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第三章
第66話 付き合わされる魔王女ちゃん
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なんだかんだで薬草を使った料理を作ってみるミルフィたち。
これはピレシーの知識ではカバーしきれないらしい。それというのも、ミルフィたちの世界の薬草というものが食材として認められないからのようだった。つまり、今現在ミルフィたちはまったくの未知に対して向き合っているということになるのだ。
”解毒作用があるとはいっても、他の世界の毒消しはこのような使い方はせぬからなぁ……。まさか我も知らぬ使い方をするとは思うてもみなんだぞ……”
ピレシーがため息まじりに愚痴をこぼしている。
”だが、食の魔導書としての誇りというものがある。必ずや良いものを仕上げてやろうではないか”
それでも投げ出さないあたりが、意地というものである。食に関して後れを取ってなるものか、その一心でピレシーはこの難題に立ち向かっていた。
しかし、この状況にミルフィはなんともすっきりしない気持ちを抱えていた。
その顔を見たメディはにやりと笑っている。
「なに、薬草もポーションも気にしてくれるな。30日くらい作らなくてもいいくらいの在庫を持っておるからな。これも研究の一環だと思えば、私とて無駄とも思わんよ」
あまりにも規模の違う事を言い放ってくれるメディ。これにはさすがにミルフィもあんぐりと口を開けてしまう。
「薬草を使うのがいいのか、ポーションにしてから混ぜ込むのがいいのか、いろいろ試してみようではないか」
「ま、まあ、あなたがそこまで言うのでしたら、私はもう気にしませんよ……」
メディがやる気満々なので、もうどうにでもなれと思うミルフィである。
思い立ってからの初日だけでもいくつか試作品を作り上げてみたミルフィたち。その中である事に気が付いた。
「冒険や旅となると、長期間の持ち運びに耐えられなければいけませんね……」
「おおう、それは盲点だったな」
そう、通常の料理では日持ちがしないということだった。
水分の多い食事というのは腐りやすいのだ。そのために水分を飛ばした干し肉を持っていったり現地調達をしたりというのが、冒険者たちの当たり前なのである。
そして、腐ってしまえば料理は毒であり、ごみとなってしまう。これではせっかくの料理が意味をなさなくなってしまうのだ。
「となると、料理そのものというよりは味付けに重きを置いてみてはどうかな?」
「味付け……ですか」
メディから思わぬ提案が出てきたのだ。
”それはつまり、かさばらない調味料にポーション類の効果を付与するということかな?”
「うむ、その通りだ」
ピレシーの指摘に、こくりと頷くメディである。
「特に耐毒の効果は需要が高い。なにも魔族や魔物相手とは限らんからな」
「そっか、盗賊か……」
「そう、奴らは対象の動きを止めようとして毒や麻痺を使ってくる。その対策が行えるとなると、飛ぶように売れるだろうな。くふふふ……」
メディが気持ち悪く笑う。
”調味料となると、料理ならば普通に使うから対策されているとも気付かれにくいな。なるほど、これは確かに面白い……”
「だろう?」
ピレシーが感心していると、自慢げに腕を組みながら人差し指を立てて笑うメディである。
”よし、俄然やる気が出てきたぞ。これは必ず成し遂げようぞ。なあ、主”
「ええ、そうね」
二人のやる気の強さにドン引きしているミルフィである。
(まっ、これも食による笑顔を守るためですからね。仕方ないので付き合いましょうかね……)
ミルフィは心の中で大きなため息をついたのだった。
そう、ミルフィの目的はあくまでも食でみんなを笑顔にする事なのだ。それは日常の食卓での話なので、ピレシーとメディが注力している部分はミルフィの目的とはずれているのである。
でも、旅人や冒険者にだって家族は居るだろう。それを思えば、まあ結果的にそうなるかなとミルフィは納得したのだ。
というわけで、ピレシーとメディが調味料開発を行い、ミルフィがそれを使って料理をするということになった。
この二人に付き合うという状況になったので、商会の仕事はプレツェに、カフェの仕事はティアにそれぞれ任せる運びとなった。
「大変ですね、ミルフィ様」
「ええ、やり切るまで私も解放されそうにないから、みんなの事は頼みますね」
「承知致しました。どうかご安心下さいませ」
命令を受けたティアも、その様子には言葉を失ったようである。
ピレシーとメディに付き合わされるミルフィの身を案じながら、ティアは仕事へと戻っていったのだった。
薬草の量や配合の仕方などを変えた試作品をいくつも作るミルフィたち。
そして、ピレシーとメディが持つ鑑定魔法によって、最適な解が導き出されるまで3日もの日数を要してしまった。
調味料によってその配合の仕方が異なっていたので、それだけかかってしまうのも無理はなかった。
”ふむ、草のままがいいものもあるのだな”
「これは思わぬ結果だな」
二人も思わず唸ってしまうほどである。
”さて、ここからは主の腕の見せ所ぞ”
「そうだな。一応効果の高い方から3つずつ程、様々な調理法で試してみようか」
「はあ、分かりましたよ。やればいいんでしょう、やれば……」
二人があまりにも期待の目を向けてくるものだから、ミルフィは仕方なく調理にかかる事にする。
はたして、メディたちの目論見はうまく達成されるのだろうか。緊張の瞬間がやってきたのだった。
これはピレシーの知識ではカバーしきれないらしい。それというのも、ミルフィたちの世界の薬草というものが食材として認められないからのようだった。つまり、今現在ミルフィたちはまったくの未知に対して向き合っているということになるのだ。
”解毒作用があるとはいっても、他の世界の毒消しはこのような使い方はせぬからなぁ……。まさか我も知らぬ使い方をするとは思うてもみなんだぞ……”
ピレシーがため息まじりに愚痴をこぼしている。
”だが、食の魔導書としての誇りというものがある。必ずや良いものを仕上げてやろうではないか”
それでも投げ出さないあたりが、意地というものである。食に関して後れを取ってなるものか、その一心でピレシーはこの難題に立ち向かっていた。
しかし、この状況にミルフィはなんともすっきりしない気持ちを抱えていた。
その顔を見たメディはにやりと笑っている。
「なに、薬草もポーションも気にしてくれるな。30日くらい作らなくてもいいくらいの在庫を持っておるからな。これも研究の一環だと思えば、私とて無駄とも思わんよ」
あまりにも規模の違う事を言い放ってくれるメディ。これにはさすがにミルフィもあんぐりと口を開けてしまう。
「薬草を使うのがいいのか、ポーションにしてから混ぜ込むのがいいのか、いろいろ試してみようではないか」
「ま、まあ、あなたがそこまで言うのでしたら、私はもう気にしませんよ……」
メディがやる気満々なので、もうどうにでもなれと思うミルフィである。
思い立ってからの初日だけでもいくつか試作品を作り上げてみたミルフィたち。その中である事に気が付いた。
「冒険や旅となると、長期間の持ち運びに耐えられなければいけませんね……」
「おおう、それは盲点だったな」
そう、通常の料理では日持ちがしないということだった。
水分の多い食事というのは腐りやすいのだ。そのために水分を飛ばした干し肉を持っていったり現地調達をしたりというのが、冒険者たちの当たり前なのである。
そして、腐ってしまえば料理は毒であり、ごみとなってしまう。これではせっかくの料理が意味をなさなくなってしまうのだ。
「となると、料理そのものというよりは味付けに重きを置いてみてはどうかな?」
「味付け……ですか」
メディから思わぬ提案が出てきたのだ。
”それはつまり、かさばらない調味料にポーション類の効果を付与するということかな?”
「うむ、その通りだ」
ピレシーの指摘に、こくりと頷くメディである。
「特に耐毒の効果は需要が高い。なにも魔族や魔物相手とは限らんからな」
「そっか、盗賊か……」
「そう、奴らは対象の動きを止めようとして毒や麻痺を使ってくる。その対策が行えるとなると、飛ぶように売れるだろうな。くふふふ……」
メディが気持ち悪く笑う。
”調味料となると、料理ならば普通に使うから対策されているとも気付かれにくいな。なるほど、これは確かに面白い……”
「だろう?」
ピレシーが感心していると、自慢げに腕を組みながら人差し指を立てて笑うメディである。
”よし、俄然やる気が出てきたぞ。これは必ず成し遂げようぞ。なあ、主”
「ええ、そうね」
二人のやる気の強さにドン引きしているミルフィである。
(まっ、これも食による笑顔を守るためですからね。仕方ないので付き合いましょうかね……)
ミルフィは心の中で大きなため息をついたのだった。
そう、ミルフィの目的はあくまでも食でみんなを笑顔にする事なのだ。それは日常の食卓での話なので、ピレシーとメディが注力している部分はミルフィの目的とはずれているのである。
でも、旅人や冒険者にだって家族は居るだろう。それを思えば、まあ結果的にそうなるかなとミルフィは納得したのだ。
というわけで、ピレシーとメディが調味料開発を行い、ミルフィがそれを使って料理をするということになった。
この二人に付き合うという状況になったので、商会の仕事はプレツェに、カフェの仕事はティアにそれぞれ任せる運びとなった。
「大変ですね、ミルフィ様」
「ええ、やり切るまで私も解放されそうにないから、みんなの事は頼みますね」
「承知致しました。どうかご安心下さいませ」
命令を受けたティアも、その様子には言葉を失ったようである。
ピレシーとメディに付き合わされるミルフィの身を案じながら、ティアは仕事へと戻っていったのだった。
薬草の量や配合の仕方などを変えた試作品をいくつも作るミルフィたち。
そして、ピレシーとメディが持つ鑑定魔法によって、最適な解が導き出されるまで3日もの日数を要してしまった。
調味料によってその配合の仕方が異なっていたので、それだけかかってしまうのも無理はなかった。
”ふむ、草のままがいいものもあるのだな”
「これは思わぬ結果だな」
二人も思わず唸ってしまうほどである。
”さて、ここからは主の腕の見せ所ぞ”
「そうだな。一応効果の高い方から3つずつ程、様々な調理法で試してみようか」
「はあ、分かりましたよ。やればいいんでしょう、やれば……」
二人があまりにも期待の目を向けてくるものだから、ミルフィは仕方なく調理にかかる事にする。
はたして、メディたちの目論見はうまく達成されるのだろうか。緊張の瞬間がやってきたのだった。
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