メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
37 / 113
第二章

第37話 第2回料理教室

しおりを挟む
 次の休業日までの2日間の営業を終える。
 相変わらずの忙しさにミルフィたちはすっかり疲れ切っていた。

「さすがの魔族である私も、厳しいですよ……」

「お疲れ様です、ミルフィ様」

 商会の中に戻ると、ティアのケアを受けるミルフィ。ミルフィも毎日毎日接客しているが、ティアも毎日のように厨房に立って料理をしている。それでいて、戻ればこうやって専属メイドとして仕事をしている。そのせいでミルフィもふと思ってしまう。

「ねえ、ティア」

「何でしょうか、ミルフィ様」

「疲れてないかしら。毎日カフェを手伝っている上に、私の侍女として働いているんだもの。ちょっと気になってしまいます」

 ミルフィが顔を向けながら尋ねると、ティアはにっこりと微笑んでいる。

「魔族のメイドは、体力自慢ですから平気ですよ。それこそ、寝ずに10日間くらいも平気ですから」

「いや、さすがに寝て、休んで」

 くすくすと笑いながら言うティアに、冷静にツッコミを入れるミルフィである。
 それにしてもさすがは魔族、思った以上に頑健なようだった。人間なら間違いなく倒れているに違いない。

「さて、明日は休業日ですね。今回も料理教室を開きますが、人は来ますかね」

「お店の中で宣伝はしていましたものね。前回の事を考えると、そこそこ来られると思いますよ」

「うーん、とりあえず明日になってから考えましょうか」

「はい、とりあえず今はゆっくり休みましょう」

 休息を取りながら翌日の料理教室が気になるミルフィである。

「今回は何を教えましょうかね」

「スープなどいかがでしょうか。どこの家でも作ってはいるでしょうから」

「それはいいですね。ピレシー」

”うむ、材料ならどんなスープでも対応できるように我が持っておるぞ。心配は要らぬ”

 呼べば出てくる食の魔導書。実に頼もしい限りである。
 材料はピレシーに任せておけばいいようなので、ミルフィとティアは疲れを取るとともに翌日に備えるために眠る事にしたのだった。

 そして、迎えた2回目の定期休業日。
 朝からミルフィはカフェに出向いて表に看板を出しておく。

『本日の料理教室、メニューは「スープ」です。昼過ぎから開催です』

 看板の文字はミルフィの手書きだ。10歳少々の少女にしてはかなりきれいな文字で書かれている。
 道行く人たちは、その看板をじっと見ていた。

「なんだこれは」

「ああ、カフェ『ミルフィ』の休業日の催し物だよ。店長自らが料理を教えてくれるらしいぜ」

「まじか。俺のとこも嫁を向かわせるか」

「だが、この店は小さいからあまり押しかけても入れないぞ」

「ぐぬぬぬぬ……。ご近所で相談して一人向かわせるか」

「気持ちは分かる。この店の料理はうまいからな」

 立ち止まっている人の中には、そんな会話をしている者も居た。
 開店してから15日かそこらくらいだというのに、ずいぶんと街に浸透してしまっているようである。
 お昼時を過ぎると、店には15人ほどの主に女性の受講希望者が集まっていた。
 もっと多いんじゃないかと思われたが、希望者たちの間で絞り込んできたようだった。

「ようこそおいで下さいました。今日はスープづくりをしてみましょう」

 朝のうちに材料の買い出しをして、自分でも作り方を確認していたミルフィが参加者たちを出迎える。
 厨房には大量の玉ねぎとかぼちゃとじゃがいもが置かれていた。冷蔵庫にはミルク、あとは調味料として塩と胡椒と小麦粉が用意されていた。

「みなさんにお教えしますのは、じゃがいもとかぼちゃの2種類のスープです。まずは完成品の味見をして下さいませ」

 内容を聞いて戸惑っている参加者たちに、ミルフィはスープを飲ませる事にする。
 この2種類のスープは日常的に作られているために、参加者は少々懐疑的になっているのだ。
 ところが、ミルフィが作っておいたスープを一口飲むと、参加者たちの顔色が変わった。今までに味わった事のない味だったからだ。
 それもそのはず、普通の家庭では作り方が適当だったり、物が足りずに水っぽかったりして味が安定していなかったのだ。そのために、ミルフィの作ったスープの味に衝撃を受けているのである。

「なんてさらさらとした食感のスープなんだ。塊がないぞ」

「ああ、これが本当のスープ。しっかりとした芋の味がするわ」

「こちらのかぼちゃのスープもなんてなめらかな口当たりなんでしょう」

 最初に味わってもらう作戦は、どうやら成功のようである。参加者たちの反応は上々といった感じである。

「それでは、これから作り方をお教え致しますね。ぜひとも皆さんのお知り合いの方にも教えて広めていって下さいな。この味をこの街の標準にしてしまいましょう」

 にこりと微笑むミルフィ。それに対して参加者たちは同意の声を上げていた。
 ミルフィは隣に立つティアと目を合わせて肩をすくめて笑っている。そして、ピレシーを召喚しれば、いよいよ第2回となる料理教室の開始である。
 真剣な表情で臨む参加者たちに、ミルフィはひとつひとつ丁寧に材料の処理の仕方を教えていく。
 参加者たちが悪戦苦闘する中、どうにか無事にスープを完成させていた。
 自分の作ったスープの味に感動する参加者たち。その姿に、ミルフィもティアも嬉しそうだった。
 料理教室が終われば、参加者たちはミルフィたちにお礼を言いながら、自分の作ったスープの入った鍋を手にそれぞれの家へと帰っていったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...