ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

文字の大きさ
65 / 200

第65話 王都は王都で……

しおりを挟む
 レイチェルたちが二年目の試行錯誤をしている頃、妹のルーチェと国の王女であるアマリスは学園になじみ始めていた。
 元々適応するだけの能力も高かったので、当然といえば当然の結果である。
 同級生の中にはすでに友人も多く、二人の生活は順調のようだった。

「退屈ですわね」

「そうですね」

 二人は多くの友人に囲まれながらも、そんなことを呟いていた。
 原因はレイチェルである。
 本来ならば、ひとつ上の学年に二人の心の拠り所であるレイチェルがいるはずだった。
 ところが、そのレイチェルは入学試験に落ちてしまい、公爵領の端っこで細々と農園を営んでいる。
 本人たちはとても楽しそうなのでアマリスもルーチェもあまり文句は言いたくないのだが、やっぱりレイチェルのいない学園というのはちょっと寂しそうだった。

「採点に不正があったのではと疑ってみましたが、特に問題はなさそうでしたわ」

「先生たちに答案を見せてもらうように掛け合うなんて、アマリス様ってばなかなか無茶をなさいますね」

 食堂に向かいながら、二人はそんなことを話していた。

 ―――

 それは入学直後のことだった。
 晴れて入学したことで、アマリスは真っ先にレイチェルの答案用紙を確認に行ったのである。
 入学試験の答案は五年間の保管義務が課せられているので、教師に掛け合えばすぐに見せてもらうことができた。
 そこでアマリスが確認したのは、まったく不正のないレイチェルの解答用紙だった。
 アマリスが確認したのは、レイチェルと話していた通り、付与魔法に関する問題についての正答率の悪さだった。

(なるほどですね……。他の問題はほぼ満点ですのに、付与魔法に関する項目だけまったく逆、つまりほぼ不正解ですわ。これは落とされても仕方ありませんね)

 正答率八割以上が合格ラインともいえる入学試験で、痛恨のミスである。
 その結果、ぎりぎり合格ラインを割り込んでしまい、不合格通知を叩きつけられたのである。
 ちなみにこの事実はルーチェにもすぐに伝えられ、ルーチェが頭を抱えてしまったのはいうまでもない話だった。

 ―――

「お姉様って自分で何でもできるところはありますけれど、ところどころ抜けていますからね」

「本当ですわ。お兄様とはお似合いだと思っていたのですが、本当にあれだけは残念でした」

 アマリスは腕を組んでうんうんと頷いていた。
 食堂に到着したアマリスとルーチェは、奥へと向かっていく。

「やあ、アマリス、ルーチェ。やっと来たのか」

「お待たせして申し訳ありませんわ、お兄様」

「殿下、お待たせして申し訳ございません」

 食堂に到着した二人に声をかけてきたのは、王子であるアンドリューだった。今はルーチェの婚約者である。
 アンドリューが自分の向かいに座るように二人に促すと、アマリスとルーチェはそれに従った。

「お兄様、お一人ですのね」

「ああ、お昼くらいは静かに食べたいからね。クラスに戻れば側近候補がわらわらと集まってきてね、なんとも落ち着かないんだ」

「殿下は人気者ですものね」

 ルーチェが淡々と言えば、アンドリューはちょっと困ったように笑っていた。

「人気なのはいいけれど、私はあまり付きまとわれるのは好きじゃないのでね。食事の時だけは絶対に近付くなといい渡してあるんだ。食事を邪魔したら側近に選ばないと脅してね」

「まあ、お兄様ったら」

 アンドリューの徹底っぷりに、アマリスは笑っていた。

「それよりも聞いたぞ、アマリス。レイチェルの答案を見せてもらったそうじゃないか。私ですら遠慮したのに」

 アンドリューは困ったような表情でアマリスに確認を取っている。

「ええ、見せて頂きましたわ。お姉様が落とされたことに納得しておりませんでしたから」

「でも、その顔だと納得させられたようだな」

「……はい、その通りです」

 結果を目の当たりにした以上は、さすがに納得するしかなかったのだ。
 兄にも諭され、アマリスはこの件はもう幕引きするしかなかったのである。

「いつまでも過去を引きずっているわけにはいかないぞ、アマリス。私たち王族は常に国の未来を考えなければならないのだからな」

「はい、お兄様」

 アンドリューは兄らしく、アマリスを説得していた。

「それはそうと、あのラッシュバードはどうするんだ? 話によれば卵を産んだらしいが」

「それでしたら育てます。フォレとラニの初めての子どもですもの」

「そうか……。でも、魔物は魔物だ。あまり増えすぎても困るから、以降の卵は全部処分させてもらうからな」

「ぐぬぬぬ……。王都の中ですし、仕方ありませんね。あの二羽には申し訳ありませんけれど、国民の安全が最優先ですものね……」

 最初に産んだ卵は見逃す代わりに、以降の卵はすべて回収されることになってしまった。
 可哀想ではあるが、こればかりは仕方がないと涙ながらに条件を飲むことにした。

「よし、話も終わったことだし、さっさと食べてしまおう。食事が冷めてしまうし、お昼も終わってしまうからな」

「はい、お兄様……」

「そうですね、いただきましょう」

 ルーチェは普通に返事をしたが、アマリスの顔は悔しそうに唇をかみしめていた。
 フォレとラニが自分にものすごく懐いているせいか、かなり情が湧いてしまっているようなのだ。
 アンドリューもそれがよく分かっているが、王子として決断を下さなければならなかった。

 王都にいるアマリスたちも、それぞれに悩みを抱えているのであった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお
ファンタジー
聖女見習いとして教会に仕えていた少女は、 「役立たず」と嘲笑され、ある日突然、追放された。 理由は単純。 彼女が召喚できるのは――タンスやぬいぐるみなどの非生物だけだったから。 森へ放り出され、夜を前に途方に暮れる中、 彼女は必死に召喚を行う。 呼び出されたのは、一体の熊のぬいぐるみ。 だがその瞬間、彼女のスキルは覚醒する。 【付喪神】――非生物に魂を宿らせる能力。 喋らないが最強の熊、 空を飛び無限引き出し爆撃を行うタンス、 敬語で語る伝説級聖剣、 そして四本足で歩き、すべてを自動化する“マイホーム”。 彼女自身は戦わない。 努力もしない。 頑張らない。 ただ「止まる場所が欲しかった」だけなのに、 気づけば魔物の軍勢は消え、 王城と大聖堂は跡形もなく吹き飛び、 ――しかし人々は、なぜか生きていた。 英雄になることを拒み、 責任を背負うこともせず、 彼女は再び森へ帰る。 自動調理、自動防衛、完璧な保存環境。 便利すぎる家と、喋らない仲間たちに囲まれた、 頑張らないスローライフが、今日も続いていく。 これは、 「世界を救ってしまったのに、何もしない」 追放聖女の物語。 -

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...