよ。ですが、私はしょせん時の幻獣です。あまり深くかかわりすぎるのもよくありません。積極的に手を差し伸べるつもりは、これまでもこれからもありませんよ」
「そうかい。……悪かったね、引き留めてしまって」
「いえ、気にかけて頂いてありがとうございます」
スミレはぺこりと頭を下げると、他の使用人を手伝いにその場を去っていく。
「やれやれ、根本的なところは変わらないけど、行動を見ているとやっぱり変わったように見えるね。まったく無自覚だから困ったものだ」
ケットシーは腕を組みながら、スミレの姿を見守っている。
「けど、彼女は分かっていないようだね。この二年間が最大の山場だということを」
そう呟くと、ケットシーはくるりと振り返って歩き始める。
「さてさて、時渡りに転生まで経験した女性と、それに手を貸した幻獣の行く末を、最後まで間近で見させてもらうとしようかね。君たちが最後で選択肢を間違えないこと、ボクは陰ながら祈っているよ」
ケットシーはそうこぼしながら、お城の中をゆったりとした速度で歩いていくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる