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新章 青色の智姫
第315話 不器用な親子
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スミレはかなり強いショックを受けたようだ。
シアンのためを思って転生させたというのに、それ徒となってしまう事態が近付いてきているからだ。
幻獣たちにはそれが気付かれているということは、神獣は間違いなく気が付いているだろうし、城にいるトルフもそのうち気が付くだろう。
スミレは意気消沈としてしまっていた。
「スミレ、どうしたのですか?」
部屋に戻ったところで、シアンから様子を尋ねられてしまう。
見て分かるほどに沈んでいたのだ。
「いえ、なんでもございません。シアン様」
「なんでしょうか、スミレ」
「お体の方は大丈夫ですか、倒れられたと伺いましたから」
「ええ、大丈夫ですね。この通り、元気ですよ」
椅子に座っていたシアンは立ち上がり、体を動かして元気をアピールしている。確かに、特に問題があるようではなかった。
元気そうな様子を見てほっとしたスミレではあるものの、やはり不安というものは消えなかった。
その夜のこと、スミレは城の屋根に出ていた。
時の幻獣としての力はほとんど封印されている状態ではあるものの、シアンが使う程度の魔法の行使にはほとんど影響がない。
エアリアルボードも実は使えるようになったスミレは、それを使って屋根の上に上がったのだ。
「はあ、どうしたものでしょうか。期限まで二年と迫ったことで、シアン様の体に徐々に変調が現れています……」
屋根に座って大きなため息をつくスミレは、そのまま強く膝を抱きかかえている。
「ふん、自分のしたことの無駄を、今さらに知ったか」
突然、声が響き渡る。
「この声は、お父様?!」
顔を上げて辺りを見回している。ただ、落っこちそうになるために立ち上がるまではしなかったようだ。
「ふん、愚かなる娘よ。久しぶりだな」
スミレの目の前には、あちこちに時計のデザインをあしらった服を着た老人が現れる。彼こそが時の神獣クロノスである。
禁忌を犯したスミレの力を封じ、罰を言い渡した張本人だ。
「お父様、どうすればシアン様を救えるのですか?」
気が弱くなっていたスミレは、クロノスに問いかけている。
「知らん。そんなもの、お前が見つけ出すものだ。自分のしたことは、最後まで自分で責任を持つのだ」
クロノスはスパッと言い捨てている。
基本的に神獣ともなると厳格な性格なものが多い。フェンリルやインフェルノを見てもよく分かることである。
そして、現世にはほとんど関与しないことが基本的姿勢となっている。
今回クロノスが現れた理由は、まったく見当もつかないところである。
こう言い切られてしまえば、スミレには何も言い返すことができなかった。確かに、自分が安易に関わったことで起きた事態だからだ。その責任は十分感じている。
「とはいえ、時渡りの秘法にこのような暴走が見られるとは思わなかった。だが、時渡りの秘法自体は、このわしが作り出した魔法。ゆえに、作り手としてなら多少の協力はしてやろう」
クロノスはスミレを見下しながら、意外なことを口にしていた。
そう、時渡りの秘法も時を司るクロノスの編み出した魔法だったのだ。
魔法の開発者として、その魔法の発動に伴う効果については関与することができるのである。
まったく、娘が心配だとは口にしない頑固な父親である。
「ケットシーの言っていた通り、今回の事態は回収べきものが回収できなかったことにより起きたことだ。つまり、この事態を収拾するために、回収すべきものを回収させるか、同等のものを捧げることが必要だろう」
クロノスの見解では、あの時に回収されるはずだったシアンの魂を予定通りに捧げるか、シアンと同等レベルの魂を捧げるかしないと、時渡りの秘法の暴走は止められないということだった。
「それは……、誰かを犠牲にしなければならないということですか、お父様」
「その通りだ。そもそも、お前が情に流されてあんなことをしたのが原因なのだ。覚悟を決めろ」
「……くっ」
冷たく言い放たれるクロノスの言葉に、スミレは何一つ言い返せなかった。
「気が付いているだろうが、時渡りの秘法が強制的に魂を回収するのは今から二年後の今頃だ。発動の理由となったことと同じ事象が起こり、時渡りの秘法はその役目を終える」
「ありもしないでっち上げでもって、シアン様が処刑されてしまう。そういうことですか……」
「その通りだ。あのロゼリアとかいう小娘が経験した、あの処刑が再現されるというわけだ」
「……絶対にさせるものですか」
クロノスの話を聞いたスミレは、歯を食いしばっている。
「わしの関われることはここまでだな。今度こそ、お前の判断が誤らないことを願っておるぞ」
クロノスは立ち去ろうとするが、急に足を止めてスミレへと振り返る。
「……まったく、わしも親というわけか」
「お父様?」
クロノスがぽつりと呟いた言葉に、スミレは思わず顔を見てしまう。
「今回だけ特別だからな。お前の力を少しばかり返してやろう。お前があのシアンとかいう小娘を救いたいと思うのならば、わしの力に抗ってみせるがいい」
クロノスはスミレの頭に手を軽く乗せると、封印した力の一部を解放する。
終われば慌てるようにしてその場から姿を消してしまった。
「……ありがとうございます、お父様」
スミレはしばらくその場に座り込んだまま動けなかったのだった。
シアンのためを思って転生させたというのに、それ徒となってしまう事態が近付いてきているからだ。
幻獣たちにはそれが気付かれているということは、神獣は間違いなく気が付いているだろうし、城にいるトルフもそのうち気が付くだろう。
スミレは意気消沈としてしまっていた。
「スミレ、どうしたのですか?」
部屋に戻ったところで、シアンから様子を尋ねられてしまう。
見て分かるほどに沈んでいたのだ。
「いえ、なんでもございません。シアン様」
「なんでしょうか、スミレ」
「お体の方は大丈夫ですか、倒れられたと伺いましたから」
「ええ、大丈夫ですね。この通り、元気ですよ」
椅子に座っていたシアンは立ち上がり、体を動かして元気をアピールしている。確かに、特に問題があるようではなかった。
元気そうな様子を見てほっとしたスミレではあるものの、やはり不安というものは消えなかった。
その夜のこと、スミレは城の屋根に出ていた。
時の幻獣としての力はほとんど封印されている状態ではあるものの、シアンが使う程度の魔法の行使にはほとんど影響がない。
エアリアルボードも実は使えるようになったスミレは、それを使って屋根の上に上がったのだ。
「はあ、どうしたものでしょうか。期限まで二年と迫ったことで、シアン様の体に徐々に変調が現れています……」
屋根に座って大きなため息をつくスミレは、そのまま強く膝を抱きかかえている。
「ふん、自分のしたことの無駄を、今さらに知ったか」
突然、声が響き渡る。
「この声は、お父様?!」
顔を上げて辺りを見回している。ただ、落っこちそうになるために立ち上がるまではしなかったようだ。
「ふん、愚かなる娘よ。久しぶりだな」
スミレの目の前には、あちこちに時計のデザインをあしらった服を着た老人が現れる。彼こそが時の神獣クロノスである。
禁忌を犯したスミレの力を封じ、罰を言い渡した張本人だ。
「お父様、どうすればシアン様を救えるのですか?」
気が弱くなっていたスミレは、クロノスに問いかけている。
「知らん。そんなもの、お前が見つけ出すものだ。自分のしたことは、最後まで自分で責任を持つのだ」
クロノスはスパッと言い捨てている。
基本的に神獣ともなると厳格な性格なものが多い。フェンリルやインフェルノを見てもよく分かることである。
そして、現世にはほとんど関与しないことが基本的姿勢となっている。
今回クロノスが現れた理由は、まったく見当もつかないところである。
こう言い切られてしまえば、スミレには何も言い返すことができなかった。確かに、自分が安易に関わったことで起きた事態だからだ。その責任は十分感じている。
「とはいえ、時渡りの秘法にこのような暴走が見られるとは思わなかった。だが、時渡りの秘法自体は、このわしが作り出した魔法。ゆえに、作り手としてなら多少の協力はしてやろう」
クロノスはスミレを見下しながら、意外なことを口にしていた。
そう、時渡りの秘法も時を司るクロノスの編み出した魔法だったのだ。
魔法の開発者として、その魔法の発動に伴う効果については関与することができるのである。
まったく、娘が心配だとは口にしない頑固な父親である。
「ケットシーの言っていた通り、今回の事態は回収べきものが回収できなかったことにより起きたことだ。つまり、この事態を収拾するために、回収すべきものを回収させるか、同等のものを捧げることが必要だろう」
クロノスの見解では、あの時に回収されるはずだったシアンの魂を予定通りに捧げるか、シアンと同等レベルの魂を捧げるかしないと、時渡りの秘法の暴走は止められないということだった。
「それは……、誰かを犠牲にしなければならないということですか、お父様」
「その通りだ。そもそも、お前が情に流されてあんなことをしたのが原因なのだ。覚悟を決めろ」
「……くっ」
冷たく言い放たれるクロノスの言葉に、スミレは何一つ言い返せなかった。
「気が付いているだろうが、時渡りの秘法が強制的に魂を回収するのは今から二年後の今頃だ。発動の理由となったことと同じ事象が起こり、時渡りの秘法はその役目を終える」
「ありもしないでっち上げでもって、シアン様が処刑されてしまう。そういうことですか……」
「その通りだ。あのロゼリアとかいう小娘が経験した、あの処刑が再現されるというわけだ」
「……絶対にさせるものですか」
クロノスの話を聞いたスミレは、歯を食いしばっている。
「わしの関われることはここまでだな。今度こそ、お前の判断が誤らないことを願っておるぞ」
クロノスは立ち去ろうとするが、急に足を止めてスミレへと振り返る。
「……まったく、わしも親というわけか」
「お父様?」
クロノスがぽつりと呟いた言葉に、スミレは思わず顔を見てしまう。
「今回だけ特別だからな。お前の力を少しばかり返してやろう。お前があのシアンとかいう小娘を救いたいと思うのならば、わしの力に抗ってみせるがいい」
クロノスはスミレの頭に手を軽く乗せると、封印した力の一部を解放する。
終われば慌てるようにしてその場から姿を消してしまった。
「……ありがとうございます、お父様」
スミレはしばらくその場に座り込んだまま動けなかったのだった。
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