少女の水平線

未羊

文字の大きさ
10 / 61

第10話 見慣れない草と灯台守

しおりを挟む
 今日も空は晴れ渡り、まぶしいばかりの光が灯台を照らしている。
 ちょうど今は天候が安定している時期なので、比較的晴れ渡っていることが多い。

「う~ん、やっぱりここから眺める景色って最高だわ」

 朝のやることを終えたベニーが、灯台の途中にあるバルコニーに出て海を眺めている。
 日の光に照らされた海はキラキラと輝いて、とても気持ちのいい光景が広がっている。
 沖合をしばらく眺めていると、一隻の船が通り過ぎていくのが見える。進み方を見ていると、おそらくはベニーがよく向かう港町へと向かっているのだと思われる。
 無事に船が通り過ぎていく光景を見ると、ベニーはとても嬉しくなってくる。
 それもそのはず。海を行く船の安全は、今ベニーがいる灯台に灯っている『導の灯』によって守られている。
 無事に航行していく姿を見れば、喜ぶのは当然というもの。なぜなら、自分のしている仕事がちゃんと役に立っていると認識できるのだから。
 しばらく船を見つめていたベニーは、その姿が見えなくなるといつもの昼前の作業へと出かけていった。

 今日もほどほどの成果を得て戻って来たベニーは、昼食の前に先日の草の様子を見ることにする。
 外に植えてはいろいろと悪影響を及ぼすからと、問題の草は灯台の中に鉢植えを用意して育てている。
 万能薬とまではいかないものの、病気の類に効果を発揮する薬草らしいことは、先日の鑑定で判明していた。
 ただ、この草はこの辺りで生えているものではないので、こうやって隔離して育てているのである。
 それにしても、どこからやって来たのだろうか。風で飛んできたのかと思ってはいたものの、発見した場所を考えるとそれも的外れな推測だった。
 なぜなら、その場所は森の中の少し開けた場所。風で飛んできたにしては、ちょっと考えられない場所だった。

「う~ん、成長の度合いからすると、おじいちゃんがまだ生きていた頃かしらね。となると、行商人さんによって運ばれてきたのかな」

 ベニーは考え直した結果、そのように結論付けた。
 だけど、それを確認しようにもその行商人は今は灯台にやって来ていない。
 確認手段がない現状では、このように推察するのが限度だった。
 ところが、鑑定でこの草のことを知ったのはいいものの、今のベニーにはこの草を加工するための知識が不足している。
 この辺では手に入らないし、ちょっと貴重だということもあって、加工することはないだろうと思われていたのだろう。

「う~ん、確かおじいちゃんの残した書物があるはず。初代の灯台守から代々受け継がれてきた手記だったけ。もしかしたら、その中に加工法が載っているかも」

 そう考えたベニーだったが、タイミングよくお腹が大きな音を立てていた。

「さ、先にご飯にしましょうかね……あはは」

 誰もいないので恥ずかしがることはないのに、ベニーはなぜか顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
 慌ててお昼を用意すると、パクパクと食事を済ませていた。

 食事を済ませたベニーは、祖父が使っていた部屋へと向かう。
 祖父の部屋の隣には、しっかりと厳重に管理された書庫が備え付けてある。
 なにぶん海に近いこともあって、塩分を含んだ湿気で書物がダメになる可能性が高い。そのために、生活魔法を施した特別な部屋の中で保管をしているのだ。

「おじいちゃん、失礼します」

 ベニーが扉に手をかざすと、扉が光って中に入れるようになる。
 厳重に保管されているために、そう簡単に人に触れさせてはならない。そう考えた初代の灯台守によって、この書庫には魔法が掛けられている。
 灯台守の家系にしか、踏み入れられない場所になっているのだ。
 ベニーは早速、例の草に関する書物を探す。
 もちろん、それだってやみくもに探すというわけではない。灯台守にしか入れない場所なのだから、それに対応した魔法というものがあるのだ。

「お願い、この草に関する書物を探して」

 ベニーが魔法を使うと、光がゆらゆらと浮かびあがる。これは探知系の魔法だ。
 しばらくベニーの前でゆらゆらと揺れていた光だったが、ぴたりと動きを止めると、一点へとその光を伸ばしていく。

「そこね、ありがとう」

 光が示した場所にベニーが近付き、書物を手に取る。背表紙を持って腹を自分の方に向けると、書物が勝手にめくれ始めた。

「うわぁ……。この魔法ってこんな感じになるんだ。すごく便利だし、不思議……」

 あまりにも不思議な現象に、ベニーは感動してしまってしばらく立ち尽くしてしまった。
 その後、我に返って書物を読んだベニーは、早速例の草を使って薬を作ってみる。幸い、必要な材料は全部そろっていたので、意外とすんなり成功させてしまっていた。

「できたぁっ! 初めての薬でも一発成功なんて、私すごい!」

 あまりの嬉しさに、自画自賛してしまうベニーなのである。
 でき上がった薬はすぐさま瓶の中へと入れて、収納魔法へとしまい込む。

「これで、対応できる病気の種類が広がったわ。はあ、素晴らしいわ、ご先祖様の知恵!」

 新しい薬を無事に作り上げたベニーは、その日はずっと嬉しそうに鼻歌を歌っていた。

 今回見せたベニーの魔法や薬学知識など、まったくもって灯台守というのは謎の多い仕事なのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...