30 / 109
Mission029
しおりを挟む
その日の夜、ギルソンが寝てしまった後もアリスは起きていた。そして、窓際に立って外の月明かりを眺めていた。
オートマタは寝る必要がないとはいえ、人間の魂がこもった状態のアリスは、実は寝た方が効率が良い。だが、この日のアリスは気になる事があって寝付けなかったのだ。
(まさか、こっちの世界でもマリカとジャスミンの組み合わせを見る事になるなんてね。まぁ向こうは娘とオス犬だったのだけれども、こういう偶然ってあるものなのかしらね)
アリスの頭の中をかき乱していたのは、昼間のオートマタの工房での出来事だった。
マリカにオートマタを持たせるまでは計画通りだったのだが、まさかそこでこんな予想外な事が起きるとは思っていなかったのだ。
……前世との一致。自分の名前を含めて、ある意味前世の世界がこの世界に影響を及ぼしているように見られるのだ。
ただ、現時点での展開は、小説で描いた世界とはかなりかけ離れている。国内の食糧事情は改善しているのだが、これを行った事で別の部分で軋轢が起こってしまっているのだ。
ギルソンとそれ以外の兄弟の関係も、今は少々ばかりよろしくない。すぐ上の兄弟とはそこそこ話はするのだが、上の方の兄弟ともなると疎遠どころか、一方的な敵意すら見せてくる瞬間があるのだ。はっきり言って、これはアリスの望んでいない展開だった。
それ以外にも問題はある。とにかくお隣の国が問題なのだ。マスカード帝国は着実に戦争の準備をしてるという噂も出ているくらいに、ファルーダン王国の事を敵視している。今までは農産物を買ってくれていたので、その優越感から温厚な関係にしてくれていたのだった。だからこそ、食糧事情の改善した王国を敵視し始めたというわけである。
実はマリカにオートマタを造らせたのは、この関係を改善しようとする第一歩なのだ。
(やはり、帝国には自国とこちらが特別な関係であるという事を誇示しなくてはならないわね。となると、前世での知識を持ち出さざるを得ないわ)
アリスはとある壮大な計画を抱いていた。アリスは夜通しでその計画の構想を書き起こしていく。その計画は実にとんでもないものであり、この世界の技術で再現できるかどうかは分からない。しかし、帝国を黙らせるには、こちらの国の技術力の高さを見せつける事が一番だろう。
月明かりが部屋を照らす中、アリスが高速でその腕を動かす音が部屋に響いていた。
翌朝、アリスは持っていたペンを置くと、思いっきり背伸びをする。オートマタとはいえど凝る時は凝るのである。
徹夜で作り上げた計画書を見直したアリスは、軽く浄化の魔法を掛けて髪や服を整えると、ギルソンの着替えなどを準備する。ひと通りの準備を終えると、ようやくギルソンが目を覚まし、体を起こして小さく伸びをしていた。
「おはようございます、マイマスター」
アリスが声を掛けると、
「うん、おはよう、アリス」
眠い目を擦るギルソンから挨拶が返ってきた。
「マイマスター、すぐ洗顔の水をご用意いたします」
アリスはそう言って金属の桶を用意すると、そこに魔法で水を出した。それを使ってギルソンが顔を洗うと、アリスはすぐさま布巾を持って優しくギルソンの顔と手を丁寧に拭った。
(本当に、何度見ても魔法っていうのは便利な能力ね)
改めてそう思いながら、アリスはギルソンの服を着替えさせていく。そして、着替えを終えたギルソンは、アリスと共に朝食の席へ向かった。
食堂に出向くとそこには親兄弟が全員揃っていた。しかし、すぐさまギルソンには突き刺さるような視線が向けられた。その視線の元は二人で、そのうちの一人は一番上のアインダード。彼は元々そんなに仲のいい方ではなかったから納得できるのだが、もう一つの視線の主が意外だった。それはなんと第二王子のシュヴァリエだったのだ。
小説ではヒロインであるマリカと共にファルーダンを救う事になる彼だが、その彼がギルソンに向ける視線には、明らかな敵意がこもっていたのである。優しく勇敢な第二王子のはずが、一体どうしてこうなったのだろうか。アリスはシュヴァリエの視線にとても違和感を持った。その様子は兄弟から疎まれていた小説の中のギルソンのようで、まるで二人の運命が逆転してしまったようではないか。アリスは心の中で首を捻っていた。
そんな険悪な雰囲気のあった朝食の席だったが、ひとまず何も起こらずに無事に終える。すると、アインダードとシュヴァリエはとっとと席を立ってしまう。この二人の年齢は20歳と17歳だ。次代の王国を背負う者としての責務があるのだろう。だからこそ、そうゆっくりとはしていられないのではないかとアリスは考えた。
しかし、実のところは二人は単純にこれ以上ギルソンと同じ空間に居たくなかっただけなのだ。食事は極力家族揃って取るのが王家のしきたりゆえに、兄より優れた弟に嫉妬していながらも、仕方なく同席していたというわけである。ところが、この時のアリスには、その二人の感情が理解できなかった。それゆえに、アリスはただ食堂を出ていく二人を見送る事しかできなかった。
そして、食事が終わってギルソンの自室に戻ると、アリスは早速ギルソンに徹夜で書き起こした壮大な計画の話を持ち掛けたのだった。
このオートマタ、一体何をするつもりだというのだろうか。
オートマタは寝る必要がないとはいえ、人間の魂がこもった状態のアリスは、実は寝た方が効率が良い。だが、この日のアリスは気になる事があって寝付けなかったのだ。
(まさか、こっちの世界でもマリカとジャスミンの組み合わせを見る事になるなんてね。まぁ向こうは娘とオス犬だったのだけれども、こういう偶然ってあるものなのかしらね)
アリスの頭の中をかき乱していたのは、昼間のオートマタの工房での出来事だった。
マリカにオートマタを持たせるまでは計画通りだったのだが、まさかそこでこんな予想外な事が起きるとは思っていなかったのだ。
……前世との一致。自分の名前を含めて、ある意味前世の世界がこの世界に影響を及ぼしているように見られるのだ。
ただ、現時点での展開は、小説で描いた世界とはかなりかけ離れている。国内の食糧事情は改善しているのだが、これを行った事で別の部分で軋轢が起こってしまっているのだ。
ギルソンとそれ以外の兄弟の関係も、今は少々ばかりよろしくない。すぐ上の兄弟とはそこそこ話はするのだが、上の方の兄弟ともなると疎遠どころか、一方的な敵意すら見せてくる瞬間があるのだ。はっきり言って、これはアリスの望んでいない展開だった。
それ以外にも問題はある。とにかくお隣の国が問題なのだ。マスカード帝国は着実に戦争の準備をしてるという噂も出ているくらいに、ファルーダン王国の事を敵視している。今までは農産物を買ってくれていたので、その優越感から温厚な関係にしてくれていたのだった。だからこそ、食糧事情の改善した王国を敵視し始めたというわけである。
実はマリカにオートマタを造らせたのは、この関係を改善しようとする第一歩なのだ。
(やはり、帝国には自国とこちらが特別な関係であるという事を誇示しなくてはならないわね。となると、前世での知識を持ち出さざるを得ないわ)
アリスはとある壮大な計画を抱いていた。アリスは夜通しでその計画の構想を書き起こしていく。その計画は実にとんでもないものであり、この世界の技術で再現できるかどうかは分からない。しかし、帝国を黙らせるには、こちらの国の技術力の高さを見せつける事が一番だろう。
月明かりが部屋を照らす中、アリスが高速でその腕を動かす音が部屋に響いていた。
翌朝、アリスは持っていたペンを置くと、思いっきり背伸びをする。オートマタとはいえど凝る時は凝るのである。
徹夜で作り上げた計画書を見直したアリスは、軽く浄化の魔法を掛けて髪や服を整えると、ギルソンの着替えなどを準備する。ひと通りの準備を終えると、ようやくギルソンが目を覚まし、体を起こして小さく伸びをしていた。
「おはようございます、マイマスター」
アリスが声を掛けると、
「うん、おはよう、アリス」
眠い目を擦るギルソンから挨拶が返ってきた。
「マイマスター、すぐ洗顔の水をご用意いたします」
アリスはそう言って金属の桶を用意すると、そこに魔法で水を出した。それを使ってギルソンが顔を洗うと、アリスはすぐさま布巾を持って優しくギルソンの顔と手を丁寧に拭った。
(本当に、何度見ても魔法っていうのは便利な能力ね)
改めてそう思いながら、アリスはギルソンの服を着替えさせていく。そして、着替えを終えたギルソンは、アリスと共に朝食の席へ向かった。
食堂に出向くとそこには親兄弟が全員揃っていた。しかし、すぐさまギルソンには突き刺さるような視線が向けられた。その視線の元は二人で、そのうちの一人は一番上のアインダード。彼は元々そんなに仲のいい方ではなかったから納得できるのだが、もう一つの視線の主が意外だった。それはなんと第二王子のシュヴァリエだったのだ。
小説ではヒロインであるマリカと共にファルーダンを救う事になる彼だが、その彼がギルソンに向ける視線には、明らかな敵意がこもっていたのである。優しく勇敢な第二王子のはずが、一体どうしてこうなったのだろうか。アリスはシュヴァリエの視線にとても違和感を持った。その様子は兄弟から疎まれていた小説の中のギルソンのようで、まるで二人の運命が逆転してしまったようではないか。アリスは心の中で首を捻っていた。
そんな険悪な雰囲気のあった朝食の席だったが、ひとまず何も起こらずに無事に終える。すると、アインダードとシュヴァリエはとっとと席を立ってしまう。この二人の年齢は20歳と17歳だ。次代の王国を背負う者としての責務があるのだろう。だからこそ、そうゆっくりとはしていられないのではないかとアリスは考えた。
しかし、実のところは二人は単純にこれ以上ギルソンと同じ空間に居たくなかっただけなのだ。食事は極力家族揃って取るのが王家のしきたりゆえに、兄より優れた弟に嫉妬していながらも、仕方なく同席していたというわけである。ところが、この時のアリスには、その二人の感情が理解できなかった。それゆえに、アリスはただ食堂を出ていく二人を見送る事しかできなかった。
そして、食事が終わってギルソンの自室に戻ると、アリスは早速ギルソンに徹夜で書き起こした壮大な計画の話を持ち掛けたのだった。
このオートマタ、一体何をするつもりだというのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる