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第124話 パイシズと交渉する元魔王
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アリエスたちは大広間まで移動してくる。
「あの時の……ままですね」
大広間の状態を確認したアリエスは、つい小さな声で呟いてしまう。
「修復はしようと思ったのですが、私どもが戻ってきた時にはすでにあのラースが魔王の座に座っておりましてな。おかげで当時のまま残さざるを得ませんでした。あの男は、支配すること以外はどうでもいいような人物でしたからな」
「なるほど、納得はいきますね。私が鍛えている時から、そのような気配はありましたからね」
パイシズの言葉に、アリエスは自分が魔王だった頃のことを思い出していた。
同じように鍛えてきた魔族とはいえ、スラリーやサハーと比べ、ラースはとにかく力を追い求めていた印象が強かった。ラースはオーガという力自慢の魔族であるということも大きかったのかもしれない。
「ここはずいぶんと荒れ果てているようですね」
「アリエス様があの時のままと仰られていますので、もしかして、聖女キャサリーン様たちと戦われた場所なのですか?」
ヴァコルやカプリナの反応に、アリエスはこくりと頷く。
「ここは、魔王だった頃の私の最期の場所です。仲間である魔族たちを逃がすために、私は玉座からわざわざここまで出てきて、キャサリーン様と戦いました。……まったく敵いませんでしたけれどね」
「そうだったのですか」
アリエスは当時のことを懐かしそうに話している。
「魔王様、お話はどこでなさいますか?」
「パイシズの執務室でいいでしょう。他の場所は……あまり見せられませんからね」
パイシズの質問に、アリエスはちょっと目を逸らしながら答えていた。どうも他人には見せられない何かがあるようだ。
カプリナはとても気にしているようだったが、アリエスがあまり見せたがっていないようなので、仕方なく黙って移動することにした。
どうやってやって来たのは、パイシズの執務室である。
さすがは魔王軍の宰相をしているとだけあって、かなりきっちりと整えられたきれいな部屋だった。
「魔族の部屋とは思えないくらいきれいですね」
「パイシズは几帳面ですからね」
「いえ、それほどでも」
アリエスに褒められると、なぜかパイシズは照れていた。
姿は変わっても、魔王に褒められるというのは魔族にとって最高の栄誉なのである。
「こんな緩んだ父上の姿は見たことがない……」
ピスケースですら驚くくらいだった。
ひとまず、アリエスとカプリナ、ヴァコルの三人とパイシズ、ピスケースの二人が向かい合って座る。
アリエスと一緒に戻ってきた魔族たちは、幼い兄妹の二人以外はそれぞれの持ち場に戻っていた。
「魔王様、本当に間違いないのですね」
「はい、私が魔王です。長らく教会で過ごしていましたし、聖女として認定されたからには、この振る舞いと言葉は崩せませんけれどね」
アリエスは困ったように頬に手を当てながら、パイシズの質問に答えていた。
「私たちがこうやってここにやって来たのは、私たちの住むサンカサス王国と魔族たちの間で和平交渉を行うことです。私からすれば、人間たちも魔族たちも大切な方々ですから。もう、誰も傷つくのは見たくありません」
「魔王様……。そのように仰られているのを見ますと、本当に魔王様なのだなと実感いたします。あなたは昔から、魔族たちが傷つくのをよしとしませんでしたからな」
「はい」
にっこりと微笑むアリエスである。
「……和平交渉自体は、私たちは受け入れましょう。ですが、サンカサス王国だけですかな?」
「そうですね。国ごとに聖女はいらっしゃいますからね。説得は難しいかもしれませんが、できる限り尽力を致しましょう」
「難しいはずなのですが、魔王様なら可能なのかもしれませんな」
「難しいと思いますよ。特にキャサリーン様が」
静かに語るパイシズに対して、アリエスは最強聖女の名前を出して笑っていた。
「確かに、それはそうかも知れませんな」
パイシズも負けじと笑っていた。
目の前の光景を信じられない様子で、ヴァコルや魔族の兄妹は眺めている。なにせ、聖女と魔族が笑いながら語り合っているのだから。双方の常識からしたら、とても考えられない話だった。
「魔王様、いえ、今はアリエス様でしたね。近いうちに我が息子のピスケースを送り、サンカサス王国に和平の申し入れを致しましょう。ラースがいなくなった魔王軍は、私がまとめるしかなさそうですから、私の署名をした上で、送り込むこととします」
「ええ、頼みますよ、パイシズ」
アリエスとパイシズはがっちりと握手を交わしていた。
その夜、長旅の疲れもあるだろうからと、アリエスたちは魔王城に泊まることになった。
「……ここにカプリナ様とヴァコル様を泊まらせるのですか?」
「仕方ありませんよ。魔王様には魔王様の部屋に泊まっていただくことは当然ですし、お連れの方々の安全を考えれば、同じ部屋に泊まっていただくことが最善だと思われるのです。我慢して下さい」
「……はあ、仕方ありませんね。この部屋、誰もいじっていませんよね?」
「もちろんでございます。あのラース相手でも、全員でこの部屋は死守いたしました」
「そうですか。ありがとうございます」
魔族メイドとのやり取りを終えると、アリエスは魔王のヘアの扉に手をかける。
いざ開けようかと思ったアリエスだったが、扉に手をかけたままカプリナとヴァコルの方へと振り向いて一声かける。
「中を見ましても、絶対に驚かないで下さいね」
アリエスの言葉に、二人はこくりと頷く。
その反応に安心したアリエスは、いよいよ扉に手をかける。
アリエスが躊躇するその部屋とは、一体どんな状態なのだろうか。その真相が今明らかになる。
「あの時の……ままですね」
大広間の状態を確認したアリエスは、つい小さな声で呟いてしまう。
「修復はしようと思ったのですが、私どもが戻ってきた時にはすでにあのラースが魔王の座に座っておりましてな。おかげで当時のまま残さざるを得ませんでした。あの男は、支配すること以外はどうでもいいような人物でしたからな」
「なるほど、納得はいきますね。私が鍛えている時から、そのような気配はありましたからね」
パイシズの言葉に、アリエスは自分が魔王だった頃のことを思い出していた。
同じように鍛えてきた魔族とはいえ、スラリーやサハーと比べ、ラースはとにかく力を追い求めていた印象が強かった。ラースはオーガという力自慢の魔族であるということも大きかったのかもしれない。
「ここはずいぶんと荒れ果てているようですね」
「アリエス様があの時のままと仰られていますので、もしかして、聖女キャサリーン様たちと戦われた場所なのですか?」
ヴァコルやカプリナの反応に、アリエスはこくりと頷く。
「ここは、魔王だった頃の私の最期の場所です。仲間である魔族たちを逃がすために、私は玉座からわざわざここまで出てきて、キャサリーン様と戦いました。……まったく敵いませんでしたけれどね」
「そうだったのですか」
アリエスは当時のことを懐かしそうに話している。
「魔王様、お話はどこでなさいますか?」
「パイシズの執務室でいいでしょう。他の場所は……あまり見せられませんからね」
パイシズの質問に、アリエスはちょっと目を逸らしながら答えていた。どうも他人には見せられない何かがあるようだ。
カプリナはとても気にしているようだったが、アリエスがあまり見せたがっていないようなので、仕方なく黙って移動することにした。
どうやってやって来たのは、パイシズの執務室である。
さすがは魔王軍の宰相をしているとだけあって、かなりきっちりと整えられたきれいな部屋だった。
「魔族の部屋とは思えないくらいきれいですね」
「パイシズは几帳面ですからね」
「いえ、それほどでも」
アリエスに褒められると、なぜかパイシズは照れていた。
姿は変わっても、魔王に褒められるというのは魔族にとって最高の栄誉なのである。
「こんな緩んだ父上の姿は見たことがない……」
ピスケースですら驚くくらいだった。
ひとまず、アリエスとカプリナ、ヴァコルの三人とパイシズ、ピスケースの二人が向かい合って座る。
アリエスと一緒に戻ってきた魔族たちは、幼い兄妹の二人以外はそれぞれの持ち場に戻っていた。
「魔王様、本当に間違いないのですね」
「はい、私が魔王です。長らく教会で過ごしていましたし、聖女として認定されたからには、この振る舞いと言葉は崩せませんけれどね」
アリエスは困ったように頬に手を当てながら、パイシズの質問に答えていた。
「私たちがこうやってここにやって来たのは、私たちの住むサンカサス王国と魔族たちの間で和平交渉を行うことです。私からすれば、人間たちも魔族たちも大切な方々ですから。もう、誰も傷つくのは見たくありません」
「魔王様……。そのように仰られているのを見ますと、本当に魔王様なのだなと実感いたします。あなたは昔から、魔族たちが傷つくのをよしとしませんでしたからな」
「はい」
にっこりと微笑むアリエスである。
「……和平交渉自体は、私たちは受け入れましょう。ですが、サンカサス王国だけですかな?」
「そうですね。国ごとに聖女はいらっしゃいますからね。説得は難しいかもしれませんが、できる限り尽力を致しましょう」
「難しいはずなのですが、魔王様なら可能なのかもしれませんな」
「難しいと思いますよ。特にキャサリーン様が」
静かに語るパイシズに対して、アリエスは最強聖女の名前を出して笑っていた。
「確かに、それはそうかも知れませんな」
パイシズも負けじと笑っていた。
目の前の光景を信じられない様子で、ヴァコルや魔族の兄妹は眺めている。なにせ、聖女と魔族が笑いながら語り合っているのだから。双方の常識からしたら、とても考えられない話だった。
「魔王様、いえ、今はアリエス様でしたね。近いうちに我が息子のピスケースを送り、サンカサス王国に和平の申し入れを致しましょう。ラースがいなくなった魔王軍は、私がまとめるしかなさそうですから、私の署名をした上で、送り込むこととします」
「ええ、頼みますよ、パイシズ」
アリエスとパイシズはがっちりと握手を交わしていた。
その夜、長旅の疲れもあるだろうからと、アリエスたちは魔王城に泊まることになった。
「……ここにカプリナ様とヴァコル様を泊まらせるのですか?」
「仕方ありませんよ。魔王様には魔王様の部屋に泊まっていただくことは当然ですし、お連れの方々の安全を考えれば、同じ部屋に泊まっていただくことが最善だと思われるのです。我慢して下さい」
「……はあ、仕方ありませんね。この部屋、誰もいじっていませんよね?」
「もちろんでございます。あのラース相手でも、全員でこの部屋は死守いたしました」
「そうですか。ありがとうございます」
魔族メイドとのやり取りを終えると、アリエスは魔王のヘアの扉に手をかける。
いざ開けようかと思ったアリエスだったが、扉に手をかけたままカプリナとヴァコルの方へと振り向いて一声かける。
「中を見ましても、絶対に驚かないで下さいね」
アリエスの言葉に、二人はこくりと頷く。
その反応に安心したアリエスは、いよいよ扉に手をかける。
アリエスが躊躇するその部屋とは、一体どんな状態なのだろうか。その真相が今明らかになる。
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