メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第三章

第91話 諦めきれないお肉

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 翌日、諦めきれないミルフィは冒険者組合を訪れていた。それというのも、ストーンイーターリザードを狩るためだった。

「お願いします。一匹だけでも、せめて一匹だけでも狩らせて下さい……」

 受付に泣きつくミルフィである。
 なにせあのストーンイーターリザードは魔界とその近隣には生息していないことが分かっているからだ。となると、この南の街までやってこないと手に入れることはできない。ミルフィにはそれが耐えられなかったのである。
 ところが、受付の方はなんとも冷たい対応だった。

「とは申されましても規則は規則ですからね」

「昨日今日で冒険者登録したばかりなんですよぅ?!」

 ミルフィはプライドを投げ捨ててまで泣きついている。

「一匹しか狩りませんから、約束します!」

 そこには魔王女としての威厳も、商会長としての誇りも存在していなかった。年相応のわがままな少女の姿である。
 ミルフィの必死の訴えに、受付の女性もものすごく困惑した表情を浮かべている。一体どうしたらいいものだろうか。
 ミルフィは確かに昨日冒険者登録をしたばかりである。だというのに、イレギュラーな存在であるライブツリーを討伐して戻ってきた。
 ライブツリーは上級ランクでないと討伐が不可能なために、規約に則ってランクをふたつ上昇させたのだ。そのために、登録日に初心者脱出を果たした初めての冒険者となったのである。しかも11歳という若さでだ。
 ちなみに、上昇した後のランクであってもライブツリーはかなりの人数を要する相手である。本当はもっとランクを上げたかったが、一度に上昇させられるのは最大ふたつとあるのでこのような処置になったのである。

(いやはや、ここまでどうしてストーンイーターリザードに執着しているのかしらね)

 受付の女性は、ミルフィの執着具合がどうしても理解できなかった。

「お肉ぅっ!」

 ミルフィが唐突に叫ぶ。
 それでようやくミルフィがこだわる理由がピンとくる受付である。

「あのお肉を食べたのですか」

 受付の質問に、ミルフィがこくりと頷く。
 その姿を見た受付の女性は、大きくため息をつく。そして、やれやれといった感じでミルフィにこう提案する。

「規定上はミルフィさんのランクでは狩ることができません。ですが、一匹だけという条件でしたら、職員を監視につけて狩る事を許可しましょう」

 本当に譲歩したという感じの表情であるが、これを聞いたミルフィは表情をぱあっと明るくしていた。ビュフェのところで食して以来、どれだけ気に入ったというのだろうか。さすがはおいしいを追求する魔王の娘である。
 というわけで、冒険者組合の監視が一人ついた状態で、ミルフィはストーンイーターリザードを狩りに行くことになる。
 当然ながらミルフィは場所を知らないので、職員に教えてもらおうとしていた。
 ミルフィからそんな質問を受けた職員は、思わずこけそうになっていた。

「しゅ、執着してらっしゃるのに、生息地を知らないのですか」

「そりゃもちろんですよ。私はこの街に来たばかりなんですからね。初めて来たわけですから詳しく知るわけがないじゃないですか」

「は、はあ……」

 呆れかえった様子で反応する職員。だが、相手はライブツリーを単独で撃破できるだけの実力の持ち主ゆえ、下手なことはできずにおずおずと道案内を続けていた。
 やって来たのは、昨日の森とは違ってごつごつとした岩肌が目立つ場所である。なるほど、名前に偽りなしというわけである。

「なるほどですね。これほどの岩場にいて石を食べながら育ってるわけですか。それでいてあの肉質、信じられないですね」

 ミルフィはにこにことしながら語っていた。
 次の瞬間、岩場の陰から一匹のトカゲが出てきた。

「あれがそうですね、先手必勝!」

 ズバッと一瞬で決着させるミルフィ。うきうきで近付いて広い場所に引っ張り出してくる。
 そして、にこにことした表情で解体を始めるのだが、付き添いでやってきていた職員の表情が思わしくない。

「あれ、どうかなさいましたか?」

 解体を順調に進めながら、ミルフィは職員の表情に驚いていた。

「あの、それ……」

 指差しながら、職員は震えている。
 ミルフィが首を傾げていると、ようやく続きの言葉が出てきた。

「ストーンイーターリザードじゃなくて、ロックイーターリザードですよ。その魔物は……」

「えっ?」

 思わず目が点になるミルフィである。しかし、それでも解体する手は止まらない。早く解体しないと鮮度落ちてしまうからだ。

「あ、あとで説明致しますので、解体を済ませてしまって下さい」

「はい、そうさせて頂きます」

 ミルフィはにこやかな表情を浮かべながら、ロックイーターリザードを手際よく解体していったのだった。

(これは、どえらい新人が現れてしまったかもしれないですね……)

 ミルフィの監視でついてきた職員は、そんな事を思いながらミルフィの解体作業を見守っている。
 そして、当のミルフィはというと一度も迷うことも手が止まることもなく、いとも簡単にロックーターリザードを解体してみせたのだった。
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