メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第一章

第22話 新人教育は大変だ

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 オーソンがやって来ると同時に、魔界に戻らせていたベイクも魔族を連れて戻ってきた。人間に近いタイプを選別していたので、少々時間がかかったようだった。

「ただいま戻りました、ミルフィ様」

 ベイクとピアズに加えて、数人の魔族がやって来ていた。
 オーソンが連れてきた人員を加えれば、おおよそ10名ほどの人員が増える事になるようだ。これなら今までよりは仕事が回るようになるだろう。
 しかし、そのためには仕事をしっかりと教え込まなければならない。
 オーソンは連れてきた人物たちを紹介し終えたところで既に帰ってしまっている。オーソン側からの人員はミルフィの事をずいぶんと甘く見ているようなところがあるが、オーソンからはしっかり従うように言われているので複雑な表情をしている。こんな子どもに何ができるといったところだろうか。
 ところが、そんな評価はすぐに打ち砕かれてしまう。
 ミルフィが手始めとして料理を作り始めたからだ。ロンとグリッテの二人のメイドを押しのけてまで、自ら料理を作り始めるのだから、驚かない方がおかしいのである。

「みなさんに覚えて頂く料理を、今から実際に作ってみせますからね。魔法も使ってずるはしちゃいますけど」

 ペロッと舌を出して唇を舐めたミルフィは、まずはパンから作っていく。もう完全に慣れた手つきで作っていくその姿は、10数名の新人たちには衝撃が強すぎた。
 衝撃を受けている間にパンが焼き上がってしまう。

「いかがでしょうか、作り方は分かりましたか?」

 ミルフィの声で我に返る新人たち。

「むぅ、その顔は見ていませんでしたね?」

 しかめっ面で新人たちを見るミルフィ。図星である新人たちは、思わず頬を掻いたり視線を逸らしたりとそれぞれに反応していた。その姿にため息を吐いてしまうミルフィである。

「まったく、うちの主力であるパンの焼き方はマスターしてもらわないと困るんですけどね……」

 こんな調子では困ってしまうものだ。仕方がないので、パンとケーキ、それにチョコレートの製造は今まで通りロンとグリッテの二人に任せる事にした。
 その代わり、新人たちには商会の敷地内の仕事をいろいろやってもらう事にした。

「プレツェ、ベイク。オーソンさんの商会で来た人たちの面倒をお願い」

「畏まりました、ミルフィ様」

 人間たちの面倒をベイクたちに任せると、ミルフィはベイクが連れてきた魔族たちを裏庭へと案内する。ここからは魔族の方が話が早いのだ。
 裏庭に連れてこられた魔族たちはその光景に驚かされる。

「姫様、この景色は一体……」

「しっ、ここではミルフィと名前でお呼び下さい」

「し、しかし……」

 ミルフィの言葉に戸惑う魔族たち。

「ここでの私は魔族の王女ではなく、ただの一介の貴族です。姫様という呼称はおかしいでしょう?」

 にこりと微笑むミルフィである。

「みなさんにはこの裏庭の手入れと……、こちらの世話をして頂きます」

 ミルフィは裏庭で作業をしているティアに手を振ると、鳥小屋へとやって来た。
 そこには2組の番の魔界鳥が生活をしていた。既に卵を産んでおり、子育てが始まっているようである。

「クエッ」

 ミルフィが姿を見せると、卵を温めていない魔界鳥がやって来る。その懐いている姿に、もう何度目とも分からない衝撃を受ける魔族たちである。

「みなさんにはこちら、裏庭の世話を頼みましょう。このミルフィ商会の生命線ともいえる庭ですから、責任重大ですよ?」

 にこりと微笑んで、魔族たちにプレッシャーをかけるミルフィ。

「この街は世界征服の第一歩です。一緒に人間たちの胃袋を鷲掴みにしちゃいましょう?」

 この上ない笑顔を見せるミルフィに恐怖を感じる魔族たち。

「しょ、承知致しました」

 一斉に跪く魔族たち。その姿を前にして、ミルフィは両手を腰に当ててうんうんと頷いていた。

「さあ、人も増えた事だし、扱える食材を増やして軌道に乗せていかなくちゃね。ピレシー」

”うむ、そうだな主”

「その前に、この人たちに魔界鳥の世話の話をしなくちゃね」

”そうであるな。魔界鳥の飼育の仕方については我に任せろ”

 ピレシーはふよふよと浮いて魔族たちに近付いていく。

”我は食の魔導書ピレシー。主たるミルフィ殿にあらゆる職の知識をもたらす恵みの存在よ。今より魔界鳥やこの庭園に植わる食材たちの世話の方法を説明していこうぞ”

 長々とピレシーによる説明が始まる。
 その説明が長すぎたのか、魔族たちは目を回し始めていた。もう驚きの連続で精神的に限界を迎えたのだろう。

”ふむ、軟弱であるな”

「まあ魔界からわざわざやって来たところだし、疲れてたんでしょうね。今日はゆっくり休ませてあげましょう」

”主がそう言うのならば、仕方あるまい”

 ピレシーもやむなく納得して説明を中断させた。
 人員は増えたとはいえ、かなり前途多難な感じの商会の運営。
 ミルフィは無事に商会の規模を大きくして、計画を軌道に乗せる事ができるのであろうか。序盤の正念場を迎えているのであった。
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