91 / 113
第三章
第91話 諦めきれないお肉
しおりを挟む
翌日、諦めきれないミルフィは冒険者組合を訪れていた。それというのも、ストーンイーターリザードを狩るためだった。
「お願いします。一匹だけでも、せめて一匹だけでも狩らせて下さい……」
受付に泣きつくミルフィである。
なにせあのストーンイーターリザードは魔界とその近隣には生息していないことが分かっているからだ。となると、この南の街までやってこないと手に入れることはできない。ミルフィにはそれが耐えられなかったのである。
ところが、受付の方はなんとも冷たい対応だった。
「とは申されましても規則は規則ですからね」
「昨日今日で冒険者登録したばかりなんですよぅ?!」
ミルフィはプライドを投げ捨ててまで泣きついている。
「一匹しか狩りませんから、約束します!」
そこには魔王女としての威厳も、商会長としての誇りも存在していなかった。年相応のわがままな少女の姿である。
ミルフィの必死の訴えに、受付の女性もものすごく困惑した表情を浮かべている。一体どうしたらいいものだろうか。
ミルフィは確かに昨日冒険者登録をしたばかりである。だというのに、イレギュラーな存在であるライブツリーを討伐して戻ってきた。
ライブツリーは上級ランクでないと討伐が不可能なために、規約に則ってランクをふたつ上昇させたのだ。そのために、登録日に初心者脱出を果たした初めての冒険者となったのである。しかも11歳という若さでだ。
ちなみに、上昇した後のランクであってもライブツリーはかなりの人数を要する相手である。本当はもっとランクを上げたかったが、一度に上昇させられるのは最大ふたつとあるのでこのような処置になったのである。
(いやはや、ここまでどうしてストーンイーターリザードに執着しているのかしらね)
受付の女性は、ミルフィの執着具合がどうしても理解できなかった。
「お肉ぅっ!」
ミルフィが唐突に叫ぶ。
それでようやくミルフィがこだわる理由がピンとくる受付である。
「あのお肉を食べたのですか」
受付の質問に、ミルフィがこくりと頷く。
その姿を見た受付の女性は、大きくため息をつく。そして、やれやれといった感じでミルフィにこう提案する。
「規定上はミルフィさんのランクでは狩ることができません。ですが、一匹だけという条件でしたら、職員を監視につけて狩る事を許可しましょう」
本当に譲歩したという感じの表情であるが、これを聞いたミルフィは表情をぱあっと明るくしていた。ビュフェのところで食して以来、どれだけ気に入ったというのだろうか。さすがはおいしいを追求する魔王の娘である。
というわけで、冒険者組合の監視が一人ついた状態で、ミルフィはストーンイーターリザードを狩りに行くことになる。
当然ながらミルフィは場所を知らないので、職員に教えてもらおうとしていた。
ミルフィからそんな質問を受けた職員は、思わずこけそうになっていた。
「しゅ、執着してらっしゃるのに、生息地を知らないのですか」
「そりゃもちろんですよ。私はこの街に来たばかりなんですからね。初めて来たわけですから詳しく知るわけがないじゃないですか」
「は、はあ……」
呆れかえった様子で反応する職員。だが、相手はライブツリーを単独で撃破できるだけの実力の持ち主ゆえ、下手なことはできずにおずおずと道案内を続けていた。
やって来たのは、昨日の森とは違ってごつごつとした岩肌が目立つ場所である。なるほど、名前に偽りなしというわけである。
「なるほどですね。これほどの岩場にいて石を食べながら育ってるわけですか。それでいてあの肉質、信じられないですね」
ミルフィはにこにことしながら語っていた。
次の瞬間、岩場の陰から一匹のトカゲが出てきた。
「あれがそうですね、先手必勝!」
ズバッと一瞬で決着させるミルフィ。うきうきで近付いて広い場所に引っ張り出してくる。
そして、にこにことした表情で解体を始めるのだが、付き添いでやってきていた職員の表情が思わしくない。
「あれ、どうかなさいましたか?」
解体を順調に進めながら、ミルフィは職員の表情に驚いていた。
「あの、それ……」
指差しながら、職員は震えている。
ミルフィが首を傾げていると、ようやく続きの言葉が出てきた。
「ストーンイーターリザードじゃなくて、ロックイーターリザードですよ。その魔物は……」
「えっ?」
思わず目が点になるミルフィである。しかし、それでも解体する手は止まらない。早く解体しないと鮮度落ちてしまうからだ。
「あ、あとで説明致しますので、解体を済ませてしまって下さい」
「はい、そうさせて頂きます」
ミルフィはにこやかな表情を浮かべながら、ロックイーターリザードを手際よく解体していったのだった。
(これは、どえらい新人が現れてしまったかもしれないですね……)
ミルフィの監視でついてきた職員は、そんな事を思いながらミルフィの解体作業を見守っている。
そして、当のミルフィはというと一度も迷うことも手が止まることもなく、いとも簡単にロックーターリザードを解体してみせたのだった。
「お願いします。一匹だけでも、せめて一匹だけでも狩らせて下さい……」
受付に泣きつくミルフィである。
なにせあのストーンイーターリザードは魔界とその近隣には生息していないことが分かっているからだ。となると、この南の街までやってこないと手に入れることはできない。ミルフィにはそれが耐えられなかったのである。
ところが、受付の方はなんとも冷たい対応だった。
「とは申されましても規則は規則ですからね」
「昨日今日で冒険者登録したばかりなんですよぅ?!」
ミルフィはプライドを投げ捨ててまで泣きついている。
「一匹しか狩りませんから、約束します!」
そこには魔王女としての威厳も、商会長としての誇りも存在していなかった。年相応のわがままな少女の姿である。
ミルフィの必死の訴えに、受付の女性もものすごく困惑した表情を浮かべている。一体どうしたらいいものだろうか。
ミルフィは確かに昨日冒険者登録をしたばかりである。だというのに、イレギュラーな存在であるライブツリーを討伐して戻ってきた。
ライブツリーは上級ランクでないと討伐が不可能なために、規約に則ってランクをふたつ上昇させたのだ。そのために、登録日に初心者脱出を果たした初めての冒険者となったのである。しかも11歳という若さでだ。
ちなみに、上昇した後のランクであってもライブツリーはかなりの人数を要する相手である。本当はもっとランクを上げたかったが、一度に上昇させられるのは最大ふたつとあるのでこのような処置になったのである。
(いやはや、ここまでどうしてストーンイーターリザードに執着しているのかしらね)
受付の女性は、ミルフィの執着具合がどうしても理解できなかった。
「お肉ぅっ!」
ミルフィが唐突に叫ぶ。
それでようやくミルフィがこだわる理由がピンとくる受付である。
「あのお肉を食べたのですか」
受付の質問に、ミルフィがこくりと頷く。
その姿を見た受付の女性は、大きくため息をつく。そして、やれやれといった感じでミルフィにこう提案する。
「規定上はミルフィさんのランクでは狩ることができません。ですが、一匹だけという条件でしたら、職員を監視につけて狩る事を許可しましょう」
本当に譲歩したという感じの表情であるが、これを聞いたミルフィは表情をぱあっと明るくしていた。ビュフェのところで食して以来、どれだけ気に入ったというのだろうか。さすがはおいしいを追求する魔王の娘である。
というわけで、冒険者組合の監視が一人ついた状態で、ミルフィはストーンイーターリザードを狩りに行くことになる。
当然ながらミルフィは場所を知らないので、職員に教えてもらおうとしていた。
ミルフィからそんな質問を受けた職員は、思わずこけそうになっていた。
「しゅ、執着してらっしゃるのに、生息地を知らないのですか」
「そりゃもちろんですよ。私はこの街に来たばかりなんですからね。初めて来たわけですから詳しく知るわけがないじゃないですか」
「は、はあ……」
呆れかえった様子で反応する職員。だが、相手はライブツリーを単独で撃破できるだけの実力の持ち主ゆえ、下手なことはできずにおずおずと道案内を続けていた。
やって来たのは、昨日の森とは違ってごつごつとした岩肌が目立つ場所である。なるほど、名前に偽りなしというわけである。
「なるほどですね。これほどの岩場にいて石を食べながら育ってるわけですか。それでいてあの肉質、信じられないですね」
ミルフィはにこにことしながら語っていた。
次の瞬間、岩場の陰から一匹のトカゲが出てきた。
「あれがそうですね、先手必勝!」
ズバッと一瞬で決着させるミルフィ。うきうきで近付いて広い場所に引っ張り出してくる。
そして、にこにことした表情で解体を始めるのだが、付き添いでやってきていた職員の表情が思わしくない。
「あれ、どうかなさいましたか?」
解体を順調に進めながら、ミルフィは職員の表情に驚いていた。
「あの、それ……」
指差しながら、職員は震えている。
ミルフィが首を傾げていると、ようやく続きの言葉が出てきた。
「ストーンイーターリザードじゃなくて、ロックイーターリザードですよ。その魔物は……」
「えっ?」
思わず目が点になるミルフィである。しかし、それでも解体する手は止まらない。早く解体しないと鮮度落ちてしまうからだ。
「あ、あとで説明致しますので、解体を済ませてしまって下さい」
「はい、そうさせて頂きます」
ミルフィはにこやかな表情を浮かべながら、ロックイーターリザードを手際よく解体していったのだった。
(これは、どえらい新人が現れてしまったかもしれないですね……)
ミルフィの監視でついてきた職員は、そんな事を思いながらミルフィの解体作業を見守っている。
そして、当のミルフィはというと一度も迷うことも手が止まることもなく、いとも簡単にロックーターリザードを解体してみせたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる