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第74話 魔力循環の把握に苦戦する元魔王
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「よし、今日はこれまで」
その日の夕方、ようやくヴァコルによる魔法の講義が終わる。
ちゃんと朝の祈祷と昼のご飯の時間は確保してもらえたが、終わる頃にはアリエスの息は完全に上がっていた。
「はあ、はあ……。これがヴァコル様の魔法理論ですか。ずいぶんと奥が深いです……」
息が上がりながらも、アリエスは確かな手応えを感じているようだ。
そのアリエスの様子を見ながら、ヴァコルはちょっと感心した様子を見せている。
「本来なら一週間近くかけてやることなのだが、圧縮したとはいえ、一日で習得するとは驚きましたね」
聖女であるので、ある程度魔法の使い方に慣れているだろう。それを踏まえたとはいえ、少し慣れた頃の魔法使いにするような話をまとめてしたのである。
それでも、アリエスはしっかりとついてきた。
「ですが、これはあくまでも初級のお話です。明日からは確認をした上で、更なる話に入ります。すべてを理解されれば、今よりも確実に魔力をきちんと扱えるようになります」
「はい、頑張ります。明日もよろしくお願い致します、ヴァコル様」
キラキラとした瞳を向けられて、ヴァコルは思わず目を丸くして引いてしまう。
「ヴァコル様……?」
「いや、なんでもない。その意気なら、明日の講義も大丈夫でしょうね。今日はもうゆっくり休んで下さい。それでは」
ヴァコルはそそくさと教会の中へと戻っていってしまった。
あまりにもそっけない態度に、アリエスはきょとんとするばかりである。
「なんなんですかね、あいつ」
「サハー、あまり人の悪口は言うものではありませんよ?」
「何も言ってないんですが?」
アリエスに声をかけたサハーだが、ありえない反撃を食らってたじろいでいる。後に続く言葉を見破られたようで、あたふたしているのである。
それもそうだろう。アリエスはサハーの元上司の魔王だ。それとなく付き合いも長いせいで、サハーの単純な思考も手伝って、あっさりとアリエスに見抜かれてしまっているのである。
「とりあえず、明日の講義は今日の復習から始まります。しっかりと今日教えていただいたことを振り返りませんとね」
アリエスはふんすと意気込んでいる。
「では、お昼の祈祷がありますので、私は一度礼拝室に向かいます。サハーは周辺の警戒をお願いしますね」
「承知致しました。あの男にはくれぐれも気をつけて下さいよ。私のことが分かっているみたいですしね」
「ふふっ、ご忠告ありがとうございます」
アリエスはサハーと話を終えると、教会の中へと戻っていく。
アリエスの姿を見送ったサハーは、頭を擦りながら警備の仕事へと戻っていった。
お昼の祈祷を済ませたアリエスは、お風呂と夕食を済ませてから自室へと戻る。
部屋に戻ったアリエスは、今日の講義の内容をじっくりと思い出している。
「えっと、確か、体内の魔力の循環をしっかりと認識する、でしたかね……」
アリエスは、体内の魔力の流れについて再確認をする。
これは、ハデキヤ帝国内でキャサリーンに魔力暴走を治めてもらった時の経験があるので、なんとなく分かるというもの。
「あの時は、キャサリーン様が一時的な治療ということで抑えて下さったのですよね。ですが、普段の魔力が乱れているようでしたら、また起きる可能性があるというわけですね。それをしっかり認識しておく、ヴァコル様のお話はそういうことでしたね」
アリエスは自分の両手をじっと見つめながら考え込んでいる。
ところが、アリエスの表情はどうも浮かない感じである。
魔王時代は、魔力の循環など気にしたことがなかった。魔族は無理やりにでも魔力を放出すればどうとでもなっていたからだ。
しかし、これは魔族の頑丈な体があってこそである。
人間の体というのは、想像以上にもろい。それゆえに無理やり魔力を使って動かそうものなら、簡単にガタが来てしまう。
それは、過去に何度か経験したことである。
身体能力を強化するために魔法を使ったことはあるものの、同時に回復魔法も展開していないと、体が悲鳴を簡単に上げてくれていた。簡単にいえば激痛に見舞われていたのである。
しかし、それを思うと、魔力暴走という仕組みもよく分からない。
魔力が暴走するということは、体もそれなりに傷がつきそうなものである。
現実はまったくの無傷な上に、さらにいえば無自覚である。この謎めいた現象には、アリエスも首を捻るばかりである。
(まあ、よく分からんが、体の中の魔力をきちんと認識する、これが一番大事ということだろうな)
とりあえずよく分からないけれど、そういうことなんだろうと、アリエスは一応の納得をすることにした。
その日の夜は就寝するまでの間、ヴァコルの話していた内容に従って、体内の魔力をしっかりと感じ取る特訓に励む。
「ぜはー、ぜはー……。うう、む、難しいですね」
これまで一度も養ったことのない感覚というのは、そう簡単に身に付くものでもない。
かなりの時間を費やしたというのに、アリエスにはいまいち魔力の流れを感じ取ることができなかったようだった。
「ふわぁ……。眠くなってきましたね」
頑張りすぎたせいか、思わずあくびをしてしまう。
これはやむを得ないと、アリエスは結局魔力の流れを把握できないまま、初日の夜は眠ることにしたのだった。
アリエスが普通の人間の体になじみ切るには、まだまだ時間がかかりそうである。
その日の夕方、ようやくヴァコルによる魔法の講義が終わる。
ちゃんと朝の祈祷と昼のご飯の時間は確保してもらえたが、終わる頃にはアリエスの息は完全に上がっていた。
「はあ、はあ……。これがヴァコル様の魔法理論ですか。ずいぶんと奥が深いです……」
息が上がりながらも、アリエスは確かな手応えを感じているようだ。
そのアリエスの様子を見ながら、ヴァコルはちょっと感心した様子を見せている。
「本来なら一週間近くかけてやることなのだが、圧縮したとはいえ、一日で習得するとは驚きましたね」
聖女であるので、ある程度魔法の使い方に慣れているだろう。それを踏まえたとはいえ、少し慣れた頃の魔法使いにするような話をまとめてしたのである。
それでも、アリエスはしっかりとついてきた。
「ですが、これはあくまでも初級のお話です。明日からは確認をした上で、更なる話に入ります。すべてを理解されれば、今よりも確実に魔力をきちんと扱えるようになります」
「はい、頑張ります。明日もよろしくお願い致します、ヴァコル様」
キラキラとした瞳を向けられて、ヴァコルは思わず目を丸くして引いてしまう。
「ヴァコル様……?」
「いや、なんでもない。その意気なら、明日の講義も大丈夫でしょうね。今日はもうゆっくり休んで下さい。それでは」
ヴァコルはそそくさと教会の中へと戻っていってしまった。
あまりにもそっけない態度に、アリエスはきょとんとするばかりである。
「なんなんですかね、あいつ」
「サハー、あまり人の悪口は言うものではありませんよ?」
「何も言ってないんですが?」
アリエスに声をかけたサハーだが、ありえない反撃を食らってたじろいでいる。後に続く言葉を見破られたようで、あたふたしているのである。
それもそうだろう。アリエスはサハーの元上司の魔王だ。それとなく付き合いも長いせいで、サハーの単純な思考も手伝って、あっさりとアリエスに見抜かれてしまっているのである。
「とりあえず、明日の講義は今日の復習から始まります。しっかりと今日教えていただいたことを振り返りませんとね」
アリエスはふんすと意気込んでいる。
「では、お昼の祈祷がありますので、私は一度礼拝室に向かいます。サハーは周辺の警戒をお願いしますね」
「承知致しました。あの男にはくれぐれも気をつけて下さいよ。私のことが分かっているみたいですしね」
「ふふっ、ご忠告ありがとうございます」
アリエスはサハーと話を終えると、教会の中へと戻っていく。
アリエスの姿を見送ったサハーは、頭を擦りながら警備の仕事へと戻っていった。
お昼の祈祷を済ませたアリエスは、お風呂と夕食を済ませてから自室へと戻る。
部屋に戻ったアリエスは、今日の講義の内容をじっくりと思い出している。
「えっと、確か、体内の魔力の循環をしっかりと認識する、でしたかね……」
アリエスは、体内の魔力の流れについて再確認をする。
これは、ハデキヤ帝国内でキャサリーンに魔力暴走を治めてもらった時の経験があるので、なんとなく分かるというもの。
「あの時は、キャサリーン様が一時的な治療ということで抑えて下さったのですよね。ですが、普段の魔力が乱れているようでしたら、また起きる可能性があるというわけですね。それをしっかり認識しておく、ヴァコル様のお話はそういうことでしたね」
アリエスは自分の両手をじっと見つめながら考え込んでいる。
ところが、アリエスの表情はどうも浮かない感じである。
魔王時代は、魔力の循環など気にしたことがなかった。魔族は無理やりにでも魔力を放出すればどうとでもなっていたからだ。
しかし、これは魔族の頑丈な体があってこそである。
人間の体というのは、想像以上にもろい。それゆえに無理やり魔力を使って動かそうものなら、簡単にガタが来てしまう。
それは、過去に何度か経験したことである。
身体能力を強化するために魔法を使ったことはあるものの、同時に回復魔法も展開していないと、体が悲鳴を簡単に上げてくれていた。簡単にいえば激痛に見舞われていたのである。
しかし、それを思うと、魔力暴走という仕組みもよく分からない。
魔力が暴走するということは、体もそれなりに傷がつきそうなものである。
現実はまったくの無傷な上に、さらにいえば無自覚である。この謎めいた現象には、アリエスも首を捻るばかりである。
(まあ、よく分からんが、体の中の魔力をきちんと認識する、これが一番大事ということだろうな)
とりあえずよく分からないけれど、そういうことなんだろうと、アリエスは一応の納得をすることにした。
その日の夜は就寝するまでの間、ヴァコルの話していた内容に従って、体内の魔力をしっかりと感じ取る特訓に励む。
「ぜはー、ぜはー……。うう、む、難しいですね」
これまで一度も養ったことのない感覚というのは、そう簡単に身に付くものでもない。
かなりの時間を費やしたというのに、アリエスにはいまいち魔力の流れを感じ取ることができなかったようだった。
「ふわぁ……。眠くなってきましたね」
頑張りすぎたせいか、思わずあくびをしてしまう。
これはやむを得ないと、アリエスは結局魔力の流れを把握できないまま、初日の夜は眠ることにしたのだった。
アリエスが普通の人間の体になじみ切るには、まだまだ時間がかかりそうである。
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