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第33話 乗馬を楽しむ元魔王
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「うわぁ、視線が高いですね」
馬にまたがったアリエスはかなり興奮しているようだった。
魔王時代を含めて長く生きてきた中で、実に初めての体験なのだから、このくらい興奮しても不思議ではないだろう。
「それにしても、この子ってなんだか他の子と比べても毛色が白いですね」
「ああ、葦毛っていって、毛が白くなっていく種類なんですよ。ただ、こいつは外には出せない子なんで、こうやって屋敷内だけで終わる初心者用の馬としてしか役に立てないんですよね」
「あら、それはどういうことなのですか?」
騎士の説明を聞いて、アリエスは気になって尋ねてしまう。
「白い毛色っていうのは目立つんですよ。それこそ雪でも舞っているようなところでもないと、この白い毛色が周りの景色から浮いてしまって、敵に簡単に見つけられてしまうんですよ」
「なるほど、それは確かに致命的ですね」
「なんですよ」
アリエスは、自分のまたがっている馬を撫でてながらちょっと落ち込んでいる。
これだけ立派でありながら、出番が限られるというのが可哀想だと思ったのだ。
「まあ、こいつらでも出番はあるっちゃあるんですよ」
「そうなんですか?」
騎士の言葉に、アリエスは顔を勢いよく上げて振り向く。
「おっと、そんなに勢いよく動いちゃ落っこちますよ。気を付けて下さい」
「あ、失礼致しました」
騎士に注意されて、アリエスはおとなしく謝っている。
様子を見守るサハーはちょっとイラついているようだが、アリエスがちらりと睨んで黙らせていた。
「先程も言った通り、目立つというのを逆に利用するんですよね。国王陛下たち王族のパレードで使うんですよ。あれは目立ってなんぼのイベントですからね」
「そういうことですか。よかったです、この子にも出番があるようなことがありまして」
アリエスはほっとしているようである。
さすがは部下のことをずっと気にかけていた元魔王であるアリエスだ。
「多分、近いうちに出番がありますよ。なにせ、聖女様がいらっしゃるのですからね」
「本当ですか?」
「ええ、今年はデビュタントを終えられたではありませんか。大々的なお披露目があると聞いております。っと、これは伯爵様から口止めされたんだ、忘れて下さい」
「ホーンド? お父様に報告をしておきますね」
「そ、そんなカプリナ様……」
カプリナに睨まれながら注意をされると、ホーンドはおろおろとしている。言ってしまった人が悪いというものだ。
「ふふっ、そうですか。私のことがいよいよ対外的に発表されるというわけですね。それは楽しみです。他の聖女様たちとも、お会いすることになるのでしょうかね」
「はい、聖女様の正式に指名されますと、他の国の聖女様たちもお祝いに駆けつける習わしになっています。ですので、アリエスさんのこともデビュタントを通じて他国に知らされましたので、この伯爵領に他の聖女様が集われると思われますよ」
「そうなのですね。他の聖女の方々はどのような方たちなのでしょうか。今から楽しみでなりませんね」
ホーンドの前に座るアリエスが、カプリナの方を見ながら笑顔を見せている。
「はい、私も楽しみですよ。デビュタント以外でこの領地から出たことがありませんから、私も初めてお会いすることになりますのでね」
カプリナもどうやら楽しみにしているようである。
「では、話はそれくらいにしておきまして、馬に慣れるところから始めますよ。揺れますのでしっかりと鞍に捕まっていて下さいね」
「分かりました。お願いします」
話を終えて、ホーンドは馬をゆっくりと歩かせ始める。
少し歩かせて馬術場の端まで来ると、くるりと方向転換をする。ホーンドは一度ここで馬を止める。
「それではあちらの端っこまでちょっと軽く走らせますね」
「分かりました」
ホーンドが合図を送ると、馬はゆっくりと走り始める。
地面を蹴るたびに思いの外、衝撃がやって来る。ゆっくりでこんなに来るのだから、本気で走ったらどんな衝撃が来るのか分からない。
「どうでしたでしょうか。慣れないうちはこれだけでもかなりきついかと思います。厳しそうならば、今日はこのくらいでやめておきますけれど、いかがなさいますか?」
ホーンドが気遣ってくるが、アリエスはちょっと楽しくなっているのか、もう一往復頼むことにした。
「分かりました。ですが、ダメだと思ったら早めに言って下さいね。聖女様に無理をさせるわけには参りませんから」
アリエスは黙ってこくりと頷いていた。
結局、一往復を無事に済ませることができたアリエスは、満足した表情で馬から降ろしてもらった。
「視線の高さと風を切る感じが心地よいですね。またお願いしてもよろしいでしょうか」
「聖女様が望まれるのでしたら、俺たちは従うまでです。ですが、必ず教会から外出の許可を頂いて下さいよ?」
「はい、もちろんです」
アリエスがにこにこと満足した様子で受け答えをしている中、一緒に馬に乗る訓練をしていたサハーがへとへとな様子を見せていた。
「わ、私はしばらく遠慮させてもらう。やはり陸の上はダメです……」
フィシェギルという半魚人であるために、サハーには合わなかったようだった。
「ダメですよ、サハー。私の護衛であるのなら、馬は乗りこなしてもらいます。慣れて下さい」
「そ、そんなぁ……」
無情なアリエスからの指示に、サハーはがっくりと項垂れていた。
これにはカプリナもホーンドも笑うしかなかった。
こうして、アリエスの初めての乗馬体験は無事に終わったのである。
馬にまたがったアリエスはかなり興奮しているようだった。
魔王時代を含めて長く生きてきた中で、実に初めての体験なのだから、このくらい興奮しても不思議ではないだろう。
「それにしても、この子ってなんだか他の子と比べても毛色が白いですね」
「ああ、葦毛っていって、毛が白くなっていく種類なんですよ。ただ、こいつは外には出せない子なんで、こうやって屋敷内だけで終わる初心者用の馬としてしか役に立てないんですよね」
「あら、それはどういうことなのですか?」
騎士の説明を聞いて、アリエスは気になって尋ねてしまう。
「白い毛色っていうのは目立つんですよ。それこそ雪でも舞っているようなところでもないと、この白い毛色が周りの景色から浮いてしまって、敵に簡単に見つけられてしまうんですよ」
「なるほど、それは確かに致命的ですね」
「なんですよ」
アリエスは、自分のまたがっている馬を撫でてながらちょっと落ち込んでいる。
これだけ立派でありながら、出番が限られるというのが可哀想だと思ったのだ。
「まあ、こいつらでも出番はあるっちゃあるんですよ」
「そうなんですか?」
騎士の言葉に、アリエスは顔を勢いよく上げて振り向く。
「おっと、そんなに勢いよく動いちゃ落っこちますよ。気を付けて下さい」
「あ、失礼致しました」
騎士に注意されて、アリエスはおとなしく謝っている。
様子を見守るサハーはちょっとイラついているようだが、アリエスがちらりと睨んで黙らせていた。
「先程も言った通り、目立つというのを逆に利用するんですよね。国王陛下たち王族のパレードで使うんですよ。あれは目立ってなんぼのイベントですからね」
「そういうことですか。よかったです、この子にも出番があるようなことがありまして」
アリエスはほっとしているようである。
さすがは部下のことをずっと気にかけていた元魔王であるアリエスだ。
「多分、近いうちに出番がありますよ。なにせ、聖女様がいらっしゃるのですからね」
「本当ですか?」
「ええ、今年はデビュタントを終えられたではありませんか。大々的なお披露目があると聞いております。っと、これは伯爵様から口止めされたんだ、忘れて下さい」
「ホーンド? お父様に報告をしておきますね」
「そ、そんなカプリナ様……」
カプリナに睨まれながら注意をされると、ホーンドはおろおろとしている。言ってしまった人が悪いというものだ。
「ふふっ、そうですか。私のことがいよいよ対外的に発表されるというわけですね。それは楽しみです。他の聖女様たちとも、お会いすることになるのでしょうかね」
「はい、聖女様の正式に指名されますと、他の国の聖女様たちもお祝いに駆けつける習わしになっています。ですので、アリエスさんのこともデビュタントを通じて他国に知らされましたので、この伯爵領に他の聖女様が集われると思われますよ」
「そうなのですね。他の聖女の方々はどのような方たちなのでしょうか。今から楽しみでなりませんね」
ホーンドの前に座るアリエスが、カプリナの方を見ながら笑顔を見せている。
「はい、私も楽しみですよ。デビュタント以外でこの領地から出たことがありませんから、私も初めてお会いすることになりますのでね」
カプリナもどうやら楽しみにしているようである。
「では、話はそれくらいにしておきまして、馬に慣れるところから始めますよ。揺れますのでしっかりと鞍に捕まっていて下さいね」
「分かりました。お願いします」
話を終えて、ホーンドは馬をゆっくりと歩かせ始める。
少し歩かせて馬術場の端まで来ると、くるりと方向転換をする。ホーンドは一度ここで馬を止める。
「それではあちらの端っこまでちょっと軽く走らせますね」
「分かりました」
ホーンドが合図を送ると、馬はゆっくりと走り始める。
地面を蹴るたびに思いの外、衝撃がやって来る。ゆっくりでこんなに来るのだから、本気で走ったらどんな衝撃が来るのか分からない。
「どうでしたでしょうか。慣れないうちはこれだけでもかなりきついかと思います。厳しそうならば、今日はこのくらいでやめておきますけれど、いかがなさいますか?」
ホーンドが気遣ってくるが、アリエスはちょっと楽しくなっているのか、もう一往復頼むことにした。
「分かりました。ですが、ダメだと思ったら早めに言って下さいね。聖女様に無理をさせるわけには参りませんから」
アリエスは黙ってこくりと頷いていた。
結局、一往復を無事に済ませることができたアリエスは、満足した表情で馬から降ろしてもらった。
「視線の高さと風を切る感じが心地よいですね。またお願いしてもよろしいでしょうか」
「聖女様が望まれるのでしたら、俺たちは従うまでです。ですが、必ず教会から外出の許可を頂いて下さいよ?」
「はい、もちろんです」
アリエスがにこにこと満足した様子で受け答えをしている中、一緒に馬に乗る訓練をしていたサハーがへとへとな様子を見せていた。
「わ、私はしばらく遠慮させてもらう。やはり陸の上はダメです……」
フィシェギルという半魚人であるために、サハーには合わなかったようだった。
「ダメですよ、サハー。私の護衛であるのなら、馬は乗りこなしてもらいます。慣れて下さい」
「そ、そんなぁ……」
無情なアリエスからの指示に、サハーはがっくりと項垂れていた。
これにはカプリナもホーンドも笑うしかなかった。
こうして、アリエスの初めての乗馬体験は無事に終わったのである。
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